元アラサーニートの俺は貴族学園で転生チーレム無双するはずだったが、なんか途中で話が変わったようです
連載が詰まってしまったので息抜きに書きましたが、
思いの外主人公がキモくなってしまったので15Rにしました。
軽い気持ちでお読みください……!
俺の名はアザゼル・ライトホーン。
古から伝わる暗黒精霊竜を打ち倒し、竜殺の称号を得たS級冒険者だ。
このシェムハザ大陸において最高級のギルド『七枚の翼』から全幅の信頼を寄せられ、王族諸侯からの支持もアツい。
そんな俺に、とうとう念願の依頼が来た。
それは――貴族御用達のガーフ聖学園に、臨時講師として1年ほど就任してほしいというものだった。
俺はその依頼をギルドマスターから伝えられた時、心の底から沸き上がる歓喜の声を理性と根性で押さえ付けた。
これでも巷では「無口でクールな孤高の剣士」で通っているからな、今本性を出せば話が飛んでしまう。
依頼書を宝物のように胸に抱えて、自宅に戻ってから防音魔法を施し、俺は全てをさらけ出した。
…………うっひょおおおおおおおおおおおおおおおお!!
女子高生!!女子高生!!女子高生!!女子高生!!
ハイ!!女子高生ったら女子高生!!ハイ!!
JK!!JK!!JK!!JK!!ハイ!!
ナマの制服女子高生――――――ッッ!!ハハイ!!
……ハァハァ、すまん。ちょっと迸ってしまった。
何を隠そう俺は、流行りの異世界転生者だ。
転生前は、これまた流行りのアラサーニートだった。
……ん?ニートは『十五歳から三十四歳までの、家事・通学・就業をせず、職業訓練も受けていない者』のことであり、36歳だった俺はその定義を満たさない、だと?
細けーことはいいんだよぉ!!
あと、俺の中では35歳~37歳までは『アラサーミドル』という認識なのだ!
アラフォーにカウントされるのは38歳からだな!
……は?そんなの聞いたことないって?
そりゃそうだろ、俺の中で大裁決されてるだけだもぉん!!俺がアラサーって言ったらアラサーなんだもぉん!!
………すまん、話を続けよう。
俺は流行りの異世界転生で俺TUEEチートを得て、「フッ……また俺は何かしてしまったようだな……」をダンジョンやギルドでカマしてきた。
しかし、ちょっとカッコつけすぎてしまって、冒険者パーティーで浮いてしまい、『あの人は簡単に女性に靡かない、硬派な殿方なのね』と、女性冒険者から遠巻きにされてしまったのだ。
誤解だよぉ!ほんとは靡きまくりだよぉ!
そこの布面積の少ない魔法使いのお姉さんとか、ミニスカポニテのエルフ弓使い少女とか、もうドストライク過ぎて目も合わせられなかっただけだよぉ!
彼女いない歴=年齢のアラサー紳士だった俺には、冒険者の女性陣のキワドい衣装に、耐性がなさすぎた。
まあ、おかげさまというか何というか、それで貴族女子の多い魔法学園の講師をすることが決まったわけだ。
しかし、学園だ。通うのは14歳から17歳までの、貴族の子女だ。
このくらいの年齢のオスガキなら、前世での社会経験ゼロの俺でも、楽にマウントが取れる。
なぜなら今の俺はチートスキル持ちの転生者。
四の五のぬかすヤツは拳で黙らせられるぜ!
女子については。
……うむ。ぐふふ。
この学園はブレザー系の制服着用が規則で定められている。14歳から17歳の美少女たちがブレザーで……。
アラヤダ、14歳ってことは女子中学生も含まれるんじゃないの?JC?JC参戦って理解でいいのかこれは?!
……っかー、たまんねえなああオイィイィ!!
こんな感じで、転生前も転生後も、女子は見てるだけだった俺の人生に、初めて合法的?に生身の女子と触れ合える機会が到来したのだった。
転生して良かったなあ、神様ありがとう……!
‡‡‡
「こちらがアザゼル様が担当するクラスの名簿です」
俺は学園の事務室で、事務員のお姉さんからいただいた魔術式が付与されている名簿をパラパラとめくった。
開くと、そのページに載っている生徒のプロフィールと顔写真が、立体的に浮かぶ仕組みだ。スマホのアプリでこんなんあったな。
「ふむ、なるほどな」
俺はいかにも何か考えてますといった風情で名簿を閉じた。
「おわかりいただけたようですね。このクラスは、総じて魔力が高く、成績も優秀ですが、実務経験に乏しいのです。高位貴族出身者が多いこともあり、アザゼル様のような歴戦の勇者でないと、彼らも簡単に指導を受けますまい」
向かいのソファーに座った長い白髭の学園長が、やれやれと息を吐いた。
「だいたいわかった。後は任せてもらおう」
そう言いながら立ち上がる俺に、学園長は深く頭を下げ、「くれぐれも頼みます」とかなんとか言っていた気がする。
しかし、俺はそれどころじゃなかった。
ヤ、ヤダァ~~~、このクラス、美少女揃いじゃないのよぉ~~~!!
