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60 カフェのフロート人気

 ブレスレットを購入してから数日が経ち、週末が近づいてきたこの日。アルメは両手に冷却ボックスを抱えて、通りを急いでいた。


 氷魔石を詰めて即席で作った木箱の冷却ボックス――その中に入っているものはミルクアイスの容器だ。


 ガラスの容器は二つ分入っている。前世の感覚で言うと、大体四キロくらいだろうか。


 なかなかの重量のものを抱えて、アルメは今、早歩きでカフェ・ヘストンへと向かっている。


 と、いうのも、カフェから追加の注文が入ったからだ。


 まだコーヒーフロートの提供を始めてから一週間ほどの短い期間だが、まさかこんなに早いペースで注文が入るとは思わなかった。


 晴れ続きの暑さが影響したのか、大通り沿いの好立地が影響したのか――もしくは、両方の条件がそろったからか。

 アルメの想像を超えて、フロートの人気が出たらしい。


 荷を抱えて歩くとさすがに汗をかいてくる。魔法を使って体を冷やしながら歩いて、カフェへとたどり着いた。



 通りに面したテラス席に目を向けて、アルメはポカンとしてしまった。

 初めて訪れた時の静かな雰囲気とは一変して、多くの人々で賑わっていたので。


 カフェの扉は開け放たれていて、中からも賑やかな音が聞こえる。店内もテラス席と同じように、素晴らしい客入りだ。若い女性客と子供連れも多い。


 人々のテーブルに置かれた飲み物を見ると、この前試作したコーヒーフロートに加えて、なにやら新しい飲み物まで出ている。


 グラスの縁にキャラメルを垂らしたフロートに、上半分がコーヒーで下半分がミルク、という二層のお洒落なカフェラテフロート。


 口の大きく開いたグラスに、浅くコーヒーを入れて、そこに浸けるように白鷹ちゃんアイスを盛る――という、まるでコーヒープールに入っているようなデザインの商品まで出来上がっている。


 ブラックコーヒーにアイスを合わせた男性客。甘いミルクコーヒーのフロートを楽しむ子供たち。みんな思い思いに味わっている様子。


 明るい店内の様子に、アルメまでウキウキした気分になる。


(おもしろいメニューが色々増えてる……!)


