13話 出会いのイベント
二人目の攻略対象は王子さま。
同じ学舎に通っているとはいえ、王子さまとの接点なんてなかなか生まれない。
それはフィーも例外ではなくて、最初は、まったくの赤の他人。
それが、どのようにして将来を誓い合う仲に発展するのか?
色々なイベントを乗り越えた末に、エンディングを迎えることができるのだけど……
その第一歩となるのが、出会いの鉄板イベント、不良に絡まれるだ。
買い物をするために街へ出ていると、質の悪い連中にナンパをされてしまう。
強引に連れて行かれそうなところを、ジークに助けられる……そんなイベントだ。
なんてベタな……と思わないでもないが、ベタのなにが悪い。
ありふれた手法ではあるが、それ故に、誰もに愛され支持される。
私も、ジークに助けられた時は胸を高鳴らせたものだ。
「今回は……どうしましょう?」
ジークと仲良くならないといけない、なんてことを考えていたのだけど、他にも方法があるのではないか?
二人の出会いを潰してしまい、ジークルートへの突入を完全に断ってしまう。
そうしたら、ジークによる断罪イベントは発生しないのではないか?
彼が、アリーシャ・クラウゼンを断罪するのは、ひとえにフィーのためだ。
そのために、わざわざ王子としての権力まで使う。
しかし、フィーと知り合いですらなかったら?
いくらなんでも、王子としての権力を使ってまで、アリーシャ・クラウゼンを断罪しようとは思わないだろう。
「ふむふむ、悪くないかもしれませんね」
いや、待てよ?
そうなると、ジークルートは完全に消滅するだろう。
将来、フィーが誰と結ばれるのか、それはわからない。
ヒーローの誰かと結ばれるのだと思うのだけど……
ジークルートを消滅させた場合、彼と結ばれる可能性は消える。
それはつまり、フィーの恋を邪魔するようなもの。
将来の選択肢の一つを奪い、幸せを消すようなもの。
「うぅ……あんなにかわいい妹の幸せを奪うなんて、そんなこと……」
ダメ!
そんなこと、私にはできないわ。
いくらバッドエンドを回避するためとはいえ、フィーの幸せを奪うなんてことはできない。
私は、あの子の姉なのだから。
かわいくて可憐で健気で綺麗で優しい妹の幸せを奪うなんて、やれるわけがない。
そんなことをするなら、バッドエンドを迎えた方がマシだ。
私は悪役令嬢である前に、一人の姉なのだ。
フィーのことを一番に考えないとダメ。
「そうなると……イベントはこのまま発生させるとして、やっぱり、仲良くなる方法を模索した方がよさそうですね。とはいえ、どうしたものか……」
この時ばかりは、ゲームの知識は役に立たない。
悪役令嬢がヒーローと仲良くする方法なんて、ゲームをプレイしても知らないのだ。
それは、アレックスの時に痛感した。
さて、どうするか?
「ジークの趣味は……確か、乗馬ですよね?」
休日は郊外の牧場で、馬に乗っているのだとか。
実に王子さまらしい趣味だ。
「私もその牧場へ足を運び、どうにかして乗馬を教えてもらう……そうして、何度か顔を合わせることで仲良くなる……うん、悪くないかもしれませんね」
ジークは穏やかな性格をしていて、基本的に優しい。
丁寧に頼めば、断れることはないと思う。
そのまま仲良くなることは、おそらく可能だ。
「そうね、そうしましょう」
そうと決まれば、さっそく現地の視察に行こう。
なにも知らないと、予期せぬトラブルに遭遇するかもしれないし、下見は大事だ。
「せっかくだから、フィーも誘いましょうか?」
ついでに、かわいい妹と一緒に牧場体験……うん、いい!
私は部屋を出て、隣のフィーの部屋へ。
扉をノックするのだけど……しかし、返事がない。
「お嬢さま、シルフィーナさまをお探しですか?」
通りすがりのメイドに、そう尋ねられた。
「はい。一緒に出かけようと思ったのですが……どうやら、部屋にいないみたいですね。あなたは、フィーがどこにいるか知りませんか?」
「シルフィーナさまなら、街へ出かけました」
「街へ?」
「お菓子作りのための材料を発注しに行く、と」
先日の一件以降、フィーはよくお菓子を作っている。
そして、私が味見をすることに。
妹の作るお菓子は最高だ。
甘さが絶妙で、いくらでも食べられるほど。
そのことを伝えるとフィーはとても喜んで、一層、お菓子作りに熱中するようになった。
「なるほど。それで街に買い物へ……買い物?」
ジークとの出会いのイベントは、街に買い物へ出たところ、質の悪い連中にナンパをされて……
「あっ!?」
出会いイベント、今日だったのか!?
ゲーム内では日付なんて表示されないから、さすがに日時まではわからなかった。
まずいまずいまずい。
フィーは護衛を兼ねている執事を連れているのだけど、人波に飲まれてはぐれてしまい、その先で質の悪い連中に絡まれてしまうのだ。
ジークとの出会いなんて、この際、どうでもいい。
問題は、フィーが悪質なナンパをされるということ。
ゲームの通り、ジークが助けてくれるのならいいのだけど……
でも、もしもジークが現れなかったら?
この世界がゲームの通りに動いているなんて保証はない。
下手をしたらフィーは悪人に連れ去られて、ひどいことを……
「お嬢さま? どうかされましたか? 顔色が悪いようですが……」
「フィー、今行きます!!!」
「お、お嬢さま!?」
すぐに駆け出した。
なにやら後ろの方でメイドが叫んでいたが、フィーのことで頭がいっぱいで、なにを言っているかさっぱりわからない。
今は時間がない。
私は屋敷を飛び出して、勢いよく街に駆けた。
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