というわけで、俺が目を付けた女子生徒、トップ4を下から紹介します!
もちろんこれらの娘は、俺の正室・側室候補です!
え?当然じゃないスかああ!
このシチュで、そこそこイケメンのチートスキル持ちの俺が美少女の園(野郎も少しいるが)に投入されたら、必然的にそうなるでしょ!?これ異世界転生のジョーシキですよ!!テストに出ますからね?!
まず、JC枠!14歳のツインテール美少女!
ラファエラ・アイゼンバーグ嬢です!
金髪おでこちゃんで薄緑の丸い目がキュート!
シュッキュッシュッの控えめボディーは将来期待株!
健康そうな膝小僧が可愛い!
つぎ!16歳の黒髪金目美少女!
ユリエラ・ビズフォート嬢!
16歳でその色気はなんなんだけしからん!
さらっさらの黒髪のさわり心地が良さそう!
この娘は、癒し枠に決定!膝枕要員だ!
つぎ!15歳の銀髪青目美少女!
ジブリル・シーガイア嬢!
クール枠!クール枠ですわあ!
その冷たい眼差しで、オジサンのハートはノックアウト!
クーデレ大好物なので、ぜひデレてほしい(もちろん俺だけに)!
そしてっ、栄えある第一位!正室決定!
ミカエラ・ディライト嬢ぉ~~17歳!
すごいね、この国だと17歳は適齢期なんですってよ奥さん!
ボンッキュッボンのナイスバディ!
真っ赤な髪に赤銅色の瞳!
髪の毛が赤い娘はツンデレだ、そうに違いない!
強気な視線が辛抱たまらん!
えーと、もうこの娘については、講師終了後、ソッコーで教会に連れて行こうと思います。
はい、一目惚れって奴です。
むしろ適齢期まで待たせてしまって、すまなかったと謝りたい。
だって俺の嫁は、3年前からずっとここにいたんだもの。
俺がこっちの世界に来てから2年ちょっと経つ。
転生してすぐ迎えに来てやれば良かった。
ごめんね、これからはずっと一緒だよ、ミア……(←ミカエラの愛称)。
もちろん2位以降の彼女たちも、逃すつもりはない。
みんなまとめて俺が可愛いがってあげますので、安心してくれたまえ!ハッハッハッ!
この国では正妻の他に4人の妻が認められているのだ!問題はナシ!
え?5人目はどうしたのかって?
そりゃあ、俺もオトコノコだもの、これからの出会いで、目移りしちゃうこともあるデショ……?
その時、まだ枠が空いていれば、揉めずに済むと思いまセンカ……?|д゜)チラッ
とりあえず、この学園での予定はこんなもんかなあ。
まあ実際に会ってみたら、トップ4が入れ替わる可能性も、なきにしもあらずですが、俺の好みドストライク三振アウトのミアだけは、けして譲らないし譲れないッ。
まずは最初の授業から、俺の凄さを見せつけて女子をキャーキャー言わせてこようと思います!
アラサーニートの逆転人生、俺の本当のライフは、ここからが本番だ!
気合い入れて行くぞ!オー!!
‡‡‡
…………などと考えていた日が、俺にもありました。
「えっ?結婚?そりゃしますよ、もちろん。学園卒業した翌月に、王太子ルキフェル様と式を上げます」
俺のミア……もとい、ミカエラ嬢が、たわいのないことのように言い放った。
俺はひたすら焦ってしまい、「まだ学生の身分で、そんな重要なことを決めてしまっていいのか」だの「これから色んな出会いがあるのに、早計すぎやしないか」だの、なんとか思い止まらせようと必死になった。
「あはは、そう言えば先生って平民でしたね!貴族の結婚っていうのは、自由意思で決まるものじゃないんですよ!私と王太子殿下は、生まれた時からお互いが婚約者と定められていたんです。平民の方からすれば奇異に見えるかもしれませんが、貴族には当たり前の事なんですよ」
しかし、本人からはあっけらかんと明るく返される。
冗談じゃない、俺の理想の嫁を、どこの馬の骨ともわからん奴にくれてたまるか!と奮起すればするほど、ミカエラ嬢は苦笑いになっていった。
「いいですか、ここに、柵に囲まれたガチョウがいます。ガチョウがかわいそうだと、柵から逃がしてあげるのは簡単です。でも、毎日エサをあげていたおかみさんの気持ちがわかりますか?エサ代も世話代も、収穫祭のメインディッシュも、誰が補償するのでしょう?柵から出されたガチョウは、あえなく狼に食べられてしまったというのに」
しまいには、子供に言い聞かせるように話し出した。
俺は説得を諦め、すごすごと引き下がるしかなかった。
……クソッ、どうしてこうなった!
