神々の無双 sideハクヲ
今回はハクヲ無双です。
命が少し出ない回が続きますが、ご了承ください。
クランが魔人たちに少々引かれている頃。ハクヲは自身が管理する世界――ラインを訪れていた。
ラインは他の世界とは違い、言葉というコミュニケーション媒体を用いて生活する動物が一切存在しない。人間も他種族も存在しない、動植物だけの世界なので最も自然のままに生きている世界だ。
こんな世界なので戦争など当然起きるはずもなく、そして環境汚染の原因になるようなものも存在しない。そんな平和で美しい世界は命のお気に入りでもあるのだ。
この世界だけはいつ何時来ようとほとんど変わりがないので、命は安心さえ覚えるようだ。
ハクヲ自身も、自分が管理している愛世界ということもあってラインのことはかなり気に入っている。それに加え、ハクヲはこの世界に身を置いている時に関しては、武尽でも手を焼くような強さを誇っているのだ。
その強さも、ハクヲがこの世界を愛する理由の一つになっている。
そんな愛するラインを汚す異分子の気配をハクヲは感じ取り、その純白の耳をぴくっと動かした。その耳の動きを命が見たならば、やかましく興奮し始めるのだろうが、今はハクヲの邪魔をする創造主はいない。
ハクヲが気配のする方をそのつぶらな瞳で睨みつけていると、生い茂った木々の隙間を掻い潜ってきた人間二人が姿を現した。
「なんなんだよこの世界は……いくら探しても人間が一人もいねぇじゃねぇか」
「うるさいですよ。もう少し探してみて、それでもいなければこの世界に人間そのものがいないと考えた方がいいでしょうね」
ぶつぶつと文句を垂れている男の方は気が短く頭脳派ではないのだろう。ハクヲは男の一挙一動でそれを判断した。逆に女の方は男と比べるとかなり頭が切れるようだ。
ラインについての予備知識がない点は愚かとしか言いようが無いが、ラインに人間がいない可能性にこの時点で気づいた推理力は褒めるべきだとハクヲは思った。
「おや、あれは何でしょう?見たことの無い動物ですね」
「動物なんてどうでもいいだろう……さっさと進もうぜ」
すると、ハクヲの存在に気づいた女の方が視線をハクヲに向けたまま男に尋ねた。だが男の方はやはり頭が足りないようで、ハクヲの存在がいかに重要なのか分かっていないように返した。
だが雪のように白い体毛を持ち、それぞれの色が若干異なる九尾が尾についた白狐など、普通の生活では見ることなど無いので、女の方は警戒するようにハクヲの動きを待った。
「お前ら、何の目的でここに来た?」
「しゃべった…………!そちらこそ何者ですか?」
ハクヲが言葉を話したという事実が衝撃的すぎたのか、男の方は口をパクパクさせていた。女の方は目を見開きながらもきちんと精神を落ち着かせて現状把握に取り掛かった。
「私の質問に答えろ」
「「っ……」」
ハクヲの質問を質問で返したのか気に入らなかったのか、ハクヲは獣ならではの威圧を二人にかけた。ハクヲの威圧は二人に膝をつかせるには十分すぎるもので、二人は一気に顔色を悪くしながらハクヲを見上げた。
「わっ……私たちは、神々を討つべく異世界から仲間を探しに来たのです」
「この世界のことを何も知らないで神を討つ?無知というのは本当に愚かだな」
「どういう意味ですか?やはりここには人間や他種族が存在しないのですか?」
ハクヲは普段とは全く違う冷たい言動で二人を侮辱した。この動植物しか存在しないラインにわざわざ異世界転移してまで訪れたというのに、その目的が仲間探しとなっては事前調査がなっていないというハクヲの意見は尤もなものだったのだ。
女の方は知識がないなりに頭を使ってその事実に辿り着いたが、男の方は会話に入ることもできないほど頭を回していた。
「そうだ。ここに来たのは失敗だったな」
「ならば私の質問にも答えて頂きたい。あなたは何者ですか?」
「分からないのか?この動植物しか存在しない世界で私のような存在がいるということは、どういうことだか分かるだろう?」
ハクヲは異世界転移によって時間と魔力を大いに無駄にした二人を嘲笑った。だがその煽りに反応したのは男の方だけで、女はそれを制止しながら質問を続けた。
