地上最大の決戦
思い付くエンターテインメント要素を目一杯詰め込みました。特撮マニアも」アニメ好きもニヤッとしていただけるかと。固有名詞はオリジナルより馴染み深い既存の名称を使っています。長編となりましたが一本の劇場映画を観る感覚でお楽しみください
メカ大蛇は太平洋側を東海地方沿岸に沿って進行している。あんじー達も酒呑童子のそうりゅう型潜水艦で追尾していた。船内艦橋では大蛇の対応について議論中であった。統領が口火を切る。
「不可解なのはあ奴の動向じゃ。何故東に向かう?何が目的じゃ?」
茨木童子が自身の考えを述べた。
「メカ大蛇は常にエネルギー源を求めて行動します。他の動物と同じ、と言っても差し支えないでしょう。あの巨大さなので常に腹ペコの肉食獣と考えてください。最も効率が良いのは周知の通り核エネルギー、そして無尽蔵なマグマからの地熱エネルギー」
あんじーが聞き返す。
「核エネルギーはわかる。じゃが、マグマ?確かに日本列島は火山の島じゃ。活火山もあるにはあるがヤツの腹を満たすとすれば桜島くらいか?なのに何故東へ?」
統領が思い当たる節を述べた。
「そう言えば浅間山も活火山であったな…しかし沿岸から長野までは遠い気もするが」
酒呑童子が思いもよらぬ予想を口にした。
「もっと身近にデカい火山があるじゃろう。海から近い…富士の山よ」
あんじーが反論する。
「富士山は噴火しておらぬぞ」
酒吞童子は馬鹿にした目であんじーを見た。
「忘れておらぬか?あの山は休火山よ。何時噴火してもおかしくない。加えてメカ大蛇のあの体躯と身体能力、穴を掘って噴火させる事など朝飯前。活火山として蘇った富士はエネルギーの供給源としては半永久的よ」
一同は絶句した。もし酒呑童子の予想が確かなら大惨事である。関東・東海は壊滅、いや更に本州全域にまで被害が及ぶかもしれない。
「大変なことになるぞ。いよいよもって緊急事態じゃ」
統領の言葉に対し大蛇が出現した時点で端からずっと緊急事態よ、と酒呑童子は心の中で思ったが敢えて口には出さなかった。
「兎も角、儂等全妖怪の力をもって大蛇の上陸を阻止せねば!」
あんじーの発言も空しく響くだけであった。
日本の海上自衛隊・米第七艦隊による連合軍は横須賀港を出航、東京湾から伊豆半島を周り太平洋上のメカ大蛇を目指していた。総指揮を執るのは名将アダム・ネルソン提督。旗艦ブルーリッジ、空母ロナルド・レーガンを擁し多数のミサイル巡洋艦と海上自衛隊の駆逐艦・ヘリ空母を従えている。先鋒としてFー35ステルス戦闘機とPー3Cが出撃、哨戒に当たっていた。メカ大蛇は殆ど航路を変える事無く一路駿河湾に向け直進している。
「提督、このままですと二時間後には怪生物Xと会敵します。」
レーダー係官の報告に質問するネルソン提督。
「正確な位置は特定できるか」
「サー!GPS衛星から精度1フィート以内で特定できます」
「Xのスケールからするとビンゴだな。ペンタゴンの連中に作戦許可を打診してくれ」
通信士が連絡を取る。
「提督、OKが出ました」
「ようし、いい子だ。軌道衛星上のマーキュリーⅠは定位置に着いたか。では、作戦開始!」
マーキュリーⅠとは米軍の極秘軍事衛星である。極秘、と言われながら長らくその存在がまことしやかに囁かれていた。無論、実在する。装備としてICBМ28基と高出力レーザーを擁している。特にレーザー砲は地上の軍事施設を破壊するのに十分な威力がある。有事の為、存在がバレるのを承知で使用しようというのである。操作はブルーリッジ艦橋に委ねられていた。
「Xにロックオン!照射‼」
ネルソン提督の指示にオペレーターが応える。マーキュリーⅠは方向を変え、射出口を地上に向けた。先端が徐々に光輝いていき強力なレーザーとなって放たれ、光陰は地上のメカ大蛇の胴に命中。周りが一瞬明るくなるほどの閃光が起こる。メカ大蛇は身を震わせ停止した。命中した箇所は黒煙を上げ燻ってはいるが、貫通までには至っていない。大きな点となって多少凹んではいるが特に支障は無さそうだ。マーキュリーⅠは次の射出の為電力を蓄積している。暫しの充填時間の後、臨界点に達した。
「続いて第二射!」
マーキュリーⅠは同状態のままレーザーを放った。再び閃光が起き、大蛇は完全に停止。ネルソン提督は手応えを感じていた。
「ようし、効いているようだな。続けるぞ!第三射!」
だが大蛇もただ受け身のままではいなかった。背中が背びれから開き、折りたたまれた蝙蝠の羽の様な金色の翼が出てきた。小さく折り畳まれた翼は変形するとやや不格好なビニール傘をひっくり返した状態になる。放たれたレーザーはパラボラ状の羽に反射され、やや角度を変えてそのままマーキュリーⅠに跳ね返った。直撃したレーザーは本体を貫き、マーキュリーⅠを爆破。空に大閃光を起こした。目の当たりにしたアメリカ海軍は驚愕。ネルソン提督は思わず大声で叫んだ。
「ガッデム!何だ今のは⁈」
戦艦鬼ヶ島の酒呑童子が呟いた。
「メカ大蛇の特殊兵器、反射衛星砲よ」
酒呑童子の言葉を茨木童子が補足する。
「元々はエネルギー収集を目的に開発したのですが相手の攻撃を直接跳ね返す事もできます。出力は何パーセントか落ちますがほぼ同等の威力でダメージを与える事ができるのです」
だがあんじーを恐怖させたのは別の点であった。
「そんな事よりあの翼は⁈ヤツは飛べるのか⁈」
茨木童子は申し訳なさそうに答えた。
「実は…飛べるのです。見た目のカッコよさであの形状にしたのですがどうせなら飛行能力もと。あの巨体と重量ゆえ長時間は継続できませんが浮遊する程度には」
「浮遊?どのくらいじゃ」
「そうですね、おそらく30分程度は」
「30分‼まさに脅威じゃ」
二人の会話に統領も一言告げた。
「とんでもない怪物を蘇らせてくれたな。八岐大蛇というよりは北欧の魔獣ヨルムンガンドよ」
メカ大蛇は翼を仕舞うことなく大きく広げ、連合艦隊に迫っていた。ネルソン提督は慌てて全艦隊に攻撃命令を下した。
「全軍怪物Xに総攻撃!」
大量の魚雷、ミサイル、砲弾が大蛇に放たれた。空母ロナルド・レーガンからはFー18スーパーホーネットが次々と飛び立っていく。Fー35と合流した編隊は大蛇を急襲する。命中した弾頭は業火を放ち、戦場さながらの惨状となったがメカ大蛇は物ともせず近づいてくる。
「いかん、原潜の二の舞じゃ!」
あんじーの悲痛の叫びに茨木童子が尋ねた。
「もう一度亜空間転移を使ってみてはどうです?多少なりとも時間稼ぎにはなりましょう」
あんじーは暗い顔で答えた。
「術式には膨大な妖力が必要なのじゃ。二度目には大した拘束力は残っておらん。仮にできたとしても持って十分の一、五分も掛けられんじゃろう」
茨木童子は落胆した。
「そうなのですか。とても彼等を逃がせる暇はないのですな」
沈んだ声で呟く茨木童子。その時不安顔のあんじーの心に呼びかける声があった。
「あんじー殿、我等に任せたもれ」
難陀竜王であった。八大龍王は八門遁甲術が解かれた後も大蛇を追いかけていたのだ。様子を察してテレパシーであんじーに連絡してきたのである。早速八大龍王は本来の龍の姿に変身し、大蛇を円陣に取り囲んだ。全長が50m前後もある龍王達だがメカ大蛇の前では花園を飛び回るハチドリくらいにしか見えない。だがさすが八大龍王の力は偉大である。定位置に着いた途端に空を暗雲が覆う。先ず徳釈迦竜王がその眼で大蛇を睨んだ。すると大蛇は身体が痙攣し動けなくなった。視毒という能力である。人であれば睨まれただけで即死する程だが巨大なメカ大蛇では一瞬動きを止める程度の効果しかない。続いて大柄な摩那斯竜王が身を震わせて大津波を起こす。大波は大蛇にぶつかりその躯体を横転させた。和修吉龍王、阿那婆達多龍王、優鉢羅竜王が大蛇の頭部に攻撃しようと果敢に挑むが回復した大蛇に首を振られ跳ね飛ばされた。すぐさま難陀竜王・跋難陀竜王の兄弟が落雷を起こし電撃を浴びせる。その隙に沙何羅龍王は娘の善女龍王と共に大蛇を中心に巨大な渦を起こした。海中深くに沈み込ませようというのである。大渦は徐々に大蛇を水面下に引きずり込んでいく。大蛇は藻搔きながら必死で金色の翼を激しく羽ばたかせる。すると身体が浮き上がり海面から離れた。さほど上昇は出来ず浮遊する程度であるが渦は回避している。大蛇は艦隊を襲うのを諦め逃げる様に陸地を目指した。が、その重量の為か意外に飛行速度は遅い。中型台風の進行(時速60km)程度である。八大龍王は尚も暴風雨や雷撃で攻撃するが大蛇もプラズマ火炎で応戦する。やがて力尽きたか大蛇は飛べなくなり海面に落ちた。飛行能力は想像以上にエネルギーを消耗する様でもう体力が残っていないのだ。しかしながら相模湾はもう目前である。
