記述主義者と狂騒の夜。-D-
3夜連続更新チャレンジ、3夜目。
この夜を、Dに捧げる。
2022年10月28日の夜。
この狂騒の夜のことを、私は当分忘れられそうにない。
しかし、あの時、感じた情熱を、衝撃を。
そして、その後の静かな余韻と、新たな葛藤について。
記憶が薄れることさえ、耐えがたい。
ならば、どうしよう?
私は、記述主義者だ。書けばいい。いつも通りに、悪い冗談を書き連ねよう。
さて、勘の良い読者はサブタイトルのDと、日付でぴんと来ているかもしれない。
あるいは、結構なゲーマーなのかな? 音ゲーは好き? それとも、あのシリーズが好きなのかな?
または、ツイッターで、とあるゲームタイトルへの感謝が世界トレンド1位に輝いたことをちらと記憶している方も居るかも知れないね。
その日は、東方Project、初の公認スマホ向けリズムゲーム。
東方ダンマクカグラの、サービス終了日だ。
†
細工は流々、事前の相談、根回しどんとこい。
1ヶ月を超える残業フェスティバルに耐え、迎えたこの日。
私はお世辞にもリズムゲームが得意とは言えない。だが、音楽好きが高じて東方曲もいくらかは聴いていた。森羅万象というサークルのアレンジが特に好みで、大好きな曲のひとつ、有頂天ドリーマーズが初期曲として入っていたことで強く惹かれ、配信日当日にゲームをインストール。当初からYoutubeで音楽ライブ放送などが行われ、同人畑らしい熱気にあふれていた。サービス前は、知ってる好きな曲だけやり込めれば、なんて軽々しく思っていたが、そんな気持ちは軽く吹き飛んだ。なんなら、ぶん殴られたと言ってもいい。数多くの名曲たちが待ち構えていたからだ。私は誘惑に負けた。ああ、当然のごとく完敗だ!
それから1年3ヶ月。とうとうサービス終了を迎えてしまった。
売り上げが想定と乖離した、うんたらかんたら。お決まりでありがちな文言はさておき、何故、一体どこが悪かったんだ……?
正直な所感を申し上げる。
――分からない。
サービス終了が予告された以降も、イベントの開催ペースは変わらない。
先んじて課金機能が停止されるが、楽曲の追加ペースはむしろ増える。
特にラストイベント、ダンマク文化祭ファイナルのストーリーは非常にエスプリの効いたもので、物寂しさを含みつつも未来へ繋いでいく見事なものだった。
――何故だ、何故こんなことに?
いやまぁ、大体分かってる。
どこが悪いとかそういう次元ではなく、全体的に『狂気を感じる』(褒め言葉)
何故かセガのゲーム機を連想してしまった私も、大概おかしいのだろうか?
その日は、朝4時に目覚め、ペットボトルの茶を一口含むと、早速ダンカグを起動――ではない、プレイしたまま寝落ちている。既に起動済みだった。
先月(9月)の頭にスマホを買い換えたばかり。GoogleのPixel6aだ。OSはAndroid12が入っており、追加アプリ無しでプレイ動画を保存できる。
動画は非常に綺麗で、容量は案の定どか食い。1時間も撮影すれば10ギガが埋まる。なお、空き容量は残り57ギガだったが、前日夜には残り50ギガ。
ここから、お気に入りのイベントなどの動画を記録し、集めたカードも全てではないもののおおよそ撮影。曲一覧画面も撮影。何故って? 収録曲のサビが流れるからだよ! 1曲ずつ切り替えてメドレーを作りたいんだ。ちなみに収録曲が多すぎて1ファイル当たりの動画サイズ限界を超えてしまい、最後の数曲は別ファイルになったよ! やり直す時間なんてないようわあああああ!
