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さよなら世界、ようこそ世界  作者: 乱 江梨
第一章 世界の終わり、世界の始まり
6/76

名付け2

――耳の良い男神の場合――


「…………」

「…………」

「「?」」


 一人の男神と少年以外の全員がその二人の行動に首を傾げた。何かしていることは分かるが、何をしているのかが全く分からなかったからだ。


 男神の方は少年に創造され、衣服を着用した後はずっと部屋の隅の方で耳を塞いで座っていたのだが、少年がそんな男神に歩み寄り何かを察知すると今の状況が出来上がったのだ。


 僅かに二人の口が開いていたので会話をしているということは神々にも判断できたが、あまりに小さい声でその内容を聞き取ることはできなかった。


 その男神は身長約一七〇センチで健康的な体格をしていた。胸の部分まで伸びた長髪は水色で、センターで分けた前髪も十分に長いものだった。


 男神は神父が着るような純白のカトリックに身を包んでおり、その端正な顔立ちからも清廉さが滲み出ている容姿だった。


 全体的に色素の薄い男神だったが、ただ一点、その瞳だけが少年と同じ日本人のような純黒だった。


『君、耳が良すぎるんだね。良すぎるから、普通の音がとてもうるさく感じてしまう。今の僕の声なら大丈夫?』

『はい。お手間を取らせてしまい、申し訳ありません。能力とも言っていいこの聴覚を私はコントロールすることが出来ないんです』


 少年はこの男神の超聴覚に気づき、常人では聞き取れないような、常人では発することが出来ないほど小さな声で男神に話しかけたのだ。


『今から僕が君の能力をコントロールできるようにするのは簡単だ。でもそれじゃあ僕の力に依存することになる。僕は君たちに出来うることは君たちにやって欲しい。だから君がその聴覚を制御できるまでは、これをあげる』

『これは?』


 少年が男神に手渡したのはヘッドホンのようなものだった。黒を基調とし、所々に水色があしらわれたまさにこの男神のためのヘッドホンだったが、もちろん音楽を聴くためのものでは無い。


『これは君の聞こえすぎる耳を常人レベルにまで下げることが出来る道具だよ。今創った』

『!……ありがとうございます』


 男神は少年からヘッドホンを受け取ると、感激したような声でお礼を言った。


 少年になら男神が自分自身の力で超聴覚を制御できるようにすることができる。だが少年は自分の力で子供である神々の成長を阻むことをしたくはなかったのだ。


 少年は創造主になった時から決めていた。この絶対的な力は、家族を守るために使うのだと。


 少年が神々のために何でもかんでも力を与えることは、守ることとイコールではない。だからこそ、少年は応急処置としてその道具を男神に手渡したのだ。


 男神はヘッドフォンを耳につけると驚きと感激で目を見開いた。先刻まで聞こえていた生物の呼吸音、心臓の音、誰かが僅かに動いた音……その全てが全く気にならないほど聞こえなくなったからだ。


「すごい……」


 普通の音量でしゃべっても自分の声がうるさいと感じることがなかった。この異様な変化に男神は驚きを隠せずただ呆然としてしまった。


「じゃあ男神くんの名前はリンファン……でいいかな?」

「はい。一刻も早く、この能力を制御してみせます」


 勢いよく立ち上がり笑顔で男神の名前を呼んだ少年に、男神――リンファンは跪き頭を下げると、少年への忠誠を誓った。




――双子の神の場合――


「可愛い……って、僕ってばさっきからこれしか言ってない気がする」

((確かに……))


 少年の意見に神々は心の中で同調した。心の声を聞くことのできる少年からすれば、口に出そうが思っていようがどちらも聞こえるので違いはさしてない。それが本心か上辺のものかという違いがあるだけで。


