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169 お城でのアイス作りと厨房の神官

 招待状を受け取ってから一週間ほどが経ち、いよいよ選定会当日を迎えた。


 街の中心にそびえ立つルオーリオ城――。今までは素敵な風景として、遠目に眺めて楽しんできた建物だったけれど。

 今日ついに、アルメはその内部へと足を踏み入れた。


 これから城の厨房で、祝宴当日に出すお菓子――つぶつぶ(あられ)アイスを作り上げて、品評を受ける。

 アイス作りのメンバーはアルメとコーデル。そしてケーキ屋のリトにも協力を仰いだ。


 リトは城に上がったことがあるらしい。彼女の弟――シグは、ルオーリオ軍の三隊隊長だ。彼に関わる式典などで、呼ばれたことがあるのだとか。


 アルメとコーデルは城の雰囲気に圧倒されて怯みきっているので、彼女の存在は頼もしい限りである。


 城門の検問所で手続きをして、高く分厚い城壁の内へと進む。ガッシリとした玄関扉を通り抜け、案内を受けて厨房へとたどり着いた。


(わぁ、広っ)


 城の厨房は思っていた以上に広い空間だった。多くの作業テーブルが並び、既に他の菓子職人たちが作業に勤しんでいた。


 厨房内の案内係に導かれて、定められたテーブルの前へと移動する。


「では、アルメ・ティティー様はこちらでお願いいたします。何かありましたらお声掛けください」

「は、はい!」


 アルメは煌びやかな城の空気にあてられて、未だポカンと呆け続けていたのだけれど……初めて城に上がった感動や興奮に浸る間もなく、アイス作りを開始したのだった。


 材料などは事前に持ち込んで申請しておいたものが、既にテーブルにそろえられている。道具類も、基本的には城の物を使うことになっている。が、特殊な道具などは持ち込みだ。


 アルメは霰作り用の調味料差しを、持ち込み申請しておいた。家にあったものに加えて、追加で三つほど購入して持ってきた。


 手を洗ったところで、ようやく気持ちが切り替わってきた。


「さて、それじゃあ作りましょうか!」

「了解~」

「お城でお料理をするなんて、何だか楽しいわねぇ」


 コーデルとリトに声をかけて、早速作業に取り掛かった。


 まずはフルーツを切り分けて、フルーツアイス液を作っていく。


 使うのはイチゴ、ラズベリー、クランベリー、ブルーベリーの、赤色系統のフルーツ。

 そしてさらに、レモン、オレンジ、マンゴー、桃の、黄色系統のフルーツも使う。

 そしてもう一色、ミルクアイスの白色も加えていく。


 種類ごとのフルーツアイス液を作って、妖精光粉を加えてよく混ぜる。


 三人でてきぱきと作業をこなして、キラキラのアイス液が九種類出来上がった。ここまでで、もう既にやり切った感があるけれど――もちろん、作業はまだ続いていく。

 次は、この九種類の液を霰にしていく。


 液を作り上げ、作業に一区切りがついたところで、アルメはふと顔を上げた。


 集中していて気が付かなかったが、周囲には城の人たちが寄ってきていた。ビシリとした服を着た人と、調理服を着た人――。


 前者の、身なりの整った人たちは選定員と思われる。何やら各テーブルを覗き込みながら、手元でメモを取っている。

 調理服姿の料理人たちは、監視兼、何かあった時に対応をする役目なのだろう。


 複数人が厨房の中をまわって、作業の様子をうかがっていた。


(……見られていると緊張するわ)


