表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/254

108 アイス屋二号店オープン

 冬を迎える四季祭りの、大忙しの三日間が終わった。けれど、祭りを終えても、まだ街には賑やかな空気が残っている。


 そんな浮ついた雰囲気に乗っかるようにして、いよいよアイス屋二号店のオープン日を迎えた。


 今日の晴れ渡る空と同じ色合いの、青色の花飾りが店先を飾っている。これはエーナの家からの祝いの品だ。


 大きな花飾りが通行人の目を引いている。それに加えてもう一つ、今から人々の興味を引くようなオープンイベントを行う。


 店の準備が整ったところで、アルメはコーデルに声をかけた。


「それじゃあコーデルさん。オープン前にもう一度、氷魔法で『火の精霊払い』をしましょうか」

「えぇ、安全祈願と景気づけを兼ねて」


 アルメとコーデルは店先で大きく手を振り、フワリと氷魔法を使った。途端に、魔法で作られた氷の粒子がキラキラと舞った。


 このエリアは一応、火事によって火の精霊を集めてしまった事故エリアである。

 オープン前に店の周りに氷魔法を流して、もう一度火の精霊払いをしておこう、ということで、大きく魔法を使ってみた。


 舞い上がる氷の結晶は、日の光を反射して美しく輝く。突然始まった楽しげなイベントに、街の人々は足を止めて見物していた。


 アルメは大きく息を吸い、周囲に声を響かせる。


「アルメ・ティティーのアイス屋、ただいまよりオープンいたします! 皆様どうぞ、冷たくて美味しい氷のお菓子を、お楽しみくださいませ!」


 オープンの口上を終えると、周りから拍手と歓声が上がった。こういうノリの良さは、さすが陽気な街ルオーリオ、といったところだ。


 人々に感謝しつつ、周りを見回す。――すると、ひと際はしゃいだ様子の見物人がいた。抜き出た長身に、茶色の髪の男。ファルクだ。


 アルメと目が合うと、彼は大股で歩み寄ってきた。


「アルメさん、アイス屋二号店のオープン、おめでとうございます!」

「ありがとうございます、ファルクさん……! まさか初日に来ていただけるとは思いませんでした。お仕事がある、とか言っていませんでした?」


 ファルクはつい先日まで、オープン初日は仕事かも、なんてぼやいていたのだけれど。結局休みを取れたようだ。


 申し訳ないやら、ありがたいやら。ちょっと複雑な気持ちである。苦笑するアルメをよそに、ファルクはウキウキと言う。


「休日というものは、自ら作り出すものだと心得ました。最近ようやく、ルオーリオでの学びを活かせるようになってきまして」

「それはよかったです。その調子でご自愛くださいね」

「えぇ、努力いたします。――さて、俺の話は置いておき、」


 話を切り替えると、ファルクは抱えていた花束を差し出してきた。赤、黄色、白、青、ピンク、緑――なんともカラフルで賑やかな花束だ。


「改めて、新店オープンおめでとうございます。アルメさんのご活躍と、お店の繁盛を祈り、花を選んで参りました」

「ふふっ、それはそれは。ずいぶんと賑やかなお祈りですね。とても綺麗な花束、ありがとうございます」


 確か、路地奥のアイス屋を開店した時にも、こういう虹色の花をもらった。懐かしさと嬉しさに、つい口元をゆるめてしまった。


 アルメが笑みをこぼすと、間髪入れずに、ファルクは慌ただしく手持ちの紙袋類をガサガサと渡してきた。


「あ、っと、花だけでなく、こちらもどうぞ! こっちがお菓子で、これが石鹸。こちらはジャムと蜂蜜と――」

「ちょっ……お待ちください、ファルクさん!?」


 祝いの品が多すぎる、ような……。次々渡される品々で、アルメの両手はすっかり塞がってしまった。


 言葉を挟む間もなく、あれこれ持たされて、最後にひと際綺麗な紙袋を差し出された。


「あと、これはアクセサリーです。前にお贈りした、そちらのネックレスに合うデザインの、イヤリングとブレスレットになります」

「……ええと、また貢ぎ物、ですか?」


 客が店員にアクセサリー類を贈る、というのは、接客酒屋で多く見られる光景である。ネックレスに続いて、またそういうことを……と、複雑な顔をしてしまったのだけれど。


 ファルクは困ったように笑いながらも、まっすぐな目を向けてきた。


「もう接客酒屋のようなシステムに頼るのはやめました。これは客から店主への貢ぎ物ではありません。俺からアルメさんへの、個人的な贈り物です。新店のオープンにかこつけてしまいましたが、そうでなくても、いずれ贈ろうと思っていた品です。どうか、お受け取りください」