失礼した。そんなこんなで出社時間。コンビニでコーヒーを買って飲みつつ、時間ギリギリまでプレイした。ダンカグのメインテーマ曲・幻想に咲いた花、東方原曲・幽霊楽団~Phantom Ensemble~、そして有頂天ドリーマーズ。難易度は基本ハード(5段階の内、3番目)だが、有頂天ドリーマーズはエクストラ(上から2番目)でさらにもう1回やった。ハードならパーフェクト(ブリリアントではない、ノーツ6個はグレート評価が混じっていた)、エクストラはファスト2、バッド2、ミス12が混じる。クリアはできているが完全にはほど遠い。
ちゃんと出社。ゾンビのような顔で朝礼。担当は私。うえーい。がんばろー。
事情を察している先輩(「~狂騒の夜。(無印)」で心配してくれた先輩。大明神と崇め奉ってる)が応援に来てくれ、定時上がりを実現する。1ヶ月以上に渡る、無茶を押し通した成果だ。まぁ、この日も昼休みは取れなかったけど! 血涙。
帰宅。時間は18時前。奇跡か。
サービス終了は20時であり、まだ2時間強ある。
しかし、サービス終了に合わせたライブ生放送が18時からだ。始まる前に、有頂天ドリーマーズの通常譜面・裏譜面それぞれ最高難度ルナティックをプレイ。当然クリアはできない……が、石を割ってプレイ再開連打。強引にクリアマークを付ける。こうすることでオートプレイが可能になるのだ。この泥臭いリトライも動画に収める。
ラストライブを鑑賞しつつ、有頂天ドリーマーズの通常譜面・裏譜面、全難易度のオートプレイ動画を撮影。他、気になるカードの専用ストーリーなども撮影。生放送で気に入った曲……というか、最高難度曲、Re:UnknownXを撮影。
残念ながら、プレイしていない曲が結構ある。最後の狂気じみた大量曲追加も、残業地獄と重なって1曲もやれていなかった。心残りばかりだ。
サービス終了まで、残り17分。
やれることは、およそやり尽くした。やり尽くした?
「……なぁ、見てるんだろう? 私をどう思う?」
加速する思考が、現実を追い越していく。陶酔的没頭感。
最初にこの感覚を味わったのは、仕事の時だ。以来、時折襲われる。機械の動きを、人の流れを、ひたすら観察し、どうなるかを予想する。トラブルは起きそうか? 良い未来がやってくるのか? 悪い未来になりそうか? 避けるにはどうすれば? 状況に先んじて手を打つ……現在と想定未来を行ったり来たり。
地面がぐらつく。あくまで主観的な、ただの錯覚。私が今、『いつ』に居るのかが、ぼやける。確度の高い未来。望む未来。ほんの未来を手繰り寄せる。
それは必然。確定的未来だ。私なら、ほんの未来の記述主義者なら。
この時間に見たモノを、感じたコトを、記述しないはずがないんだ。
世の中には、理不尽なんていくらでもある。
最近だって、過去を辿ったって、そんなんばっかりだ。
信じていた場所が、いずれ失われるということ。
ちいさな世界の寿命は、人間のそれよりよほど短い。
履歴、攻略法、人との繋がり、抱いた感情。
大切なものを巻き添えに、夢の残骸を餞に。
――『今一時への尊重が足りないんじゃないか?』
錯覚だ。未来の自分からのメッセージだなんて。
ただ、ほんの未来の私ならそう考えると、確信めいた直感があった。
スマホの保存容量は、まだ20分前後(±2分)残っているはずだ。
詳細を確認する時間が惜しい。
残り時間は、13分とすこし。もう手慣れた操作で録画機能を起動する。
選んだのは、幾たび挑んでも、パーフェクトが取れなかった、大好きな曲。
森羅万象『有頂天ドリーマーズ』通常譜面、難易度エクストラ。
ファスト1、バッド0、ミス7。
序盤から中盤に差し掛かるところで、苦手なノーツがひとつ。後半はそもそも難易度が高い。見たか? 覚えたか? 残りは10分ぐらいのはず。
ファスト5、バッド0、ミス9。
かえって悪い。もっと冷静に、と言い聞かせる。リトライ。
ファスト3、バッド1、ミス12。
スコアが低い? あ。パーティ1(曲属性汎用)からパーティ2(特化)に変更忘れてた。
各種スコア表示から、曲選択、パーティ決定画面、合間合間のローディング時間。
視界の隅には、爆速で流れる、ライブ放送のコメント。
続編として、スタンドアローン版の情報? そうか良かったな。リトライ。
もう、残り5分を切る。ラスト1回。
ファスト6、バッド1、ミス7。
ハイスコアは微更新したものの、初回トライにさえ届かない。
残り1分。1プレイ3分ほどだ。1ひく3は? タイムアップ。
だからどうした? リトライ。
プレイ中にサ終するんだろう、分かってるよ。
本当にただの自己満足。精々ハードでパフェ取るのが限界だ。それでもエクストラ。
この大好きな曲で、こんなひどいプレイングをしたのは初めてだった。
当たり前だ。
涙を拭く間さえ惜しんでパーフェクトが取れるほど、音ゲーは甘くない。
案の定、スコア画面は出ず、ポップアップウィンドウが開く。
20時をもってサービスは終了。ご愛顧への感謝と、有償石払い戻しの案内。
タイトル画面に戻る。タップ。当然ながら、ローディング画面には移動しない。
払い戻しの案内を蹴り、アプリを閉じた。
「……ああ、たのしかった!」
こうして、ひとつの世界が終わっていく。
ライブ放送はいよいよ佳境、代表者からの挨拶、感動のスタッフロールへ。
ただ、相変わらず最後まで良い感じに狂っている。
ゲームのプレイヤーネーム、10万9215人を全部流すという狂気の沙汰だ。
1ページに80名ずつ、1366ページにわたって2時間以上流れ続けるという。
822ページ目に、自分の名前を見つける。プレイヤーネームは「みお」だ。
自作小説のヒロインで、反射神経や動体視力に優れているキャラクターであることからこの名前にした。フルネーム、猫屋敷みおにしなかったことが悔やまれる。なにせ、この名前でプレイした人は42名いるので、どれが私なのやら? というかむしろ、ペンネームのほんの未来にしておけば良かった。
スタッフロールに名前が流れるのは事前告知されていたが、残業続きだったかで、名前の変更などはしそびれていたのだ。やり残したことといえば、これもそうか。まぁ、後の祭りである。
そうこうしている内に、友人の名前を見つける。ああ、やっぱりその名前だったか。重複していないのが正直羨ましい。
スタッフロール窓を開きつつ、スタンドアローン版の情報を調べる。
クラウドファンディング……Steam版で提供だが、1500万円集まったらSwitch版も開発? 悩ましい。環境的に、Switch版の方が助かるのだが。
やっぱり音楽プランだろうか? 2万8800円とお高めではあるが、ベストアルバムが付くというのはやはり魅力的――?