「すまぬ、あんじー殿。人に被害が及ぶので我等はこれまで。もう力も残っておらぬしな」
難陀竜王からテレパシー通信が入る。陸地に近過ぎる為八大龍王は攻められず撤退してしまった。動向を凝視していたそうりゅうの皆は焦った。
「いかん、富士市に上陸するぞ!すぐ浮上してくれ」
あんじーの呼びかけに総舵手が艦を浮上させた。あんじーと統領は各々ぬこ神と大烏を呼び寄せ一路メカ大蛇に向かう。大蛇のスピードが遅いためなんとか上陸前に間に合ったが、もう水際まで迫っている。あんじーは統領に目配せした。
「統領、頼む」
「うむ。ダイダラボッチ、あ奴を抑え込めるか?」
統領の声に呼応して海面からダイダラボッチが現れた。薄っすらとぼやけているようだがまだ30m程の大きさでしかない。しかし次の瞬間見る見る巨大化、あっという間にメカ大蛇と同等の大きさになった。巨大化に伴って体色も透けるように薄くなっていく。最早向こう側が見えるようである。ダイダラボッチは巨大になるのではなく水風船の様に身体を膨らませているだけなので基本その質量とパワーは巨大化前と同じなのだ。ダイダラボッチは両腕でがっちりメカ大蛇の胴を抱え込んだ。四肢を踏ん張り歩みを止めようとする。暫く押し戻しの攻防が続いた。大蛇は8本の首を使い噛みつこうとしたが海月のようなだいだらぼっちの皮膚は噛む感触は無く簡単に食い千切れるが綿菓子の様に消えていく。プラズマ火炎を放つも穴が空くだけで直ぐ塞がってしまう。一見優勢にも見えたがやがて力尽きただいだらぼっちは大蛇に押され徐々に後退していく。大蛇並みの躯体も段々と萎んで遂に跳ね飛ばされてしまった。
「やはりだいだらぼっちでは大蛇にはかなわんか」
事前に覚悟はしていたが落胆する統領。メカ大蛇は遂に東田子の浦沿岸まで到達していた。マスコミの報道陣は田子の浦港から生中継している。瀬戸内での一戦以来、常に各メディアは何とも理解しがたい光景を報道してきたのだがワイドショーやニュース番組では様々な憶測が飛び交っていた。八門遁甲陣の際の八大龍王は人の目には見えないがドームは視認できていたので国防装備庁の新兵器と解釈する者もいる。軍事衛星からのレーザー攻撃が米軍の仕業なのは軍事評論家あたりの恰好のネタである。が、だいだらぼっちに至っては新怪獣の出現、竜の姿となった八大龍王はそのまま神の使いと言った扱いである。間で妖怪達が活躍している事、いやその存在さえ知らないのだ。富士市と沼津市に跨る上陸予想地域は住民の避難と陸上自衛隊の応戦準備でごった返している。ロケ隊もその様を逐次撮影していた。富士山はすぐそこなのである。統領の焦る様を見てあんじーはパンダ・ポシェットの中から二枚の呪符を出した。
「前鬼、後鬼、頼んだぞ」
あんじーが呪文を唱える。するとボッと黒煙が起こり二匹の鬼が現れた。体長は20mはあろうか、筋骨隆々の赤鬼とアスリートの様な細マッチョの青鬼である。赤は男鬼、青は女鬼のようだ。
「なんと!まさか彼等が伝説の前鬼・後鬼か⁈」
統領は驚嘆した。あんじーは冷静に答える。
「左様。役小角殿が亡くなる前に儂に託したのじゃ。もしもの時に役立ててくれと言っておったが今まで使う機会が無かった。まさかこの様な場面で呼び出すことになろうとは」
統領が疑問を投げかけた。
「彼等は陰陽道で言う、所謂式神なのか?」
「統領、正確には式神とは違うのだ。地獄界から呼び寄せた召喚獣なのじゃ」
「成程、今は地獄の住人という訳か」
あんじーの答えにいとも簡単に納得する統領。彼もまた博識なのである。妖怪髄一の賢者なのだ。前鬼・後鬼は辺りを見回し、あんじーに尋ねた。
「久しぶりだな、あんじー。ところで我等はあの怪獣を絞めればよいのか?」
「急に呼び出して申し訳ない。その通りじゃ、大蛇のエネルギーはもう殆ど残っておらぬので倒せぬまでも燃料切れで動けなくなるまで引っ張り回しくれ」
「おう」
あんじーの依頼に前鬼は奮い立った。胸を叩いてドラミングし、大蛇を威嚇する。メカ大蛇は本能的に只者でないことを見抜き身構えた。
「金剛斧!」
前鬼は右手を天高く突き上げ、掌を広げた。すると金色の鋼鉄の斧が現れた。前鬼は己の半身程もある斧を握ると大きく振り回した。後鬼は背中に籠を、左手に水瓶を持っている。メカ大蛇は海岸まで来ていた。
「今!怪生物Xが本土に上陸しようとしています!沿岸では自衛隊の精鋭部隊がXを迎え撃つべく待ち構えています」
中継リポーターがマイクに向かって必死に叫んでいる。直後、前鬼達より先に自衛隊の砲撃が開始された。十式戦車の砲弾が礫の如く当たるがスイカの種をぶつける程度。ミサイルも爆竹程度の威力。戦闘機・ヘリ部隊の攻撃も蚊が刺すダメージも与えられない。第一次攻撃が止むのを待ち満を持して前鬼は脅威の跳躍力でメカ大蛇の腹部に取り付いた。斧を振りかざし、叩きつけるが反響音を起こすだけで跳ね返されてしまう。しかしその打撃力は凄まじく振動で腹は痙攣を起こした。
「思いのほか固いな。あんじー、何か方策はないか?」
前鬼の問いかけにあんじーは茨木童子・酒呑童子の方を真顔で見る。酒呑童子は不本意そうな顔で答えた。
「メカ大蛇の外装はオリハルコン合金でできているので地球上の武器では歯が立たん。が、接合部には使われておらんのだ」
すぐさまあんじーはこの事をテレパシーで伝心した。
「成程!前鬼、大蛇の関節は鎧ほど強固ではないそうだ」
「左様か。人間共の武器ならいざ知らずこの地獄の金剛斧にかかれば」
再度大蛇に挑みかかった前鬼は蛇腹の継ぎ目部分に斧を突き刺した。皮膚が裂け体液ともオイルともつかぬ液体が噴き出す。たまらずメカ大蛇は苦悶の咆哮を上げた。手応えを感じた前鬼は他の部位を攻める。流石に前鬼の針に刺される様な攻撃は効いたようでメカ大蛇は八本の首を総動員して前鬼に食い掛った。捕まらぬよう飛び回って逃げる前鬼。その隙に後鬼はメカ大蛇にへばり付いていた。前鬼の裂いた傷口に籠から何かの種子を取り出し振り撒く。すると患部から植物の芽が出てきた。植物は無数の根を触手の如く張り巡らせる。どんどん成長した植物はやがて大樹となって隙間を埋め尽くす。後鬼は前鬼の裂いた傷口に次々と種を蒔いて行った。やがてメカ大蛇の関節部が大森林となった。体液は植物に吸われ、吹き出す事はなくなったが代わりにメカ大蛇は動きがぎこちなくなっている。ギシギシと摩擦音をたて、さながらブリキのおもちゃの様である。
メカ大蛇は覚悟を決め今度は自身に纏わりつく森を火炎で焼き払い出した。苦悶に哭きながらも火を吐き続けるメカ大蛇。俄然張り切る前鬼·後鬼はコンビネーション攻撃を続ける。いたちごっこの攻防に前鬼は甚くご満悦。
「ふははは!こいつは痛快じゃ、効いておるぞ」
前鬼の影で滅多に喋らない後鬼も種を蒔きながら珍しく口を開いた。
「お前さん、調子に乗ってると痛いしっぺ返しを食らうよ」
後鬼の言う通りであった。二匹の攻撃に耐え切れなくなったメカ大蛇は残り少ないエネルギーで体表面を高温化、発火させたのである。業火に包まれるメカ大蛇。地獄で熱には慣れ親しんでいる前鬼・後鬼も灼熱にいたたまれず炎に包まれながら霧散した。
「むう…あと一歩のところで…彼等はやられたのか?」
統領の疑問にあんじーが答えるように呟いた。
「いや、地獄の住人に死は無い。地獄界に戻ったのじゃ。ただ無傷という訳ではないがな。すまんかったな前鬼・後鬼。助かったぞ、ゆっくり傷を癒してくれ」
メカ大蛇は炎に包まれたまま海岸から上陸、戦車群を蹴散らしながら愛鷹山の麓に辿り着くと八本の首を振り回しながら頭部を地表に突き立て穴を掘り出す。その勢いは凄まじく、周辺一帯の地面は地震の様に揺れ動く。大蛇はものの20分程で自らの開けた穴に入り込んでしまった。地響きは尚も続いている。掘り進んでいるのが目に見えて明らかであった。また大蛇の開けた山麓の洞穴へ轍を伝って濁流が流れ込む。沿岸地区は跡形もなく潰れてしまったがなんとか富士市街への被害は免れた。
「寸でのところで逃げられたか…マグマの中で跡を追える者は…おらぬじゃろうな」
あんじーは洞窟となった巨大な堀り跡を眺めながら呟いた。海岸に降り立ったあんじー・ぬこ神と頭領は沿岸のそうりゅうから上陸艇でやって来た茨木童子・酒呑童子・小豆洗い、名神から東名高速を乗り継いで到着した巳之助・鎌鼬、海上から泳ぎ着いた爽・箔兄弟と合流。作戦会議を開いた。
「皆揃ったな。ヤツは富士山の地中に逃げ込んだ。ガス欠寸前にまで追い込んだのじゃが次に現れる時にはマグマの地熱を吸収して復活していることじゃろう。そこで次の一手を考えねばならん。皆の意見を求めたい。何か良いアイデアは無いか?」
あんじーの呼び掛けに統領が今までの戦闘結果を分析する。
