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135 ワッフルコーンの試作

 早くに閉店作業を終えて、アルメは早速、二階自宅のキッチンに立った。ソワソワする気持ちに任せて、コーンの試作に着手する。


 作るにあたって、アルメの頭の中には二種類のコーンが思い浮かんだ。


 一つは、モナカ皮をアレンジして作れそうな、軽くサクサクとしたコーン。前世でメジャーだったものだ。アイスコーンといえばこれ、という、さっぱりとしたコーン。


 そしてもう一つは、薄いワッフル生地を巻いて固めるコーン。こちらはコーン自体に香ばしい甘みがあって、前者に比べて食べ応えがある。


「さて、どちらを作りましょう。モナカアイスと似てしまったら、新作としていまいちだから……ワッフルコーンの方を作ってみようかな」


 コーンの種類を決めたら、ざっと必要なものを作業台に出していく。


「材料は小麦粉と卵とバターと――……円錐形はどうやって作ろう。何かちょうどいい道具、あったかしら」


 キッチンの棚を見回して、コーヒーのドリッパーを手に取った。ちょっと口が広いけれど、とりあえず円錐形をしている。今回はこれを型に使うとしよう。


 道具と材料を並べたら、作業開始だ。


 まずはボウルにバターを入れて湯煎で溶かす。そこへ砂糖を入れて、卵と牛乳を混ぜ合わせる。


 そこに小麦粉を加えて混ぜたら、コーン液の出来上がりだ。


 フライパンを火にかけて、温まったところでトロリと液を流す。ゆるっとした液は綺麗な円形に広がった。


 薄い生地に、あっという間に火が通っていく。焼けるうちに漂ってくる、甘く香ばしい匂いがなんともたまらない。


 焼き目が付いたら、破れないよう慎重にひっくり返す。この状態だとまだ柔らかくて、クレープ生地みたいだ。


 反対側も焼けたところで、フライパンからサッと上げる。コーヒードリッパーを型にして、綺麗な円錐形になるようにクルッと丸める。


 熱い生地を指先でちょいちょいと触って、どうにかドリッパーの円錐型に収めた。この状態のまま冷まして、生地をパリパリに固める。


 同じように数枚のコーン生地を焼いて、ドリッパーの内側に重ねていく。


「よし、こんなものかしら。――コーン液、結構余ってしまったわね。夜ご飯に使っちゃいましょう」


 コーンが冷めて固まるのを待つ間、アルメはそのまま夕食を作ってしまうことにした。



 フライパンでベーコンとキノコを炒めて、火が通ったら一度皿へと移す。空いたフライパンにコーン液の余りを入れて、先ほどよりも大きいサイズで焼いていく。


 少し火が通ってきたところで卵を落として、炒めたベーコンとキノコを乗せる。塩コショウをパラッとかけて、最後にチーズを削り散らす。


 生地の上下左右をパタパタと折りたたみ、フライパンに蓋をして蒸し焼きにする。


 卵に火が通ったら、お食事クレープの出来上がりだ。今晩はこのクレープとサラダで済ませてしまおう。


 コーン液はまだ少し余っているので、明日の朝ご飯もクレープになりそうだけれど。


「お食事クレープ、もう一人分焼いたらピッタリ使い切れたのに」


 つい、そんな独り言をこぼしてしまった。


 もう一人分、で思い浮かべたのは、凛々しい容姿のわりにぽやぽやとした、あの神官の姿だ。


 以前なら、まず祖母の姿を思っていたところなのに。いつの間にか真っ先に浮かぶのは、彼の笑顔になってしまった。


 ――なんてことを考えていると、また胸の奥がムズムズとしてきた。


 アルメはパシンと頬を叩き、首を振った。考え出すとどうにも気がそぞろになってしまうので、これ以上はやめておかないと……。


 その神官がクレープを頬張って、ふにゃりとした笑顔で美味しいと言う――ところまで想像しそうになって、慌てて思考を止めた。


 気を取り直して、アルメは冷ましていたコーンへと手を伸ばした。


 ドリッパーから取り出すと、コーンはしっかりと固まっていた。冷凍庫から自宅のおやつ用アイスを取り出して、コーンに盛りつけてみる。


 適当な道具を型にしたのでコーンの形がいまいちだが、一応、手持ちアイスの形にはなった。


「やっぱりちゃんと作るなら、専用の型が必要ね。さて、お味は――うん、初作にしては美味しい」


 サクサクで香ばしいコーンはアイスによく合っている。が、もう少し改善の余地がありそうだ。


 コーンアイスはほとんどの場合、最後の方はコーンだけかじることになる。コーンのトンガリの奥の奥までみっちりアイスを詰め込む、という盛り付けは、なかなか難しいので。


 となると、『コーン単体で食べても美味しい』と言えるくらいに、クオリティを高めておきたいところだ。


「ワッフル屋さんに相談したら、もっと美味しいものが作れるかしら」


 アルメはアイス添えワッフルで提携している、強面店長のワッフル屋を思った。


 確か、ワッフル屋では薄焼きのゴーフルなどのお菓子も売っていたはず。コーン作りにヒントをもらえるかもしれない。


 試作の手持ちアイスをまじまじと見つめて、アルメはさらに考え込む。


「あと、手持ちのコーンアイスといったら、やっぱり『うずまき型のソフトクリーム』よねぇ。あの形状、再現できないかしら。ソフトクリームのぐるぐる巻きの機械を、どうにか……」


 コーンアイスと言えば、やはりパッと思い浮かぶのは、あのうずまき盛り付けのソフトクリームだ。


 別に必須ではないけれど……できることなら、形状を再現したい。完全に遊び心の欲である。あのぐるぐるうずまきの盛り付けをやってみたい、という。

 

 路地奥店が縮小営業中の今なら、ちょっと遊んでも――いや、手の込んだ商品作りをしてみてもいいのでは、と、心がうずいた。


 アルメはサッと手帳を開いて、明日の予定を確認する。明日はちょうど、ワッフル屋にアイスを納品しに行く予定だ。


「ワッフルコーン作りの相談をした後、シトラリー金物工房に寄ってソフトクリーム機械の相談をしてみましょう。ふふっ、うずまきアイスの機械なんて作ったら、きっとファルクさんも喜ぶに違いな――……」


 うっかり、またファルクのことを考えてしまって、アルメは頬の内側を噛んだ。


 最近本当に、何かの病のように彼のことばかり考えてしまう。……いや、最近と言わず、思い返せばずいぶんと前からそうだった気もするけれど。


「……彼のことは考えない、考えない……考えない……」


 ブツブツと自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせる。


 深く考えて、この病じみた気持ちを理解してしまったら――……なんだかもう二度と、元には戻れないような気がして怖いのだ。


 気を抜いたら、深い大穴に落っこちてしまいそうな……。そんな心地になるのが、最近のアルメの大きな悩みなのだった。


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