確かにミカエラ嬢は公爵令嬢という高貴な身分だったが、俺の嫁になるので関係ないと思っていた。
王太子め……!
はっ、いや、待てよ?これは今流行りの、王太子に他に恋人ができて、婚約破棄からの国外追放パターンなのかもしれない。
だとすれば、俺は今年度の卒業パーティーまで待てばいいだけだ。
ハッハッハッ、なーんだビビった。
異世界チート転生者の俺が、惚れた女と結ばれないわけがなかったんだよ。
というわけで、ミカエラ嬢もといミアは、卒業までお預けである。
むしろ良かったのかもしれない、これを機に、側室候補とも親密度を上げて行かねば!
気を取り直して、まずは、元気いっぱいラファエラ嬢(14歳)!
想定していた通り、食いしん坊キャラだった。
なので、俺のチートスキルのうちのひとつ、LV55カレーライスを食わせてスパイスの虜にしてやろうとしたところ、
「わたし、カレーは甘口じゃないと食べられない……それにそのカレー、変な匂いがするぅ」
と、涙目で逃げられてしまった。
くっ、お子様舌には本格スパイスの味わい深い、豚キムチ入りキーマカレーはダメだったか……!
ちなみに、せっかく作ったので他の生徒に振る舞おうとしても、「おじいさまのシャツの匂いがする」「具材が俺の知ってるカレーと違う」「そもそも富裕層はカレーを食べなれてないので、いきなり変化球は無理」と断られてしまった。
もったいないので、しかたなく下働きのオッサンたちに鍋ごと下げ渡した。
(そちらではなかなか好評をいただけたようでした)
しかし、あれから俺を見るだけでラファエラ嬢が逃げてしまうようになったので、攻略中止。失敗だ……。
……くそう、次だ次!
ナンバー3、我が癒しのユリエラ嬢!
サラサラ黒髪に優しげな垂れ目の、太ももむっちりオトナ雰囲気女子!
さーてこのオンナはどうしてやろうかなあと思っていたら、なんと!
異世界転生名物・ラッキースケベが発動しました!
具体的に言うなら、他の教師から頼まれた授業の資料で両手が埋まっていたところ、学園の廊下の曲がり角で俺とぶつかり……というヤツ。
いや、俺くらいになればふつうに避けられますよ?
しかしここは、据え膳喰わぬはなんとやら。
むしろこれは俺との出会いという、令嬢にとっても大切なイベントなのですから、あえて抱き止めねば……!
スカッ。
……あれ?
今、確かにぶつかったはずのユリエラ嬢がいない?
キョロキョロと辺りを見渡したら、彼女は空中にいた。
な、何を言ってるかわからねーとおもうがry
「ふぅ、危ないところでしたわあ。アザゼル先生、どこもぶつかりませんでしたあ?」
ほんわかぱっぱと聞いてくるユリエラ嬢は、声も魅惑のウィスパーボイスで、俺のハートはズキュンと鳴った。
彼女は天性の衝突回避スキル持ちで、先ほどのように誰かとぶつかりそうになっても、自動で避けられるようになっているそうだ。
なるほどわからん。
そ、それではラッキースケベが起きようがないじゃないか……!
その後も、なんとかユリエラ嬢のサラサラの髪の毛やむちむちの太ももに触りたい俺は頑張ってみたが、ことごとくスキルで遮られた。
なんでだ!俺は未来の夫だぞ?!
彼女も嫌がってる素振りはないし、これはもう夫婦のじゃれ合いに等しいはずなのに、なぜスキルは俺を拒むのか?!
……結局、全然触れなくて、俺の苛立ちがMAX値になったため、攻略を中断することにした。
まあユリエラ嬢はほとんど嫁確定なので、とりあえず次に進む。
だっていつも俺に「大丈夫ですかぁ~?」て聞いてくるもんね、もはや付き合っているも同然だろ?
そしてナンバーツー!ジブリル嬢!
ゆるふわ銀髪に、全てを凍らせるかのような青い瞳!
見かけからして高貴な感じだが、彼女は王族の血を引いていると聞いた。
くぅぅ~~、正真正銘のお姫様が、俺の嫁に……!