ハクヲの答えは、ハクヲ自身でも無茶を言っていると自覚できる程のものだった。だがこの頭の切れる女なら答えに辿り着けるだろうと考え、彼女に時間を与えてやったのだ。
「まさか……神?」
「は?どういうことだよ」
「この世界には言語を話さない動物しかいません。なのに目の前の存在は見たこともない容姿、そして言葉を理解している。つまりこの世界の生き物ではないのです。この条件を満たし、今私たちの前に現れる可能性のある存在は、神しか考えられません」
ハクヲは不敵な笑みで女の推測を肯定した。とは言っても、狐の姿で笑っただけなので二人にはどのように見えているかは曖昧なのだが。
ハクヲは正直なところ女の洞察力や推理力に感心さえしていた。同時に、こんな人間が神々に敵意を向けているという事実に落胆もしていた。
「おいおい、こんな獣が神な訳ないだろう?」
「はぁ……そこの阿呆がいると話が進まないな」
「はあ!?」
威圧だけで二人の動きを封じたハクヲの実力に気づいていないのか、男はハクヲを侮辱するような発言をした。女とは対照的すぎる男のお頭にハクヲはため息をつくと、男のために自分の姿を変化させた。
ハクヲは九尾の白狐から、耳と尻尾を残したままの人間の姿に変貌したのだ。それは以前、命のくだらないリクエストに応えた際のもので、それを再現したのだ。
その姿は命に〝失神しそうなぐらい可愛い〟と言わしめたものだが、目の前の二人からすれば衝撃の方が大きすぎてそんな感想は浮かばなかったようだ。
「……エツヴィさん、分かったでしょう?これは間違いなく神です。分かったら少し黙っててください」
白狐の姿の際は分からなかったハクヲの絶対零度の視線に身震いしつつ、女は〝エツヴィ〟と呼んだ男に苦言を呈した。
「それで?お前らがここに来た意味は無くなったわけだがどうする?世界のことを何も知らない愚か者のお前たちも、今この瞬間降伏するのなら殺しはしないが」
「私たちの目的はそれだけではありません。神々を倒した後、全ての世界を統一するために世界の調査に来たのです。そして何より、世界の住人の害となる神々に屈服するなどありえません」
ハクヲは聡明な癖に間違った思い込みが激しい目の前の女のせいで頭痛がしてきた。そして何点かツッコみたいこともあり、ハクヲはまず何から話したものかと懊悩した。
「はぁ……面倒臭いな。あー……何の根拠があって我々が世界の住人にとっての害だと?今インフェスタで起きている天災が根拠だなんて言えば叩きつけるからな」
「っ……何故ですか?あの天災はあなたたちの仕業なのでしょう?」
図星を突かれた女は決まりが悪そうに苦しい反論をした。自分たちは目の前の神やラインに関する知識が乏しい一方、ハクヲの方は一手読んで女の返答を予測する程にインフェスタの状況を把握している現状が情けなくなったのだ。
「はぁ……何故そうなる?自然は自然。それ以上でもそれ以下でもない。天災などというものはどの世界にも平等に訪れるものだ。今インフェスタが天災に苦しんでいるのも、世界の機嫌が悪いだけだ」
「は…………世界の、機嫌?」
女はハクヲの言っている意味が本気で理解できないように呟いた。だがハクヲは本当のことしか言っていないので、そんな女の反応に益々ため息をつきたくなったが必死に堪えて説明を続ける。
「世界はお前たちと同じように魂を持つ生き物だ。言葉を発しないという点では動物に近いな。……どうせ全て知らないのだろう?だから言っている。お前たちは無知で愚かだと」
女はハクヲから与えられる少ない情報をもとに必死に頭を働かせた。その表情は自分の信じていたものが一気に崩れ去っていくことに恐怖しているもので、ハクヲは目の前の女を心底哀れだと思った。
これだけ聡明だというのに、薄っぺらい信頼という盲目的なもののせいで判断力が鈍ってしまったのだろう。ハクヲはそれを仕組んだ人間が、ソヨの言っていた〝蛇顔の男〟なのだろうと軽く推測を立てた。
「……仮にあなたの言うことが正しいとして、何故神々は我々を救ってくれないのですか?」
「甘えるな。神は世界の住人を助けるために産まれた存在ではない。世界の秩序を守るために管理する存在だ。天界に住まう者が不用意に世界に干渉することは禁じられている」