 少年がまたしても心を奪われたのは子供の容姿をした二人の神だった。


 身長約一二〇センチと二人とも小学生ほどしかない背丈の男神と女神で、よく似た顔はまるで双子の様な神だった。


 男神と女神は二人ともクリーム色のふわふわとした髪をショートカットにしていて、髪型で唯一違ったのは男神の前髪は左分けで、女神の方は右分けという点だけだ。


 この二人の容姿で異なる点はもう一つ。それは目だ。二人は互いに隻眼で片目を眼帯で隠していたのだが、その左右が逆だったのだ。


 男神の方は左目が、女神は右目がそれぞれ機能しておらず、その代わりに見えている方の赤い目はすさまじい視力を持っているのだ。


 男神はシンプルな白のシャツにチェック模様のついた茶色のサスペンダー付きショートパンツをはいていて、子供の容姿にぴったりの格好をしている。


 女神も男神とほぼ同じ格好をしていたが、ショートパンツの部分がショートスカートになっていて、女の子らしさが出ていた。


 そして二人とも脛の部分まで長さがある白い靴下に黒いローファーを履いていた。


 そんな可愛らしい容姿の二人が仲良く手を繋いでいるという状況で、更に愛らしさが増した二人を見て、少年は先刻の言葉を漏らしたのだった。


「創造主様は千歳や武尽に対しても可愛いと仰っていたので、我々とものの捉え方が違うのかと思いましたが、あの二人に関しては同意見と言わざるを得ませんね」


 ハクヲの意見に他の神々も同調するように頷いた。それ程までに二人の神の容姿は可愛らしく、庇護欲を掻き立てるものだったのだ。


 特にかわいいもの好きのデグネフは、二人のあまりの可愛さにプルプルと震えながら口元を抑えており、その感情を周りの神々に読まれまいとしていた。


「そうかぁ?吾輩はガキが嫌いだからな、どうも分からん」

「確かにあの二人の神は容姿こそ子供ですが、年は私たちと同じですよ」

「吾輩、形から入るタイプだからな」

「何ですかそれ」


 二人の神に対する評価に難色を示したのは武尽だった。そんな武尽に正論をぶつけたデグネフに、武尽は苦しい言い訳しかできていなかった。


 最も武尽は子供が嫌いというよりも、あの二人の神と自分が少年の目には同じ〝可愛い〟という印象に映っているという事実から目を逸らしたかっただけなので、本心からの言葉ではないのだ。


「君たちそっくりだね」

「僕たちは前世で双子だったんです」

「そ、そうなんです……」


 少年が屈んで二人の神に話しかけると、男神の方がはきはきと応答した。一方の女神は恥ずかしがるように男神の背中に隠れると、細々とした声で答えた。この少しの会話だけで二人の関係性や性格がはっきり分かり、少年は思わず破顔してしまった。


「へぇ、前世の記憶があるのか……珍しいね。僕とおそろいだ」

「おそろい……ですか?」

「うん。まぁ僕の場合は創造主だから前世っていうのとは少し違うのかもしれないけど」


 基本的に輪廻転生に従って生まれ変わった魂というのは前世の記憶を無くす。だが極稀に前世の記憶を持っていたり、何かのきっかけで前世のことを思い出す魂が存在する。


 それがこの双子の神だった。


 創造主である少年の場合は人間として死んだ後、その意識を保ったまま創造主となり、身体を創ったので輪廻転生とは少し違うのだが、少年の人間だった頃は前世といっていいものなのだ。


 少年の言葉に可愛らしく小首を傾げた男神の姿に、少年は思わず笑みを零した。


「じゃあ前世の君たちは余程の善行を積んだんだろうね」

「いえ、そんな褒められるほどでは……」


 明らかな謙遜だった。理由は簡単、そうでなければ神になどなれないからである。


 神という生物は創造主である少年が厳選した善良な魂から選ばれ誕生する。前世で積み重ねてきた善行の褒美として神に生まれ変わり、特別な力が与えられるのだ。


 だからこそ前世の記憶を持つ男神のこの言葉は謙遜以外の何物でもなかった。


「前世……?」


 少年と男神の会話で交わされた〝前世〟という単語に反応したのは祈世だった。大きく目を見開き、ポカンと口を開けたその表情は、まるで何か大事なことを思い出せそうな、そんな不安定なものに見えた。


「祈世、どうかした?」

「……あっ、いえ……何でも、ありません」


 祈世の様子がおかしいことを瞬時に感じ取った少年は心配そうに尋ねた。だが少年の質問に祈世は適切な答えを出すことが出来ず、言葉を濁すことしかできなかった。


 祈世にも分からなかったのだ。この奇妙な感覚が何なのか、自分は何をこんなにも不安に感じているのか。どうして前世という単語に酷く反応したのか。


「前世が双子だったなら……男神くんがカルマ、女神ちゃんがカルナ、でいいかな?」

「「はい」」


 少年の問いかけに男神――カルマははっきりと、女神――カルナは細々とした声で返事をした。少年は二人の可愛らしさに微笑みつつも、先刻の祈世の様子の変化が気になり真剣な表情に戻った。


 だがいくら祈世の心を読もうが、本人にも正体が掴めない、得体の知れない不安を拭うことは流石の少年でもできないので、少年はこの件を保留にすることにした。



 その時の少年は、そして祈世は知らなかったのだ。この不安の正体が、後にどんな事態を招くのかを。







「はいはーい!デグネフ、祈世、武尽、ハクヲ、千歳、静由、クラン、リンファン、カルマ、カルナ。全員ちゅうもーく!」


 全員の神の名付けを終えたところで、少年は教壇のようなものの上でジャンプすると、同時に片手を勢いよくあげて神々たちに号令をかけた。それにより、先刻まで爆睡していた静由も流石に目を覚まし、少年の方へ歩み寄った。