「人間の武器も我等の攻撃もメカ大蛇に対して全く無駄という訳では無い。大なり小なり効果はあり、中には良い処まで追い詰めた場面もあった。だがどうしても止めを刺す決定打には至らない。あ奴があまりに巨大過ぎて致命傷にはならないのじゃ」
話を聞いていた爽が妙案を思いついた。
「じゃああの蛇と同じくらいでっかい武器なら倒せるんじゃない?」
箔が続けて発言。
「そうそう、同じくらいでっかい槍とか斧とか剣とか」
鎌鼬が馬鹿にしたように反論する。
「お前達、何処にそんなデカい武器があるんだ?」
あんじーと茨木童子はハッとして目を合わせた。あんじーが答える。
「ある!しかも鬼ヶ島にじゃ」
鎌鼬はまさか?と言う顔で聞き返した。
「まさかあの叢雲とか呼んでた遺跡か?まあ仮に対抗できたとして、誰があの巨大な刀を扱うんだ?」
あんじーはふう、と溜息をついて沈黙してしまった。茨木童子が思いもよらぬ事を告げる。
「ありますよ。しかも同じ鬼ヶ島に」
酒呑童子が慌てて奇声を挙げた。
「ま、まさかあれの事ではないだろうな⁈あれは我等鬼族の最終手段じゃ!使わせぬぞ‼」
周りの連中は二人を見た。あんじーが問う。
「茨木殿、あれとは何のことか?」
喚く酒呑童子を無視して茨木童子は解説を始めた。
「実は鬼ヶ島基地の上部七割は移動要塞として分離する事ができます。また作業用ロボ削岩鬼のコンセプトをベースに巨大ロボにもなるよう設計されています。最悪の事態に我等が地球圏外に脱出する事ができるの為の最終兵器です」
あんじーは目を見張った。
「して、そのロボットはどの位の大きさなのじゃ?可動可能とはどの程度の?」
茨木童子はあんじーの迫りようにたじろぎながら答えた。
「そうですね、確か全高は一六〇〇mはあったかと。指令センターからの操縦だと若干ぎこちないのですが元々削岩鬼なので頭頂部にオペレーターが乗り込めばほぼ削岩鬼並みの機動力が発揮できます。削岩鬼のオペレーションは脳波コントロールなので搭乗員の動きと同じなのです」
酒呑童子を除く一同は歓喜の声を上げた。あんじーは皆に布告。
「早速作戦開始じゃ!儂と茨木殿・酒呑童子は鬼ヶ島に、えー、茨木殿、そのロボの名前は何と言うんじゃ?」
あんじーの質問に茨木童子が答える前に酒呑童子が口を挟んだ。
「万能戦艦・鬼ヶ島よ!大体脱出用として建造したんだ、削岩鬼はオマケみたいなものよ!」
困ったように茨木童子が説明する。
「確かに兄者の言う通り本島から離脱した際に移動要塞として使う目的で造ったのでロボットの名前までは考えてなかったです。艦名もそのまんまですし」
話を受けて統領が名案を思い付く。
「ならば伝説に乗っ取り須佐之男命と呼ぶのはどうじゃろう。又はスサノオ・ロボとでも」
あんじーは驚喜した。
「それは名案じゃ!ではこれより件の機体をスサノオ・ロボと呼称する。他の者は我等が戻る間大蛇の動きを食い止めてくれ。いざ、アヤカシ探偵社出動‼」
「おお‼」
一同はあんじーの号令に呼応。統領はその様を微笑ましく眺めていた。あんじーはぬこ神に跨り辻神を従え鬼ヶ島に向かう。統領は富士防衛の陣頭指揮にあたり、茨木童子・酒呑童子は大烏の吊るしたゴンドラに乗り込みあんじーに続く。目指すは鬼ヶ島基地のスサノオ・ロボ!
大気圏に逃げた様に見えた富嶽だが無駄に傍観していた訳ではない。上空からメカ大蛇の動向を監視し情報を国会議事堂内の作戦本部に伝え対策を分析していたのだ。富嶽のブリッジで指揮を執る山本艦長の元に本作戦技術顧問の山本准将から直電があった。
「山本艦長、任務ご苦労」
山本艦長は緊張しながら答えた。
「は!准将、労い頂きありがとうございます。で、直々のご連絡とは?相当重要な案件とお見受けしますが」
山本准将は慎重に言葉を選びながら話し出した。
「そうだ。今から言う事をよく聞いてくれ。この件は大泉総理の指示である。先ず例の怪生物Xを今後八岐大蛇、通称オロチと呼称。次に、オロチ以外の怪生物は我々の味方である。協力若しくは連携して作戦行動を執るように」
山本艦長は耳を疑った。
「何を言ってるんだ兄さん!Xの名称については確かにあの姿形から八岐大蛇の方が妥当だろうが得体の知れない化け物どもと共闘とは…敵が共通だとしても何時我々に牙を剥くやも知れないのだぞ!」
もしや?と気づかれた方、正解である。山本准将は艦長の実兄なのだ。山本家は曾祖父の代から海軍将校を輩出している名門なのである。その兄である山本准将は驚くべき事を語った。
「言葉を慎め。プライベートの通話じゃないんだ、皆聞いているんだぞ。総理が仰っしゃるには、彼等には知性もあり我等人間と共に闘ってくれる同志なのだそうだ。その事を理解すれば必ずやこの緊急事態を打破できる、と。すまないが総理直々の勅命なので宜しく頼む」
「う、うう…承知致しました准将。今後当艦はオロチに対抗する怪物達を支援若しくは共闘致します」
山本艦長には理解しがたい指示だったが他ならぬ大泉総理の命だった為従う他なかった。この大泉総理の発言は作戦本部でも物議を醸した。作戦審議中突然の宣言だったので一同は騒然!根拠の説明を求めるも具体的な答えは無く、オロチ命名には賛同したものの怪物(妖怪組合)との共同作戦には賛成派・反対派で大激論となった。最終的には大泉総理の鶴の一声で承認されたが大方の者は不承不承の同意であった。
総理の真意とは?話は六時間前に遡る。官邸の大泉総理の元に宮内庁から皇居登宮の要請があった。最重要案件の最中ではあったが他ならぬ陛下の思し召しなので向かうしかなかった。迎えのセンチュリーで車寄せに着いた大泉総理は侍従に案内され謁見の間に通された。中では天皇皇后両陛下と上皇夫妻が座しておられた。
「陛下、上皇様、本日はお招きいただき痛み入ります。」
緊張気味の大泉総理に天皇陛下が言われた。
「大泉総理、世間が大変な時にお呼び立てして申し訳ありません。実は今回は他ならぬ上皇陛下からのご依頼で来てもらったのです」
天皇陛下は上皇様に目配せして発言を促した。
「上皇陛下」
上皇様はおずおずと本題を語り始められた。
「大泉総理、此度の災厄に関して少しでもお力になれればと思い陛下にお願いして来ていただきました。今からお話する事を真摯に受け止めて頂きたい。それは先日の夜の事です。私の夢枕に宮家の始祖様、天照大御神様がご出現なされました。この時天照大御神様は私にお告げをくだされたのです。災いをなしている獣、即ち八岐大蛇と申す。我はこの獣より皆を救う為様々な神使を遣わす。また八岐大蛇を討つべく須佐之男命も蘇らせよう。人はこの者共と力を合わせよ。然らば災厄を免れる事が出来るであろう、と」
大泉総理は耳を疑った。
「は?神の使い、ですか?須佐之男命?」
上皇様は想定通りの反応に落胆しながらも話を続けられた。
「夢物語と思われるでしょうが私には天照大御神様の言葉が夢幻とは思えません。この国を守ろうとする民に手を差し伸べて頂いているものと感じてならないのです。私は大御神様の言葉を信じています」
「はあ…」
大泉総理は何と答えていいのかわからず言葉に詰まった。上皇様は構わず話を続ける。
「年寄りの戯言と聞き流さずどうか今後対策の一助としてお役立て下さい」
「は!上皇陛下の有難きお言葉、確かに承りました」
大泉総理は困惑しながらもにべに断る事も出来ず了承する体で答えた。
「宜しく頼みましたよ」
大泉総理はどうしたものか悩みながらも上皇様が去り際にお声をかけられたのでうやうやしく頭を下げ、意を決して皇居を後にした。議事堂に戻った総理は議論紛糾中の対策本部室に入るなり一同を集め例の件を宣告した。
「本日只今より怪生物Xの呼称をヤマタノオロチと改め以外の敵対する怪生物と協調し戦闘を行うものとする」
一同唖然。大騒動となったのは前述の通りである。ただ一番苦労したのは板挟みとなった総理自身であった事は言うまでもない。
一方、鬼ヶ島に到着したあんじー達は残存する鬼達を集め現在の状況を説明、協力を要請した。皆メカ大蛇には疑問を持っていたので反対する者はいなかった。不貞腐れる酒呑童子を除いては。
「どうじゃ茨木殿、起動できそうか?」
指令センターの操作パネルに向かい立ち上げプログラムをセッティングする茨木童子にあんじーが尋ねた。
「すみませんあんじー様。最終手段としての機能なので初めての事ばかりでして…あとちょっとですので暫しお待ちください」
焦りながら答える茨木童子。見かねた酒呑童子が手を差し伸べた。
「ええい、まだるっこしい!手伝ってやるからサクサク進めい!」
酒呑童子は茨木童子の隣に陣取りキーボードを打ち出した。
「ほう。嫌がっていたのに協力してくれるとは…どういった風の吹き回しじゃ?」
あんじーの揶揄に向きになって答える酒呑童子。
「ふん!別にお前等に味方するわけではないわ!俺は戦艦鬼ヶ島が機動するところを見てみたいだけよ!」
