今、私、婚約破棄されているの?
初めて書きました。ちょっとでもおもしろく感じてくれたら幸いです。
婚約破棄されてるの?!
「あ、あの……私、エヴェリーナ様にいやがらせというか……いじめられているんです!」
今日は学園の卒業パーティー。
ローランド殿下とジュードお兄様の学園最後の日。
私は、今世ではエヴェリーナ公爵令嬢をやらせていただいております。いわゆる転生令嬢です。前世は日本人で黒目黒髪の中肉中背の目立たない人、モブでございました。今世では金髪に翠の瞳。背も高く、胸がでかいのに、『何?このウエストの細さ!』といった感じの本当に素晴らしいスタイルの美しい令嬢です。転生していることに気がついた時に鏡にうつった自分の姿を見て、あまりの美しさに喜びの舞を踊ってしまいましたわ。
これだけの容姿でお金持ちならモテまくり?と思ってみたけれど、現実ではこの国の皇太子ローランド殿下の婚約者だから、男の子とキャッキャッ、ウフフの生活なんてできやしない。つきあうかな~?なんとなく気持ちが通じあっているかな~くらいの時が一番キュンキュンするっつうのに、そんなことはできないのである。ガッカリ!本当にガッカリ!ちぇっ!
「本当にいじめられているんですー」
私にいじめられていると言いがかり(?)をつけてる女性は 小柄で華奢な体型にピンクブロンドの髪のべサニー男爵令嬢ですわね。
べサニー嬢は私の婚約者であるローランド殿下の後ろにまわりこんでいる。びくびくとした態度と大きな青い瞳に涙を浮かべて、いかにも庇護欲をそそるといった風情である。
庇護欲をそそるべサニー嬢を中央に配し、その周りをイケメン集団が囲い、一人の令嬢と相対して立つっている。まるで花いちもんめのよう。
(あなた(男)がほしい)
(あなたじゃ、わからん)どの男かわからん!
ってか?
……なんて、妄想している場合じゃないです!これは悪役令嬢の婚約破棄、断罪の場じゃないですか!
イケメン集団の内訳はべサニー嬢の前に金髪碧眼の ローランド殿下。殿下の両隣には銀髪、紫の瞳のジュードお兄様と宰相の息子のサイラス様、黒目黒髪の眼鏡男子ですね。そして乙女ゲームでお決まりの赤髪の騎士と黒マントの魔法使いはべサニー嬢の両隣に控えてます。
容姿端麗に生まれも正しく、学力も優秀で将来も期待されているという集団。学園のアイドルグループといった感じですね。
というか、私、悪役令嬢の位置ですか!あ、私、王太子の婚約者だ!やばい、前世で読みまくった悪役令嬢転生もの小説とそっくりです。
こんな風になってるのねー。
このダンスホールの中央に私たちが立って、関係ない方々は私達を囲むように立ってるんですね。
あら、扉近くには騎士の方が警備しているわ。先生方はどこなんでしょう?あー、ホールの入り口付近でまとまりこちらの様子を見ているようですわね。ご苦労様です。
そうそう、乙女ゲームの悪役令嬢の断罪の場、婚約破棄ですね。婚約破棄!って、やばい、私、イジメもした覚えもないけれど、この断罪の場の準備もしてないじゃないー。
イジメ 絶対ダメ!のイジメですよ。私は男爵令嬢をいじめてなんかないです!
どうしよう?このまま、冤罪で婚約破棄で処刑?
これは悪役令嬢ものではなくて乙女ゲームの方?