ああっ、思わずヨダレを拭ってしまう。
彼女については、最初の授業の時から、俺たちは惹かれあっていた。
俺が他の生徒に嘗められないよう、はなっから『竜殺』のスキル全開でデモンストレーションしてみせると、他の生徒がポカンと口を開けて見ている中、彼女だけが前に出て来て、言った。
「恐れながらアザゼル先生、攻撃範囲内に竜がいない状態で『竜殺』を使われましても、実務経験のないわたくしたちには、奇妙な構えをされてるなぁ~くらいしかわかりませんわ。そちらはぜひ、竜狩りの時に思う存分発揮なさってください。わたくしたちがあなた様から学びたいのは、全てを薙ぎ払う大技ではなく、確実に命を繋ぐ小技なのです」
……うん、なんかツラツラとキレイな声で言ってたけど、要するに「俺の『竜殺』カッコいい、抱いて!」てことだな?!
わかるよわかる、我ながらこの突撃のポーズはカッコいいものな、アッチャーいけねえ、高貴な姫君のハートまで射抜いてしまうとは……!
俺はその後「フッ、美しい姫君に免じて、今日はここまでにしといてやろう」とカッコよくキメながら、鍛練場を出ようとした。
……したんだが、そのあと周りを生徒たちに取り囲まれてしまった。
あーやりすぎた、俺のスキルにみんな魅了されてしまったか……と内心で嘆いていると、
「先生!早速ですが、この器具の使い方を教えてください!」
と、男子生徒のひとりがとあるものを差し出してきた。
缶切りと缶詰め。
なんだこんなもん、そういやこの世界の缶て、プルトップじゃないんだよなとキコキコ開けてやると、周りからどよめきが起きた。
「せ、先生、僕にも教えてください!」
勢いよく男子生徒Bが手を上げた。
見れば、大量の缶切りと缶詰めがあったので、ひとりひとつずつ渡し、開け方を教えることにする。
「そうだ、そうそう、缶のはしっこにこっちの突起を引っ掛けてだな、よし!そこでグッ!と力を入れるんだ!穴空いたな?そこからは缶の外周に沿ってキコキコと引っ張って……あ、缶の切れた断面に気をつけろよ、手を切るから」
最初はおっかなびっくりだった奴らも、2個目に手を付ける頃にはだいぶこなれてきた。
「缶切りがなくてもスプーンで開けられるからな。ナイフで開けるのは金属片が中身に入ることがあるから、オススメしないぞ」
「ありがとうございます、先生!次は、この瓶の開け方をお願いします!」
そう言って、違う生徒が王冠栓のビンを差し出した。
ビール瓶とか、ああいうタイプだな。
お、ラムネのビンもあるわ。
「いや、これはさっきの缶切りの逆の方、こっちを引っかけてキュッてやれば簡単に開くよ、ほら。ラムネはこのビー玉を上からギュッて押せばだな」
俺が両方開けると、また歓声が沸いて、俺もやりたい!という生徒たちがシュポシュポ開け始めた。
「せ、先生ぇ、この缶詰めは四角いですわ、しかも中身がちゃぷちゃぷいってますわ」
女生徒の一人がオレンジジュースの1リットルくらいの缶を持ってきた。
「これはジュースだよ。さっきの缶切りで、対向線上に穴を2ヶ所開けろ」
「に、2ヶ所ですの?なぜ?」
「空気が入るから。1ヶ所だけだとこうなる」
女生徒から缶を受け取り、1ヶ所だけ穴を開けてコップに注ごうとすると、ドッパドッパ跳ねてジュースがあちこちに飛び散る。
「で、こっち側に穴を開けて上から注ぐと」
「せっ、先生、スゴいですわ!今度は跳ねませんわ!」
……そんな感じで、当初の予定とはちょっと違ったが、クラスの全員が俺に一目置くようになったわけだ。
ジブリル嬢の目も俺に釘付けだったな……フッ、そんなに見つめるな、キミのアツい視線で、俺のハートに穴が開いちまうぜ?