酒呑童子も過去一度も動かした事がない戦艦形態を試してみたいと予てより願っていたのである。ただ設定には二人をしてもかなりの時間を要した。そして時が来た。
「あんじー様、何とか始動準備ができましたぞ!」
どうにかプログラム設定が完了した茨木童子は汗だくで叫んだ。あんじーは期待を込めて指示した。
「ご苦労。茨木殿、早速だが宜しく頼む」
茨木童子がこれを受け発令。
「動かすぞ!各員戦闘配備!」
基地内にいる鬼達は慌ただしく部署に向かった。
「鬼ヶ島要塞起動まで十秒!カウントダウン開始」
秒読みに乗員全員の緊張が感じ取れた。オペレーターがアナウンスする。
「8・7・6・5・4・3・2・1・0!鬼ヶ島起動!」
茨木童子がパネルにタッチすると構内にアラートが鳴り響いた。赤色灯が各所で回っている。基地全体に地鳴りが起こった。
「各連結部解除!戦艦鬼ヶ島浮上します」
鬼ヶ島の山頂部が崩れ、基地の金属の外壁が見え始めた。徐々に競り上がって山肌が崩壊、轟音を響かせ建物がその全貌を現した。その姿は飛翔しようと身構える鷲の様にも見えるが各部の造作は確かに要塞の様相である。オペレーターは続けてアナウンス。
「鬼ヶ島発進!」
両肩から巨大な主翼が広がり正に鷲の飛行形態に変化。下部ロケット噴射口から爆炎を吐き島を離陸、上空に舞い上がった。
「おおお!」
あんじーだけでなく乗組員は皆歓声をあげた。
「鬼ヶ島水平軌道に移行します」
オペレーターは発声の後本体を水平飛行に操縦。だが艦内の各キャビンは安定する様に可動するのでわざわざ動くことはない。次はあんじーが号令した。
「スサノオ、基い戦艦鬼ヶ島全速航行!富士山に向かうのじゃ!」
オペレーターが全速力に設定するが図体がデカく元々戦闘機ではない為ジェット推進での最大速度は時速600km程度しか出ないのである。鈍行ながらも戦艦鬼ヶ島は富士の決戦場に向かうのであった。
富士山麓愛鷹山洞穴。 統領は水棲妖怪達を使って中の様子を探らせていた。その中には蛟の爽・箔も含まれている。まだ幼体の二匹は探索メンバーに含まれていなかったがアヤカシ探偵社の一員として本人自ら志願した。鎌鼬の後押しもあったので統領も承知したのである。まだ溶岩の流出がないのでおそらく地脈にまでは到達していないのだろう。暫し一服と統領が煙管に火を点けようとしたその時、地震が起こった。かなりの揺れ、震度5は超えていようか?訝しむ統領。小豆洗いと鎌鼬が跳んでくる。
「ヤツか?ヤツの仕業か?」
二人に向かって統領が答えた。
「この揺れは十中八九メカ大蛇の仕業じゃろう。中の皆を呼び戻そう」
統領の意見を受けてサトリのお婆がテレパシーで洞窟内の妖怪達に呼び掛けた。小豆洗いも無線で爽・箔に連絡する。
「お前達、大蛇が動き出したようじゃ。直ぐ其処から戻ってこい」
無線は感度が悪いようで時折途切れるが通じてはいる。
「うん、なんか揺れているよ。で、さっきまで真っ暗だったのに奥の方がピカって光ってる」
小豆洗いの隣で聞いていた鎌鼬が叫んだ。
「いかん、急いで脱出するんだ!」
言うが早いか、凄い爆発音が鳴り響いた。洞穴から海水が物凄い勢いで逆流する。再び大地震が勃発。統領達が対処する間もなく地震は富士全体に揺れ渡り、そして…。富士山火口から火柱が上がったのである。火砕流で辺り一帯は暗雲に包まれた。噴火は徐々に火の手を拡大、中からドロドロに溶けた溶岩が滴りだす。愛鷹山洞穴では逆流のお陰で間一髪、妖怪達は脱出に間に合ったが直後海水に混じった溶岩が流れ込んで高熱と水蒸気で地獄の様相を呈した。避難した妖怪達が富士山を見上げた時。火柱の中から遂にメカ大蛇が火口をけ破って現れた。広げられた火口は更に噴火の勢いを増し、流れ出る溶岩もその流れは増えている。大蛇はマグマの熱をまるでシャワーを浴びるかのように吸収して黄金に光輝いていた。八本の首を放射状に天に向け咆哮を上げた。山頂に陣取り辺りを見回すメカ大蛇。統領は慌てて指示した。
「周辺の市街に被害が出ぬよう大蛇を青木ヶ原の方に引き摺り下ろすのじゃ!だいだらぼっち、がしゃどくろ、やってくれ!」
再び呼ばれただいだらぼっちは巨大化し、がしゃどくろなる妖怪と共にメカ大蛇に向かって行った。だいだらぼっちはメカ大蛇と対等の大きさにまで成れるががしゃどくろはその二十分の一程度である。が、日本妖怪では巨大な方なのである。また怪力さ故メカ大蛇を引っ繰り返すことも可能なのだ。だが高熱を発するメカ大蛇に容易に近づく事が出来ない。統領が悔し気に呟いた。
「さすがにあの熱では近づけぬか…そうじゃ!雪姫、雪姫はおらぬか?」
「ぬらりひょん様、お困りでしょうか?」
うら若き女の声がするので振り返る統領。
「おお、雪姫。来てくれていたか」
白髪のロングヘア、透き通るような肌、切れ長の目をした白装束の美女。雪姫と呼ばれた妖怪は東北に棲む雪女である。彼女はご存じの通り氷雪を操る能力者なのだ。
「雪姫、見ての通りじゃ。大蛇の熱でだいだらぼっち達が近づけんのじゃ。何とかしてくれぬか」
雪姫は統領の懇願に微笑で答えた。
「かしこまりました。私めにお任せください」
雪姫は右手を上げ人差し指を伸ばし目を伏せた。一瞬冷気が走る。周辺の黒煙を掻き消す様に白雲が富士山を覆い尽くした。雪がちらほらと降り始め、徐々に勢いを増していく。やがて猛吹雪となった。噴火の火の手も収まり、流れ出た溶岩は黒褐色の岩へと変化していく。何が起こったか分からず呆気に取られるメカ大蛇。気温は一気に下がり付着した雪は熱で黄金色に発光していた体表面を冷やし、その輝きを落としていく。もう既に元の鈍い銀白色の姿となっていた。
「今じゃ!大蛇を突き落とすのじゃ!」
統領の号令にだいだらぼっちはメカ大蛇に体当たりした。大蛇はその勢いで北側に傾いだ。がしゃどくろは空いた腹と地面の隙間に潜り込み体躯を伸ばして大蛇を押し上げる。メカ大蛇は転がる様に富士の北西、青木ヶ原側に倒れ落ちた。もんどりうって仰向けになった大蛇に飛び掛かるだいだらぼっちだがまたしても二本の尻尾に叩かれて弾き飛ばされた。がしゃどくろは首の一本を抱きかかえるも振り回されて成す術もない。その時成層圏にいた富嶽は状況を察知して富士山上空にまで近づいていた。大蛇の横転に合わせて山本艦長が好機と判断、攻撃命令を下す。
「荷電粒子砲、斉射!」
富嶽両主翼発射口からビームが放たれメカ大蛇に命中。衝撃で大蛇は身震いした。猛吹雪で動きの鈍い大蛇は渾身の力を込めて火炎を吹きまくった。同時に金色の翼を羽ばたかせる。その熱風は雪姫の白雲を上空へと押しやって、青空が開け吹雪が止んだ。だいだらぼっちはその体躯を維持できず小さくなっている。がしゃどくろも振り落とされて地にひれ伏すかの様に蹲ってしまった。
「皆の者、あんじー達が戻るまで持ち堪えるのじゃ!妖怪連で総攻撃じゃ」
富士に集結していた数多の妖怪達は一斉にメカ大蛇に挑んでいった。富嶽の戦闘機部隊も参加、一大決戦との火蓋が落とされた。陸自の戦車隊も青木ヶ原に集結しつつある。しかしその差は明らかであった。大蛇に群がる蠅の如き妖怪・人間連合軍は何らダメージを与えられないまま飛び回っているだけなのだ。鬼ヶ島、いやスサノオ・ロボが到着するまで時間を稼げれば良いだけなのだが統領は悔しさに顔を歪めていた。
戦艦鬼ヶ島艦橋。
「茨木殿、もう少しスピードアップできんのか」
あんじーはじれったそうに不満をぶちまけた。
「はあ、何分重量が凄いもので…山一個分飛ばしているようなものですからね」
茨木童子の他人事の様な返事にあんじーはブチ切れた。
「いや、鬼ヶ島を離脱する時ロケットエンジンを使っておったではないか」
茨木童子はやれやれ、と溜息をついた。
「あんじー様、いいですか。ロケットブースターは大気圏を突破したり緊急離脱の為のもので瞬間加速に特化した機能なんです。長時間飛行は出来ないのですよ」
あんじーが更に食い下がる。
「今が緊急時なんじゃ、ほんのちょっとでも早く富士に着きたいんじゃ!」
「困ったお方ですね、いいですか。ロケット噴射は大削岩鬼、改名後はスサノオ、の機能なんです。ここ一番で使わないと直ぐ燃料切れになってしまうんです。我慢してください」
「うう…」
茨木童子の説得に渋々従うしかなかった。あんじーはもう一つの疑問をぶつけてみた。
「叢雲はどうしたんじゃ?携行しているようにも見えなんだが」
茨木童子はああその件か、と言う風な顔をして答えた。
「叢雲も超重量物なので後で塹壕からロケットで発射します。マッハ25くらいで飛んでくるので一瞬で到着しますよ」
なんでその技術を応用しないのか、と心の中でぼやきつつ口には出さないあんじーであった。その時小豆洗いから連絡が入る。
