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117 飲み会と妬け神官

 連休をとることを決めてすぐに、アルメの元に飲み会の誘いが届いた。エーナが『お疲れ様飲み会』なるものを計画してくれたのだ。


 新店をオープンさせたアルメと、新居への引っ越しが完了したエーナとアイデン――この二組を一緒に祝い、ホッと一息つく会を開こう、とのこと。


 もちろん、アルメは参加の返事を返した。



 そうして本日、夕日が落ちて夜の鐘が鳴った頃。仲間たちが集まった。

 

 飲み会のメンバーは、サッと集めたルオーリオ軍の面々。プラス、従軍神官が一人。

 

 場所はジェイラが働いている焼き肉屋。高台にあるガーデンタイプの焼き肉屋からは、夜空と街を見渡せる。なんとも解放的で、軽やかな気分になる素敵な店だ。


 大人数用の席には、テーブルの真ん中にバーベキューコンロが組み込まれている。


 集まったメンバーは席に着いてすぐ、あっという間にコンロいっぱいに、肉やら野菜やらを並べたのだった。


『みんなの日々の暮らしに、カンパーイ!!』


 焼き肉屋の一角に高らかな声が上がった。


 エーナ、アイデン、チャリコットが並んで座り、向かいにはジェイラ、セルジオ、アルメ、ファルクが並んで座っている。――この七人が、本日のお疲れ様会のメンバーである。


 セルジオはチャリコットが引っ張ってきて、ファルクはアルメが誘ってみた。なかなかそうそうたる顔ぶれだが、今日は無礼講の飲み会だ。


 特に改まった挨拶もなく、さっさと乾杯して、もう皆好き勝手に食べ始めている。


 それなりにきちんとしたパーティーも楽しいけれど。こういう気安さこそがルオーリオの庶民の暮らし、という感じがして、肩の力が抜ける心地がした。


 熱々の肉を頬張りながら、アルメは隣に座るセルジオとお喋りを楽しむ。セルジオの姉――リトのケーキ屋についての話など、色々と。


 酒の入ったセルジオは、普段の精悍な顔つきをゆるめて笑っていた。


「どうか、私のことはセルジオではなく下の名前で、シグとお呼びください。ファミリーネームで呼ばれると、姉とごちゃついてしまうので」

「確かに、それもそうですね。では失礼して、シグ様とお呼びいたします」


 そんな会話を交わしていると、反対隣のファルクから、何やらじっとりとした視線を感じた――ような、気がする。顔を向けると、彼はスイと、コンロへと目を移してしまった。


 香ばしく焼けた野菜と肉を、ピリ辛のタレに絡めて口へと運ぶ。たまらない味わいを堪能しつつ、次々に変わっていく場の話題も楽しむ。


 エーナとアイデンの新居の話や、引っ越し作業の苦労話。軍の中で起きたしょうもない事件。神殿のちょっと怖い話。――などなど、色々な話が飛び交っていく。


 そうしているうちに、話題は魔法に関することへと移っていった。神官の魔法やら、アルメとセルジオ――シグの氷魔法やら、面々はざっくばらんに喋り散らす。


 エーナはファルクに、神官の治癒魔法について問いかけた。


「――へぇ、神官様って神様との契約でお酒飲めないんですね。もし飲んでしまったら、罰を受けたりするんですか?」

「罰と言いますか、しばらくの間魔力が弱くなったり、魔法を使えなくなってしまったりします。そうなると仕事が出来なくなりますし、周囲の神官たちから白い目で見られることになりますね」


 ファルクの話を聞くと、チャリコットがニヤニヤとした悪戯な笑みを浮かべた。


「ふ~ん、じゃあ白鷹野郎は、酒アイスキャンディーも食えないんだ」

「酒アイスキャンディー、とは?」

「あぁ、前に食事会で作ったお遊びアイスのことですか?」


 思い至ったアルメが話に入った。チャリコットと初めて顔合わせをした時、アルメはお酒を凍らせてアイスキャンディーを作ったのだった。


 チャリコットは得意げに笑いながら、またファルクにしょうもない喧嘩を売り始めた。


「またあのアイスキャンディー食べたいな~。冷たくて美味かったな~。あ~っと、悪い、神官様の前でこんな話しちゃって~」

「ぐぬぬぬ……あなたという人は……」


 ファルクは心底悔しそうな顔をしている。さすがに可哀想なので、アルメは早々に喧嘩を止めることにした。


「そういじめないでください。アイスキャンディー、またお作りしましょうか? ファルクさんも食べられるように、ジュースで。――お二人とも楽しめるように、ちょっと工夫してみます」


