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64話 実感がない

 原因不明の病。

 悲恋の物語などでよく出てくるものだ。


 ヒーロー、あるいはヒロインが病に倒れる。

 治療するために奮闘するものの、その努力虚しく愛する人は他界してしまう。

 そんな物語が多い。


 ただ、それはあくまでも物語の中の話だ。

 現実に原因不明の病が出てくることは、ほとんどない。


 なにしろ、この世界には魔法がある。

 私達はそれほどうまく扱えないのだけど……

 大人になれば、大半の人が習得することができて、奇跡を体現することができる。


 治癒魔法もあり、前世では致命傷という傷も治療することが可能だ。

 それは怪我だけではなくて、病気にも有効とされている。


 故に、この世界に不治の病は存在しない。

 原因不明の病も存在しない。


 まあ。

 絶対なんて言葉は実際は存在しないので、断定はできないのだけど。


「原因不明の病なんて、それは本当なのですか?」

「断定はできないのだけど……その可能性が高い」

「ジークのヤツ、わざわざ城から医者を呼び寄せてきたんだよ。しかも、王族専属の医者。そんな人がなにもわからない、って言うんだ。原因不明だろ?」

「アレックス、君はデリカシーというものにかけているね。確かにそれは事実だけど、もう少しいい方というものがあるだろう」

「アレックス!」

「うっ」


 ジークとフィーの二人に怒られて、アレックスは気まずそうな顔に。

 言葉のチョイスを間違えたと、反省している様子だ。


「……アリーシャ、悪い」

「いいえ、私は気にしていませんよ」


 本当に気にしていない。


 原因不明の病と言われても、正直、ピンと来ない。

 あまりにも現実感がないからだ。


「その方を疑うわけではないのですが、私は、本当に病に侵されているのですか? 過労などの可能性は?」

「それも、ないことはないのだけど、意識を失うほどのものは考えられないそうだ」

「三徹して働き続けてた、っていうなら話は別だけど、そういうわけじゃないだろ?」

「それもそうですね」


 過労で倒れるにしても、それ相応の原因がある。

 その原因にまったく心当たりがない以上、私は原因不明の病に侵されているのだろう。


「うーん」


 とはいえ、やはりピンと来ない。


 突然すぎるせいなのか。

 あるいは、体に不調がないからなのか。


 病と言われても、なかなか納得することができない。


「お医者さまは、なんて?」

「ひとまず、一週間は安静にするように……と。あと、毎日、診察をしたいらしい」

「一週間ですか」


 退屈な時間を過ごすことになりそうだ。

 原因不明の病に侵されたと聞いて抱いた感想は、そんなものだった。




――――――――――




 翌日の昼下がり。


「アリーシャ姉さま!」


 学院の制服姿のまま、フィーが私の部屋にやってきた。

 飛び込むような勢いで、いつものおとなしい様子はどこへやら。


「フィー? やけに早いですね」

「アリーシャ姉さまのことが心配で、走って帰ってきました!」


 小さな体を一生懸命に動かして、走るフィー。

 小動物みたいで、とてもかわいいだろう。

 想像してみたら鼻血が出そうになった。


 とはいえ、それは令嬢としてダメだろう。

 それに転んだら怪我をするかもしれない。


「フィー。私のことを心配してくれるのはうれしいですが、そういう無茶をしてはいけませんよ?」

「あぅ……す、すみません」


 たしなめられて、しょぼんとするフィー。

 反省できる子、偉い。


「アリーシャ姉さま、体の調子はどうですか? 大丈夫ですか?」

「はい、なんともありませんよ」

「本当に? 無理していませんか?」

「していませんよ」


 ずっとベッドの上にいて、おとなしくしている。

 そのおかげなのか、特に体調に変化はない。


「よかった……」


 フィーはとても安心した様子で、小さな吐息をこぼした。

 それから、両手をぐっとして、強く言う。


「アリーシャ姉さま、安心してくださいね! 絶対に、私が治療方法を見つけてみせますから!」

「ありがとう、フィー」


 かわいい妹が私のためにがんばってくれるのは、すごくうれしいのだけど……うーん、このままでいいのだろうか?

 みんなに心配をかけて、苦労をさせて、巻き込んでしまう。


 とはいえ、原因不明の病なんてものを相手にどうすればいいか、まったくわからない。

 難しい問題に、私は、フィーに気づかれないようにため息をこぼすのだった。


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