世界の創造
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「以前の創造主様、ですか?」
祈世は想定外の単語の登場に困惑したような声を上げた。それは他の神々も同様だったが、少年はとりあえず話を進めることにした。
「そう、僕の先輩。以前の創造主は自分自身を殺すことで全ての世界を、そして神々を滅ぼした。だから次の創造主が必要になり、僕が選ばれた」
創造主の死というものは、言わば世界と神々を巻き込んだ心中のようなものだ。何故ならば創造主がいなければ世界は成り立たず、どうせ朽ち果ててしまうからである。
そして創造主が死ぬと、自動的に次の創造主が誕生する。これは自然的な現象に過ぎない為、それは誰の意図も思惑もないのだ。
逆に言えば、創造主が死なない限り新しい創造主――二人目は誕生しないのだ。これが何でも可能にしてしまう創造主にできない数少ないことの一つでもある。
創造主は自分が生きている状態で新しい創造主を創ることはできないのだ。創造主は反則的な力を有しているが全てを可能に出来るわけではない。
だからこそ少年は自分の力を限りなく絶対に近い、と称したのだ。
「あのぅ……先程から疑問に思っていたのですが、何故創造主様は創造主に選ばれたのでしょうか?よろしければこの老いぼれに教えて頂けませんか?」
少年の話を遮ることになってしまい、申し訳なさそうに手を挙げたのは千歳だった。それぐらいで可愛い女神に対して少年が怒りの感情を持つことなどありえないのだが、創造主に対する態度としてはこれが正常なのだ。
「えっとね、僕は普通の人間だった頃から、普通じゃなかったんだ」
「は?どういうことだよ」
少年の回答はとても奇妙なものだった。少年は創造主になる前は普通の人間だった。だがその時点で普通の人間とは一線を画していたということになる。
少年の言い方では、他の人間と能力値が違ったとか、そういう次元の話では無いように神々は感じた。明らかに人間の持たざるものを持っているような、そんな言い方だった。
だがそんな人間の存在を知らない武尽は疑問を呈し、他の神々も首を傾げるほかなかった。
「僕は創造主になる前から……何て説明すればいいのかな。えっと、人の気持ちを読んだり、魂の声を聞くことが出来たんだ」
「ただの人間にそんな力が……?」
「うん、というか、ただの人間なのにそんな力があったから創造主に選ばれたんじゃないかと僕は考えてる。まぁこればっかりは本人探してその魂に直接聞くしかないんだけど」
少年の告白にデグネフは驚きの声を上げた。
少年は様々な物の魂の声を聞くことが出来た。それは人でも、生き物でも、神でも、そして世界でも。だからこそ少年は世界の終わりを予期することが出来たのだ。
世界の終末を恐れ、嘆く世界自身の魂の声を聞いたことによって。
少年はその能力こそが創造主に選ばれた原因なのではないかと考えているのだ。そしてその選んだ張本人が以前の創造主なのではないのかとも考えている。
「だから以前の創造主について調べたいと?」
「まぁ、そうだね。世界と心中した理由も知りたいし」
少年の話で以前の創造主について調べたい理由が分かったデグネフは漸く納得することが出来た。
少年は知りたいのだ。何故自ら命を絶ち、世界を滅ぼしたのか。そして、なぜ自分を創造主に選んだのかを。
「大体の目標はこんなところだよ。それじゃあ早速だけど、僕はこれから世界を五つほど創ろうと思う」
少年は探した。世界を創造する為に必要なもの――世界というものに生まれ変わるにふさわしい魂を。
だが世界になるにふさわしい魂などそうたくさんいるものではないので、少年は五つの適切な魂を探すのにかなりの時間を要した。
「世界にも魂があるなんてびっくりです」
カルマは世界にも魂が宿っているという知識を持っていなかった為驚きの声を上げた。世界はそこに息づく者たちの大地であり基盤である。
そんな世界を生物として捉える者はほとんどいない。だが世界にも必ず魂が存在し、そして生きているのだ。
「まぁね。でも世界に生まれ変わる……なんてかなり前世で悪いことしてないと不可能なんだけど」
そう、世界に生まれ変わるということは一言で言えば悲劇なのだ。何故ならば、以前の創造主がしたように世界が消失しない限り、世界は永遠の孤独を味わう羽目になるからだ。
生物と違って、創造主が望むか余程のことが無い限り世界は消失しない。つまり他の生物と違って、輪廻転生することもできないのだ。
世界は永遠に孤独である。自分の意思で行きたいところにも行けず、話すこともできず、一人きり、そこに存在することしか許されない。
だからといって意識が無いわけでもない。きちんとそこには意識はあり、意思もある。だからこそ、世界という存在に待ち受けているのは、一生の孤独しかない悲劇としか言いようのない人生なのだ。
世界はそんな悲劇に耐え切れなくなった時、大災害とも呼べる自然現象を起こすことしかできない。それ以外には本当に何もできないのだ。
そんな悲惨な人生しか待っていない世界に生まれ変わるということは、その魂が前世で余程の悪事を働いて薄暗い色になっていなければ少年は選んだりしないのだ。