「あんじー、とうとう大蛇が出てきよったで!統領や皆が応戦しとる」
遂にこの時が来たか、と気を引き締めて応答するあんじー。
「儂等は間もなく着く。それまで何とか持ち堪えてくれ」
「わかった!待っとるで!」
小豆洗いの無線はその一言で切れた。あんじーは早る心を抑つつ茨木童子に激を飛ばす。
「大蛇が復活した!兎に角急いでくれ」
茨木童子は苦笑いで頷く。戦艦鬼ヶ島はもう御前崎目前まで到達していた。
「あんじーさん、テレビ中継を見てください!」
通信士が慌てているので三人は映し出されたモニターを注視した。画面には新人らしき若い女性アナウンサーがマイクを持って立っている。
「先程、総理より記者会見がございました。それによりますと怪生物Xは今後オロチと呼称されます。更に協力者、オロチに対抗する怪物たちの事なのですが、と共同作戦を展開。防衛庁は最終兵器を用意している、との事です」
あんじー、茨木童子、酒呑童子は驚きのあまり顔を見合わせた。
「どうなっているんじゃ?人間もまだ秘密兵器を隠し持っているのか?」
酒呑童子が喚いた。茨木童子はきょとんとしている。あんじーには心当たりがあったので最新情報に気遣う事にした。テレビではメカ大蛇を攻撃する自衛隊の姿が映し出されていた。
富士に点在する駐屯地から青木ヶ原に集結した陸自の精鋭部隊は大戦さながらの攻防戦を展開していた。と言ってもメカ大蛇の一方的なプラズマ火炎攻撃に劣勢状態である。唯一の救いは大蛇がエネルギー供給源の富士山を離れない事であろう。上空では富嶽が旋回しながら荷電粒子砲を放射するがビームを避けながらのヒットアンドアウェイ戦法なので大した効果は得られない。九九式自走榴弾砲、十式、九一式戦車の砲撃の中F-3・イーグル混成編隊が空対空ミサイルを撃ち込む。ダメージよりも大蛇の気を引くことが肝要なのでその効果は十分である。そんな中、現場に或る兵器が持ち込まれようとしていた。トレーラーで運び込まれた巨大コンテナは25m超えの白色筐体にJRDのロゴ。中身は防衛装備庁が三菱重工に特注した新兵器らしいと言う。使用の陣頭指揮を執るのは陸自の神宮寺准将、実は総理執務室に呼び出された防衛庁の三人の一人である。田村参謀、山本准将と共に居合わせていたのだが持ち前の内気な性格から終始無言だった。然しながら防衛装備庁では一目置かれる兵器開発のスペシャリストなのである。彼はコンテナを防衛ラインの後方、見晴らしの良い高台に配置した。
「外装開け!」
神宮寺准将の指示でコンテナのパネルが縦中心から真っ二つに裂け地面に落ちた。中に入っていたのは…外装に様々なギミックが装飾された第二次大戦時ドイツ軍の列車砲の様な兵器であった。周囲では整備班が下準備に掛かっている。極太のケーブルが何本も下部のコネクターに接続された。技術班が調整と機能チェックに大顕わである。
「砲撃準備良いか?」
神宮寺准将の問いかけに整備班長が答える。
「あと五分程で可能です、今暫くお待ちください准将」
神宮寺准将は小さく頷いた。
「五分だな。砲手、オロチに照準合わせ!準備出来次第攻撃する」
指示された砲手がモニター画面の大蛇をロック・オンする。
「准将、用意できました!」
整備班長の返答に意気込む神宮寺准将。
「総員対閃光防御!ハイパーメガ粒子砲発射用意!」
近くに居合わせた自衛官は一様に閃光用ゴーグルを装着した。
「ハイパーメガ粒子砲、撃てっ‼」
メガ粒子砲と呼ばれたその兵器は全体から放電の火花を放ち、射出口から物凄い光線を放った。その光はメカ大蛇の胸部に命中!あまりの衝撃に大蛇は仰け反った。辛うじて耐えたものの威力は高出力レーザーを遥かに凌ぐものであった。
「効いてます、准将!これならいけそうです」
喜ぶ砲手を窘める神宮寺准将。
「いや、まだまだ致命傷には至ってないぞ。だがこのハイパーメガ粒子砲ならオロチを殲滅できるかも知れん」
神宮寺准将は確かな手応えを感じていた。そもそも荷電粒子砲は彼の発案で防衛装備庁技術プロジェクト管理部が開発した兵器である。陸戦兵器として作られたのだが先ず同時期に艦艇装備研究所が開発中の富嶽へ搭載兵装として小型化され組み込まれているのだ。彼は本来の使用目的である大砲型の物を制作、更に強力な荷電粒子砲としてハイパーメガ粒子砲と命名した。少々子供じみているが富嶽を擁する海自・空自に対する陸自の意地なのである。また荷電粒子砲の核となる金属はプルトニウムなのだがハイパーメガ粒子砲には隕石から抽出した未知の重金属が使用されている。但し使用電力が膨大で一瞬にして関東一帯が停電する程である。その為連射には相当の間隔が必要なのである。メカ大蛇は衝撃で動く事ができず停止していたがやがて回復し攻撃の矛先をメガ粒子砲に向けてきた。戦車隊陣営はメガ粒子砲を守るべく大蛇に砲撃するが全く効果は無い。
大蛇がプラズマビームを放とうとしたその時遥か上空から凄まじい光の矢が背中に刺突きさった。何が起こったか理解できず動転する大蛇。
「コモドール(准将)ジングウジ、加勢しますよ」
なんとネルソン提督の声がスピーカーから流れた。光の矢の正体は高出力レーザーだったのだ。至極当然の事だが軍事衛星は一基だけな訳が無い。マーキュリー・シリーズは地球の周回軌道上重要拠点に6基配備されていたのだ。Ⅰが破壊された為最も近い位置にいたⅣが移動してきていたのだ。日米間の共同作戦なので援護してくれたのである。
「ネルソン提督、支援感謝します。此方も準備出来次第砲撃をしますのでタイミングを合わせましょう」
「オーケイ、宜しく!」
軽いノリで答えるネルソン提督に不安を感じながらも神宮寺准将は頼もしい助っ人に安堵していた。
「しかしジャパンも凄い兵器を隠し持っているねぇ。B-2に強力なビーム砲、油断していると我が国も危険かもね。そうだろ艦長」
ネルソン提督の問いにブルーリッジ艦長のジョージ・マイケル中佐は沈着冷静に答えた。
「あの航空機はスピリット(ステルス爆撃機Bー2の事)ではありません。形状は似ていますが日本オリジナルだそうで名称はフガク、と言うそうです。あと陸上自衛隊の使用している荷電粒子砲は国防省でも開発計画が進められております。実用化には至っておりませんが…先を越されましたね」
「ユーは相変わらずの軍事オタクだねぇ。世界中の兵器を網羅してるんじゃないかい?」
ネルソン提督のジョークに皮肉で返すジョージ艦長。
「仮にも合衆国軍人たる者世界の軍事情勢に精通して当然なんですよ提督」
「オー!これは失敬」
何処までも能天気で軽いネルソン提督だが彼のウィットを好ましく思っているジョージ艦長なのであった。
閑話休題、現場では陸自の砲撃が凄まじく(効果は無いのだが)妖怪達は中々手が出せずにいた。統領がサトリのお婆に尋ねる。
「大蛇を倒す方法は無い物か?何か気づいてはおらぬかお婆」
その問にサトリのお婆は思い当たる話を打ち明けた。
「八岐大蛇は太古に神が他の星から持ち込んだ生き物、と言う言い伝えがある。金の星だそうじゃ」
統領は合点のいく点が幾つかあった。
「金星か!成程、あ奴の巨体も不死身の身体も過酷な環境のせいか。それならますますこの星の武器では倒せぬやも知れぬのう」
統領の独り言に一同不安が募るばかりであった。戦禍が激しさを増す中、小豆洗いの携帯に連絡があった。あんじーである。
「小豆洗い、そちらの状況は?儂等はもう近くまで来ておる」
「あんじー、まだ大丈夫やで。自衛隊と米軍が大蛇をなんとか抑え込んでくれとる」
小豆洗いの報告に安堵するあんじー。
「スサノオは直接大蛇の前に降下するから人間の攻撃を止めてくれ」
小豆洗いは耳を疑った。
「攻撃中止?どうやって?」
二人の話に統領が割って入ってきた。
「あんじーか?人間の攻撃を止めれば良いのだな。任せい」
「え?統領そんな事が可能なんですか?」
驚く小豆洗いに統領は微笑みながら片目を瞑ってみせた。小豆洗いはその姿に引いた。
鬼ヶ島は駿河湾目前である。相変わらず艦橋では三人が喧々諤々の論争を展開していた。茨木童子が解説する。
「スサノオは鬼ヶ島本体から分離、人型形態で行動します。巨大なのですが操縦者は削岩鬼同様一人なのです。問題は誰が搭乗するかです」
「儂が行こう!」
あんじーが名乗り出た。茨木童子はちょっと困った顔をした。
「いや、それは無理です。削岩鬼は鬼族にしか使用できない様にできているのです。二次流用を防ぐ為鬼のⅮNAにしか反応しない仕組みなんです」
あんじーはグッと茨木童子を睨んだ。
「ならば誰が乗るんじゃ?オペレーター経験者から募るのか?」
あんじーの発言に艦内の鬼達全員がビビった。酒吞童子や茨木童子までが沈黙してしまった。あんじーは怒りをぶちまけた。