 あっけにとられていると、カウンターの方からアリッサが大きく声をかけてきた。


「アルメさん、いらっしゃい! ごめんなさいね、急かしてしまって」

「こんにちはアリッサさん。すごい賑わいですね!」


 カウンターに進んで追加のアイスを渡すと、アリッサは悪戯っぽく笑った。


「久々の新商品作りに、ウィルと二人で楽しくなっちゃってね。色々アレンジを作って出してみたんだけど、思っていた以上に人気が出ちゃって」

「可愛いメニューが増えていて驚きました! 二層のアイスカフェラテフロート、美味しそうですね」


 近くで飲んでいる客のグラスを見て、アルメはごくりと喉を鳴らした。


 カウンター裏でせっせと注文をさばいているウィルが、こちらにひょいと顔を出す。


「こんにちはアルメさん。よかったら一杯どうだい? サービスするよ。追加のアイスを急かしてしまったし、お詫びと感謝を込めて」

「それじゃあ、いただいてもいいですか」


 ウィルは頷くと、慣れた手さばきで用意を始めた。


 今日は一つ試したいものがあったので、元々コーヒーフロートを注文するつもりだったのだけれど。好意に甘えて、ありがたく新商品をいただこうと思う。


 アルメはカウンター席に座り、鞄から布包みを取り出した。布を広げると、数本のストローが顔を出す。


 これはシトラリー金物工房で作ってもらった、スプーンストローだ。


 かき氷を作った時にスプーンストローが欲しかったこともあり、工房長との打ち合わせでこのデザインに仕上げてもらった。 


 金色のストローは、口に当たる部分がなめらかに仕上げられている。吸い口からなだらかな曲線を描いて、下の部分がスプーンになっている。 


 コーヒーフロートにぴったりだろうと思って、今日早速、試しに持ってきた。 


「はい、お待たせ。白鷹ちゃんカフェラテフロートだよ」

「ありがとうございます。いただきます」


 ウィルとアリッサがカフェラテフロートを作って、カウンターに出してくれた。コーヒーとミルクがきっかり二層に分かれていて、見た目にも楽しい。

 上に浮かんでいる白鷹ちゃんミルクアイスはとぼけた顔をしていた。可愛らしい仕上がりだ。


 アイスの隣にスプーンストローを刺して、カフェラテを堪能させてもらった。苦さと甘さが絶妙だ。徒歩移動で火照った体には冷たさもありがたい。


 ホッと一息ついていると、アリッサが話しかけてきた。


「思い切ってアイスメニューを増やして正解だったわ。この街ではやっぱり、あたたかいものより冷たいものの方が人気ね」

「それにしても、お客さんの入りがすごいですね。通りに何台か馬車が停まっていましたが、あれはお貴族様の馬車でしょうか?」

「えぇ。馬車の走る通り沿いのお店だと、庶民のお店でもふらっと立ち寄ってくださる方が結構多いのよ」

「路地奥店ではなかなかそういうのはないので、いいですね」


 通りがかりの富裕層の客を手軽に捉まえられる、というのは、表通りの店の特権だ。アルメの店ではそうはいかないので、ちょっとだけ羨ましい。


 客層が広がったら、もっとたくさんの人にアイスを届けられそうだなぁ、なんてことを考えてしまった。


 スプーンストローでミルクアイスをつつきながら、カフェラテを味わう。――という食べ方をしていたら、アリッサが目をキラリと光らせた。

 

「ところでアルメさん、その便利なストローは何かしら?」

「これは試しに作ってみたスプーンストローです」


 スプーンストローの使用感はばっちりだ。

 既存の紙ストローのようにふやけたり、型崩れもしない。このストローを使えば、ちょっと硬めのドリンクでも、しっかりと吸えそうだ。


 ――例えば、『飲むアイス』のようなドリンクでも。


 ファルクと仲直りのお茶会をした時に、彼がソフトクリームを飲むアイスというように表現していたので、いっそ本当に飲むアイスを作ってみようかと思っている。

 

 フルーツ入りのシェイクやフローズンドリンクなんかを作ったら、彼にも、街の人々にも、喜んでもらえるのではなかろうか。

 よいストローが出来上がったので、そのうち試しに作ってみよう。


 そして、このスプーンストローに加えて、今日は別のストローもいくつか持ってきている。


 このストローを作るついでに、吸い口の下でグルグルと回転したループストローや、二人でイチャイチャしながら飲むカップルストローも作ってみた。

 これらは工房長との打ち合わせで盛り上がり、ノリで作ってしまった遊びの品である。


 カウンターに広げた色々なストローを見て、ウィルも好奇心に目を輝かせた。


「ずいぶんと変わったストローだなぁ。これはアルメさんの店のオリジナルとして出していくつもりかい?」

「いえ、まったく。スプーンストローはともかく、他のストローは遊びで作ったものなので、おもしろグッズとして誰かに楽しんでもらえたらいいな、と思っています。これ、どこかに需要ありますかね? パーティーとかで使えないかしら」


 変形ストローを持ち上げて笑っていると、ウィルがこっそりと提案してきた。


「アルメさんの店の特別にする気がないのなら、そのストロー、うちで導入してみてもいいかい?」

「え、カフェでですか?」

「あぁ。おもしろいストローだし、上手くいけば街に広がるんじゃないかな? ルオーリオ民はこういう盛り上がりそうな物には目がないから。いい客寄せになりそうだ」


 遊びで作ったパーティーグッズのへんてこなストロー。人々の興味を引いて人気に火がつけば、おもしろいことになりそうだ。


 イチャイチャカップルストローでフロートを飲む恋人たちや、グルグルループストローを楽しむ子供の姿を見られそう。


「なんだか楽しそうな景色を見られそうですね。是非、お願いします」

「このストローはどこで作ったんだい? 追加の注文はできるだろうか?」

「シトラリー金物工房というところです。完成図面は工房に預けたままにしてあるので、追加も可能かと。あぁ、あとよければ、フロート用にスプーンストローもいかがですか? こちらも特にうちのオリジナルにするつもりはないので」

「いいのかい? じゃあ、そちらもお願いしたい。追加分を発注してもらってもいいかな? もちろん、費用はこちらで負担するから」

「わかりました。ではまた、改めて注文書をお持ちしますね」


 カウンター越しにヘストン夫婦と約束をして、笑顔を交わした。

 パーティー用の変形ストローの導入、という新しい仕掛けが、上手くいけばいいなと思う。



 ――彼らとの関係は、『戦友』とでも表現するべきだろうか。仕事の中で同じ方向を向いて、共に走る関係。友達や知人とはまた違う、不思議な感覚だ。

 

 戦友との企みごとに、なんだか胸が高鳴る心地がした。

 上手くイチャイチャカップルストローが流行ったら、三人で思い切りハイタッチを交わそう。


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