「は、はぁ……」


(そう言われると、逆に受け取りにくいような……)


 アルメはつい、手を伸ばすのをためらってしまった。


 ファルクの言葉の意味を探ろうとして、頭が勝手にまわっていく。が、なんだか照れてしまって、考えるそばから思考が取っ散らかってしまう。


 考え込んで固まっているアルメを見て、ファルクはボソリと小声をこぼした。すねたような、やけくそになったかのような、普段聞かない声音で言う。


「……受け取ってもらえなかったら、俺はこの場でピィピィ泣いて駄々をこねます」


 店先でじたばた騒ぐ、大きなヒヨコを想像してみる。アルメは神妙な顔で言葉を返した。


「やめてください……営業妨害です」

「では、お受け取りください」

「……ありがとうございます……大切にしますね」


 プレゼントを受け取ると、ファルクが表情を戻してニッコリと笑った。新手の脅しを受けた気分だが……まぁ、深く考えないでおこう。


 アクセサリーの紙袋を落とさないよう、アルメは大事に抱え込んだ。



 

 オープニングイベントと称した精霊払いをした後、早速アイス屋の営業が始まった。


 今日のシフトメンバーはアルメとコーデル、エーナとジェイラ、そして他数人の従業員。アルメと店長コーデルは通しで入り、他は数刻ごとの交代だ。


 アルメはファルクを店内へと招き入れた。アイス屋二号店も、お客さん第一号はファルクとなった。


 彼は店内を見回して明るい声を出した。


「路地奥店の穏やかな雰囲気も素敵ですが、こちらのお店はまた雰囲気が違っていて、ワクワクしますね。洗練されていて、優雅なひと時を過ごせそう」

「ありがとうございます、新店は上品な雰囲気にしてみました。表通りは庶民だけでなく、お貴族様も立ち寄ることが多いと聞いたので。――といっても、ほとんど前のテナントのものを使いまわしているだけですが」


 店内には、入ってすぐにガラスケースの大きなアイスカウンターがある。アイス容器がズラリと並び、色合いが目に楽しい。


 アイスの種類は数十種類。カウンターの脇には、可愛らしいイラストが添えられた、大きなメニュー表が掲げられている。


 メニュー表のイラストを見て、ファルクが目を輝かせた。


「おや、なにやら白鷹ちゃんアイスに花が飾られていますね」

「アイスの盛り付けを改良したんです。食用花を飾ることになったのですが、お花が苦手でなければ、お一ついかがですか?」

「是非、いただきましょう!」


 最初のお客さんの最初の注文は、白鷹ちゃんミルクアイスのお花添えに決まった。


 注文を通すと、カウンターの内側にいるエーナがアイスを取り、ジェイラが花の砂糖漬けを飾って、手際よく作り上げる。


 エーナとジェイラはファルクへと声をかけた。


「このあとアイデンとチャリコットさんも来る予定だから、みんなでゆっくりしていってくださいね」

「客寄せ頼むわー。なるべく窓際で食べて、窓際で。通行人に見えるように」


 そつがないジェイラの提案に、アルメとファルクは笑ってしまった。


 店は通りに面して大きなガラス窓があり、店内がよく見える造りになっている。窓際席やテラス席の客は他の客の呼び水となるので、今日はファルクを使ってしまおう、という策だ。