 なんて、今更ながらソワソワしてしまったけれど。

 視界の端に、何やら白い人が見えたことで、アルメは途端に気が抜けてしまうのだった。


 その人はアルメのテーブルの端のほう、近すぎず遠すぎずの距離にいる。関係者に紛れて、明らかに場違いな神官服の男がヒョイと姿を現していた。


 アルメに続いて気が付いたコーデルは、耳元でコソリと囁いてきた。


「ねぇ、なんか白い異物が混入してない?」

「私の目の錯覚じゃなかったみたいですね……」

「こっち見てるわよ。アルメさん、手振ってみたら?」

「振れませんよ……っ」


 のほほんとしたリトに脇腹を小突かれて、アルメはブンブンと首を振った。


 白い神官男は物言わず、ただ静かに澄ました顔で佇んでいる。白銀の髪に金の瞳、そして清廉な白い衣をまとう姿は、今日も絶好調に麗しい。


 こうして喋らないでいると、彼の周囲には異様なまでに神秘的な空気が展開される。


 動揺しているのはアルメだけではないようで、選定の関係者たちもヒソヒソ声を交わしていた。


「あの……ラルトーゼ様も品評をされるのでしょうか?」

「いやぁ、そういう話は聞いていないが……」

「何かご用事でも……? お声掛けをするべきでしょうか?」


 神官白鷹の場違いに高雅な雰囲気にあてられて、周囲の人々は皆ソワソワとしていた。


 なんとなく申し訳なくなってきて、アルメは下を向いた。視線を手元に固定して、作業に集中しよう……。


 赤色系統の四種類のアイス液を、それぞれ調味料差しに入れる。大きなガラスボウルの上に両手のひらをかざして、アルメは強く氷魔法を展開した。


「コーデルさん、リトさん、雫をお願いします」


 コーデルとリトは両手に調味料差しを握って、シャバシャバと振り出した。

 氷魔法を通過して、霰アイスがコロコロとボウルへ落ちていく。


 魔法を使って不可思議なお菓子を作り始めたアイス屋メンバーを見て、選定員たちが小声を交わしている。


 興味を引かれたのか、覗き込んでくる気配を感じた。……加えてもう一人、白い人も。

 作業の邪魔にならないように、との配慮か、少々距離を取りつつも、見入っている様子。

 

 しばらくの間ひたすらに作業を続けて、色合い豊かな赤色系つぶつぶ霰アイスができあがった。

 

 続けて、ガラスボウルを変えて。今度は黄色系統の霰も山盛り作っていく。


 そうして最後にミルクアイスの白色霰もたっぷりと作る。

 氷魔法の役目をコーデルと代わって、アルメが水滴垂らしの係となった。調味料差しを両手に持ち、ひたすらシャバシャバ振っていく。


「これ、二の腕が痩せそうですね」

「明日あたり筋肉痛になるから、覚悟しといた方がいいよ」


 アルメとコーデルが小声を交わして笑い合っている横で、リトがポカンと独り言をこぼしていた。『白鷹様、なんだかお顔が怖いような……』、と。


 神官白鷹の金の目は鋭く細められ、視線は身を寄せ合って楽しげに作業をするアルメとコーデルに注がれていたのだけれど……霰作りに集中している二人が気が付くことはなかった。