「勇猛な事で知られる鬼族がこのざまか!一人も名乗り出る者はおらぬのか⁈」
あんじーの怒号を見かねた茨木童子が弁解する。
「スサノオ・ロボとはいえ相手はメカ大蛇です。流石に死ぬかもしれぬ戦さに勇んで行くものなどおらぬでしょう」
茨木童子の他人事の様な物言いにイラっとするあんじー。
「ならば茨木殿、貴公が責任者として乗り込まれれば良かろう」
驚く茨木童子。
「滅相もない!拙者の様な小心者などとてもそんな大役務まりませぬ」
怯える茨木童子を見限り酒吞童子の方を見やるあんじー。酒吞童子は思わず目を背けた。
「丹精込めて作り上げたメカ大蛇を俺様が殺せる訳なかろう。なんならヤツに加勢したいくらいじゃ」
こちらも駄目かとあんじーは覚悟を決め再び茨木童子に向き合った。
「茨木殿、儂と共に戦おう」
きょとんとする茨木童子。
「儂の目を見るのじゃ!」
素直な茨木童子はうっかりあんじーの目をみてしまった。たちまち意識を乗っ取られ、棒立ちになる茨木童子。
「行くぞ!操縦席に案内せい!」
あんじーの大声に慌てて動き出す鬼達。目が点になる酒呑童子を無視してあんじーと傀儡となった茨木童子は先導する鬼に従いエレベーターに乗り下層に向かう。扉が開くと格納庫の様な空間が現れた。眼前にスサノオの頭部に位置するのかロケットの先端にも似た構造物が見える。先端中央の鍔の上の位置に2メートル程のオパールの様な半球のドームがある。どうやらこれがコックピットの様である。搭乗用リフトで二人はドーム直下まで上昇した。担当の鬼が合図する。あんじーが見ていると茨木童子は吸い込まれる様にドームを通り抜けてコックピットの中に入ってしまった。
「なんじゃ?どうゆう理屈じゃ?」
摩訶不思議な光景にあんじーが首を捻っていると構内スピーカーから呼び掛ける声がした。
「準備完了です。ですが操縦席は単座ですのであんじーさんは乗ることは出来ません。如何されますか」
あんじーは大声で答えた。
「心配ご無用。近くにしがみ付いておくわ。なあに、ぬこ神も近くにおるしいざとなれば乗り移るだけじゃ」
そう、ねこじゃ・ねこじゃの術はある程度近くにいないと操れないのだ。
「わかりました。ではお気をつけて」
アナウンスの声に手を振ってあんじーは答えた。三頭身の幼女体形から戦闘モードに変身する。
「では行くぞ!スサノオ出撃じゃ!」
コックピットのドームにしがみつくあんじー。構内全体が凄まじい振動音と共に動き出した。隔壁が移動して連結部に隙間が出来た。固定枠が外れ、一瞬浮遊状態になる。再びアナウンスが流れた。
「スサノオ・ロボ排出!」
スサノオが後方に流れる様にみるみる移動して行く。スサノオ・ロボは鬼ヶ島のほぼ9割がボディで前部が兜の様な推進機兼鬼ヶ島艦橋なのである。戦艦と分離したスサノオ・ロボは足のロケット噴射口からアフターバーナーを噴き出し、猛スピードで富士の大蛇に向かって行った。その姿は蟹の甲羅の様な鎧で覆われたUFOの如きである。その加速と目的地までの距離から直ぐに青木ヶ原に到着。スサノオはホバーリングで立ち上がりながら大蛇の目前に降下した。着地する際、ズズンと地響きを起こし重量の為地表が大きく沈み込む。対峙したメカ大蛇は脅威を感じ上体を上げコブラのポーズを取った。スサノの蟹の甲羅状の装甲が開き中から仁王にも似た鬼の顔面が現れた。装甲は複雑に変形し甲冑へと変貌した。大の字に構えた姿は三国志の武将の様である。コックピットのドームに立ちあんじーは操縦席の茨木童子を操っている。しかし得物(武器)が何も無い。素手で戦わなければならない。
「剣が無いぞ、剣が!叢雲は⁈」
あんじーが叫んだその時、西の彼方から超音速で飛来する物体があった。ミサイルの様なその物体はスサノオと大蛇の中間に爆音を上げて突き刺さった。念願の天叢雲剣である。よく見るとロケットブースターが三基装着されており、鬼ヶ島本島から打ち出されたらしい。茨木童子の案だが少々乱暴な搬送法である。スサノオが動くより早くメカ大蛇が近づいた。二本の首を巻き付け抜き取ろうとするが深く刺さりすぎて抜けない。遅れて辿り着いたスサノオが大蛇の胴体に体当たり!衝撃で大蛇は跳ね飛ばされた。スサノオは天叢雲剣の柄を掴む。全力で引き上げるがビクともしない。
「あんじーさん、離れてください。」
ドーム内から無線の声がした。あんじーは茨木童子を操りスサノオを素早く後退させる。すると叢雲に付帯したロケットブースターが爆発、リジェクトした。その勢いで刺さっていた地面が破壊され叢雲が揺れ傾いた。あんじーは好機と見てスサノオに叢雲の柄を掴ませ一気に引き抜いた。刃を天高く突き上げる。
「おおおおおお!」
咆哮にも似た機械音を発したスサノオは腕を広げ勇姿を誇示している。が、あんじーは指示していない。考えられるとすれば茨木童子の、鬼の本能であろう。威嚇のパフォーマンスを挑発と感じた大蛇は鋭い眼光を放ち猛スピードで蛇行しながらスサノオに襲い掛かった。放射状に八本の首を伸ばし噛みつこうとする。
右に左に躱しながらスサノオは上段から斜めに天叢雲剣を豪快に一振り、首の一本に切りつける。切っ先が触れた瞬間巻藁の様に首が切断され地面に転がり落ちた。どんな武器にも貫通出来なかった大蛇の装甲が、である。天叢雲剣の切れ味は凄まじいものがあった。伝説では叢雲剣は須佐之男命に倒された八岐大蛇の尾の骨から作られた、とされている。メカ大蛇に対抗できる唯一の武器なのである。大蛇は悶絶の悲鳴とも取れる鳴き声を上げ残る七本のうち三本の首でプラズマ火炎を浴びせた。照射された部分が金色の閃光を放つ。だがビーム攻撃は効かない。スサノオもまたオリハルコン装甲なのである。大蛇は別の首から毒霧を噴き出した。電子機器をダウンさせる例のガスである。白煙はスサノオを取り巻いた。視界を遮られスサノオは一瞬停止する。が、その動きを止める事は出来なかった。当然の如くスサノオもステルスコーティングされているのである。スサノオは次々と襲い掛かる大蛇の首を腕で払いのけながら腹部に剣を突き立てた。浅くではあるが、叢雲は大蛇のオリハルコンの外皮を裂き内部に突き刺さった。その剣を引き抜いた時、体液を噴き出し悶絶する大蛇。背中の翼を振り先端の尖った爪で威嚇、スサノオを払い除け後方に逃避する。青木ヶ原の大地で対峙する八岐大蛇とスサノオを報道ヘリが空撮していた。中継するアナウンサーが実況する。
「只今オロチと戦っておりますのは自衛隊の最先端技術で造り上げた人型決戦兵器スサノオです!先ほど大泉総理より声明がありまして、先般怪生物Xをオロチと命名された事に続き、これを迎え撃つべく巨大ロボット・スサノオを投入する、との事です」
コクピットの上で茨木童子を操りながら放送を傍受していたあんじーは思わず大声で独り言を呟いた。
「やりおったな、統領!」
その頃当の統領は満足げに戦いを眺めていた。周りの妖怪達は何故スサノオが人間の兵器とされているのか納得できなかったがあんじーだけはその性格を熟知していて統領の仕業と見抜いたのである。
「枕神もよくやってくれたもんじゃわい」
統領の一言で傍にいた小豆洗いは合点がいった。
「ははあん、この爺さん枕神を使って人間の偉いさんに夢でも見せたな?神のお告げとか言わせて都合の良いように画策したか?で、そいつもスサノオにリアリティを持たせる為に自分らが作った事にしたんか」
小豆洗いは心の中で呟きながら統領を畏怖の念で見つめていた。同様の事を思い描いたあんじーであったが大蛇の体当たりでハッと我に返る。一本の頭が叢雲を持つ右手首に噛み付く。咄嗟に手を放し叢雲を落とし、地面に落ちる瞬間左手で柄を掴んだかと思いきや下段から咥えた首目掛け振り上げた。頭部は首から離れ弧を描いて前方に転がり落ちた。スサノオはその勢いで大蛇の懐に入り込む。頭の一つが口から青い液体を吹きかける。強力な溶解液である。付着した装甲の表面がジュッと白煙を上げて溶けた。が、オリハルコンボディのコーティング剤を剥離させた程度の被害である。スサノオは叢雲を胸に縦に構え、その頭を兜割り!頭は溶解液を放ち真っ二つに裂けた。溢れた溶解液は裂けた頭部を溶かし塊となった。大蛇は怯まずスサノオの両肩に二つの顎で噛みつき天高く放り投げた。スサノオは勢いよく飛ぶと地面に落下、地響きを上げて地表にめり込んだ。その際、頭部操縦席のドーム上にいたあんじーも弾き飛ばされた。空に舞ったあんじーは傍を飛行していたぬこ神に掴まりなんとか難を免れたが、スサノオと離れてしまった。前述の通りねこじゃ・ねこじゃの術は側にいなければ効果は無い。焦るあんじーはぬこ神に要請。
「ぬこ神、なんとか茨木童子に近づいてくれ」
あんじーの言葉に答えるぬこ神。
「わかった。やってみよう」
