102 白鷹ちゃんぬいぐるみ
その日の夜。
コーデルにもらった型紙を使って、アルメは早速白鷹ちゃんぬいぐるみを作ってみることにした。
夕食を食べた後、自宅の居間のテーブルに裁縫道具と布を広げた。この白い布は祖母のブラウスを解いたものだ。
庶民の家庭では、着古した服は解いて別のものに作り変える、というのが普通である。布巾や補強布、物入れの巾着袋などなど。
――今回、祖母のブラウスには、ぬいぐるみに変身してもらうとしよう。
型紙を切り抜いて、平たく置いた布の上に配置する。布チョークを使って印を付けていく。
白鷹ちゃんの胴体部分を作る楕円形のパーツが六枚。さらに小さな翼用に、三角形のパーツが四枚。
印を付け終えたら縫い代をとって、大きめに裁断していく。
まずは楕円形のパーツを三枚ほど、チクチクと縫い合わせた。表に返して、刺繍用の小さな木枠をセットする。
布を張って、黄色い糸で刺繍を入れる。これは白鷹ちゃんのくちばし部分だ。今回は家に黄色い布がなかったので、くちばし部分は刺繍で再現することにした。平坦になってしまうが、まぁよしとしよう。
くちばしができたら、今度は目をつける。こちらはちょうど黄色のガラスボタンがあったので、これを使うことにした。
目とくちばしが出来上がったら、残りの楕円形パーツを縫い合わせていく。最後に少しだけ縫い残しを作って、そこから表にひっくり返した。
縫い残し部分から中身を詰めていく。綿の準備がなかったので、使い古しのタオルを詰めることにした。
形が整うまで詰め込んで、縫い残し部分を完全に閉じる。これで胴体部分の出来上がりだ。
続けて翼のパーツも縫い合わせる。小さな翼の中には、余り布を刻んで詰め込んだ。
バランスを見ながら、胴体部分に翼を二つ縫いつけていく。
留めた糸の尻尾をパチンと切って、まんまる白鷹ちゃんぬいぐるみの完成である。
揉みほぐして形を整える。メロンくらいの大きさで、両手で持った時のフィット感がなかなかよい。
もみもみ、もふもふと、ぬいぐるみの手触りを堪能して、アルメは頬をゆるめた。
「ふふっ、第一号作にしては、なかなか可愛らしい仕上がり。今度はちゃんと布と綿を買いそろえて作ってみましょう」
両手でむにむにと揉んだ後、胸元にギュウと抱きしめてみた。祖母のブラウスの肌触りが懐かしい。やわらかで優しい感触――。
子供の頃、祖母に力一杯抱きつく度に、頬で感じていた感触だ。
つい昔を思い出してしまって、しばらくそのまま、懐かしさに浸ってしまった。
――けれど、少し時間が経つうちに。
今度は懐かしさを押しのけて、じわじわと恥ずかしさが込み上げてきたのだった。
自分が抱きしめているものは、元は祖母のブラウスだ。けれど、今は白鷹ちゃんである。そう思うと、なんだか妙な照れを感じる……。
(……いや、ぬいぐるみだし、別に変なことはないのだけれど……)
心の中で言い訳をしつつ、そっと白鷹ちゃんを胸元から離した。ぬいぐるみとばっちり目が合って、さらに居たたまれない気持ちになる……。
ぽやっとした表情の白鷹ちゃんぬいぐるみに、そのモチーフとなった神官の顔が重なってしまった。……即座に思考を振り払っておく。
アルメは席を立って、白鷹ちゃんを居間の棚の上に置いた。――が、少し考えて、またすぐ場所を移動させた。
「ファルクさんが遊びに来た時、見られたら恥ずかしいわね……」
居間に飾っておいたら、確実に彼の目に留まることになるだろう。
彼をモチーフにしたぬいぐるみを自作して、部屋に飾っている、というのはなんとなく恥ずかしい。
できればこのぬいぐるみは、見つからないようにしておきたい。
そう考えて、アルメは寝室へと向かった。ベッドの枕元に配置して、よしと頷く。ここなら見られることもないだろう。
飾った白鷹ちゃんに手を伸ばして、もう一度もふもふと揉みほぐす。すっかり手触りが癖になってしまった。
これは夜眠る前に、触り心地を堪能するのが日課になりそうだ。祖母のことを思い出して、心地よい気分で眠れそう。
……そう、自分は祖母との思い出に癒されているだけなのだ。断じて、神官白鷹をもふもふして和んでいるわけではない。
アルメは誰に聞かせるでもなく、そんな独り言をぶつぶつと繰り返した。