「あっ、アザゼル様、このコーンツナ缶にマヨネーズ入れて炎の魔法で直火焼きしたやつ、絶品ですわ!ラムネと合いますわ!これなら遠征の寒い夜でもアツアツが食べられますわあ!」
気がついたら、全員で缶詰めをモグモグ食べていた。
ラムネとオレンジジュースとアルコール度数の低い微発泡酒で乾杯して、ちょっとした歓迎会みたいになった。
‡‡‡
「……このクラスはほぼ全員高位貴族だとお伝えしましたが、そうなると側仕えの侍女や侍従も中位貴族になりましてなあ……こういった、市井の品々の扱い方をひとっつも知らないで遠征に出てしまうパターンもありまして……最悪、荷物に缶詰めと缶切りがあるのに、魔法で開けようとして全部木っ端微塵にして全滅しかけたりとか、笑えない話がありましてな……」
学園長は目をショボショボさせながら話した。
もちろん、学園長や他の教員も高位貴族。
「平民の講師を入れるという話は?」
俺が聞くと、学園長は首を横に振った。
「『家のジョセフちゃんは、王家に連なる血筋のケミストリ侯爵の嫡男でしてよっ!乳母だって伯爵家の人間を選びましたわっ!講師といえど、薄汚い下民を近付けさせるなんてとんでもありません!わたくし、国王陛下に訴えさせていただきます!』とか言われる親御さんが続出しまして、今の今まで話が出るたびポシャってました」
お……おおー、モンペって奴か……。
「今回は、アザゼル様が100年ぶりに暗黒精霊竜を倒した『竜殺』のスキル持ちということで、貴重な特殊スキルを学ぶチャンス!平民ですが、S級冒険者と言えば、一国の王ですらないがしろにできない歴戦の勇者ですぞ!レアですぞ!激レアですぞ!とゴリ押しして、なんとかなりました」
……学園長の疲れが深そうだった。
箱入りボンボン&お嬢ちゃんの集団を抱え、モンペの監視を受けつつ、いざ戦争になったら幹部候補生として戦場に送り込まなければいけない。
それで何かあったら、学園が悪い、と……。
いや、無理ゲでしょう。俺ならぶん投げる。
「頼みます、アザゼル様。『竜殺』なんぞ高等スキルはどうでもいいのです。戦場で生き残る術を教えてやってください。それも、初歩中の初歩を。このままだとあの生徒たちは、魔物もビックリの初心者的な失敗でポコ死にするか、軍隊の過半数を占める平民の兵士にナメられて、見殺しにされます」
学園長と言っても高位貴族、高等な戦術理論は教えられても、サバイバルな実戦知識は無理だった。
俺は厄介なことを引き受けてしまったのでは?と、今さらになってちょっと後悔した。
これは、俺の嫁たちを回収したら、とっととトンズラせねばならぬ。
うむ!頑張ろう!
‡‡‡
「だぁからあ!焚き付けに松ぼっくり入れんなっつの!弾けるんだよ!上等なマントを燃やす気かお前は!」
「焚き火は!先に!起こす!いいか?繰り返すぞ!焚き火は!先に!起こす!食材は後でもいい!女子ィ!お前らはまず皮向きからなのかよ、これだからお貴族様はダメなんだよお!」
「お前はカラビナをその向きに立ててどーしようってんだ、どこにロープ張る気なんだ?!」
「風向きを!考えて!立てろっつったろ!風下にモンスターの群生がいたらどうする?!風に逆らって立てる時に、その素材だとどうなるか教えたよなあ俺?!」
…………赴任してから1年間、俺は頑張った。
学内じゃらちがあかないので、2週間に1回は生徒を連れてフィールドワークに出た。
……最初のうちは、話を聞き付けた親御さんが勝手についてきて、『うちのダグラスちゃんに使用人の真似をさせるなんて!』だの『マリオットには一流シェフの料理しか食べさせませんわ!』だの、シェフや使用人を大量に送り込んできて大変だった。
あの人たちは何がしたいんだ。
だったらもっと軍事色の少ない学園に通わせろ。
「先生、すいません、うちの母が……」
しょんぼりとした男子生徒が謝ってきた。
お前は悪くない、気にすんな。
ていうかお前ら、せっかくいいとこのボンボンなんだから、もっとヒャッハーしろよ……。
『ハッ!平民の分際で偉そうにしやがって!俺は侯爵令息なんだぞ!身の程をわきまえろ!』とか言って、絡んできてくださいよ……。
女子もね?
『クスクス、『竜殺』だかなんだか知りませんが、所詮は平民。わたくしたちのような尊き貴族の子女の魔力に、敵うはずがないでしょう?』とかなんとか、嘲笑ったり見下したりしてくれていいんですよ……?
