195 ガチャッとシューアイス自販機
こうして始まったアイス自販機計画だったが、金物工房の面々が熱を入れてくれて、予定よりもずっと早く試作機ができあがった。
連絡を受けて、アルメは工房へと出向いて試作機を確認する。今日はコーデルも一緒だ。彼は店で量産したシューアイスを抱えてきてくれた。これを使って機械の動作確認をしていく。
加えて、タニアもメンバーに加わっている。自販機の外観デザインをお願いするために呼んだのだった。
皆でテーブルの上に置かれている試作の自販機を囲って、まじまじと観察する。自販機――というより、アルメの前世にあった、カプセル玩具販売機のような機械だ。
箱型をしていて、サイズは両腕で抱えられるほど。全体が金属で作られているので、中を覗き見ることはできないが、筐体の正面はタニアのアイスイラストで彩る予定である。
一つの筐体につき一種類のアイスを入れる。その筐体を上下左右に連結して設置する予定だ。
工房長は自販機の上蓋をパカッと開けて、仕組みを説明する。
「この、アイスを入れておく箱の部分は冷凍庫仕様だ。氷魔石のセットはここに。それから、庫内の保冷の他にも、開口する部分には強い氷の魔力が流れるようにしてある。虫やらネズミやらを除ける用だから、この部分の氷魔石も忘れずにセットしておくように」
「承知しました。ありがとうございます」
蓋を開けたり閉めたり、レバーをカチャカチャと触ってみたりしながら、アルメは説明に耳を傾ける。
「金の投入口はここ。百G硬貨の重さでレバーのロックが解除される仕組みだ」
「試しにお金を入れてみてもいいでしょうか?」
アルメは財布を取り出して、百G硬貨を四枚取り出した。
シューアイスの値段設定は四百Gだ。本当は区切り良く、五百Gの値段設定にしたかったのだが……五百Gからは紙幣があるので、硬貨専用だと気が付かずに無理やり紙幣を突っ込む人が出てくるかもしれない、ということで、硬貨の範囲にした。
百G硬貨を四枚投入すると、ロックされていたレバーがまわせるようになる。正面下部にある星形のレバーを掴んでグルッと捻ると、機械の中でガチャガチャと音がした。
上から中を覗き込んでいたコーデルが感心したように言う。
「おー、動いてる動いてる。さっぱり仕組みがわからないけど、なんかしっかり動いてるわ。シューアイス入れて動かしてみましょうよ!」
「そうですね、やってみましょう!」
頷くと、コーデルはテーブルに置いていた保冷ボックスを開けた。中には包装されたシューアイスと氷魔石がみっちり収まっている。
包装はシンプルだが、なかなか可愛らしく仕上がった。紙を折って袋状にして、口を紐でくくってある。丸っこい巾着袋のような形だ。
ガサガサと機械の中に入れて蓋を閉め、もう一度硬貨を投入してみる。ガチャッとレバーをまわすと、取り出し口にコロンと、シューアイスが出てきた。
(た、楽しい……! 懐かしい心地!)
思わずしみじみとしてしまったが、アルメの場所は即座に取って代わられた。コーデルとタニア、そしてカヤまで割り込んできて、どんどん硬貨を投入する。
各々、ガチャガチャとレバーをまわしてアイスを出して、大はしゃぎしていた。
「あっはっは、これ楽しいね!」
「なんと言いますか、こう、レバーのガチャッとした動作が癖になります」
「街の人たち、きっとみんなハマりますよ、これ! ――あの、シューアイスも気になるので、お代をお支払いしますので……どうか一つお恵みを――」
「お代はいらないわ。試作機のお礼として、いくらでもどうぞ」
アイスを手にしておずおずと声をかけてきたカヤに、アルメは笑顔で答えた。
そうして機械の動作を確認したり、レバーをまわして遊んだり――ということを、しばらくの間、存分に繰り返して一息ついた頃――。
みんなでシューアイスを頬張って一服しながら、話は次へと移った。
タニアが紙の束を取り出してテーブルの上に広げる。出されたものは、自販機の正面に施すイラストの案だ。
「外観のデザイン案ですが、いくつかラフを描いてきました。半分に割って、中身が見える状態になっているシューアイスのイラストとか、材料のフルーツのイラストとか――」
「わぁ、可愛いイラストですね。お客さんにもパッとアイスの味が伝わりそうですし、素敵です」
タニアのポップな絵柄は、シューアイスの可愛らしい見た目にばっちり合っている。アルメは紙を手に取って、イラストの案を順に見させてもらった。
コーデルも隣で同じように確認作業をしていたが、ふいに一枚の紙を見せてきた。
「あたし、このイラストを推したいわ。このちっちゃなドレスの女の子、アルメちゃんでしょ」
「え?」
差し出された紙を手に取って見てみると、デフォルメされた女の子の絵が描かれていた。黒髪を横で束ねて、白い花の髪飾りをつけている。――アルメの普段の髪型や格好とよく似ているキャラクターだ。
背中にはキラキラとした羽が生えていて、精霊か、もしくは神様のような雰囲気にも見える。
タニアは眼鏡をクイと上げて、得意げに話し始めた。
「気付いていただけて嬉しいです。そうです、これはアルメさんをデフォルメして描いてみたイラストです。商品を解説する絵だけでなく、『アイスの女神様が、シューアイスの加護を授ける』というような物語性のある絵を添えたら、楽しいかなって」
説明を聞いて、アルメはふむと頷いた。少し気恥ずかしい気もするけれど、小さい子なんかは、こういう物語に大いにはしゃぎ、喜びそうだ。
シューアイスを購入する子供の笑顔を想像して、アルメも笑みをこぼした。
コーデルも笑いながらラフ絵を眺めて、独り言のようにポロッと感想をこぼす。
「どこかの鷹様が硬貨を連投するかもね」
……アルメは聞かなかったことにして、タニアとの会話を続けた。
打ち合わせを進めて、この試作機を基にして自販機を仕上げることが決まった。といっても、少し調整をする程度で、もうほぼ完成の形だ。
(設置場所を考えて、街の許可を得て――……それから、スプリガンさんを宿さないとね)
稼働の開始はもう、すぐだ。ウキウキした心地で、アルメはその日に備えて準備を進めていくことにした。




