表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよなら世界、ようこそ世界  作者: 乱 江梨
第二章 魔王と勇者、世界消失の謎
20/76

異様な少年

 評価、ブックマーク登録ありがとうございます!

 勇者アランは冒険者である。


 冒険者とはその人物のランクに見合った仕事を冒険者ギルドから提供してもらい、その仕事の報酬を収入としている者たちの総称である。


 冒険者にはソロで活動する者と複数人のパーティーを組んで活動する者たちがいる。アランは後者である。


 アランのパーティーはアランを含めて五人のSランクパーティーだ。ソロでもパーティーでもそれぞれランクがある。下はEランクから最上はSランクまであり、アランはソロとしてもSランクの称号を持っている特異な存在だ。


 まずパーティーリーダーで勇者と称えられるほどの魔法の才を持つアラン。二人目は命がナンパから助けたエリン。彼女はアラン同様攻撃魔法を得意とする冒険者だ。


 他にサミュカ、シリオス、モニアスという女性三人がいるのだが、この全員が今現在命の目の前にいるのだ。


「その子は?」


 アランは命を見下ろすと、すぐに近くにいたエリンに尋ねた。


 アランの身長は約一八〇センチ弱。黒い短髪に黒い瞳を持った日本人に似た容姿の青年だった。物凄い美青年というわけではないが素朴な顔立ちが好印象な青年だ。


「アラン様……この子はこの地面に伸びている下衆共から私を助けてくれた恩人なのです」

「えっ!この子が!?そうだったのか…………俺の仲間を助けてくれて、どうもありがとう。お嬢さん」


 エリンが命のことを説明するとアランは酷く驚いたような表情を見せた。それもそうである。一部始終を見ていない者からすればとても信じられる話ではない。


 だがアランはエリンの話を疑うことなく、命に礼を言った。エリンの話を信じているからこそ、アランはその衝撃を隠せなかったのだ。


「ごめんね。お兄さん、お姉さん。命は女の子じゃないよ」

「「…………え!!」」


 命を男だとは全く思っていなかったのか、アランとエリンだけではなく他のパーティーメンバー三人も酷く驚いた様子を見せた。


「それは……失礼な勘違いをしてしまい……」

「いいよ。慣れてるし」

「えっと、じゃあ坊や。名前は?」

「命の名前は命だよ」

「ミコト……?変わった響きの名前だね」


 アランは命の名前を聞くと不思議そうな顔をした。それもそうである。神々がつけた命の名前は、命が創造主になる以前住んでいた日本の漢字を使っているのだから。


 異世界の名前に聞きなじみが無いのは仕方のないことだ。


「じゃあミコト。エリンを救ってくれたお礼がしたいんだけど、何か俺たちにできることはあるか?」


 アランはエリンを救ってくれた命に礼をしたかったのかそんな提案をした。


 命は考えた。命の目的はただ一つ。前創造主の魂を持つアランに前世の記憶を取り戻させ、何故世界が消滅するに至ったのかを探ること。


 だが命は前世の記憶を取り戻すということが、いかに危険であるかを誰よりも知っていた。祈世がそのことで酷く苦しんだからである。


 産まれた時から前世の記憶を持っているカルマとカルナとは違う。生まれ、育ち、その人物のその人物たる人格がある程度造られた後に前世の記憶を取り戻すというのは、その人物の根底を壊しかねない行為なのだ。


 だから命は慎重にならなくてはならなかった。命になら今すぐにでもアランに前世の記憶を取り戻させることが可能だ。だがそれはするべきではない。


 それをするには記憶を取り戻す本人にそれなりの覚悟が無ければならない。それはつまり本人に記憶を取り戻すことを了承してもらわなければならないということだ。


 そうするために、今命がすべき返答は――。


「それなら、命と友達になって?」

「とも、だち?」

「そう!命は女の子じゃないから、お兄さんのハーレム要因にはなれないけどね」


 命はまず、勇者アランとの信頼関係を築くことにしたのだ。


 もちろん命の最後の言葉を理解できるオタク脳など、この世界の住人の中には一人たりともいなかった。








「何だか、異様な雰囲気を感じました」

「異様?」


 命と別れた後、アランたち一行は食事処で昼食をとっていた。他のパーティーメンバーが空腹を満たすために目の前の料理に釘付けになっている中、なかなか食べる手が進まなかったのがエリンだった。


 エリンは何やら気になる事案があったらしく、それについて深く考えてしまったのだ。


 エリンの命の対する感想の意味を理解することが出来なかったアランは、食事をする手を止めてエリンに尋ねた。


「あのミコトという少年……いい子だというのは分かっているのですが、何やら得体の知れないような……敵に回したら一巻の終わりのような……そんな雰囲気を感じたのです」

「確かに変わった雰囲気の子だったけど……そこまでか?」


 どうやら命に対してそんなことを感じたのはエリンだけだったようで、他のパーティーメンバーは一様に首を傾げた。


「でもエリンの話だと、暴漢を魔法を使わずに倒したのよね?武道の心得があるってことは魔法が得意じゃないってことなんじゃないの?それならただの雑魚じゃない」


 発言をしたのはパーティーメンバーの一人であるモニアスだった。モニアスは前髪ごとその長い茶髪をポニーテールにしている長身美女で、このパーティーの女性一豊満な胸を持っている女性だ。


 その為今昼食をとっているこの店に入ってからというもの、遠慮を知らない下世話な男たちの視線を最も集めているのが彼女だった。


 そうでなくてもこのパーティーメンバーの女性陣は全員整った容姿をしているので、どちらにしろこのパーティーには視線が集まる。そしてその女性陣とパーティーを組んでいるアランには、その勇者と称えられるほどの実力も含めて妬み嫉みの視線が集まっていた。