いやいや、どちらにしろ、私は今、窮地に立たされているのね。まずは、時間稼ぎをしましょう。
そのうち、いい案が出るかも……。
「べサニー様、私があなたをいじめているということですか?」
「そ、そうです。ローランド殿下と私が仲がいいからと嫉妬してるんですよね。」
「嫉妬?殿下とあなたは仲がいいの?」
「殿下たちと一緒に食事したり、サイラス様と勉強したり、差し入れしたり、タオルを渡したり……」
「そうなんですね……(私、気がついてなかったわ)」
殿下はべサニー様とそんなに仲が良かったのね。知らなかったなぁ。
……なんか、がっかり。
「イジメとはどんなことをされたのかしら?」
べサニー嬢が殿下の陰から出て来てキッと睨み付けてきましたわ。
「え!イジメを無かったことにするつまりですか?ひ、ひどい!」
「そんなつもりはありませんわ。ただ具体的にはどんなことなのか、聞きたかったのです」
「具合的にって……」
涙を浮かべてるべサニー嬢を見ると、私が本当に悪役令嬢に思えてくるわ。
「教科書を破られ、机に落書きをされ、悪口を書いたお手紙を渡されたり、一番最近は階段から突き落とされました……」
「え!階段から突き落とされたって、怪我は大丈夫なの?」
「そ、それは……」
「いやいやいや!ちょっと待て!」
べサニー男爵令嬢の後ろからローランド殿下が焦った様子で会話に入ってきた。
「君、誰?」
ローランド殿下がべサニー男爵令嬢に向かって言い放った。
「なんで、今、僕たちの陰に隠れていたの?
食事の時にも僕たちのそばにいるよね。食事だけでなく、ここ最近、ずっとそばにいるよね」
「殿下、毎日、一緒に食事をしているのではないのですか?」
「エヴェリーナ……ちがうよ。一緒に食事なんてしてないよ。会話もしてないし」
ザワザワザワザワザワザワ
私達の周りから音が聞こえてくる。これがモブ?モブの音……声なの?
「でも、毎日毎日、楽しそうに食事しているように見えましたわ。べサニー嬢は毎日、殿下たちの横でにこにこと笑顔で食事をしてました」
ジュードお兄様の婚約者ファンティーヌお義姉様が前に一歩進んで発言しましたわ。
「そうです、図書館でも見かけましたわ。サイラス様と楽しそうに勉強をしていて、悔しいと思っておりましたもの!」
宰相息子のサイラス様の婚約者が前に一歩進んで発言。
「私も見かけましたわ!ウィルフレッド様にタオルを渡してにっこりと見つめあってました!」
騎士の婚約者がやっぱり一歩前にでて発言。
「私は、魔法の練習をしているお二人をみかけました!」
やっぱり婚約者が一歩前にでて発言。
皆、一歩前にでて発言してる。なんか、決まりがあるの?
……では、私も一歩前に進み出ましょう。
「ということですわよ。私は今まで殿下がべサニー嬢と仲良くしているとは気がついていませんでしたが……婚約者がいるのに他の令嬢と仲良くするのはいかがなものでしょうか?」
「いや、だから、仲良くしてない。」
ザワザワザワ
やっぱりモブ、モブですわね、モブの声ですわね。
(信じられませんわ)
(べサニー嬢と一緒にいる姿をよく見かけましたよね)
(あんな可愛らしい姿の令嬢を無視するわけないだろ)
ザワザワ
(殿下ったら、ごまかそうとしているわ)
(ごまかせるわけないのに……)
ザワザワ
あら、モブの声が別の発言をしはじめましたわ。
モブの言うとおりですわ。ごまかされませんわ!
「そんな言い訳なんか、通用しませんわ」
「言い訳じゃない。本当だ。信じてくれ!」
私は婚約者の女性達の方を見て殿下達に向かってはっきりと言いますわ!
「見てください、婚約者の皆様も悲しんでますのよ。」
今度は殿下が前に一歩進み出た!
何?これ、お作法なの?
と思っていたら、さらにもう一歩近づき、殿下が私の手をとり見つめてきた。
あぁ、綺麗な青い目、剣で鍛えているのかしら固い手……。なんだか、身体が熱くなり頬に熱を集めたみたい。
たぶん、顔が赤くなっていると思う……
「エヴェリーナ、本当にべサニー嬢とは親しくないんだ。なぜ、いつもそばで食事をするんだとジュードやサイラスとも話していたんだよ。でも、向こうに行ってほしいとは言いづらくて……」
殿下はジュードお兄様やサイラス様と頷きあってる。
「普通は婚約者がいるんだから令嬢は僕たちのまわりには近づかないだろう?」
ふと、まわりを見ると、殿下の取り巻きたちはそれぞれの婚約者の手をとって、頷いてる。
「今だって、突然君にイジメないでくださいとか言い出しているし……。」
殿下は私の方をうっとりと見つめる。
「エヴェリーナ、今の会話を聞いてたが、君は男爵令嬢と面識がないだろう?