イキリ貴族ざまぁしたかったのに、なんかここにいる奴ら男女問わずみんな常識人で、先生は大変つまんないんです……チッ。
まあ、そのぶんモンペが強烈でしたが……(泣)。
結局フィールドワークは、箝口令を敷いたのち、学園の教室には生徒の姿のダミーゴーレムか幻影を設置してモンペの監視の目を眩まし、遮蔽魔法をかけて、日が暮れてから魔の森の入り口に集合してアタックするという方法を取った。
何の前触れもなく『今日は王女殿下主宰の音楽会でしてよ。わが家の息子も参加させます。授業?それは学園の方で何とかするべきでしょう?』とか突撃してきたバbrの方もいらっしゃいましたが、非常勤の元王族の教授(王族を引退したあとセカンドライフとして教職についた)に宥められて帰ったとか。あっぶねえ。
あと、悲しいことがありました。
何人かの女子生徒が、ある日突然『縁談が整いましたので本日をもって退学いたします』と辞めることがありました。
これは問答無用のもので、本人が学園に残りたくても、お家事情的に誰にもどうすることができないんだとか。
……そしてなんと、その中に……俺の愛しのナンバーフォー、ラファエラ・アイゼンバーグ嬢がいたのです……!!
アイエエ?ナンデ?俺の嫁ナンデ??!
彼女はまだ14歳じゃないか!!横暴だ!ロリコンだ!
未成年略取だ、警察仕事しろぉお!!
とか1人で騒いでいるうちに、学園の事務員から追加情報が寄せられた。
……え?相手も14歳?
隣国の王子様で、幼馴染みで5歳の時から婚約してる?
国王の譲位で継承権が上がって、面倒臭い連中にうちの娘を!てグイグイされる前に、とっとと結婚した?
…………ね、NTRれた?!!
俺の嫁をNTRれちまったぞぉぉ?!!
嘘だろ神様!?確かにカレーアプローチ失敗後は疎遠になりかけてたけど、魅惑の缶詰めレシピや川魚料理で、地道に好感度上げてる最中だったのに……?!
クッ、さすがにこの俺も14歳の人妻に手を出すわけにはいかぬ……ウッ、ちょっと字面がエロいなと思ってしまったことは、キミと俺の秘密にしといてくれ……!
しかたないので、彼女のことは諦めました。
くすん。
おとなしく次なるナンバーフォーを物色しつつ、ユリエラ嬢に接触しようとしたり、ジブリル嬢と魔力談義をしたり、俺のミア()と将来を語り合ったりしました。
これ以上俺の嫁を減らされてたまるものか!
俺は天下の異世界転生俺TUEE様なんだぞ!!
崇高なるチーレムのためには、決して屈したりはしないのだ!!
誰にも!俺を!止められない!!
フハハハハハハ!!
‡‡‡
…………などと考えていた日が、俺にもありました。(2回目)
「アザゼル先生、1年間ありがとうございました……!これで、夫が不在の時に、我が領土が敵や魔物に襲われましても、妻たるわたくしが先陣を切って戦うことができますわ……!!」
ジブリル嬢、人妻でした。
俺が赴任する前に既に式を上げており、旦那の領地が物騒でヤバそうだったので、実戦能力を培うために1年半だけ学園に通ってたんだってさ。
……登校する動機が不純過ぎるだろぉお、なんだよなんでみんな14かそこらで結婚してんの?!
学生の本分は勉強でしょお?!
なんで既婚者が登校してんだよぉ、夫のために頑張りました(はぁと)って、俺を弄んで何が楽しいんだよこのビッ◯!!ろくなもんじゃねえ!!
次だ次!!
よし、ユリエラ嬢!今日こそ、その太ももで癒してもらうからな!!
そう思って突き進んだ俺を、またも自動回避スキルで避ける俺の嫁。
すいません、そのスキルぶっ壊れてますよ、旦那様を避けちゃダメでしょう、子孫繁栄ナメてませんかと俺が脳内で教育的指導をしていると、
「アザゼル先生、1年間お疲れ様でしたぁ。先生はスゴい方だと思うんですけどぉ、ちょっと他人にぶつかりそうになりすぎですよぉ。わたくしだから避けられますが、これが高位貴族や王族相手ですと、わりと簡単に不敬罪で斬首とかあり得ますので、注意してくださいねぇ」
そう言って、メッ☆といたずらっ子を叱るように俺を窘めて、颯爽と去って行ってしまった。
は?どゆこと?
今、俺のこと他人って言った?
なんで?俺とキミは運命の赤い糸で結ばれた魂のパートナーでしょ……?
差し伸べた俺の手はむちむち太ももに触れることなく、虚しく空を掴むだけだった。
……どうしてこうなった……?
残るは俺のミアことミカエラ嬢だけだった。
そうだ、俺には最初からキミしかいなかったんだ!
ゴメンよミア、余所見なんかしたからバチが当たってしまったんだね……でも大丈夫!これからはキミだけを見つめるから、安心して!!
