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101 花の砂糖漬け飾り

 自宅店舗の調理室に、エーナとコーデル、そしてタニアが集まった。


 店番は研修の従業員に任せて、今日はこれからこのメンバーで、アイスの盛り付けリニューアルを行う。


 華やかな表通りへの新店進出に合わせて、提供するアイスの見栄えをよくしよう、ということで、早速取り掛かることにした。


 一応二号店に向けた計画だが、余裕があったらこの路地奥店でも、華やか盛り付けを導入しようと思っている。


 アルメはエプロンを整えて、調理室のテーブルに目を向けた。


 平たいザルの上に色とりどりの食用花が並べられている。これはエーナが持ってきてくれたものだ。彼女は花を指さして名前を教えてくれた。


「この赤とオレンジの花びらがバラで、こっちの薄紫がスミレ。ピンクと青のバーベナに、白いペンタス、黄色と白紫のビオラ。赤紫のカーネーション。あとはハーブの葉と花を色々持ってきたわ」

「ありがとう! すごく綺麗ね!」


 色鮮やかな花々は見ているだけで楽しい。これをそのままアイスに飾ってもいいのだけれど、せっかくなのでひと手間加えていく。


 花をいくつかボウルに取り分けて、水で丁寧に洗う。軽く水気を取った後、大皿に並べた。


 その間にコーデルが冷蔵庫から卵を取り出し、パカリと割って卵黄と卵白を分けた。卵白を入れたカップと料理用の小さな刷毛(はけ)を用意する。


「それじゃあ『お花の砂糖漬け』作り、始めましょうか」


 アルメがパンと手を叩き、コーデルとエーナとタニアが明るい返事を返した。

 引っ張ってきた椅子に座って、みんなでテーブルを囲む。


 破らないよう慎重に花びらを摘まんで、刷毛で卵白を塗っていく。花全体に卵白を塗り終えたら、砂糖を広げた皿に放り込む。


 まんべんなく砂糖をまぶして、紙を敷いたザルの上に並べていく。これを乾燥させたら、花の砂糖漬けの完成だ。


 粒子の細かいキラキラとした砂糖をまとった花々は、宝石のようで美しい。花の砂糖漬けは見た目も味も楽しめるお菓子である。


 卵白を塗る作業がなかなか手間だが、砂糖漬け作りは他の従業員たちも動員してこなしていこうと思う。



 しばらくみんなで黙々と作業をして、ひとまず今回の分は完了した。


 このまま数日乾燥させたいところだが、今日は早々に使わせてもらうことにする。アイスへの飾り付け、スタートだ。


 アルメは試作用のミルクアイスを持ってきて、皿にまんまるく盛りつけた。その皿をコーデルの前にスッと移動させる。


「――さて、ここからが本番ですが……コーデルさんだったら、どういう風にお花を盛り付けます?」

「え、あたしが一番手?」

「すみません、私より手慣れてそうなので……」

「う、う~ん……こういうの、センスが問われるよねぇ」


 シンプルなアイスを前にして、コーデルはじりっと身構えた。


 少し考えた後、砂糖漬けの花をいくつか摘まみ上げる。指先でちょいちょいと飾り付けを始めた。

 丸いミルクアイスに、宝石のような花々が添えられていく。


 全体のバランスを見た後、コーデルはふぅと息をついた。


「こんな感じでどう? ちょっとお花を使い過ぎたかしら」

「す、素敵です……! さすがですね!」


 完成品を見てアルメは目を輝かせた。なんてことないミルクアイスが、華やかな高級デザートのような見た目になった。花冠を被った妖精みたいな仕上がりだ。


 タニアとエーナも感想と意見を言う。


「これは絵にした時に映えそうです。メニュー表にこのアイスのイラストを添えたら、すごく賑やかになりそう」

「お花は十個くらい使いました? 一つのアイスにこれだけ使うとしたら、一日で結構消費することになるから――……お花の仕入れ、それなりにかさむことになるわよ? 花屋としては嬉しいけど」


