23話 誕生日なんていらない
家に帰ると、メイドが出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ、お嬢さま」
「ただいま戻りました。フィーは、どこにいますか?」
「申しわけありません。私は把握しておらず……ひとまず、部屋に行ってみてはいかがでしょうか?」
「そうですね、そうします」
フィーの部屋の前に移動して、扉をノックする。
「フィー、私です。いますか?」
返事は……ない。
家にいないのだろうか?
それとも、寝ているとか?
「……私は姉なので、妹の部屋に入るのは普通のことですよね」
よくわからない言い訳を口にしつつ、扉を押してみる。
鍵はかかっておらず、簡単に開いた。
「フィー?」
フィーはいない。
寝ているわけではなくて、まだ帰ってきていないみたいだ。
フィーの寝顔を見ることができず、少し残念。
「あら?」
机の上にとあるものを見つけた。
日記だ。
長い間使っているらしく、けっこうくたびれていた。
「……フィーの日記……」
なにが書いてあるのだろう?
私のことばかり書いている、とか。
姉さま大好き、とか。
「……ふへ」
おっと、いけないいけない。
公爵令嬢にあるましき笑みをこぼしてしまった。
「とはいえ、気になりますね」
私が引っかかっている、なにか、を知ることができるかもしれません。
もちろん、妹とはいえ、日記を勝手に盗み見ることはいけないことなのですが……
もしかしたら、フィーの考えていることがわかるかもしれない。
そう思うと、迷ってしまいます。
「……ごめんなさい、フィー」
申しわけないと思いつつも、私は日記を手に取り、静かにページを開いた。
――――――――――
もうすぐ私の誕生日。
そのことを考えると、とても憂鬱になる。
誕生日は、その人が生まれたことを祝う日。
でも、私の生まれを祝ってくれる人なんていない。
両親も友達も誰も祝ってくれない。
私が生まれたことを喜んでいる人なんて誰もいない。
……誰もいない。
誕生日が来る度に、私は悩まされる。
どうして、私は生まれてきたのだろう?
両親に必要とされていない私が、誰にも必要とされていない私が……
なんのために、今、生きているのだろう?
生きる意味がわからない。
幸いというか、今の生活はとても良い。
アリーシャ姉さまはとても優しい。
公爵夫妻も良くしてくれている。
アレックスも仲良くしてくれているし、最近では、ジークさまとも話をするようになった。
以前に比べて、賑やかな時間を過ごすことができている。
でも……それがどうしたというのか?
いくら楽しい時間を過ごしていたとしても、私は、その幸せを甘受していいような人間じゃない。
なにもない、空っぽの存在なのだ。
自分が生まれてきた意味がわからなくて、いつもずっと迷子になっていて……
みんなが、アリーシャ姉さまが優しくしてくれるのに、なにかあるのではないか? と疑ってしまうような、どうしようもない存在だ。
でも、仕方ないじゃないか。
私は、本当になにも持っていないのだから。
心も魂も、なにもかも空っぽなのだから。
両親に愛されることなく生まれてきたのだから。
なんで……私は、なにもないのだろう?
――――――――――
日記はそこで終わっていた。
「……フィー……」
こみ上げてくるものが押さえられなくて、私はぽろぽろと涙をこぼしてしまう。
片手で目元を押さえるものの、それでも止まらない。
「私は……姉、失格です……」
今の今まで、こんなにもフィーが苦しんでいることに気づくことができなかったなんて。
こんなにも悩んでいるというのに、なにもしてあげられなかったなんて。
自分で自分を殴りたい気分だ。
情けなくて、悔しくて、悲しくて……
そして、ただただ、やりきれなくて。
「ごめんなさい……ごめんなさい、フィー……」
涙が止まらない。
悲しみがあふれる。
でも……そんなことをしている場合ではない。
しっかりしろ、私!
「……よし」
リカバリー、完了。
後悔することは必要かもしれないけど、立ち止まることは求められていない。
私はフィーの姉なのだから、やるべきことをやらないと。
「こんな悲しくて寂しい日記、もう二度と書かせませんからね」
私だけじゃなくて、フィーのバッドエンドも回避してみせる。
私は強い決意を胸に、部屋の外に出た。
それと……
勝手に日記を見てごめんなさいと、心の中で謝っておいた。
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