「えー、これからのとりあえずの目標というか、やるべきことを発表しまーす」


 少年は創造主としてこれからすべきこと、そして神々がすべきことを明確にするために神々を呼んだのだ。少年は創造主として生まれた瞬間から、自分のすべき使命というものを直感的に理解した為、それを神々に伝えたかったのだ。


 それに加え、創造主としてではなく、少年自身が行いたいこともあったので、その旨を神々に説明しようと考えたのだ。


「まず一つ、世界を創造すること。まぁこれは僕の仕事だね。世界と神の創造は創造主にしかできないことだから。そして二つ、その世界を管理すること。これは皆の仕事だ。僕がこれから創造する五つの世界をみんなには二人一組になって管理して欲しいと思ってる」

「二人一組?」


 世界の創造、そしてその管理。これが少年が創造主としてすべき絶対項目だった。逆に言えばそれ以外は特に何もしなくてよいのだ。不測の事態でもない限り。


 世界の創造と違い、世界の管理は神々の仕事だ。創造主にしかできないことは少年がやり、それ以外は神の仕事というのが暗黙の了解で、それについては誰も疑問を呈さなかった。


 だが少年が発した〝二人一組〟という単語に武尽は不満気な声を上げた。


「おやおや、何か不満かね?武尽くん」

「何で一〇の世界を創って一人に担当させないんだ?吾輩たち一人一人じゃ不満ってことか?」


 教壇に乗っているからか、少年は教師のような口調で武尽に問いかけた。武尽は世界の管理が神である自分たちでも手に余る事項であると少年が考えているのではないかと思い、それを危惧したのだ。


 超人的な力を有する神々の中でも武尽は最強武神にふさわしい戦闘力を持つ鬼神だ。だがそんな武尽にも敵わない存在がいる。それこそが唯一無二の創造主だ。


 武尽にとっての絶対的強者である創造主に認められるか否かという問題は、武尽の中でかなり重要視されるもので、少年が自分のことを一人前だと認識していないということになると、武尽にはかなりショックなことなのだ。


「違う違う。もう、武尽ってば拗ねないでよ」

「す、拗ねてねぇよ」


 少年が武尽を宥めると、武尽は異論ありげに慌てて否定した。


「いい?世界の管理は非常にデリケートな問題なんだ。神がむやみにその力を世界に住まう生物のために使うのはマナー違反だし、かといって何もせず放っておくわけにもいかない。その絶妙な距離感を保たないといけない。だからこそ、二人一組になって行動することで、自分のことを必ず客観視してくれる相手が常にいてくれる状況が生まれるんだ。分かる?」


 神はむやみに世界に住まう生物に干渉してはいけない。理由は簡単、人間が神の力に依存してしまうからだ。


 例え世界で非常事態、例えば戦争が起きても神はその力で戦争を収めることを基本的にしてはいけない。一度そんなことをすれば、人間は神の力に頼り、依存し、堕落していく。


 そうすれば戦争など起きなくても、その世界は終わったも同然になってしまうのだ。だから神は生物のために力を振るうことはほとんどない。


 そして、神々が行う世界の管理は非常に曖昧なもので、これといった絶対的な手本が無いのだ。だから時には神が世界との距離感を間違えてしまうことがあるかもしれない。そんな時にそれを指摘してくれるパートナーがいた方が少年は安心だったのだ。


「……理解した」

「物分かりが良くて助かるよ。武尽は何だかんだでいい子だね」

「うるせぇ……つか手ぇどけろ」


 少年は教壇+背伸びで武尽の頭まで手を伸ばすと、いい子いい子と宥めるようにその頭を撫でた。完全に少年から子ども扱いをされていることに腹を立てた武尽はその手を払うと、若干赤くなった顔で少年を睨みつけた。


 またもや少年に対して不躾な態度をとった武尽にデグネフは射殺さんばかりの眼光を向けたが、武尽にダメージは全くなかった。


「えーっと、世界の創造の他にすべきこと……というか僕が個人的に調べたいことがあるんだけど、聞いてくれるかな?」

「何ですか?」


 これから絶対的に行わなければならないことが世界の創造と管理なら、必要に迫られるわけでは無いが少年が個人的にやりたいことがこれから話す事案だった。


 流石に少年の考えを読むことはできない為、神々はそれぞれ首を傾げ、カルマは疑問の声を上げた。


「僕は、以前の創造主について調べたいと思っているんだ」




 明日も更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] カルナがカルネになってる箇所があります。
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