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さよなら世界、ようこそ世界  作者: 乱 江梨
第四章 最強幼女襲来、神々への敵意
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その名を呼ぶ時

 第四章完結回です!

ブックマーク登録ありがとうございます!

「一回死んでみよっか?」

「は……?」


 刹那、レールスの意識が途切れる。


 ――そう、死んだのだ。命の言った通りに。


 簡単に事切れてしまったレールスを、命は心底つまらなそうな目で見下ろす。だが今回に限って言えばレールスは何一つ悪くない。


 命が少しでも〝死ね〟と思った相手は例え神であろうと一瞬で死んでしまう。まぁ命が愛する神々にそんな感情を抱くことは世界が滅んでもあり得ないのだが。


「生き返って」

「…………な、何が……」


 命が一言口にするだけで、レールスはすぐにその命を吹き返した。一度死んだことに気づいているのかいないのか。レールスは当惑したまま命に鬼胎の視線を向けた。


「どう?一回死んだ気分は」

「あっ……あ…………」


 命はその瞳の色を窺わせることなく冷たい笑みを浮かべると、レールスに心境を尋ねた。レールスは目の前の異形な存在に自分は本当に殺されたのだと自覚してしまい、あまりの恐怖で口元を震わせた。

 

 レールスは気づいたのだ。自分が一体どんな存在を敵に回していたのかということを。だが今更気づいたところで時既に遅し。


「これが創造主だよ。命が思うだけで君は何百回も、何千回も、何万回も死ぬ。命の言っている意味が解ったでしょう?君のやっていることは、お笑い草以外の何物でもないんだって」


 レールスの身体に走る震えは留まることを知らず、顔色は病人のように真っ青になっている。レールスは自分の愚かさを思い知ったのだ。神々を滅しようとしたその瞬間から、自分の人生は終わっていたのだと。


「じゃ、レールスくんに自分がいかに愚鈍で無知だったか自覚して貰ったし、もう用は無いよね!」

「ひっ……」


 人生で二度死んだレールスが三度死ぬことは無かった。命はレールスの遺体を跡形もなく消すと、すぐに興味を失くした様に神々を一瞥した。



「命様、魂ごと殺さなくていいのですか?です」

「うん。皆に少しでも傷をつけていたら輪廻転生なんてさせないけど、そうじゃないし。まぁどうせ来世は相当酷いだろうから別にいいよ」


 神々には命がレールスの身体だけを死に至らしめたのが分かったので、クランは単純な疑問として命に尋ねた。

 大事には至らなかったとはいえ、神々に敵意を向け、あまつさえ自分が世界を治めようとするなど、本来考えられない程愚かな罪だ。


 だが命はレールスの魂を殺さなかった。天界の住人にとっては魂の死を迎えず、無事輪廻転生の輪に入ることが魂にとっての至上の幸福である。そういう認識を持っているからこそ、命がレールスに与えた罰は神々からすれば甘く見えたのだ。


 とは言っても、レールスの来世が虫よりも酷いだろうというのは明確なので、相応の罰は受けるのだ。


「とりあえず、あそこの可哀想な子たちは記憶改ざんしたら下界に戻そっか」

「命様、それでしたら私が」

「わらわも手伝うのじゃ!」


 命は檻に囚われたインフェスタの異分子たちを指差すと簡潔に言った。

 あの一〇人はレールスに神々は悪の存在だという嘘の認識を植え付けられていただけなので、命的には罰する必要はないと判断したのだ。


 だが神々の姿を見たあの一〇人をそのまま下界に返す訳にもいかないので、記憶を改ざんしてから解放するしかなかったのだ。


 命の提案にデグネフとソヨが名乗りを上げた。デグネフは神々の中でもかなり魔法を得意としているし、ソヨも自分の前世の記憶を己の魔法で取り戻してしまう程の魔法使いだ。そんな二人にとって記憶改ざんなど赤子の手を捻るようなものである。


「じゃあよろしく」

「かしこまりました」

「了解なのじゃ!」


 インフェスタの異分子たちに行った記憶の改ざんは大きく分けて二つだ。


 一つは異分子たちの記憶に刻まれた神々や天界に関する一切を消去すること。炎乱のように神子が存在する世界なら話は別だが、たかだが下界の住人が神々の姿を知っているとなると問題なので、そこはきちんと対処する必要があるのだ。


 因みに記憶を消すからには徹底しなければならないので、男に変えられた哀れな女はきちんとルミカによって元の性別に戻してもらった。神々の記憶が無い上で元々女だったはずの人間が男に変わったままだと矛盾が生じてしまうからだ。


 そして二つ目は記憶を消すのではなく、植え付ける場合だ。植え付けた内容はレールスの罪と神々への認識が誤りであるという事実。そうすればレールスがインフェスタの人々を騙していたことが明るみになり、住人達もインフェスタの天災を神々のせいだとは徐々に思わなくなるからだ。



