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「テメェ俺を舐めてんのか?殺すぞ」。


ヴォルフの感情が見て取れる。短絡的というかなんと言うか単純なバカなのだろう。直感で動くタイプだ、普段なら最も嫌いとするタイプだが今はこれでいい、寧ろこれが良い。


ヒシヒシと伝わる熱の籠もった風、この迷宮の中でも戦闘力に関しては相当な腕前な筈だ、俺みたいな雑魚の生温い覚悟程度じゃ歯が立たないことは百も承知である。


「今謝れば、半殺し程度で済ませてやるよ」。


────その言葉には聞き覚えがある。何だったか、昔どっかのガキ大将に同じことを言われた様な気がする。ボロボロに泣きじゃくったガキの頃の俺はなんて言ったんだっけ……



ゾラは自信に満ち溢れた顔で徐ろに膝をつく。凝り固まった右肩をブンブン振り回した。鋭い眼光で対象を確認し右足に目一杯力を入れて踏みこむ。ヴォルフの奴に最短、最速、最強を撃ち込む──








───すっいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!



脳天がかち割れる位の勢いで地面に頭を叩き付けた。それは母国で古来より最上位のものとして語り継がれる謝罪の型。土下座、スライディング土下座。


後に語る、これ程、潔い土下座は見た事がないと。


空間に微妙な空気が流れる。それは…なんと言うか…言葉では言い表せない何か。どうやら向こうもあれだけの大見得を切っておいて本気で謝罪されるとは思っていなかったようだ。


「じゃ、じゃあなんで喧嘩売ってきたんだ?」


読みどおり言葉に覇気がなくなる。


「いやぁ、ベルフレイ(第七階層主)の奴が文句言って来いって言うもんで……お、俺は嫌だって言ったんですよ?で、でもあいつが…行けって…この迷宮最強のヴォルフさんに喧嘩なんか売れるわけ無いじゃないですか」。



思っても無い事を言い相手を褒め千切ること、それをお世辞という。世間一般の大人はこのお世辞を使って業界を渡る。この程度のお世辞なんか鵜呑みにしないのが常識である……しかしこのヴォルフと言う名のバカには違う。



「チッ、次に舐めたことしたらマジでぶっ殺すぞ」。



俺にはこのバカの思考が全て読み取れる。こいつは自分を崇める奴を善それ以外を悪と置く。短絡的な奴に多い脳ミソだとても扱いやすい。


会議室に向かうヴォルフの後ろをそっと立ち上がる。ズボンについたゴミをはたく。



そして小さく酷く掠れた声でボソッと──



───ジカイカルマ



「あ?今なんか言っ……」


刹那、ヴォルフは振り返る。あるのは不自然な程高くまで昇る粉塵、爆発でも起こったかのように酷く抉れた地面の痕。


あ?あの野郎何処へ消えた?それに何だあの地面にある破壊痕あんなのさっきはなかっ──ガフッ───!?


突如として襲う衝撃、脳ミソが揺れる。ぼんやりと視界に捉えたゾラの姿。



───俺は…今……殴られた?


ヴォルフの巨体が宙を舞い虚数階の外壁にめり込む。

バラバラと崩れ落ちる外壁と巻き上がる粉塵、薄っすらと見える人影──


──それは黒い灰を纏ったゾラであった。


血管が浮き少し赤らんだよう光を放つ、身体の肢体から蒸気を発していた。



「テメェ今何しやがった」。



「あっれ、あんま効いてねぇな」。



「──ぶっ殺す!!」。


瓦礫に埋もれたヴォルフがフラフラと立ち上がる。不意打ちでも外皮にヒビが入る位これは中々骨が折れそうだ(物理的に



「あのなぁ、お前、何か分かってねぇ様だから一つだけ教えてやる」。



徐ろに指で耳を穿る、その指をフッと吹いた。


「俺はもう──死んでる。」



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