女が必死に作った反論はすぐにハクヲによって破られてしまった。天界に住まう者が世界に干渉してはいけない理由を女が理解できるかは微妙だったが、ハクヲは一から十まですべて説明してやる義理は無いと冷たく突き放したのだ。
「まぁお前らが信じようが信じまいがどうでもいい。詳しい話は天界にて聞く。そこで命様にお前たちの処遇を決めてもらえばいいことだ」
「命様?」
天界にこんな人間を連れて行くのはハクヲにとって気分の悪いものだったが、目の前の女ならまともな会話ができそうだと考えたのだ。それに加えどうやら黒幕に騙されているだけの哀れな二人の処罰を命に委ねる必要もあったので、天界に連れて行くのが最適なのだ。
こういうところはやはり、考えなしに相手を瞬殺したクランとは大違いである。
一方女の方は、先刻から神らしい偉ぶった態度しかとらないハクヲが敬称をつけて呼んだ命のことを尋ねた。
「お前たちが軽々しく名前を呼ぶのも憚れるほど尊いお方だ。とにかくお前らは捕らえて天界に連れて行く」
「それを黙って享受するとでも?」
ハクヲの物騒な発言のせいで女はハクヲに攻撃態勢を見せた。自分が騙されているかもしれないという疑念が生じていても、これから何らかの攻撃がなされると分かっていれば警戒態勢にならない者などいないからだ。
ハクヲは女を無視したまま大きく息を吸うと、まともに食らえば気絶してしまうような咆哮をした。だがそれは二人を本当に気絶させるために行ったものではない。
二人はこの咆哮が一体何をもたらすのか警戒しながら森中を見渡した。すると少しずつ少しずつ、地響きにも似た多くの動物の足音のようなものが振動と共に二人を襲った。
「なんだっ!?」
「これは……」
二人が冷や汗を垂らしつつ焦った様な声を出すと、途端に二人の周りを大量の獣たちが取り囲んだ。そこでようやく二人は理解した。あの咆哮が世界中の動物たちを従えるためのものだったのだということを。
そう、これがハクヲがこの世界でのみ持つ強さなのだ。このラインは人間たちがいない代わりに動物がどの世界よりも大量に生息している。その全てがハクヲの配下となるこの世界では、武尽でさえも少々手こずるほど厄介な力となるのだ。
「そいつらは敵だ。死なない程度に殺せ」
ハクヲは獣たちに命令すると興味が無くなったように木に登って高みの見物を始めた。そんなハクヲを睨みつけながら二人は歯を食いしばった。
二人は魔法で必死に抵抗するが、圧倒的な数の力には敵わなかったようで、やがて二人は大量の動物たちに埋もれてハクヲの目線からは見えなくなってしまった。
「まったく手間がかかる……」
二人が気絶したタイミングで獣たちは攻撃をピタッとやめた。それはまるで何度も訓練を重ねたように統率がとれていて、ハクヲは忠実な配下たちの頭を撫でてやった。
「ん?何だ、お前たち」
ハクヲが二人を回収しようとすると、大量の動物たちがハクヲに何かを訴えかけているようで、ハクヲは思わず首を傾げた。
ラインの生物は言葉を使いはしないが、ハクヲや命相手なら意思疎通ができる。なのでハクヲは五月蠅いぐらいの獣たちの主張をまるで聖徳太子のように聞き分けた。
動物たちは各々違うことを訴えかけていたが、大体が「命様はいつ来るんだ?」だとか、「今回の手柄を命にちゃんと伝えろ」だとかそんな感じだった。
ラインが他の世界と大きく異なる点はこういうところもそうだ。ラインという世界においては、天界に住まう者の干渉が厳しく禁じられてはいないのだ。なので命もよくこの世界を訪れるし、ハクヲも世界の住人である動物たちを従えている。
この世界の動物たちは命に大層懐いていて、ハクヲや千歳だけが来たときは毎回若干不満気なのだ。いつも全く変わらない配下たちの態度にハクヲは苦笑したが、これがこの世界の良いところでもあるので苦言は呈さなかった。
「分かった分かった。お前たちの成果を命様にはきちんと伝えておく。後日命様がお褒めに来てくれるかもな」
十中八九命は来るが、それで配下たちが調子づいても困るのでハクヲは煮え切らない返事をした。それでも獣たちは、例え意思疎通の力が無い者が見ても分かるほどに喜んでいて、ハクヲは先刻まで抱えていた苛立ちを中和できたことに思わず笑みを零した。
次は明後日更新予定です。
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