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15話 汚い

 すごい。

 ジークがなにをしたのか、まったく見えなかった。

 気がついた時には、二人の男は地面に倒れていた。


 ゲームでは具体的な描写はされていなかったのだけど……

 まさか、これほどなんて。

 ただ……


「……ふん」


 ジークはとても冷たい目をした。

 倒れる男達に、ゴミでも見るかのような目を向けていた。


 ただ、それは一瞬の間。

 すぐに微笑み王子の呼び名にふさわしい笑みを浮かべると、私達の方を見る。


「大丈夫? 怪我はない?」

「は、はいっ、ありがとうございます!」

「ありがとうございます。レストハイムさまのおかげで、私も妹もなにもありませんでした」


 フィーは若干緊張しつつ、私は別の意味で緊張しつつ、それぞれお礼を言う。

 フィーを心配するあまり、なにも考えずに飛び出してしまったのだけど……

 よくよく考えてみれば、ジークと会うのは必須。

 まだ仲良くなる方法を思いついていないのに……ああもう、どうすればいいのやら。


「なにもないようでよかった。偶然だけど、この男達が……って、あれ? 僕の名前……自己紹介はしていないよね?」

「ご謙遜ですか? レストハイムさまのことを知らない者など、学舎にはいません」

「ああ、そういう……君達も、同じ学舎の生徒だったんだね。でも、ごめん。僕は、君達のことを知らなくて……」

「では、自己紹介をしないといけませんね」

「え?」

「私達のことを知らないのならば、知ってもらえればと。そして、これからは、顔を見かけた時に挨拶くらいはできればと……そう思うのです」

「……」

「どうしたのですか、ポカンとして?」

「……いや、なんでもないよ」


 なんでもない、というような顔はしていないのだけど……

 下手に話を深く掘り下げて、地雷でも踏んだら困る。

 気にしつつ、そのままスルーしておいた。


「私は、アリーシャ・クラウゼンと申します。そして、こちらが妹の……」

「し、シルフィーナ・クラウゼンです! 改めて、アリーシャ姉さまを助けていただいて、ありがとうございました!」


 私のことを心配してくれる妹、かわいい。

 思わず相好を崩していると、なぜか、ジークがじっとこちらを見つめてきた。


「あの……なにか?」

「ああ、いえ。なんでもありません。それよりも、もしかして、クラウゼン公爵の?」

「はい。クラウゼンは私達の父になります」

「……なるほど、そうなんだ」


 あれ?

 なぜかわからないけど、ジークの機嫌が急降下したような?

 笑顔は変わらないのだけど、目が笑っていないというか、つまらないものを見るような目というか……

 気がつかないうちに、地雷を踏み抜いていた。

 でも、どこに?

 自分の言動を振り返ってみるものの、ミスらしいミスをしたとは思えない。


「兵士を呼んでおいたから、すぐにここに……ああ、来たみたいだ」


 ジークの言う通り、二人組の兵士の姿がこちらにやってくるのが見えた。


「じゃあ、僕はこれで」

「あ、あのっ」


 引き留めようとするものの、ジークは足を止めることなく、そのまま立ち去ってしまうのだった。

 それでも、私は言葉を続ける。


「ありがとうございました」


 チラリと、ジークが振り返る。

 肩越しに視線が合い……

 しかし、すぐに逸らされてしまい、ジークはそのまま立ち去った。




――――――――――




「……助けるんじゃなかったな」


 少し早足に街中を歩くジークは、ぽつりとつぶやいた。


 悪漢に絡まれている女の子を助けたのだけど、その正体は、公爵令嬢の娘だった。

 そうと知っていれば、助けることはなかった。

 なぜなら、ジークにとって貴族は最も嫌悪する存在であり、敵と言っても過言ではないからだ。


 二人の兄はすでに成人している。

 それ故に、まだ成人していないジークが後継者レースに参加することはない。


 それでも王族という立場故に、それなりの公務を任されてきた。

 学生の身分であっても、色々な場所へ赴いた。


 そして……人の汚い面をまざまざと見せつけられてきた。

 王族である自分に取り入ろうとする者。

 あるいは、利用しようとする者。

 誰も彼も、その顔に貼りつけている笑顔は偽物で、まるで仮面のよう。

 本心から笑っている者なんて一人もおらず、全員が汚い醜い打算を抱えていた。


 幼い頃からそんな環境で過ごしてきたジークは、人間不信に陥っていた。

 第三王子という立場故に、笑顔の仮面をかぶり、トラブルを起こすようなことはしていないものの……

 心は冷めきっており、人を見下しており……

 特に、傲慢で恥を知らない貴族というものを嫌っていた。


「慣れないことをするものじゃないな」


 気まぐれに人助けをしてみたら、相手は公爵令嬢。

 公爵と話をしたことはない。

 その令嬢と顔を合わせたこともない。


 でも、話すまでもない。

 他の人と同様に、汚い心を持ち、恥を知らず、どこまでも傲慢な存在に違いない。

 人とは、そういうものなのだ。


「……誰も彼もつまらないな。醜いヤツばかりだよ。そして……僕もつまらないヤツだな」


 人間不信のせいで、未だ心を開いた人はいない。

 それだけではなくて、興味を持つことすらない。

 ただただ、空虚で退屈な日々を過ごしていた。


「……」


 ジークは、ふと足を止めた。

 それから先ほどのことを思い出す。


「それにしても……」


 自分でも理解できないのだけど、自然と公爵令嬢の娘達のことを思い返した。

 妹と姉の二人。

 どうせ、他の汚い連中と変わらない。

 心を覗けば、直視するに耐え難い感情が見えるだろう。


 そう思うのだけど……しかし、なぜか気になるものがあった。

 うまく言葉にできないのだけど、心の中で、なにかが引っかかる。


 特に気になるのが……


「アリーシャ……と言ったかな」


 とても綺麗な目をしていた。

 今まで見たことのない、まるで宝石のように輝いていて、それでいて濁りが一切ない透明な感情を宿していて……


「って、僕はなにを考えているんだ」


 所詮、公爵令嬢。

 他の者と同じく、心が汚いに違いない。

 そう決めつけたジークは、再び歩みを再開した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今、15話まで読み進めております。面白いですわ。一つ気になったのですが、公爵家でしたら王家に並んで王位継承権があるはずで従姉妹になるかと。何故会ったことはないのでしょうか?と。
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