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第七章・ひずんだ紫






勝手に終わるなんて、私は認めませんよ?








「――――ッ!!」

真っ赤な鮮血が、ジェノンの首元から滴り落ちる。荒い息を押し殺すように首元を押さえ、堕天使の表情からは既に余裕の笑みが消え去っていた。

それを見てカインの表情は、狂喜に、歪む。

「ぎゃはははははっ!ははははっっ!!どうしたどうした?堕天使なんてのは所詮こんなモンかあ!?ぎゃははっ!ぎゃははははははっ!!」

真っ暗な地下水路に響き渡る、嘲笑。

そこに存在するのは、ただの黒猫でも悪魔でもない――――狂戦士。

「…、っぎゃあぎゃあと…っ、五月蝿い猫さんですねえ―――…!」

言ってはみたものの、ジェノンはカインに対して必要以上の距離を置き、警戒を深める。ジェノンの頬には鮮血と共に、冷や汗が伝う。

「っ、仕方ありませんね…♪こちらも本気を――――…っ!!?」

ばっ、とジェノンは振り向く。

闇紫の両目を見開いた視線の先には、終わりのない、深まっていくばかりの暗闇。

「―――――…?」

怪訝に、カインはジェノンを見る。

「…申し訳ありません…♪猫さんのお相手は、また後でして差し上げます♪」

「なッ…!?逃げんのかてめえっっ!!」

溶けるように闇に消えていくジェノンに、カインは罵声を浴びせる。 

そんなカインに振り向くと――――、嗤った。

「えぇ…もっと目障りなエインセルさんを、先に喰べてしまおうと思いまして♪」

完全に、ジェノンは姿を消した。

カインの目の前に残るのは、漆黒の翅のみ。

「………クソッ、」


深まる、闇。





不老不死。

老いることもなく―――死ぬこともない身体。

そんな呪いをその身に受けた綜威チェン・ウェイさんに僕は―――手を差し伸べて、しまっていた。

「綜威さん、僕は――――…!」

言おうとして、しかし僕のその台詞は遮られた。


ばさ、


僕の目の前に、闇紫色の堕天使が降り立つ。

舞い落ちる―――、黒い、翅。


「な〜〜にしてるんですかぁ?エインセルさん♪」

瞬間、僕は後ろに跳躍する。堕天使の彼は、未だ混乱していた綜威さんをなにかで眠らせると、背後の玉座に座らせた。静かに、彼は綜威さんの淡い青の髪に触れる。

お互い攻撃範囲外になったところで、僕は口を開いた。

「ジェアローズさん、でしたっけ。なんで―――どうして綜威さんと…!…契約、しているんでしょう。貴方たち。」

にやにやと、くつくつと、どこまでも果てしなく―――いやらしい笑み。彼は静かに、綜威さんの眠る玉座からゆっくりと進む。

かつん、かつん――――と静寂の中に、靴音だけが響き渡った。

「ええ――私のように堕天されたばかりの堕天使は、下界に顕現するために人間か魔女と契約する必要がありましたからねぇ…ま、綜威さんはそのどちらでもありませんでしたが…♪」

ぴた、と堕天使は足を止める。

靴音すら消え、まっさらな…静寂。

「とんだ物好きですねぇ、私も。彼女には自分の目的の為の協力者が必要だった。私にも下界に顕現するための契約者が必要だった。ただ利害が一致した。ただそれだけ、ただそれだけの理由だったはずなのですが――――。」

酷く困ったように、闇紫の瞳で笑う。

「さっさと喰べてしまうのもアリだったんですけど―――なーんか、喰べれなくなっちゃったんですよねぇ、私♪」

「何ですか?つまり綜威さんに惚れたわけですか」

「さあ?何せ私は人間ではありませんので、よくはわかりませんけど♪」

ですが――と堕天使は言った。


「貴方にだけは――――彼女を渡す気はありませんね」


漆黒の翼が、広がる。

周囲は既に魔力で満ち、僕も堕天使も、お互いから目を離さない。


「私の真名は、デジェナレーテ・フェルギン。ジェノンとお呼び下さい♪で、―――貴方の真名は?」


頭の中が、真っ白になる感覚。

自分が自分じゃ、なくなるような。

僕は僕の真名を、言おうとした。


「僕の、真名は―――――――「エインセルッッ!!」


どこからともなく、怒号。

ばさ、と荒々しく歪な片翼を生やした黒猫が舞い降りた。

悪魔―――カイン。


「カイン?どうして―――ここに」


はっ、と僕は息を飲む。

まずい。もう少しで僕の本当の名を言ってしまうところだった。

危ない危ない。


(「もう二度と―――その名を口にしないと誓える?」)


ああわかってる――――僕がこの名を口にする、その時は―――。


「ありがとう、助かったよ。カイン」

「ケッ、油断すっからだ。ガキが」

僕はしっかりと、ジェノンさんを見据える。

闇紫の瞳を―――見開く、彼。


僕は静かに、息を吸った。


<黄昏たそがれからの悪夢、深まりし闇と共に消え行く影よ、暁に染まる幻影はあがないの地に――――!!断罪、せよ>


紡ぎだされる、うた

凛と響き渡る僕の声は―――まさにそう、《あいつ》から…借り受けた力。

…………………………

……………………………………。








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