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99 伸び~るアイス

 求人広告を出してから少し経ち。

 今日は夕方前に早めに店を閉めて、応募者の面接を一気に行った。


 始めのうちは時間を問わずに、面接希望者が来たら都度対応、という方法をとっていた。けれど思っていたより応募数が多くて、都度対応だと効率が悪くなってきた。


 そういうわけで、面接対応の日を設けて、いっぺんに集まってもらうことにしたのだった。


 本日はその面接日の三回目であった。場所は自宅の路地奥店にて。面接官はもちろん、アルメが務めている。


 加えて、初回の面接会ではジェイラが補佐に入り、二回目は早速コーデルが手伝いに入ってくれた。

 勤め人としての歴が長い人がいてくれた方が、よい面接を行えるだろう、と思ってのことだ。


 今日の面接ではファルクが補佐に入ってくれた。


 面接者は男性が三人、女性が八人。

 男性の一人は、製菓店での仕事経験のある人だった。記入してもらった書類にメモを取り、星印をつけておく。


 集団での面接だとあまり話を聞けないので、一人ずつ店に入ってもらっての、個人面接である。


 最後の一人と別れの挨拶を交わした頃には、もう夕焼けが終わりを迎えようとしていた。

 面接者を見送った直後に、ちょうど夜を告げる鐘が鳴った。



 アルメは店の中に戻って、ふぅと一息つく。


 書類を見ているファルクの向かいに座って、アルメも面接のメモを見返した。


「お疲れさまです、ファルクさん。お手伝いいただきありがとうございました。――こちらの製菓店に勤めていた方は頼もしそうですね。五十代はまだまだ働ける年齢ですし」

「えぇ、穏やかそうなお人柄でしたし、いいと思います。仕入れ作業や防犯の面でも、男性の従業員はそれなりにそろえておいた方がよいかと」

「最初の男性はどうでしょう。こちらの、爽やかな好青年」

「この方は俺相手に喋ってばかりで、店主であるアルメさんをまったく見ていませんでした。本人は無意識でしょうが、あなたを――あるいは女性を、下に見ているのでしょうね」

「なるほど……後々、店の雰囲気に影響するかもしれませんね」


 ふむ、と考え込みながら、書類にメモを加えていく。そうしているうちに、ファルクがペラっと喋り出した。


「叶うのならば、俺も応募したいところですね。休みの日にあなたと働きたい。……面接希望のファルケルト・ラルトーゼと申します、よろしくお願いします」

「ご応募いただきありがとうございます。残念ながら、採用は見送らせていただきます。お休みの日に働いたら、お休みじゃなくなるでしょうに」

「神官が落とされるとは……なんと厳しい採用試験でしょう」


 ファルクは気の抜けた顔でため息を吐いた。その会話の流れで、アルメはふと気になったことを聞いてみる。


「神官様にも、お仕事をするための試験があるのですよね? どういうことをするんですか? 筆記とか、面接とか?」

「神官の試験は色々ですね。いくつもあるし複雑です。知識を問うものや、倫理観を問うものや、技術を問うものなど。それらを通過した後に、面接――とは少し違いますが、神と言葉を交わします」


 神と面談、という話を聞いて、アルメは目をパチクリさせた。

 

 先ほど自分が行った応募者との話し合いとは、スケールの大きさが違う。つい、好奇心に前のめりになってしまった。


「神様というのは、医神ですよね? どういうお喋りをするんです?」

「治癒魔法を得る契約に伴う誓いと、捧げる対価の話をします。アルメさんも前に神殿で、荷守りの精霊と契約を交わしたでしょう? そういう儀式を神と執り行います」

「私は精霊相手でも緊張してしまいましたが、神様相手だとさらに緊張しそうですね。……聞いていいものかわかりませんが、ファルクさんは対価に何を捧げたのですか?」


 アルメはゴクリと唾を飲み込んだ。


 前に精霊と契約を交わした時に、担当者とチラッと交わした会話を思い出した。神との契約では、何やら大きなものを取られるとか……。


「神官はまず、酒の喜びを捧げます。それによって、生涯の飲酒を禁じられることになります。それに加えて、各々もう一つ対価を用意します。こちらは人によりますが、俺は強い魔法が欲しかったので、それなりのものを捧げる誓いを立てました」