「あ、そうだ。わらわちゃん、これからどうする?」

「これから?」


 唐突に問われたソヨは思わず首を傾げた。命の指す〝これから〟が一体どの程度のものなのかが分からなかったのだ。


「そ。わらわちゃん、インフェスタに帰りたいと思う?」

「……命には、何でもお見通しなのじゃな」


 慈しむ様な目で優しく問いかけた命にソヨは心底脱帽し、同時に自嘲した。目の前の存在には隠し事など通用せず、露わになった自分の脆い部分が嫌になってしまったのだ。


「わらわは二五年という年月の間、自分の才能を全てインフェスタのために使ったのじゃ。インフェスタがより豊かに、インフェスタの人々がより幸せになる様に尽力したのじゃ。じゃが、皆はレールスの妄言に騙され、わらわのことをちっとも信じてはくれなかったのじゃ。今までわらわがしてきたことは一体何じゃったのだろうと、その時初めて考えてしまったのじゃ」


 ソヨには家族がいない。捨て子だったソヨはその高い魔力と才能を見込まれ、インフェスタの魔法使いとなり、その力をインフェスタのためだけに尽くした。


 だがソヨには心を許せる友と呼べる相手さえおらず、唯一親交ができたのは異世界の炎乱を訪れ、弥永と出会ったのが初めてだった。


 それでもソヨは名前も顔も知らぬ者たちのために必死に戦った。魔法の実力を高め、インフェスタの人々のために尽くすことで、自分を好きになってもらいたかったのだ。


 だがインフェスタの人々は自分の表面部分しか見ていなかったのだと、あの瞬間にソヨは思い知らされた。


「今更わらわを信じなかった者たちの元へ帰るつもりはないのじゃ」

「じゃあ、ここに残る?」

「……なんじゃと?」


 命の提案はソヨにとっては選択肢の中の一つにも無かったもので、ソヨはあからさまに呆けた面で呟いた。一方、神々の方も命の唐突過ぎる発言に目を見開いている。


 ソヨはもちろんインフェスタに帰るつもりは無かったが、それはどこか別の異世界でこれからの人生を謳歌しようという意味だった。

 ソヨは炎乱という世界を気に入っている上に、炎乱には仲のいい弥永も住んでいる。一番の候補はそんな炎乱だったのだ。


 だが命から提示されたのは天界に住むという全く別の選択肢だった。


「わらわちゃんの魂なら今のままで神様になれるよ。そしたら天界に住めるし」

「そんなことが可能なのじゃ?」

「うん、命がわらわちゃんに力を与えれば、その時点でわらわちゃんは神様になれるよ」


 神という存在の定義を知らなかったソヨは命から聞かされた事実に唖然としてしまった。命から力を与えられる――ただそれだけのことで神になれるとは思っていなかったのだ。


 前世女神でその記憶を取り戻したソヨだったが、そもそも前世では創造主が神として生み出した生物が神であるとご認識していたので、ソヨはその事実を知らなかったのだ。


 この提案は以前未乃がザグナンだった頃に命がしたものとほぼ同じで、未乃は思わずその頃のことを思い出していた。

 その頃の未乃にはザグナシア王国という守るべき国と、愛する魔人たちがいたので命の申し出を断ったが、ソヨの場合はそれが無い。


 未乃はそんなソヨの決断を固唾を飲んで見守っている。


「どうする?」

「……わらわは、神じゃとか、天界じゃとか、インフェスタじゃとか……そんなことは割とどうでもいいのじゃ。今となっては、じゃが。ただ……わらわは、命のことがめっぽう好きなのじゃ」

「わらわちゃん……」

「和もめっぽう好きじゃが、命の方が好きなのじゃ。命のことが一等好きなのじゃ。じゃから……わらわは命と一緒にいたいと思うのじゃ」


 ソヨの純粋な思いとあまりにも尊い笑顔に命は思わず目を見開いた。


 命はただの人間だった頃、愛情を与えられなかった。初めての愛を知ったのは、神々を創造してからだった。そんな命に、ソヨは自分が一番だと言ってくれた。命にとって、これ以上幸福なことは無い。


「命も、ソ(・)ヨ(・)ちゃんが大好きだよ!」

「っ……命……」


 そこで初めて、命はソヨのことをソ(・)ヨ(・)と呼んだ。それが何を意味するか、理解できない者はこの場にはいなかった。


 愛する子供である神々しか名前で呼ばない命が、ソヨを名前で呼んだ。それはソヨが正式に神になったという証だったのだ。


 その証拠に命が名前を呼んだ途端、目を眩ませるわけではないのに、この世の物とは思えないほど明るく煌めく光がソヨの身体を包み込んだ。

 これが命がソヨに神としての力を授けた瞬間だったのだ。


「これでソヨちゃんも命たち家族の一員だね!」

「うむ!よろしく頼もうなのじゃ」


 こうして天界に新たな女神が誕生し、命にとっては新たな家族が生まれた。


 記憶を改ざんされたインフェスタの異分子たちは無事に下界へ降り、命の想定通りの働きをした。レールスの名は神々に愚かな敵意を向けた罪人として後世語り継がれることとなり、逆にソヨはインフェスタのために最後まで抗い、消えた英雄として語り継がれている。


 因みに天界を訪れていた弥永も無事炎乱へと帰還した。天界を離れる際、ソヨと弥永は再会を約束していたが、神と神子という関係性なので弥永が生きている間ならいくらでも会うことができるだろう。


 そして、あの一大イベントが起きている最中、呑気に命の膝で爆睡をかましていた静由は、あれから約一週間目を覚まさず、命はその間身動きが取れないという悲劇に見舞われたのだった。




 次回、第五章「偽りの魔王と兄妹の絆、過去との対峙」スタートです。


 次は明後日更新予定です。

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