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第四章・闇紫色







もう既に、世界が欺きの上にあると言うのなら








燃え上がる、真っ赤な炎。

どこかで見たことのある光景だな―――と、僕はぼんやり考える。しかし、僕は何も考えてなどいなかった。そう、いつだって―――僕は流されるまま、誰かの運命に巻き込まれるだけ。


ずっとそうだった。


「ごめん、…っ、ごめんねリゼル」


ああ―――あいつの、声が聞こえる。

あの時と同じ、誰かの返り血を浴びた君。その血はバルドウェイン博士のモノ?それともジョーカー?フォルンさん?それとも―――エレールさん?

僕の目の前の少女は、ただ涙を流す。

「ごめんねあたし―――仲間エレールを、傷つけちゃった。どうしよう今頃、死んじゃってるかも…」

「…泣くなよ」

子どものように嗚咽を漏らす少女を見て、僕は呟くように言った。

「…逃げるのか?ここから、僕を置いて」

「うん。あたしは行くよ。どうしても―――やらなきゃならないことがあるから」

「そっか」

静かに、僕は微笑む。それに安心したのか、少女も笑った。


でもその笑顔はあまりにも―――痛々しくて。


子どもながらに、僕はそう思ったんだ。


「あたしは外で戦うから――――だからリゼルは、ここでみんなを守って。お願いこれは…あたしからの、一生のお願いだから」



この後僕は、一体あいつになんて言ったんだっけ?




僕は静かに灰色の瞳を開けた。

何だか懐かしい夢を見たような気がしないでもないけど、僕は既にそんなこと覚えてはいなかった。

「…」

僕はだるい身体を起こし、窓から差し込む光を見つめる。

「おい、エインセル!」

まだ眠い目をこすりながら、僕は声がした隣を見る。

「…何やってんの?」

「…何やってんの?じゃ、ねーだろオイ!早くオレサマを救出しろ!」

カインはまだ夢の中のミヤビ君に抱きしめられたままだった。

へー、カインが救出なんていう高等な単語を扱えるなんて…

僕が真面目に感心していると、なんかカインがキレはじめた。

「おいてめえ!今なんか失礼なこと考えてやがったな!表へ出ろ!」

僕が唇に指を当て「しーっ」とカインを宥める。そしてミヤビ君の髪をそっと撫でた。ミヤビ君の頬には、静かに涙が伝っていた。

「別にいいんじゃない?ミヤビ君が起きるまでは」

言って、まだぎゃあぎゃあ騒いでるカインを放って僕は部屋を出た。


らしくない。

僕はあんな子どもを拾うような、イイヤツだったっけ?



『腕に自身のある魔術師ウィザードさんたちへ

どうぞアクラス国にお集まり下さい♪

魔をこの世界から消し去るため、共に戦いましょう♪

    王族付秘書官・ジェアローズ・ティファニー』


「胡散臭いチラシだな…」

てか「♪」いらなくね?と思ったのは僕なりのささやかな疑問である。

この羊皮紙を僕が手に入れた経緯を説明するには、約一時間前まで遡らなければならない。



「これよこれ。ふざけてると思わない?」

「これ…なんか術式が掛かってますね」

言って、フォルンさんは鬱陶しそうに僕に羊皮紙を押し付けた。

「そ。催眠魔法のたぐいだけど、人間の魔術師が扱うものじゃないわ。…だって、」

「人間にしか効果がないように作られてるから…ですか?」

「そうよ」

不機嫌そうに深紅の瞳を細めると、フォルンさんは言った。

「この羊皮紙を目にすれば、普通の人間は大体狂うわ。最初は悪魔の仕業かなーとは思ったけど、どうやらそういう気配でもないし…」

ちら、っとフォルンさんはミヤビ君とどったんばったん騒いでるカインを見た。が、すぐに視線を僕に移す。

「あの城に入ってみない限り、一体何が入り込んだのかわからないの」

「でも、なんで僕が…?貴女なら」

僕の言葉を遮るように、フォルンさんは言った。

「そうね…私なら、何もかも総て焼き尽くせるわ。でもね、それだけよ。私は探りとかは苦手なの」

にこ、と彼女は笑んだ。

僕はそんなフォルンさんに、息を飲む。


「私は、始末番だからね」




アクラス国城内・とある一室にて。


「…」

無言で、少女は窓の外を見つめる。

チャイナ服をまとった、淡い青色の髪。無表情に髪色と同じ青い瞳を細めると、少女は窓の外を見続ける。

中途半端な、魔女の気配…?

この感じ、どこかで…

「お早う御座います綜威チェン・ウェイさん♪」

「ジェ、ジェノンさん!?なんでここに…てか気配を消して現れないで下さいっ!!」

あたふたとしながら顔を真っ赤にして怒り出す綜威チェン・ウェイに、ジェノンはにこ―っと笑む。そして何かに気付いたかのように、窓の外へと視線を移した。す、と狐目から闇紫色の瞳をのぞかせる。

「……んぅ…?」

「ジェノンさん…?」

綜威も再び窓の外を見る。すると今まさに、城門をくぐろうろしているエインセルがいた。

「ん・ん・ん〜っ?………男性の魔女さんですか…♪」

「……」

忌々しそうに、綜威は目を逸らす。少女の青い瞳が、不機嫌そうに揺れた。

「どうやら魔力制御のプロテクトを掛けているようですけど…モロにばればれですね〜♪」

言って、綜威の様子に気付いたジェノンは闇紫の瞳を細め、綜威を見る。

「どうかされたんですかぁ?確かに今宵この城を出てくつもりでしたけど、魔女の彼を殺してからでも遅くはないでしょう?」

「そう、ですけど…」

一瞬口篭って、綜威。

「この国の魔術師たちと違って、魔女はそう簡単には殺されてくれないかもしれませんよ、」

「心配ありません…♪今、貴女は御自分のしゅを解くことだけ考えていればいいんですよ♪その他のことは、総てこの私にお任せ下さい…」

「……」

無言で、綜威は部屋を出て行こうとする。

ジェノンは妖しい笑みを浮かべると、静かに闇紫の瞳を開く。


綜威チェン・ウェイさん♪」


普段と変わらない、高い声。しかしこの瞬間だけは、それは人のモノではない、くらく、低い声のように聞こえた。

「何ですか?ジェノンさん…」

くつくつと、堕天使はわらう。

綜威は振り向かない。


「もしものお話なのですが…もし、貴女が続き続けることに、いつ終わるとも知れない永遠に終われない苦しみに耐えられなくなった時、その時は…


私が、殺して差し上げます。穢れなきその魂、貰い受けましょう♪」


いざないの、声。


「今は、お気持ちだけ受け取っておきますよ…堕天使さん」


言って、綜威はバタンと扉を閉め、部屋から出て行った。

閉められた扉を見つめ、ジェノンは困ったような笑みを浮かべる。

堕天使から、アクラス国の王族付秘書官・ジェアローズに戻ると「んーっ♪」と思い切り背筋を伸ばした。


「仕方ありません…あのお若い魔女さんのお相手でもしに行きますか♪」









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