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25話 温かい

 父さまと母さまにフィーの誕生日のことを伝えると、盛大に祝わなければと、私と同じような反応をした。

 純粋に娘の誕生日を祝いたいという気持ち。

 あと、公爵令嬢として、誕生日は華やかに祝わなければ、貴族としての品格が疑われるという理由もあった。


 どちらにしても、アレックスの忠告通り、派手なパーティーはやめておいた方がいいと、父さまと母さまを説得した。

 そして、身内だけが参加するパーティーに。


 参加者は、私、父さま、母さま、アレックス、ジーク。

 公爵家としてはどうかと思うけど、一家族として見るなら特に問題はないだろう。


 そして、誕生日パーティーはサプライズで行うことにした。

 その方が驚きも喜びも大きいだろうし、なによりも、それが定番だから。

 そんな私の主張が受け入れられて、サプライズパーティーとなった。


 ただ一つ、誤算があった。

 それは、私がフィーを、パーティー会場である我が家へ連れて帰るということ。


「……」

「どうしたんですか、アリーシャ姉さま?」


 放課後。

 今日は気分転換に歩いて帰ろう、という私の主張をなんの疑いもなく受け入れたフィーは、こちらを見て不思議そうな顔をした。


「なんだか、今日は朝から様子がおかしいような気がするんですけど……」

「いえ……なんでもありませんよ」

「本当ですか? もしかして、体調が悪いんじゃあ」

「私なら元気ですよ。少し考え事をしているだけですから」

「そうですか? ならいいんですけど……もしもなにかあれば、私に言ってくださいね。なにができるかわかりませんけど、アリーシャ姉さまのため、一生懸命がんばりますから」


 妹がかわいすぎて、サプライズを黙っていることが辛い。

 今すぐに全部話してしまいそうになる。

 それくらいにかわいい。


「ところで、今日は、どうして徒歩で?」

「疲れましたか?」

「いえ、そんなことはありません。ただ、いつもは、『フィーになにかあったらどうするの』と、アリーシャ姉さまはちょっと過保護なくらいだったので……馬車を使わないのが、不思議に思いました」


 鋭い。

 私が馬車の使用を停止したことに、疑問を抱いているらしい。


 それは、フィーなら当たり前のことだ。

 学舎の成績は普通ではあるが、フィーはメインヒロインなのだ。

 時に、その聡明な頭脳を活かして事件を解決して、ヒーロー達を感心させることができる。

 そんなフィーなので、私の行動の不自然さに気づいて当然だろう。


「えっと……」

「アリーシャ姉さま?」

「……たまには、フィーと一緒に、こうして歩いてみるのも悪くないと思ったのです」

「散歩、みたいなものですか?」

「そうですね。姉妹で一緒にのんびり散歩するのも、悪くないと思いませんか?」

「はい、そうですね。私も、アリーシャ姉さまと一緒に散歩したいです」


 なんて健気なことを言ってくれるのだろう。

 思わず抱きしめて、頬をすりすりして、それからもう一度抱きしめてしまいたくなる。


 とりあえず、ごまかすことができたみたいだ。

 散歩をしたいというのは本音。

 嘘をつくさいは、ある程度の真実を紛れ込まれるといいと聞いたことがあるが、その通りみたいだ。


「ねえ、フィー」

「はい、なんですか?」

「あなたがウチに来て、少しの時間が経ったけれど、なにか困っていることはありませんか?」


 せっかくの二人きりの時間。

 姉妹仲を深めることに利用したくもあったが、やはり、フィーの問題を優先しなければ。

 そう考えた私は、まずは、軽く探りを入れてみることにした。


「困っていること、ですか」

「なにかありませんか?」

「えっと……特にないです。アリーシャ姉さまも、お父さまもお母さまも、とてもよくしてくれていますから」

「そう、ですか」


 よくしているだけではダメなのだ。

 それでは、フィーの心の隙間を埋めることはできない。


 ただ、やはりというか、そのことを素直に言ってくれることはない。

 フィーはいつも通りの顔をして、なんでもないように言う。


 確かに、私達は出会ったばかりで間もないのだけど……

 それでも、私はフィーの姉なのだ。

 辛いことがあるのなら頼ってほしい。

 寂しいことがあるのなら隣に来てほしい。


 それだけのことをしてほしいと願うものの、フィーは遠慮してしまう。

 それは、まだ彼女の心を完全に開くことができていない証拠だ。

 情けない姉だ。

 悪役令嬢とか迫りくるバッドエンドとか、そういうことばかり気にしていたから、肝心なところで大事なことに気づけない。


 自分で自分がイヤになる。


「アリーシャ姉さま?」


 フィーが心配そうな顔になる。

 いけない。

 心の色が表情に出てしまったみたいだ。

 私はすぐに気持ちを切り替えて、笑顔を浮かべる。


「はい?」

「えっと……あれ? 気の所為だったのかな」

「どうしたんですか?」

「いえ、なんでもありません。ただ……」

「ただ?」

「アリーシャ姉さまは、なにか困っていることはありませんか? その……私にできることあれば、なんでも言ってくださいね」


 妹は天使の生まれ変わりではないだろうか?

 彼女の健気な言葉に、私は、本気でそんなことを考えるのだった。


「……ねえ、フィー」

「はい?」

「手を繋ぎましょうか」


 この日のために、色々と準備をしてきた。

 フィーの心を動かすための策も考えてきた。


 でも、それらが全てうまくいくかどうか、それはわからない。

 ひょっとしたら、失敗してしまうかもしれない。


 だから……

 できる限りのことはやっておこうと、フィーに手を伸ばした。


 手を繋ぐことで、私の温もりを分けてあげたい。

 あなたはここにいる。

 一人じゃない。

 そう伝えてあげたい。


「えっと……」


 フィーは、やや戸惑った様子で、私の顔と手を交互に見た。

 照れているというよりは、怯えているという感じだ。


 この子は、誰かと親しくなることを恐れている。

 自分にそれだけの価値があるかわからないと、怯えている。

 その心を少しでも和らげてあげたくて、


「ほら、いきますよ」

「あっ」


 フィーの返事を聞かず、強引に手を繋いだ。


 驚きの声。

 でも、ややあって……


「……アリーシャ姉さまの手、温かいです」


 どこかうれしそうな感じで、そう、ぽつりとつぶやくのだった。

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【家を追放された生贄ですが、最強の美少女悪魔が花嫁になりました】
こちらも読んでもらえたらうれしいです。


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