 アルメはふむ、と考える。エーナの言う通り、コストとの兼ね合いも考える必要がある。


「そうね、とても綺麗だけれど……お花の数をもうちょっとだけ、減らしましょうか。今よりは少しすっきりした見た目になってしまうけど、その分はアイスの器でカバーしましょう。近々、二号店用の食器類を見繕う予定だから、見栄えのいい器を探してみるわ」

「それじゃ、華やかな器を使うと想定して、お花を減らしちゃいましょ!」


 コーデルはひょいと花を取り除いて、アイスの飾りを調整した。取り除いた花は彼の口の中に消えていった。


「あ、美味しい~! エーナちゃんのところのお花、香りがしつこくなくていいわね。上品なお味」

「ふっふっふ、どういたしまして。でも花の香りって好きな人ばかりじゃないから、飾る前にお客さんに聞いた方がいいかもしれないわね」

「えぇ、そうさせてもらうわ。メニューにも注意書きを入れておきましょう」

「……変なクレームとかついたら嫌ですもんね……」


 みんなであれこれ意見を交わした後、アルメはもう一皿ミルクアイスを盛った。


 今度のミルクアイスにはレモンの皮で目とくちばしを付けて、白鷹ちゃん仕様にする。出来上がった白鷹ちゃんアイスの頭に、そっと花を飾ってみた。


「白鷹ちゃんアイスは二つくらいのお花でも、十分可愛く仕上がりますね」

「あら素敵! お花の妖精ヒヨコちゃん」

「これ、本人に見せたいわね! 彼、絶対喜びそうだわ!」

「……白鷹様、ご本人に……? 神殿に送りつけるとか、やめてくださいよ……? こんなふざけ方してたら怒られそうで怖いわ……」


 三人が笑う中、タニアが一人オロオロしていた。


 ……彼女にファルクの正体を伝えるタイミングを逃してしまっているけれど、ジワジワと察していってもらえたらと思う。

 そのうち慣れた頃、驚かせないようにネタばらしをしたいところだ。

 

 ひとしきり笑った後、アルメはひとまず形になった華やかな盛り付けを、もう一度確認する。


「それじゃあ、白鷹ちゃんアイスはこの盛り付けで、その他プレーンなアイスはコーデルさんの盛り付けで決定しましょうか。花を飾る位置だけはしっかりと再現してもらって、使うお花の種類は、盛り付け担当の従業員に任せる形でも大丈夫かしらね?」

「盛り付けには、なるべく同じ色の花を使わないこと。っていう指定をしておいた方がいいんじゃない? 色が偏ると地味に見えちゃうから」

「そうですね。盛り付けのマニュアルを作っておくことにします」


 コーデルと話し合った後、アルメはタニアに向き合う。


「タニアさん、メニュー表のイラスト作成は、こちらのアイスを元にお願いします」

「了解しました。今スケッチしちゃいますね。……ちょっとお時間をもらえますか」

「えぇ、もちろん。アイスは氷魔法で保持できますから、ごゆっくり」


 タニアは色木筆を取り出して、サラサラとアイスのスケッチを始めた。


 彼女の作業が済む間、ちょいと花の砂糖漬けをつまみ食いしてお喋りをする。


 エーナがタニアのスケッチを見て、何の気なしにペラっと喋った。


「ゆるキャラ白鷹ちゃん、雑貨にしたら結構売れそうよね。ぬいぐるみとか」

「ふふっ、確かに。ぬいぐるみ、いいわね。可愛い気がする。売るのはともかく、ちょっと作ってみようかな」

「あたし簡単な型紙だったら引けるわよ。そういうの得意~」


 そう言うと、コーデルはタニアから一枚紙をもらった。木筆を借りてざっくりと型の線を引いていく。


「こういう楕円形を何枚か縫い合わせると、綿を入れた時に球体になるから――……」


 説明しながら、コーデルは白鷹ちゃんぬいぐるみの型紙を作ってくれた。


 アルメは顔をほころばせて型紙を受け取った。


「ありがとうございます! 作ってみますね」


 最近はお菓子作りばかりしていたから、別の手作業はなんだか新鮮だ。夜の家時間のお供にさせてもらおう。


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