というわけで俺は、17歳の生徒たちの卒業式ならびに卒業パーティーに出席した。
さすが高位貴族、パーティーも豪華だが、出席している生徒たちもめちゃくちゃ気合いが入っている。
まるで竜を倒した時に王宮で開かれた凱旋パーティーのような華やかさだ。
俺はキョロキョロとあたりを見回す。
おっ、いましたいました、俺の運命の番たる美の女神、ミカエラ・ディライト嬢ぉ~~!!
赤い髪に映える緑のドレスでご登場だあ!
おおっ、普段は後ろ髪で隠されている真っ白なうなじ、豊かな胸元がバッチシ窺える、キワキワデザインのドレスですぞ!
けしからん!誠にけしからん!
ダメでしょ?!俺という者がありながら、そんなに肌を露出しちゃって……誘ってんのか?誘ってるんですね?!わっかりましたぁ、パーティー終わったら教会に直行だぁ!
俺は借り物のタキシードの内ポケットに入れた、婚姻届にそっと手をやった。
もちろん俺のぶんは記名済みである。
ああ、早く愛にまみれた輝ける新婚生活がしたい……!
……ん?何だあの金髪のイケスカナイ野郎は。
俺のミアの手を馴れ馴れしく取りやがって。
不愉快極まりない。ミアも困っているじゃないか!
ここは俺が夫として、あの不埒な野郎をぶっ飛ばしてだなあ……。
……え?あれが王太子?
ミアの今の婚約者?
……ほほーう、なるほど、これから始まるわけだな、いわゆる『婚約破棄』イベントが!
俺は余裕をもってふたりを見守った。
どうやら今日のパーティーは、王太子の挨拶をもってスタートするらしい。
なかなかエグい話だ、今この会場には卒業生のみならず、その親や関係者諸氏が集まっている。
こんなとこで婚約破棄なんか宣言したら、そりゃ婚約破棄はできるだろうけどさ、王太子も婚約者も、社交的に致命的なダメージを受けないか?
それでも『真実の愛』とやらが勝るのだろうか。
下々の者には、高貴な方のお考えはサッパリだぜ。
ミアを隣に立たせて、王太子のスピーチが始まった。
なんか栄えあるこの学園は~とか王国の未来は~とか長ったらしく語っていたが、もったいぶらずに早くしてほしい。
俺の婚姻届はスタンバイ済みだぜ。ささやかな結婚指輪も用意してある。
ヤツが婚約破棄を宣言したら、すかさず「ならば俺が彼女をいただこう」と名乗り出てだなあ、と脳内シミュレーションしていると、
「……よって、ここに宣言する。我、王太子ルキフェル・メギド・シンファイアは、これなるミカエラ・ディライト公爵令嬢を生涯の伴侶として迎え、来たる花月の中日に婚姻の儀を執り行う!」
ワッと会場が沸いた。
俺はポカーンとした。
は?え?婚約破棄は?
貴族籍剥奪の上、国外追放は?
俺の嫁になって幸せキングダムを築くという誓いは?
ふたりが並び立つ壇上に目をやると、王太子のヤツが大胆にも俺の嫁であるミアの肩に手を回して、笑顔で会釈していた。
おい、その汚い手をどけろ。
その女は俺のもんだぞ……!
俺が殺気を高めていると、こちらに気がついたらしきミアが、俺と目線を合わせた。
きょとんとした顔が、ふわっと笑顔になる。
ああ、やっぱり、キミは俺だけを見ていてくれたんだね!待ってろ、俺の最大の剣技をもって、そんなフニャけた金髪野郎はぶっ飛ばして……
「わたくし、ミカエラ・ディライトもここに宣言しますわ!このガーフ聖学園で学んだ全てを生かし、ルキフェル様の良きパートナーとして、王太子妃として、生涯、国民の皆様のために身を尽くします!」
……って、え??
俺はスキル発動の姿勢を保ったまま、目を剥くしかなかった。
ミアは弾けんばかりの笑顔を俺に向けている。
幸せそのもの、といった笑顔を。
そんな彼女と王太子を、貴族どもがワッと囲んだ。
王太子万歳!王太子妃万歳!
喝采から国家斉唱の流れになった。
こんな感じのシーンをどっかで見たことあるなと思ったら、逆シャアだ。
あいつ最後、野望破れて生死不明になるやんけ。
え?なに?俺はオールバックだったの?
ナナイもクェスもいないのに?
俺のお母さんになってくれるはずだった女性は……?
その後、俺は気がついたら自分の宿舎に帰っていた。
きらびやかな貴族たちに囲まれて、何回も乾杯を繰り返している俺の嫁……ミカエラ嬢の姿が目に浮かぶ。
何度か人垣を押し退けてミカエラ嬢の元に行きたかったが、周りの貴族どもに阻まれて、会場の端に押しやられた。
きっと彼女が「アザゼル様!私にはあなただけです!今すぐ教会に行きましょう結婚しましょう愛してます!」って会場から駆け出して来るはずだ!と信じて、外で待つことウン時間。
やがて会場の明かりは消えた。
空が白んできたので、俺はとぼとぼと宿舎に帰った。
……なあ、教えてくれ、俺たちはどこで間違ったんだ?