なのに公爵令嬢に大きな声で話しかけ、おまけに内容も言いがかりだし、あきれるくらい……あきれるほど……礼儀を知らない女性だとしか思えない」
殿下は小さく首をプルプルふっている。
「言いにくいが容姿も好みじゃないし……すまない」
殿下はべサニー嬢のに振り返り、目を伏せた。
「庇護欲をそそる?華奢な体型?僕はギュッと抱きしめたときにほんわり柔らかさを感じる女性が好みだ。エヴェリーナみたいに……」
真っ赤になりながら殿下が私の手をギュッと力を込めて握ってくる。おまけにどさくさに紛れて手をにぎにぎしてる。
「僕の後ろに隠れて、言うだけ言って後は人任せ。自分で解決する気がないんだろう……。言ってはいけないかもしれないが無責任な女性なんだろうか?
……それか、怠け者?」
「殿下、言い過ぎではないでしょうか?怠け者かどうかはわからないのではないでしょうか?」
「エヴェリーナ、殿下ではなく名前で呼んではくれないのか?」
「殿下…………」
今それどころはないよ。
「エヴェリーナ、ローランドだよ。」
「……」
「……っもう、ローランド様ったら」
「男爵令嬢だが、男の影に隠れて向上心がないのではないだろうか?」
私の目をじっと見つめてさらに言い募ってくる。
口説いているような雰囲気だけど、それ悪口だからね、殿下。
「僕の妻は王妃になる。王妃は男の影に隠れて向上心も感じられず、もしかして怠け者?な女性に勤まるとは思わない」
殿下が手をにぎにぎしながらさらに近づいてくる。
「おまけに僕の周りだけでなく、友人たちの周りもうろつくなんてどういうことだろうか?婚約者のいる者に色目を使うのも品がないが、高位貴族ばかり狙うとはお金目当てで贅沢な暮らしを夢見てると勘違いしても仕方がないだろう?」
「そうとも限らないと思います。ローランド様たちは容姿も素敵な方ばかりで女性ならばポーッとしてしまいますわ」
「ありがとう、エヴェ。ぼくは君が僕の熱にうかされると嬉しいのだが」
「もう、そうではなくて……」
「仮に男爵令嬢が怠け者でもなく、お金目当てでもなかったとしても、女性たちにこんなに嫌われる人は王妃には向かないと思う。僕も好きにはならない。僕の好きなのはエヴェだよ」
私は恥ずかしくて、殿下の手から逃れよう手を振ってみる。
「仮に男たちを魅了するほどの容姿があったとしても、僕は結婚はしたくない。何人もの男性に愛想を振り撒いて……はしたないとは思わないか?」
「僕には、はしたない女性が魅力的には見えないよ」
殿下はさらに手が離れないようにさらに強く握る。
「ローランド様、私は一人の人、その方だけを愛していきたいと思います」
殿下の目をみつめて言っていってしまった……。
「……僕もだよ」
私達の周りも、公爵や宰相が婚約者たちと見つめあっていたり、抱きしめていたり……騎士は手にキスをしてるし
(やってられるか)
(ねぇ、この後どうなるの)
ザワザワ、ザワザワ。モブの声が……
(もう、どうでもよくない?)
(ねぇ、私はどうなるの?ヒロインのはずでしょ?)
(攻略しているはずでしょ?逆ハーレムになってるんじゃなかったのー?)
ザワザワ ザワザワ
いつのまにかヒロインである男爵令嬢の声までモブの声になっている……ヒロインはモブだったの?
ザワザワ
その後、ヒロイン(?)のべサニー嬢はとんだ勘違いストーカー娘だと噂になり領地に戻っていったと聞いた。怠け者のお金持ち狙いと言われてしまったし、当分は男性が近寄らないでしょう。
夢から目覚めて自分の足元をしっかりみれば変わるでしょうけど、それをしなければ救われないでしょうね。
学園の卒業後、私、エヴェリーナ公爵令嬢はローランド殿下とキャッキャうふふの毎日を送ってる。
キャッキャうふふがこんなに身近にあったなんて……。
私も自分の足元をきちんと見て、殿下の優しさに感謝して、未来の王妃として努力していかなくては……。
いろいろ不安なのですが、時間つぶしでもなんでも読んでいただけたらうれしいです。