16話 人間嫌い
あれから、簡単に兵士の事情聴取に応じて……
それからはぐれていた執事と合流して、買い物は中断。
他にもろくでもない輩がいるかもしれないということで、念の為、すぐにフィーを家に連れて帰った。
そして、夜。
一人、部屋でのんびりくつろいでいると、コンコンと扉をノックする音が響いた。
「あの……アリーシャ姉さま、シルフィーナです」
「どうぞ」
「失礼します」
部屋に入ってきたフィーは、とても落ち込んでいるように見えた。
いや。
事実、落ち込んでいるのだろう。
他の人ならわからないくらいの差異かもしれないが、姉である私ならハッキリとわかる。
私の妹センサーで調査した結果、フィーの元気具合はなかなかに低い。
「どうしたのですか? 元気がないように見えますが」
「……私のせいで、アリーシャ姉さまが危ない目に」
あぁ、なるほど。
昼のことを自分のせいだと思い込み、強い責任を覚えているのだろう。
フィーに責任なんて何一つないのに……
あーもう、なんて優しい子なのだろう。
私の妹はかわいいだけじゃなくて、心も天使。
ヒーロー達の嫁に出すことなく、私の嫁にしたい。
って、いけないいけない。
話が逸れた。
ついでに欲望もこぼれた。
「フィーのせいなんていうことは、決してありませんよ」
「あっ……」
そっとフィーを抱きしめた。
それから、いい子いい子と頭を撫でてあげる。
「でも、私……」
「妹が困っていたら、助けるのは姉の役目ですよ。それに、私が同じような目に遭っていたとしたら、フィーはどうしましたか?」
「も、もちろん、助けます!」
「ほら。だから、気にしないでください」
「……私は、アリーシャ姉さまに色々なものをもらってばかりですね」
「それが妹の特権ですよ」
「でも……」
「どうしても気になるというのなら、いつか返してください。私が困っている時、迷っている時、泣いている時……そんな時に傍にいて、優しく抱きしめてください。そうすれば、私はまた立ち上がることができると思いますから」
「そんなことでいいんですか?」
「これ以上の恩返しはありませんよ」
「……やっぱり、アリーシャ姉さまはとても優しいです。それに、おひさまのような匂いがして、大好きです」
にっこりと笑い……
それから、抱きしめられることが心地よかったらしく、すぅすぅと寝息を立ててしまう。
私の妹マジ天使。
「それにしても……」
フィーのおかげで、思い出すことができた。
というか、私はどうして、こんな大事なことを忘れていたのか?
「フィーは、こうしてとても純粋な心を持っているのだけど、ジークはとてつもなくこじらせていましたね」
ジークルートは攻略済みだ。
だから、彼の本当の性格や、心に抱えている闇などは知っている。
第三王子という立場故に、早くから貴族の社交界にデビューをした。
しかし、そこで見たものは腹黒い貴族の汚い笑みばかり。
それにより、彼はすっかり人間不信に。
そんなジークの心を癒やすのがフィーなのだけど……
「参りましたね……」
アレックスの時と同じように、貴族を嫌うヒーローと仲良くならなければならない。
しかも、今度の嫌われ具合はアレックスの比じゃない。
ジークは、心底、人というものに愛想を尽かしているのだ。
メインヒロインの補正はゼロ。
むしろ、悪役令嬢というマイナス補正がかかっている状態で、どうやって仲良くなればいいのか?
「難題ですね。というか、難題ばかり? どうして、こんなにも悪役令嬢の待遇は悪いのでしょうか? といっても、それが当たり前ですね。悪役なのですから……やれやれ」
ため息をこぼして……
でも、フィーの温もりに癒やされて、まあ明日のことは明日考えるか、と問題を先送りにしてしまう私であった。
――――――――――
どうにかしてジークと仲良くなりたい。
友達とまではいかなくても、せめて、顔を覚えてもらい、挨拶をするくらいの関係になりたい。
そんなことを思い、学舎で何度か話しかけてみたものの、全て軽やかに回避された。
にっこりと微笑みつつ、用事があるからと立ち去る。
追いかけてみるものの、すぐに見失う。
そんな日々が続いているために、私は焦っていた。
破滅までの期間はまだあるものの、だからといって、油断はできない。
できるだけスケジュールは詰めておきたい。
そこで、私は一晩かけて考えた作戦を実行に移すことにした。
「あの……アリーシャ姉さま? これからどこへ?」
放課後。
私はフィーを連れて、学舎の廊下を歩いていた。
「ジー……レストハイムさまをお茶に誘ってみようと思いまして」
「えっ、レストハイム王子を!? ど、どうしてそのようなことを……?」
「んー、それは秘密です」
破滅を回避したいから、なんて言えば頭がおかしいと思われてしまうかもしれない。
フィーにそんな目で見られたら、私は、破滅を前に精神的に死んでしまう。
「というか、どうして私も……?」
「フィーがいると、ひょっとしたら、うまいこと仲良くなれるかもしれませんから」
「???」
私と一緒ではあるものの、ひょっとしたらメインヒロイン補正が働くかもしれない。
それに期待して、フィーを連れて行くことにした。
頼んだら二つ返事でついてきてくれた。
かわいい上に優しい。
私の妹は世界一だよね。
「ところで、どうして中庭へ?」
そう。
目的地はジークのクラスではなくて、中庭だ。
人間不信の彼は、放課後、教室に残ることは少ない。
中庭のような人の少ないところでリラックスして、それから帰宅している。
全てゲームで得た知識だ。
「こういう情報は役に立つのですが、肝心の仲良くなる方法はフィーにしか適用されず……なかなかもどかしいものですね」
「適用?」
「いえ、なんでもありません。ただの独り言です」
そろそろ中庭だ。
今日こそ進展してみせる!
そう意気込みつつ、私とフィーは中庭に移動して……
「くっ……何者だ、お前達は!?」
謎の黒尽くめの男達に襲われているジークを発見した。
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