 そう言うと、アルメは店員に数種類のフルーツジュースとリキュール、そして炭酸水を頼んだ。


 運ばれてきた飲み物類を前にして、ついでに付けてもらった大きめのスプーンを握る。


 グラスのフルーツジュースをスプーンですくって、氷魔法を使った。スプーンの形――雫型のアイスキャンディーが出来上がる。


 雫型アイスキャンディーを次々に作って、空のグラスに放り込んでいく。赤、黄色、紫、桃色――と、カラフルなアイスキャンディーがグラスを飾る。


 ほどよい量、アイスキャンディーを放り込んだグラスを、二つ作ってみた。


 そこへ炭酸水を注いでいく。片方のグラスには炭酸水のみを注いで、もう片方のグラスにはリキュールも合わせる。


 出来上がったグラスを、それぞれファルクとチャリコットに渡す。アルメは即席で作り上げた飲み物の名前を告げた。


「どうぞ。アイスキャンディーソーダと、アイスキャンディーカクテルです」


 グラスの中では、カラフルな雫型アイスキャンディーがシュワシュワと泡をまとっている。


 輝く泡とアイスの色合いが美しく、見た目にも楽しい飲み物だ。なかなかよい具合に仕上げることができた。


 ファルクはいち早くグラスに口を付けると、目を輝かせた。


「これはこれは! アイスキャンディーが溶けだして、フルーツソーダの味わいになりますね。アイスがやわらかな口溶けになって美味しいです!」

「わー、すげぇカラフルな酒! アイスキャンディーとろとろになってて美味いわ~」


 チャリコットも口を付けて笑顔をこぼした。


 見物していたエーナとアイデンと、ジェイラもはしゃいだ声を上げた。


「あら、可愛い! これ女子に人気出そうじゃない? 私も飲んでみたい!」

「俺も頼む! レモンジュース追加していい?」

「アタシはブドウアイスと炭酸で飲んでみたい! よっしゃ、店員呼ぶよ~!」


 各々試したいジュースを追加で注文して、テーブルの上はさらに華やぐ。


 せっせとアイスキャンディーを量産し始めたアルメの隣で、シグもスプーンを握った。


「面白い飲み物ですね。是非、私もいただきたく。一緒に作りましょう」

「ありがとうございます。ではでは、どんどん作っていきましょう!」


 アルメとシグは氷魔法を使って、アイスキャンディーを作り上げていく。シグの魔法はアルメより強く、一瞬でアイスが出来上がる。


 つい、シグの手元に見入ってしまった。テンポよくサクサクと作られていく様が、見ていて気持ちがいい。さながら精巧なアイス製造機のようで、笑ってしまった。


 そうして二人でアイスキャンディー工場を稼働させていると、隣で見ていたファルクが気の抜けた声を出した。


「……俺も氷魔法が欲しい」


 複雑な表情でボソリと呟く。そんな彼とは反対に、ジェイラが明るい笑顔で話に乗ってきた。


「わかるわ。氷魔法いいよなー! 何かと便利に使えるし、アタシも欲しいわ。もしくは身内に氷魔法士が欲し~」


 そう言うと、ジェイラは隣に並ぶシグとアルメにチラリと目を向けた。


「チャリコットの奴がアルメちゃんを逃しやがったからな~。こうなったらアタシがセルジオ隊長を落とすかー。隊長、アタシと結婚して冷凍冷蔵庫買ってくれない?」

「……え!? っと、か、考えておく……」


 ペラっと話しかけてきたジェイラに、シグは慌てた様子だった。すぐに取り繕っていたけれど、目が泳いでいる。


 リトに物件探しで使われていた件といい、今日チャリコットに引っ張られてきた件といい、彼は意外と押しに弱い質なのかもしれない。


 ジェイラの冗談に乗っかって、チャリコットもケラケラと笑った。


「隊長がいたら氷魔石作り放題だし、家に冷房の魔道具も設置できるんじゃね? 最高じゃん! 姉ちゃん頑張れ~!」

「こら、姉弟で戯れを……。私を何だと思っているんだ」


 盛り上がる姉弟に、シグはオロオロしていた。


 そこに、さらに意外な援軍が加わる。ファルクが身を乗り出して、はしゃいだ声を上げたのだった。


「セルジオ様、従軍神官からも、お早めに身を固めることをおすすめしておきます。結婚している兵士は、戦場の女神ヴァルキュレーに魂をさらわれることがなくなる、と言われていますから」


 ヴァルキュレーとは、戦死者を定める女神である。

 

 ヴァルキュレーが目に留めた戦士は、天の国へとさらわれてしまうそう。けれどファルクが言うには、家庭を持つ者は見逃してくれるのだとか。


 実際のところどうなのかはわからないが、従軍神官が言うとなんだか真実味がある。


 ファルクとチャリコットは声を合わせて、仲良く手拍子を始めた。


「「それっ! 結婚! 結婚! 結婚~!」」


 男二人の、なんとも浮かれた声が場に響く。


 エーナとアイデンは肩を揺らして大笑いして、ジェイラはノリノリで手を振り上げている。


 シグはポカンとして、隣のアルメにコソリと話しかけてきた。


「あの……チャリコットとアイデンはいつもこういう感じですが……ラルトーゼ様は、こういう雰囲気のお方でしたっけ? 彼、もしかしてお酒が入っていませんか? 大丈夫でしょうか?」

「ええと……彼は普段は割と、こういう雰囲気の人だと思います。のん気と言いますか、飾らないお人柄といいますか――」


 ヒソヒソ声で、シグにそう答えた時――。


 ふいに、アルメの手に指が絡められた。


 シグとは反対隣――ファルクの手が、アルメの手に重ねられた。テーブルの下で密やかに、彼の指がアルメの指を絡め取る。


 友人たちが大盛り上がりで騒ぐ中、アルメは一人、固まった。


 ファルクは重ねた手を悪戯に揉みながら、アルメの耳元に顔を寄せた。


「お二人で何のコソコソ話ですか? 俺にも聞かせて? 仲間外れにしないでください。妬いてしまいます」

 

 テーブル下の手繋ぎは、誰にも見られることはない。


 が、人のいる中で、こういう戯れは勘弁してほしい。何とも例えがたい照れと恥ずかしさのやり場が無くて困る……。

 

 固まったアルメの手のひらを、ファルクの指がスリスリと撫でくすぐる。


 ……この悪ふざけには、後で厳重に苦情を入れておくことにしよう。


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