 忙しなく手を振り、一心不乱に霰を作り続けて、白色霰も山盛りできあがった。

 各色がそろったので、次の工程へと移る。


 テーブルの上には、つぶつぶ霰で満たされた三つのガラスボウル。赤色系の霰と、黄色系の霰。そして白い霰。


 アルメは白い霰を、赤色と黄色のボウルへと半分ずつ移し替えた。色が偏らないようによく混ぜる。これでつぶつぶ霰は、赤白と黄白の二種類にまとまった。


 ここから盛りつけ作業に入る。


 用意されている城のワイングラスへと、つぶつぶを注いでいく。グラスの半分までは黄白の粒を、そして上半分には赤白の粒を注ぐ。


 そうして最後に、グラスの縁に飾り切りをしたオレンジを添えた。

 これで『つぶつぶ霰アイス・パーティー仕様』の完成だ。


 赤と黄の二層のモザイクカラー霰が、繊細なワイングラスに映えている。なかなかにお洒落な見た目である。


 粒は淡く上品な色合いで、混ぜ込まれた妖精光粉によってキラキラチカチカと光を放っている。


 たっぷりの氷魔石を使って冷たさを保持しつつ。グラスへの盛りつけを十数個分済ませて、アイス作りを完了した。


 完成品の確認を受けつつ、テーブルの片付けを始める。


 ふぅ、と息をついて顔を上げると、ずっと見学していたらしい神官白鷹と目が合った。彼は口の動きだけで、『素敵です』と言って寄越した。


 ペコリと丁重に礼を返すと、白鷹は涼やかな顔で厨房を去っていった。歩く姿は凛としていて、城の人たちは敬礼をして彼に道を開けている。


(こうやって見ると、ファルクさんって本当に身分の高いお方なんだなぁ……って、思うのだけど)


 でも、アルメは見てしまったのだった。彼が完成品のアイスを見つめて、口パクで『美味しそう!』と感想をこぼしていたところを。


 麗しの上位神官の中身は、純朴なアイス好きの青年なのだ。


 頬が緩むのを抑えながら、彼の後ろ姿を見送った。



 確認が終わったら、アイスのグラスたちはさっさとどこかの部屋へと運ばれていってしまった。


 そうして片付けも終わって、アルメたち三人も厨房を後にした。一仕事終えた余韻に浸る暇もなく、事務的に場を去ることとなった。


 また案内を受けながら城内を歩いていく。


 アイスはこの後アルメの知らないところで品評を受けて、後日結果の連絡が来るそうだ。

 

 煌びやかな廊下を歩きながら、首をまわして、まじまじと城内を見学する。来た時は緊張していて、周囲を見ている余裕などなかったので。せっかくなので、帰りは思い切り楽しませてもらうことにする。


 天井にはシャンデリアが下がり、廊下の左右の壁には大きな絵画が飾られている。柱すらも美術品のような美しさで、あらゆる物を鑑賞してしまった。


 お喋りを楽しみながら歩き、豪奢な玄関ホールへとたどり着いた。グルリと見まわして存分に楽しみ、外への大扉へと歩を進めた。


 開け放たれている扉をくぐり、外へ出た瞬間、例えようのないフワリとした感覚が体を包み込んだ。同時に、体の周囲に光の粒子が舞う。


「入城の時にも思ったのですが、お城には何か魔法がかけられているのでしょうか?」

「建物全体に、聖女様の魔祓(まばら)いの結界が張られているみたいよ。街を覆う結界よりも、もう一段強めの結界が張られていて~って、弟は言っていたけれど」


 アルメの問いかけに、リトが答えてくれた。


 リトは城を歩きながら、他にも知っていることをあれこれと話してくれた。さながら城内観光ツアーのようで、アルメはすっかり満喫してしまった。


 城門を出たところで振り返り、改めてルオーリオ城を仰ぎ見る。


(お城、素晴らしかったです。本当に最高の誕生日プレゼントだわ。ファルクさん、ありがとうございます!)


 祝宴当日はまだもう少しだけ先なのだが。もう既に、もらったプレゼントを大いに楽しんでいる。

 心の内で改めてファルクへとお礼をしておいた。



 誕生日を迎えた日の夜に、さらにごっちゃりとプレゼントをもらい、一つ珍妙な贈り物――一羽の白い鷹まで、受け取ることになるのだけれど。


 それはまだ、一週間ほど後の話だ。


いつもお読みいただきありがとうございます。

氷魔法のアイス屋さん1巻の書影が出ましたので

各話がズラッと並んだ目次ページの下の方に置かせていただきました。

アルメとファルク、そして白鷹ちゃんアイスをお楽しみいただけましたら幸いです。


発売日は6/24日予定となります。

近くなりましたら、特典情報等を活動報告にてまとめさせていただきます。


WEB版も引き続き、よろしくお願いいたします。

いちゃこらデート回と恋模様の進展まで、今しばらくお待ちくださいませ。

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