あんなに愛し合っていたのに、ふたりの愛は偽りだったのか?
将来は側室のみんなと共に、ささやかな佇まいの館に住んで、毎日ウハウハ生活しようって誓い合ったじゃないか……!
『そうですね、将来、先生の理想の生活ができるといいですね!私は横から応援させていただきますね!先生~、がんばえ~って!』
あんなにキラキラした笑顔でそう言ってくれたキミは、どこに行ってしまったんだよお!!
キミが側にいてくれないと、先生がんばえないよお!
俺はそのままベッドで泣き伏した。
卒業パーティーの翌日は休みで良かった。
‡‡‡
「いやぁ、アザゼル様、本当にありがとうございました!これで、今期の学生はポコ死にせず何とかやっていけることでしょう!」
学園長が感無量という風情で俺を激励してくれた。
任期は終わった。
俺は今日、学園を後にする。
本当は引き続き俺に講師を続けてほしかったようだが、フィールドワークの件がモンペの中でも有力者の奥方にバレて、俺が早々に学園を立ち去らなければ、裁判も辞さないと鼻息を荒くしているらしい。
アホやなあ。
将来的にはモンペが子供を殺すんだなあ。
「こちらが残りの報酬になります。色を付けさせていただきました。この度は、誠にお世話になりました……!」
白ヒゲのオッサンが俺に頭を下げまくる。
俺の側にはオッサンしかいない。
美少女のひとりもいない。
ひょっとしたら、クラスの女生徒が「先生……私、先生と一緒に行きたいんです……!」とか「もー、しょうがないなあ、この私が一緒に行ってあげるんだから、感謝してよね、センセー!」とか言いながら出て来るんじゃないかって、俺は学園を出てからもキョロキョロしながらゆっくり歩いた。
ひとりも来ませんでした。
………………は?
おかしくない?
この転生チートの俺TUEE様が、わざわざ講師として一年中も一緒にいてやったのに、なんであの娘たちは俺をスルーしてんの?リリースしてんの?大損害でしょ?!
ええええええええええええ、有り得ないでしょ常識で考えてさああああ!キミたちはアレだ、貴重な貴重な俺という最高級の旦那を逃したわけだよ!?
国家的損失ですよこれは?!
ちょっと猛省してほしいところだよマジで?!
バーヤバーヤ!!
後になって「やっぱりあなたが世界一の旦那様でした結婚して!」て言ってきても、今さら遅いからな!!
お前の席ねーからなあああああ!!
……こうして俺は学園のある王都を離れ、我が国最高のギルド『七つの翼』の本拠地に戻ったのだった。
「ママ~、あのお兄ちゃん泣いてるよ?」
「シッ!見ちゃいけません!」
途中、乗り合い馬車で一緒になった親子連れがなんか言ってた気がするが、俺の頬を濡らしているのは心の汗だ、いつかキミもわかる日が来るさ……と脳内で呟いた。
とりあえず、俺の次の目標はハッキリした。
ギルドの依頼にあった、
『国際条例で禁止されている奴隷売買をしている犯罪組織に潜入し、これを撲滅せよ』
これをやってやろうと思う。
奴隷には人間のほかにも、獣人、エルフ、コロポックルといった亜人種がいるらしい。
……よーし、話はわかった!!
奴隷解放からの『ご主人様、私にはあなたしかいないんです』異種族乱れ打ちハーレム形成フラグキターーー!!!!
俺は意気揚々と準備をした。
そうだ、異世界転生チートの俺が、ハーレムを作れないはずがなかったのだ!
ジャンルを間違っただけだったんだな!
だいたい、17歳なんかガキだよガキ、むちむちエルフのお姉様が俺の助けを待ってるんだ!
早く救ってあげなくては!
ようやく始まるぜ、俺の理想の転生チーレム無双物語が!!
フハハハハハハ!!
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偉大なるスキル『竜殺』を得た、100年に1人の逸材と言われた勇者、アザゼル・ライトホーン。
彼が理想のチーレム生活を送れるのは、いつの日か。
(※たぶん当分の間そんな日は来ない)
〈完〉
読んでいただいてありがとうございました!
サバイバル的なことは適当に書いてしまったので矛盾点あるかもしれません、ご寛恕のほどよろしくお願いしたく…!
コメディの方が良かったかもしれません……!