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174 守護聖女引き継ぎの式典

 王都より光来した聖女は中央通りの大規模なパレードを経て、ルオーリオ城へと到った。

 

 街中では大勢の民と軍人たちに囲まれていた聖女だが、今度は大勢の城の重鎮たちに囲まれている。


 ――ルオーリオ城の謁見の間では、今まさに、守護聖女の引き継ぎの式典が執り行われていた。


 煌びやかな大広間の飾り窓からは、色ガラスを通して虹色の光が差し込んでいる。


 その光の下で、城の者たちが儀式を見守っていた。広間中央の絨毯敷きの通路を囲うようにして、人々が整列している。白鷹ファルクもその中にいる一人だ。


 胸に手を当てた敬礼の姿勢を取ったまま、広間正面に目を向けている。


 正面には、式典の主役である聖女二人が立っている。その二人のほど近くに、聖女と近しい者たち――王族などが座っていた。


 ルオーリオの守護聖女である老齢の聖女と、役目を引き継ぐ新しい聖女が、儀礼のやりとりをしている。

 

 厳粛な雰囲気の中で重鎮たちの視線を一身に浴びているが、聖女二人は堂々としたものだ。

 

 新しい聖女――ミシェリアはまだ十五歳の年齢だが、年の少なさを感じさせない貫禄を備えている。


 悠然としたミシェリアよりも、彼女の婚約者である若き王子のほうがよっぽど緊張しているようだ。

 王族の席に座る少年の王子はビシリと背筋を伸ばしたまま、すっかり固まっている。


 緊張の理由は幼さによるものもあるけれど、身分の違いで畏縮しているというのもあるのだろう。


 彼は第六王子だそう。王族の中では少々位が低い。が、血の近さを避けるために選ばれたのだとか。


 ――と、そういう事情もあるけれど。そもそも根本的な部分で、王族は聖女に気後れをしているところがある。


 世間では『聖女は王族に並ぶ身分』と言われているが、どちらかというと『王族が、現代では聖女に並ぶ身分を得ている』と表現するほうが正しい。

 聖女のほうが上位の存在なのだ。


 聖女は生まれながらにして、光の女神の眷属である。神話の時代に契約が結ばれたという、十数の家々の内に産まれる。


 人の世を治めるよう光の女神から神勅を受けているのが聖女であり、王族はその補佐のような存在だ。


 とはいえ、現代では統治の仕組みが複雑になっているので、もちろん、王族たちも世に必要な尊き身分に違いはないのだけれど。


 ファルクはガチガチに緊張している王子に、胸のうちでエールを送っておいた。そうしてまた、視線を聖女たちへと移す。


 今までルオーリオの街に結界を張っていた老聖女が、自身の首元から首飾りを外した。大きな魔法石の首飾りだ。


 魔法石は光の加減によって、美しい虹色に煌めく。この石には魔法を拡散する性質がある。


 種類は異なるが、従軍神官が戦地で持つ魔法杖にも、似た性質の魔法石が組み込まれている。遠くへと魔法を飛ばすために必要な石なのだ。


 老聖女はその首飾りを、新しい聖女ミシェリアの首へとかけて渡した。

 

「光の女神アイテリーアノス様の神勅のもと、新たなる光の守護をルオーリオに」

「つつしんでお受けいたします」


 聖女たちが言葉を交わして、今ここに、役目が引き継がれた。


 ミシェリアは受け継いだ魔法石の首飾りを両手で包み込む。静かに目を閉じて、祈りの魔法を展開した。


 彼女の手元に満ちた光は、魔法石によって瞬く間に拡散される。


 眩い光が謁見の間を満たし、そして建物を通り抜けて大きく大きく広がっていく。街全体を覆う結界の魔法だ。


 ミシェリアは弱まっていたルオーリオの結界を張り直した。彼女は名実ともに早々と、新たな守護聖女となったようだ。


 聖女は光の女神との契約によって、この特別な魔法を得ている。対価として心の一部と、魂を捧げているそう。


 契約の詳細を知る人の中には、その大きな対価を哀れむ者もいるようだが……勝手な哀れみは不敬に感じられるので、自分は変な同情心などは抱かないようにしている。


 というか自分自身、医神と似たような契約を交わしているので、同情などは不要だと身をもって理解している。


 自分も、神へと魂を捧げる約束を取り交わしているのだ。この生を終えた後、神の眷属となって天界へと籍を置く、という――。


 以前までは、この誓約によって結婚をためらう気持ちがあった。自分は『天と地をめぐる、魂の旅の約束』を、伴侶と交わすことができないのだ。


 神の眷属になれば、もう天の国から降りてくることはない。――二度と地上には生まれてこない。

 一度死んでしまえば、永久に伴侶の魂と添うことができなくなる身である。


 ……だというのに、今の自分は想い人と縁を結ぶことを強く望んでしまっている。人の欲というものはまったく際限のないものだと、自分自身にあきれているところだ。


 まぁ、そんな欲に翻弄される人生も、また楽しいものなのだと知ってしまったのだけれど。



 聖女は祈りを終えて席に着いた。厳かな雰囲気の中、式典は続いていく。

 ファルクはうやうやしく敬礼をしながらも、ちょっとだけ別のことへと思いを馳せる。


(新たな守護聖女様のご光来も、心からお祝いしているが――……叶うのならば、もう一人、今日中にお祝いをしたいのだけれど)


 聖女を祝うのはもちろんのことだが。自分には今日、もう一人、心の底からお祝いをしたい相手がいる。


 わずかに浮ついてしまった気持ちのままに、つい、お祝い相手のために買い込んでおいたプレゼントのことなどを考えてしまった。


(式典が終わる頃には、もう夜になっているだろうなぁ。いや、でも、どうにかしてお祝いの贈り物を渡したい……!)


 そんなことを考えていると、ふいに正面の王族たちの席に座っていた、幼き聖女ルーミラと目が合った。


 彼女はキョロっとした目でじっとこちらを見て、口パクで言葉を寄越した。


『真面目にやりなよ』


 幼女に注意を受けて、ファルクは神妙な顔で頭を下げた。

 ほんのちょっと気を移しただけなのに……我が主には敵わない。聖女には本当に畏れ入るばかりだ。


いつもお読みいただきありがとうございます。

氷魔法のアイス屋さん1巻が、いよいよ3日後の発売となります。

活動報告にて特典情報などをまとめておりますので、ご確認いただければと存じます。

引き続き、応援いただけましたら幸いです。よろしくお願いいたします。

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