そして、小さな文字に目が止まる。
大満足プラン。4万9800円、内容中略、『クレジット掲載・中』
なん……だと……。
いや、掲載・大は99万9999円プランと150万円プランだから流石に論外なんだ、そこまで贅沢は望んでいない。いやだがこれは。
この会社、商売が上手いのか下手なのかさっぱり分からない!?
いやいや、音楽CDさえあればいいよ、やっぱり音楽プランで――。
大満足プランひく音楽プランは? 2万1000円。何計算してんの私!?
いやいや、ちょっと待ってよ?
無印でも書いたが、私は音楽が好きだ。
サンホラの前作がこないだアプリ化されたし、来年には新譜がブルーレイで出るんだよ!? 特装盤の予約期間なんて1ヶ月ぐらいで締め切るし、通常盤も気になるし!?
計算する。
アプリ版たす、特装盤たす、通常盤は? 6万5400円。
これに、大満足プランをたすと? 11万5200円。
いやいやいやいや!? 流石に、こんな金額を急に用立てるのは――ん? 最近、なんかこんな数字を計算したような?
先月の給与明細。残業代と休日出勤手当の合計額が11万6000円ほど。
ちょ、ちょ――待って待ってどういうこと!?
筆者困惑中。しばし、猶予を。
†
ふう。
読者の皆様に、深くお詫び申し上げます。
私は一昨日、「記述主義者と狂騒の夜。」でこんなことを書きました。
残業代を貯金したら、その分、日本の財政赤字が増える。世のためになってないと。
あれは嘘だ。真っ赤な嘘だ。
昨日、「記述主義者と狂騒の夜。-ZERO-」でこんなことを書きました。
10割ノンフィクション。実際にあったことを簡単にまとめただけだと。
つまりこれも嘘だ。愚にもつかぬ嘘っぱちだ。
世界は面白おかしくできている。それを記述するのは、たまらなく楽しい。
私も微力ながら、日本経済の活性化に協力したいと思うんだ。
え? どうせいつもの悪い冗談だろうって?
そう思うなら、是非ゲームを買ってクレジットを確認したらいいんじゃないかな?(にっこり^^)
そういえば、このクラウドファンディングの開始が今日からですね。(目を逸らしつつ)
こんなダイレクトマーケティングオチを思いついてしまったがために、3夜連続更新と相成りました。仕方ない。これは仕方ない。
クラウドファンディングネタの短編(学生ローンで困らないための、たったひとつの冴えたやり方。)も書いていたし、個人的にも良い切っ掛けかなと。
やるつもりではありますが、クレカ登録etcで手続きトラブルとかしてたら申し訳ない。
なお、57ギガあったスマホの空き容量は現在、残り2ギガ。どうしてこうなった。
あと、自作のメドレー動画ですが、そんなものより完璧なメドレーを公式が上げています。(例の2時間超のスタッフロールで、全曲流れます)一体あの時間はなんだったんだ……。
ゲーム実況小説も書いてみると面白いものです。なるべくリズムゲーム一般に使われる用語を多用し、曲はタイトルのみ、歌詞は厳禁とし、大きな問題が出ないよう配慮したつもりではあります。
遠慮ばかりで書きたいことが書けないのも問題ですし、著作権に反するのも問題です。等しく尊重できればと思っていますが、『まずはやってみる』。そうでないと可否の判断さえできません。
問題あれば取り下げも視野に入れますが、はてさて。
さて、次回は『そして誰もいなくなった。ついでに、お金もなくなった。』経済ミステリー、4夜連続は厳しいかな?
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