 

 モニアスの意見は一理あった。魔法が絶対的な力とされているこのヒューズドでは、己の身体を鍛え上げて戦闘する者は魔法の才能がないからだと思われがちなのだ。


 魔法の才能があれば自分の身体を鍛える必要が無いからである。それをするということは、魔法の才能がなく、魔法以外の方法で己の身を守る必要があるからと考えられるのは自然なことなのだ。


「こらモニアス。魔法が全てではないといつも言ってるだろ?ミコトくんが魔法が得意だろうがなかろうが、暴漢三人を瞬殺するだけの実力を持っているということだ。そういう言い方は敵を生みやすいからやめろ」

「うぅ……気を付けるわよ…………でもそれを言うならエリンだってかなり口悪いわよ?」


 アランの意見はこの世界では変わった思想でもあった。この世界の住人は大半がモニアスのように考えるだろう。


 だがアランは人を魔法だけで判断するこの世界の常識を好いてはいなかったのだ。モニアス自身、自分の口が悪いことは少しだが自覚していたので反論できずに眉を下げた。


「私を巻き込まないでください、無駄乳女」

「ほら!」


 モニアスがエリンの話し方を話題に出したことで、エリンからの言葉の刃物による攻撃がモニアスを襲った。この二人が言い争うのはいつものことだったので、サミュカとシリオスはクスクスと笑みを零した。


 サミュカはパーティー最年少の一五歳でとても小柄な少女だ。橙色の髪のツインテールとその零れ落ちそうなほど大きな瞳がチワワのような可愛らしさを醸し出している。


 逆にシリオスはこのパーティー最年長の二二歳で落ち着いた雰囲気の女性だ。薄い紫色のロングヘアーが綺麗な女性で、眼鏡をかけているせいで分かりにくいがこの人もかなりの美女だ。


「それにしても私たちのお礼に対する要求が友達になって欲しいだなんて、変わった子でしたね」

「うんうん」


 シリオスの意見に同調するようにサミュカはしきりに頷いた。













「命様!前創造主様の魂を持った勇者アランとはどのような人間だったのですか?」


 命がアランたちと分かれ天界に戻ると、ヒューズドの管理者の一人であるクランが命を出迎えた。クランは自分が管理する世界に前創造主の魂が転生したことで、より前創造主に興味を持ったらしく、好奇心を隠すことなく命にアランのことを尋ねた。


「何だかハーレムアニメの主人公みたいだったよ」

「ハーレムアニメ?とは何ですか?」


 神々は創造される際に世界が消失する以前の知識もある程度その頭に組み込まれていたが、命が必要ないと判断した知識は全く備わっていない為、命の口から出た単語にクランは首を傾げた。


「要するに女の子にモテモテの鈍感野郎って意味だよ」

「……それは褒めているのですか?」

「褒めてる褒めてる。青年を褒め称えるうえでの最上級の比喩だよ」


 完全に誤っている訳ではないが、ほぼほぼ間違っている知識を命は悪びれる様子もなくクランに伝えた。命は初見でアランのパーティーメンバーの()()()()()()全員がアランに好意を持っていることに気づいたのだ。もちろん恋情という名の好意を。


 若く才能があり、両手に花状態でその花に好かれているアランは、命からすれば正にハーレム物の主人公だったのだ。


「命様はどうやって勇者アランの信頼を得るつもりなのですか?」


 アランに前世の記憶を取り戻させるうえで、アランとの信頼関係を築く必要があることはクランも承知していた。だがその術をクランは推測することが出来なかったのだ。


「ん?どうやらアランくんには成し遂げたいことがあるらしいんだよねぇ。それは今ヒューズドが抱えている()()にも関係しているんだけど。それをお手伝いしようと思ってね」

「問題……魔人ですか?」

「ピンポンピンポーン!大正解!よくできました」

「えへへ……です」

 

 アランという人間がどういう人間で、何を思い、何を考えて行動するのか?そういった情報は既に命は収集していた為そんなことが分かったのだ。


 ヒューズドが抱えている問題と言えば魔法の才を持たない者と魔人への異様な差別ぐらいなので、クランにも今回アランとの信頼を築く上でのキーとなるのが、魔人であることが理解できた。何故なのかは流石にまだ把握できてはいないが。


「それに、アランくんとの信頼関係を築けたら一石三鳥になるかもしれないんだよねぇ」

「えぇ!そんなにお得なことが!?です」

「ふふふ……世界の大感謝お得セールみたいで楽しみでしょ?」


 クランは命の言った半分の意味も理解することはできなかったが、命が何かをしようと企てていることだけは分かった。


 勇者アランとの信頼関係を築き世界消滅の謎を探ること。そしてこの世界が抱えている問題を解決すること。一石三鳥ということはこれ以外にもするべきことがあり、それを同時に片づけることが出来るということである。クランにその事象を知る術はなかったのだ。


「もしかしたらクランたちにも手伝ってもらうことがあるかもしれないから、その時は頼めるかな?」

「は、はい!女神クラン、命様のお願いとあらばたとえ火の中水の中です!」

「ありがとう」


 これまで命がしてきたお願いと言えば〝名前を付けて欲しい〟や〝添い寝をしてほしい〟と言った実に平和的なものだった。だが今回の頼みごとがそうではないことぐらい、クランにも分かった。


 その為そんな仕事を任せられたことへの歓喜でクランは勢い良く返事をした。漸く命に対して神らしい恩義の返し方ができるのだから。


 少年は頬を蒸気させ意気込んでいるクランの頭を撫でると、微笑ましそうに礼を言った。





 次は明後日更新予定です。

 この作品を「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、評価、ブックマーク登録をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