 会計を済ませてアイスを受け取ると、ファルクは手元をまじまじと見つめた。


 まんまるのミルクアイスに、レモンの皮で作られた目とくちばし。その白鷹ちゃんの頭に砂糖漬けの花が飾られている。


 器は細かい泡の入ったガラス皿で、光を反射して美しい。足の付いたグラス型の作りが洒落ている。


「これはこれは! メニュー表の絵の通り、白鷹ちゃんアイスがより華やかになりましたね。俺もアイスに合わせて、次の出軍では花冠でも被りましょうか」

「本人がマスコットの方に合わせてどうするんですか。戦地に向かうというのに、浮かれた装いはおやめください」


 ファルクはのん気なことを言ってのけたが、本当にやりかねない人なので、ピシャリと(いさ)めておいた。


 そんなやり取りをしていると、ふいにコーデルが店の表に目を向けた。


「あら、次のお客さん来たわよ。エーナちゃんの旦那くんと、ジェイラちゃんの弟くんじゃない?」


 玄関を見ると、アイデンとチャリコットがヒョイと覗き込んでいた。歩み寄り、朗らかな声をかけてきた。


「よう! 開店おめでとう! 結構立派な店じゃんか!」

「おめでと~! お、路地奥店よりアイスの種類増えてね? ――って、うわ……先客がいやがった……!」


 チャリコットはファルクの姿を見つけると、大袈裟にムッとした顔をした。続けて喧嘩を売るように、ベッと舌を出す。


 子供か……と、アルメは心の内で突っ込んでしまったが、顔には出さないでおく。


 ファルクは白鷹ちゃんアイスの器をズイと突き出して、チャリコットのしょうもない喧嘩を買った。


「ご覧なさい、可愛いでしょう? チャリコットさんもいかがでしょうか、お花の白鷹ちゃんアイス」

「絶対食わねぇ。――俺はスカイハーブミルクアイス一つ、お願いしまーす」


 彼は青色のスカイハーブと白色のミルクアイスが混ざりあった、マーブル模様のアイスを注文した。


 二人はごちゃごちゃと言い合いをしながらも、一緒に窓際の席に着いた。その様子を見て、アイデンがへラリと言う。


「あぁ言うの、何て言うんだっけ? 痴話喧嘩?」

「いや、『喧嘩するほど仲がいい』の間違いじゃない……?」

「ま、何でもいいか! じゃあ、俺はこのナッツとクッキーのアイスで頼むわ!」


 アイデンはペラっと会話を流して、注文を決めた。……この感じだと、また軍の中で白鷹に関するおかしな話が流れることになりそうだ。アイデンの適当なお喋りによって。


 三人は窓際の席でワイワイと賑やかにアイスを食べ始めた。カウンターから眺めながら、コーデルが何とも言えない顔をする。


「デカい男が三人……なんか初っ端から男くさい店になっちゃったわね。もっとこう、お洒落な女性客が欲しいわ」

「ふふっ、まぁそう言わず。――あぁ、ほら、お客さんが来ましたよ」


 男三人が堂々と入店し、大口でアイスを食べているせいか、続けて男性客のグループがドッと入ってきた。


 そしてその次には男女の客。女性客のグループ。子供連れの家族――。いい感じに客が続くようになってきた。


 こうなったら、後はガンガン働くだけだ。アルメは客入りのブーストをかけるべく、他の従業員を連れて店先に立った。通行人にチラシを配りながら声を張る。


「冷たくて美味しい、氷のお菓子はいかがですか。ルオーリオ発の新しいお菓子、アイスのお店が本日オープンいたしました。是非、お立ち寄りください!」


 人々はチラと店の様子を覗いて、雰囲気を確認したら、そのまま中へ入っていく。


 大きなメニュー表の前で足を止めるので、入り口辺りに人だかりができる。その人だかりを見て、興味を持った人がまた足を止めていく。


 オープンからわずか半刻ほどで、アイス屋はテラス席まで客で賑わうほどになった。


 日が高く登るにつれて日差しも強まり、気温もグッと上がり始める。最高のアイス日和だ。

 

 人々は色鮮やかなアイスを目で楽しみ、続けて美味しさに舌つづみを打つ。皆、笑顔をこぼして、アイスとお喋りのひと時を楽しんでいる様子。


 なんとも楽しげで平和な景色だ。これぞアルメの見たかった景色である。

 こういう、人々ののほほんとした笑顔が、風景が、アルメは何よりも好きなのだった。


 ――かつて、ジュース屋に訪れる客の笑顔を愛した、祖母と同じように。



 店先で青空を仰ぎ、天の国にいる祖母を想う。新店オープンの感動と、新たな決意を伝えておく。


(おばあちゃん、ティティーの店が表通りの一員になったよ。これから今まで以上に、多くの街の人たちを楽しませてみせるからね!)


 祖母も陽気な平和を愛し、人々の明るい顔を見るのが好きな人だった。

 もし彼女がこの場にいたならば、店の様子を見て、アイスを食べて、思い切り笑ってくれただろうか。


 そんなことを考えながら、アルメはせっせと働き、チラシを配る。


 天からの光を受けたネックレスが、アルメの首元でキラリと輝いていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