「……それはまさか、内臓とか……?」

「違います……物騒な……」


 大きなものを得る代わりに、大きなものを捧げる、と聞くと、真っ先に内臓の類を想像してしまうのはアルメだけだろうか。


 恐ろしい想像をしてしまったけれど、どうやら違うらしい。アルメは肩の力を抜いた。


 ホッとしたアルメとは反対に、ファルクが神妙な顔になってしまったけれど……適当に茶を濁すことにする。


「すみません、変なことを言ってしまって……。ええと、お茶を入れてきますね。ひとまず面接も済みましたし、休憩しましょう」

「ありがとうございます。いただきます。――あ、そういえば、新作のモナカアイスはもう出来上がりましたか?」


 話が変わって、ファルクはパッと明るい顔をした。期待に満ちた目を向けられて、アルメは苦笑する。


「一応、形にはなりました。焼き型が出来上がったら、様子を見てもう少し改良しますが。……先に謝っておきますが、今は皮の用意がないので、モナカアイスはお出しできません。申し訳ないのですが」

「いえいえ、気になったのでちょっと聞いてみただけです。別にアイスをたかるつもりはありませんから。……ありませんから……」

「だったら、その物欲しそうな目をおやめください……」


 言葉とは裏腹に、どう見ても残念そうな顔をしている。

 せっかく面接の手伝いをしてくれたというのに、こんな顔をさせてしまって心が痛む。


 どうしたものか、と考えて、アルメはハッと気がついた。そういえば、冷凍庫に変わり種のアイスがあったな、と。


「モナカアイスは出せませんが、代わりに、ちょっと変なアイスがあります……食べてみます?」

「変なアイス? なにやらおもしろそうですね。是非!」

「では、用意しますね」


 ファルクは表情を変えて、目をキラキラさせた。アルメはこの表情に弱い。つい頬をゆるめてしまった。


 早速、調理室へとアイスを取りに向かった。



 用意をしながら、先ほどのファルクとの会話を思い返す。


 契約時に医神と言葉を交わす、という話にドキドキしてしまったけれど、考えてみれば、アルメも女神と言葉を交わしたことがあったのだった。


 前世の生を終えて、今世の生を授かった時のことだ。暑さに倒れて、魂までも消耗しきっていた時のこと。


(……あの時、私も神様とお喋りしたのよね。何を話したんだっけ? もっとしっかり覚えておけばよかったわ)


 またとない機会なのだから、しっかりばっちり覚えておくのだった。当時の記憶は朧気で、会話の内容なんてほとんど覚えていない。なんとも、もったいないことをした。


 そんなことを考えて苦笑する。

 そうしているうちに、アイスの用意ができた。



 お茶と共にファルクの元へと持って行く。


 テーブルに出すと、彼はキョトンとした顔をした。用意したアイスは、見た目にはごく普通のミルクアイスなので。


「変わり種、ですか? いつも通りのミルクアイスに見えますが」

「ふふっ、見ててください」


 席につき、アルメはスプーンを手に取った。このミルクアイスは、つつくと違いがわかるのだ。


 スプーンでアイスをすくう。そのまま持ち上げると、アイスがビヨンと餅のように伸びた。


 長く伸びるミルクアイスを見て、ファルクは目をまるくした。


「アイスが伸びた……!」

「米粉でアイスを作ってみました。食感も普通のミルクアイスより、もちもちしてますよ」

「これはおもしろいですね!」


 ファルクも同じように、スプーンでアイスを伸ばし始めた。


 アルメの前世では、こういう長く伸びるアイスが売られていた。米粉の粘り気で再現できるだろうか、と思って作ってみたのだ。


 結局米粉だけでは思ったよりも伸びなかったので、他にも少し、粘り気のある食材の粉を足してある。


 ファルクは少年のような無邪気な顔で、アイスをビヨビヨ伸ばして遊んでいた。長く伸ばして、スプーンにぐるぐる巻きつけて食べる。


「本当ですね、もっちりしてます! なんとも不思議な食感です」

「粘り気のおかげで垂れにくいので、上手く調整したら食べ歩きにもぴったりかな、と。お祭りのモナカアイスの中身として」


 今二人で遊んでいるアイスは実は失敗作である。粘り気が強すぎたので。モナカアイスに使うものは、もう少しさらっとした仕上がりにするつもりだ。


 でも、自宅用のお遊びアイスとしては、素晴らしい仕上がりである。アルメとファルクは二人で子供のようにはしゃぎ、大いに遊んでしまうのだった。


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