だが世界に生まれ変われるほどの淀んだ魂はそうそういない。多少の淀みを持つ魂は数えきれないほどあるのだが、真の淀みを持つ魂は数えるほどしかいなく、探すのに手間がかかるのだ。
それは逆に、真の悪というものはそんなに存在しないということでもあるのだが。
「よし……見つかった」
少年はそう呟くと目を閉じ、創造する五つの世界のイメージを固めた。時間をかけて見つけた世界になるにふさわしい魂五つを基に、少年は一瞬のうちに五つの世界を創造してしまった。
創造したと言っても、世界は少年たちがいるのとは別の空間にそれぞれ造ったので、すぐにその存在を視認することはできない。
少年は五つの世界全てを見通すことが出来る薄くて大きな液晶パネルのようなものを創造すると、それを見やすいように上の方に移動させた。
そのパネルは横に五等分されていて、五つの世界を瞬時に比較することが出来るようになっていた。どの世界も森や海や山といった自然の風景が広がるばかりで、これといった違いを見つけることはできない。
それもそのはず。世界はまだ誕生したばかりで人も動物も虫もまだ世界にはいないのだ。今この世界に存在する魂を持つ生物は植物しかいなく、このままでは何の発展をしない。
「これからこの五つの世界に動物や人、他の種族の者を誕生させて、食物連鎖の基盤を創るんだけど、どういう生き物を誕生させるかは皆に決めて欲しいんだ」
「私たちがですか?」
「そう!二人一組になって世界を管理して欲しいって言ったでしょ?そのペアで自分たちの世界にどんな生物を住まわせるか相談して欲しいんだ」
虚を突かれたように質問したデグネフに少年は詳細を説明した。
世界には様々な種類があり、様々な異なる点がある。その中には住まう生物の違いも存在する。
少年が普通の人間として生きてきた頃の地球は言語を話す種族は人間しかいなく、科学が発展した世界だった。
だがその頃にも他の世界は確実に存在していて、そこにはエルフやドワーフ、魔族や魔物など様々な生物が存在していた。
地球と違い科学は無いが魔法が発展している世界や、科学と魔法両方を兼ね備えた世界もあっただろう。
このように世界には様々な特色があり、そこに住まう生物をどうするかという問題はその世界の方向性を大きく左右するのだ。
そんな重要な決め事を創造主である少年ではなく神々に任せると宣言した為、デグネフは驚きを隠すことが出来なかったのだ。
「それならまず、ペアを組まなければいけませんね」
少年の要請を聞いたリンファンは最優先すべき事項を確認した。
「まぁ皆会ったばかりだし、希望が無ければ僕が適当に相性の良さそうな二人を選別するけど……」
「あ、あのぉ……」
〝好きな子と組んでください〟などという教師あるあるのセリフもこの状況では使えない。会ったばかりで好きな子も何もないからだ。そもそも少年はボッチの気持ちを全く考慮していないこのセリフを好んではいなかった為、元から言うつもりはないのだが。
少年がペアを決めようとすると、カルマの後ろに現在進行形で隠れているカルナが顔を真っ赤にしながらおずおずと手を挙げた。
何か言いたげなのに一向に何も話そうとしないカルナを見て、少年は何かを察知しカルナの目線までしゃがみこんだ。
「カルナはやっぱり、カルマと一緒がいい?」
「はい……」
「じゃあ双子組はそうしようか」
「「ありがとうございます」」
カルナは前世からの肉親であるカルマとのペアを希望した。ただでさえ人見知りが激しいカルナがこのように考えるのはごく自然なことなので、少年はカルナの心の声を読むまでもなく理解したのだ。
少年の配慮にカルマとカルナはお礼を言うと、同時にその愛らしいつむじを少年に向けた。
「それじゃあ他の皆は僕がペアを決めるよ。異論はない?」
神々の中に異論を唱える者はいなかった。少年はそれを確認すると、早速世界を管理する上でのペアを決めていった。
出来上がった五つのペアは、デグネフ・クランペア、ハクヲ・千歳ペア、祈世・リンファンペア、武尽・静由ペア、カルマ・カルナペアという組み合わせになった。
デグネフ・クランペア担当の世界――〝ヒューズド〟は人間、モンスターや魔人、エルフや精霊といった種族の住まう魔法の発達を軸とした世界になった。
ハクヲ・千歳ペアは人間のように言語を話す種族を誕生させなかった。動物や虫しか存在しない、ただ食物連鎖が繰り返されるだけの〝ライン〟という世界になった。
祈世・リンファンペアの世界――〝インフェスタ〟は人間や動物と、意思を持たないモンスターだけが存在する剣と魔法の世界になった。
武尽・静由ペアの世界――〝炎乱〟は人間が科学の発展を、他の種族が魔法の発展を武器に生存する、科学も魔法も存在する世界になった。
カルマ・カルナペアの世界――〝バクス〟は人間や他の種族のほとんどが魔法ではない特殊な能力を持つ、特殊能力者の世界になった。
以上の五つの世界を神々のペアで管理することになり、少年が創造主になってから数時間で世界の針が着実に動き始めていた。
明日も更新予定です。
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