ぬこ神は大きく旋回しスサノオに向かって滑空。その前に大蛇が立ちはだかった。大蛇は直感で近づけてはいけない事を悟っていたのである。鎌首でぬこ神を追い回す為、ぬこ神は中々スサノオに近寄れない。逃げ惑うぬこ神は襲い来る大蛇の頭を蠅の様に躱しながら抜け出ようとするが執拗につけ回す大蛇。ふとあんじーが目をやると一本の頭がスサノオが切り落とした首を咥えていた。大蛇は切り離された首元にその頭を繋いだ。すると切り口から白い液体が吹き出し、細胞が活性化。離れていた頭と首は結合し繋がった。そして首の目は輝きを取り戻した。大きく顎を開き咆哮する。なんと言う再生能力。だが溶解液で溶けたもう一本の首は再生できていない。どうやら万能ではないようだ。それでも七本になった大蛇の蛇頭は十二分に脅威である。大蛇とあんじーがやりあっている間、弾き飛ばされ倒れていたスサノオ頭部のコクピットで茨木童子は目を覚ました。意識が朦朧としている。徐々に回復してきたがあんじーの傀儡の術に掛かった後の記憶が無い為、眼前の光景に驚愕する。
「え?え?ど、どうゆうことです⁈どうなってるんです⁇」
茨木童子は取り敢えず上体を起こし右腕を着いてスサノオを起こしてみた。気付いた大蛇は標的をスサノオに替え一目散に向かって来る。慌てた茨木童子はスサノオの両手で突き返す。大蛇は勢いよく後方に弾き飛ばされた。あんじーはチャンスと見てスサノオ頭部に近づこうとしたが二本の尾が鞭の如く撓ってぬこ神に当たり、乗っていたあんじーが落下。ぬこ神も衝撃で体制を立て直す事が出来ず、下降する。幸い追随していた辻神が疾風を起こして二人(匹)を舞い上げ、ぬこ神は翼を伸ばし飛行形態であんじーを受け止める事が出来た。
大蛇に怯える茨木童子はスサノオを動かす余裕も無くただ震えている。仕掛けてこないのを見て大蛇は容赦なく襲い掛かって来た。茨木童子は必死で逃げるが動きが鈍く直ぐに掴まってしまった。二本の尾を背中に回し三本の鎌首からプラズマ火炎を浴びせる。オリハルコン装甲には何の効果も無いがコクピット内の茨木童子は高温に晒され、苦痛に喘いだ。何とか抜け出ようとスサノオの手足をバタつかせるが大蛇にガッチリ拘束されて上手く身動きが取れない。それを見ていたあんじーが大声で叫んだ。
「茨木殿、このままでは死んでしまうぞ!思い出すんじゃ、平安時代極悪非道の悪童子であった頃の自分を!鬼の咆哮を聴かせてみよ!」
あんじーは青木ヶ原に降り立った際の雄叫びに鬼の本能を感じ取っていたのである。
「そう言われましても・・・」
なかなかスイッチの入らない茨木童子。その時大蛇の頭の一つがコクピットのドームに頭突きを咬ました。茨木童子はドームにしこたま額をぶつけた。
「何をしやがるんだこの野郎!」
逆上した茨木童子はスサノオの天叢雲剣でその首を薙ぎ払った。頭は一刀両断、宙を舞って大地に転がり落ちた。怒りが収まらない茨木童子は叢雲を振り回し、次の首に切りかかる。大蛇は回避しようと急いで逃げるが間に合わず刃の餌食となった。切り離され跳ね上がる頭。一瞬の内に二本の首が飛ばされた。動揺する大蛇は飛ばされ落ちた首を拾おうと残り五本の首を伸ばす。だがその時上空から切断された切り口にビームの矢が突き刺さった。マーキュリーⅣの高出力レーザーである。戦いの状況を観察していたネルソン提督は溶けた切断面は再生出来ないと分析しスサノオに加勢しようとレーザーで狙い撃ちしたのである。大蛇は金色の翼で防ごうとする。が、もう一本の切り落とされた首の切断面に向かって異種のビームが照射された。ハイパーメガ粒子砲の狙撃であった。神宮寺准将も対策本部・連合艦隊の共同作戦指示によりネルソン提督同様首へのビーム攻撃を狙っていたのである。何より切断面はオリハルコン装甲も無く無防備で通常攻撃が有効なのだ。連携攻撃により二本の首の切り口は溶解し丸く尖端状になってしまった。もう再生することは出来ない。そうこうする内にもスサノオの剣撃は緩むことは無く腹部を滅多切り、オリハルコン外板がボロボロと剥がれ落ちていく。剥き身の皮膚はそれでも相当硬いのだが無双ではない。スサノオが後退した瞬間を好機と見るや自衛隊の総攻撃が再開された。戦車砲・自走砲の砲弾が放たれ、戦闘機隊のミサイルが次々命中。徐々に外皮を蝕んでいく。大蛇は金色の翼で腹部を覆い隠した。当然の如くレーザーも粒子砲も翼の反射効果で尽く撥ね返されてしまう。スサノオは翼に叢雲で切りつけようとするがその両腕に大蛇の二本の尾が絡みつき振るう事が出来ない。
「あんじー、オイラ達が行くよ」
大蛇とスサノオの周囲を飛び回っていたあんじーに愛鷹山麓の爽・箔からテレパシー通信があった。
「お前達、危険だから近づいてはならぬ」
二匹は反論する。
「オイラ達もアヤカシ探偵社員だよ! ちょとでも役に立ちたいんだ」
怖いもの知らずの二匹に困惑するあんじーの耳に別の声が聞こえた。
「我等も着いて行くから心配には及ばぬ」
何と難陀竜王であった。八大龍王は帰らずまだ現場に留まっていたのである。八大龍王が守ってくれるならば安心である。
「よかろう、行くが良い。爽・箔、茨木殿を助けてやってくれ」
二匹は喜び勇んだ。
「任せて!八岐大蛇やっつけちゃうよ」
爽・箔兄弟は予め貰っていた成龍丸なる丸薬を呑み込んだ。すると見る見る成長し巨大化、全長二〇メートルを超える立派な龍となった。二匹は八大龍王が待つ富士山へと浮上。其処には八大龍王と善女龍王、そして初めて見る浅黄色の若い龍が佇んでいた。爽と箔は直感した。
「春光?わあ、君まで来てくれてるなんてすごい嬉しい!」
爽の言葉に驚く若い龍。
「よくわかりましたね。この姿でお会いするのは初めてなのに」
「いやあ、会った時から君は仲間だと思ってたんだよね。なんか同じ匂いがしたんだ。難陀のおじさんに付いて修行してるのもオイラ達と一緒かな~なんて」
箔の返事に感激する春光。
「私もお二人の活躍を見て微力でもお助けしたいと常々思っていたのです。なので今回は叶う絶好の機会と難陀竜王様にお願いして同伴させてもらったのです」
「じゃあ皆で大蛇退治しちゃおう!」
難陀竜王がはしゃぐ爽箔兄弟を諫める。
「小僧共、遊びではないぞ!気を引き締めて掛からぬと生身では帰れぬぞ」
沙何羅龍王が割って入る。
「難陀竜王、そこまで脅さんでも・・・お前達が南海龍王の息子か。我も南海龍王には何度か会った事がある。精々父親に恥じぬよう活躍せい、期待しとるぞ」
爽・箔は何だこの爺い!と思ったが声には出さなかった。春光が難陀竜王を促す。
「ご主人様、この様な所で時間を潰している場合ではありませぬ、急ぎ大蛇に向かいましょう」
難陀竜王は冷静さを取り戻し竜王達に号令した。
「いざ再び八岐大蛇の元に!」
八大龍王と善女龍王・春光・爽箔、総勢十二匹の龍は青木ヶ原に降下していった。現場ではスサノオが両腕を大蛇に噛まれ尾が胴に巻き付き身動きが取れない状態であった。天叢雲剣はスサノオの手を離れ大蛇の胴の下敷きになっている。また自衛隊機の攻撃は黄金の翼に阻まれ隙間から命中したミサイル弾くらいしか効いていない。八大龍王は大蛇の翼の先端に掴まり引き剥がそうとするが手強く開くことが出来ないでいた。そこで善女龍王は翼の間から懐に潜り込み中から暴風を起こす。翼はその風威に耐え切れず開いてしまった。爽・箔と春光はスサノオを救出すべく二本の尾の先端に取り付く。春光が背中の鰭から棘を抜き出し、その先端に突き立てた。その尾はビクっと震え、やがて気が抜けたように脱力し撓垂れた。もう一方の尾にも春光は棘を刺し、スサノオの拘束は解かれた。
「凄いね、刺したくらいで力が抜けるなんて」
箔の感想に春光が説明した。
「棘には龍神秘伝の猛毒が塗ってあるのです。普通なら怪獣でさえも即死するのですがメカ大蛇では尻尾を痺れさせる程度の効果しかありません。ですが今はそれで十分でしょう」
解き放たれたスサノオは立ち上がり噛み付いた頭ごと腕を振り回し、メカ大蛇を投げた。宙を舞い地面にめり込む大蛇。スサノオは叢雲剣を握ると腕に噛み付いた首目掛けて切り掛かった。一閃、二閃と首が飛ぶ。
更に切り口に照準を合わせてハイパーメガ粒子砲と高出力レーザービームが突き刺さった。大蛇は翼で防御しようとするが竜王達が端を掴んで引き剝がそうとする為、なかなか閉じる事が出来ない。度重なる攻撃でメカ大蛇は疲弊し、体力の限界であった。突然向きを変え富士の火口へと蛇行し始める。
「いかん!ヤツはマグマのエネルギーで回復するつもりじゃ、食い止めよ!」
あんじーが大声で叫んだ。スサノオが尻尾の片方を掴み引き戻そうとするがもう一本に弾かれ手放してしまう。龍王達も羽ばたかせた翼に吹き飛ばされてしまった。大蛇は火口まで辿り着くと中に潜り込んだ。
「あと少しであったのに・・・」
富嶽が旋回して様子を伺う。あんじーが竜王達と合流した時、阿那婆達多龍王がとんでもないアイデアを進言する。
「大蛇がエネルギーを充填する前に噴火させて噴き上げましょう」
あんじーは驚いた。
「その様な事が可能なのか?」
優針羅龍王が代弁する。
「富士山一帯にに流れる地脈を一点に集中させるのです。我等龍の神通力を使えば可能です」
あんじーは少々心配な事があった。
「噴火の影響で周りの人家に被害が出るのでは?」
沙何羅龍王が進言する。
「ならば貴公の亜空間転移若しくは八門遁甲術が使えるじゃろう。富士山だけなら結界を張れるのでは」
ハッとするあんじー。
「確かに・・・今の己に残った妖力でどの程度効果があるか分らぬがやってみよう」
あんじーは竜王達に呪符を託し、富士山を囲む八方に向かわせた。各龍王が定位置に貼るやあんじーは真言を唱え結界を完成させる。次に竜王達は祈念し龍脈を起こした。富士山は地鳴りと共に大噴火、爆炎を噴き上げたがあんじーの結界は火砕流も溶岩も結界内に食い止めている。そして遂に業火から噴出される様にメカ大蛇が現れた。マグマのエネルギーを吸収し心なしか活性化している様であるが、まだ十分ではないらしく酷く苛立っている。八本の首を天に伸ばし咆哮するがスサノオに切られた首はビーム攻撃で溶解し爛れたままである。大蛇は裾野を滑り降り青木ヶ原の原野に聳え立った。再び対峙する二体を皆が固唾を飲んで見守る。スサノオは叢雲剣を下段から弧を描く様に振り上げ大上段に構えた。後方では業火と爆炎を吹き上げる富士山。先ず動いたのは大蛇。鎌首を伸ばし金色の翼を広げスサノオに突進する。スサノオは左に身を躱しながら一気に叢雲を振り下ろした。残る五本の首の一本が薙ぎ払われ、蛇頭が宙を舞う。空かさず地摺り八双から上段に叢雲を振り上げ二本目の首を切り落とした。頭を失った首の切り口目掛けマーキュリーⅣの高出力レーザー及びハイパーメガ粒子砲が直撃。
「コモドール(准将)ジングウジ、次の首はお先にどうぞ」
「ありがとうございます、ネルソン提督。ではお先に」
二人のやり取りに山本艦長が介入。
「お二方、もっと真剣に取り組んでいただけませんか?ゲームではなく日本、いや地球の存亡を掛けた決戦なのですぞ」
ネルソン提督がツッコミを入れる。
「アニメのロボットをリアルに実現してしまう日本に言われても、ねえ。しかしなんとも巨大なロボには君達の技術力に敬服するよ」
真相を知る山本艦長と神宮寺准将は苦笑いするしかなかった。一方、奮戦する茨木童子にあんじーは感心しながら一抹な不安もあった。
「大丈夫か?茨木殿」
「誰に言ってやがんだ、あんじー。俺様は絶好調だぜ!ヘタレな蛇野郎なんぞ切り刻んでナマスにしてやる」
余計な杞憂であった。戦いの途中で冷静さを取り戻し、元の気弱な茨木童子に戻りはしないかと心配するあんじーであったが、激戦で興奮冷めやらぬ茨木童子はすっかり昔の大鬼盗賊団副首領の顔に戻っていたのだ。 が、ずっとこのままで居られても、と別の不安も否めないあんじーであった。
三本首となっても未だ気迫の衰えぬ大蛇はプラズマ火炎を吐きながら挑みかかってくる。が、スサノオは臆する事無く懐に侵入、叢雲剣で切りつける。内部にまでは届かないが大蛇の腹部オリハルコン装甲はボロボロと剥がれ落ち、もう殆ど残っていない。スサノオは体当たりを噛まし大蛇を突き飛ばす。後方に飛んだ大蛇目掛けレーザー、ハイパーメガ粒子砲、果ては富嶽の荷電粒子砲までもが降り注ぐ。見事な三位一体連携攻撃である。致命傷に至らないまでも体力を削るには十分効果があった。自衛隊の総攻撃も加わり大蛇は最早虫の息である。スサノオが残りの首を取りに行こうとしたその瞬間。遂に大蛇のエネルギーが尽き、大蛇はぐったりとうつ伏せに倒れた。首も容易に上げられずのたうつばかりである。スサノオは大蛇を踏みつけ勝利の雄叫びをあげた。あんじーはその様を見て思う事があった。
「のう、統領。こ奴を見逃してやれんかのう」
テレパシー通信で聴いた統領は驚いた。
「何をかんがえておる、あんじー。大蛇は地球の脅威なのじゃ。天叢雲剣が無ければ倒せなかったのだぞ」
あんじーは思いの丈を打ち明けた。
「海溝で深い眠りについていた大蛇を起こしたのは酒吞童子じゃ。ヤツの悪企みに利用されたに過ぎん。本能で生きる大蛇には世界を滅ぼそうなどと言う野心も無い。ならば無体に滅ぼす事も無かろう」
統領は思いあぐねて問うた。
「相変わらず甘い奴じゃのう。だが人間たちはどうする?連中は納得せんじゃろう。大蛇にのさばられてはおちおち眠ってもいられまい」
「そうじゃな・・・人の脅威の届かない何処か別の星へ移住させる事が出来れば」
あんじーの言葉に統領は名案を思い付いた。
「そうか!大蛇の故郷は実は金星なのじゃ。彼奴を金星に送り返せば双方安泰じゃ」
あんじーには希望の星が見えた。
「ならばどうやって金星まで運ぶか、じゃな。専門家に意見を聴こう。茨木殿、聞こえるか?」
連絡を受けた茨木童子だがまだ興奮状態のままである。
「何だあんじー⁈今から止めを刺す良い処だなんだ、邪魔するな」
「むう、正気には戻っておらぬか。ならば」
にゃあ!とあんじーは奇声を発した。不動金縛りの術である。茨木童子はショックで一瞬動けなくなった。
暫しの間硬直状態になり、やがて術が解けると元の沈着冷静な茨木童子に戻っていた。どうやら興奮状態の時の記憶が曖昧で、あんじーは事の顛末を説明した。
「左様ですか。まあ不可能、と言うことではないんですが。先ず大気圏まで連れて行くことが出来れば、後は慣性で金星まで送ることは容易です。どうやって大気圏まで上げるかですが、大蛇の浮遊能力とスサノオのロケットブースター、出来れば人間たちの協力もあれば何とかなるでしょう」
あんじーは考え込んでしまった。
「妖怪内での事なら何とかなるが人間の手を借りるとなると・・・」
統領があんじーの不安に答えた。
「人間の事はこちらで手配するから案ずるな、あんじー」
事は急を擁するため早速移送作戦が開始された。サトリのお婆が大蛇の精神に問い掛け、了承させる。次にスサノオが大蛇の胴を抱え込んだ。大蛇は残り僅かな力を振り絞り、金色の翼を羽ばたかせる。渾身の力を込め、一瞬地面から離れる事ができたそのタイミングを見計らってスサノオのロケットエンジンが着火。白煙を巻き上げて徐々に上昇する。その時、近くまで来ていた富嶽からアンカーが射出され、大蛇に刺さった。浮上に協力してくれているのである。何時の間に来ていたのか、米軍のB⊸2爆撃機も三機、富嶽に続いてアンカーで牽引してくれている。大蛇とスサノオは更に加速、上空に舞い上がっていった。
「ご覧ください!今、オロチがスサノオと富嶽の手によって大気圏外へと連れ出されております。先ほどの首相会見で大蛇対策の最終案として太陽に投下・焼却する事が発表されました。迅速な対応によりまさに太陽投下作戦が実施されようとしております」
テレビ中継を愛鷹山麓で皆と観ていたあんじーが隣の統領に尋ねた。
「太陽に投下?金星に送り届ける筈では」
統領は微笑みながら答えた。
「そうなんじゃが金星では人間共は納得すまい。太陽に落として焼き殺す体で金星付近で軌道を変え、降ろす手筈なのじゃ」
成程、流石は統領と感心するあんじーであった。やがて大蛇とスサノオは大気圏まで到達。富嶽とBー2はアンカーを切り離し、ここで離脱した。
「嗚呼、俺様の最高傑作が二体も・・・」
嘆く酒吞童子を茨木童子が慰める。スサノオは自動操縦でコースを設定してある為、搭乗する要のない茨木童子は降りて来ていたのである。
「なあに兄者、所詮機械なのだからまた造れば良いのだ」
その言葉を聞いたあんじーと統領は同時に同じツッコミを入れた。
「兵器を造るのは禁止じゃ!」
「この度は世話になりました、提督」
神宮寺准将はブルーリッジのネルソン提督に感謝の意を述べた。
「いや、面白い物を見せてもらいましたよコモドール(准将)ジングウジ。日本の兵器はアニメのアイデアから来ているんですなあ。まあ、オロチも日本の怪獣映画そのままでしたし」
「誤解されては困ります!最新の科学技術がアニメや特撮映画に反映されているのです」
山本艦長が二人の会話に割って入った。今回の戦闘で三人は意気投合したのである。
大蛇とスサノオは金星まで到達すると予定通り軌道を逸れて地上に落下した。不死身の大蛇故生き永らえていることだろう。先々人類が金星に行くことがあれば三つ首の羽が生えた怪獣に出くわす事があるかも知れない。
ー第四部後編・完ー
本作は推定対象年齢10~15歳(中二病世代)向け作品として書いておりますのである程度マニアックな部分は深堀しておりません。悪しからずご了承ください