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暗い暗い洞窟の中、掠れ切れた呻きをあげながら亡者は生者を襲う。


戦士は剣を引き抜いた


亡者を鋭い眼光で睨み殺す。醜鬼の血液によって血塗られた剣を一振りして握った。

群がる亡者の首をまるで棒切れでも切り落とすかのように跳ね上げた。


射手は弦を深く弾き狙いを定め矢を放つ。


鋭く鋭利に尖った矢先は亡者の心の臓を一直線に射抜く。

標的が絶命するのを確認しまた次の獲物へと弦を引く。


魔道士は呪文を展開し自慢の高火力で亡者の群れを薙ぎ払う。

杖から放たれた淡い炎が亡者を灰へと焼き捨てた。


場を鎮圧した戦士たちは一息あげ、汗を拭い、満たされた様に手を取り合う。見るも無惨に散乱する醜鬼や亡者の死体など目も暮れずに先を進んだ。


少しの時が過ぎ静寂が洞窟内を包む中『パンパン』と反響するクラップ音



──ウィィッス、お疲れ様でーす。



 ─ 1 ─


掛け声と共に亡者の死体は夜勤明けの疲れ切った親父の様に体を伸ばした。切られた頭部をさも当たり前の様にグリグリと切断面に擦り付け、さも当たり前の様に持ち場へもどっていく。


そして中でも多少、幾分かマシな顔色をした一匹のアンデッドが指揮を取っていた。


「えっと、ゴブリン1235番と3132番の亡骸リス地に放り投げといて。」


「あ゛ぁあ…ぁ…(了解しました。」


「伝説の剣の在庫は後何本だっけ?」


「ぁあ゛……あ゛ぁあ…(五本中一本抜かれたんで後四本です。」


「了解、じゃあ取り敢えず一本、刺しといて。」


「あぁほら、そこ、3600番、サボるな。」


「あ、ぁ゛ぁあ(すいません。」


暗い洞窟の中、残り僅かな体力を整備と運送に費やしている。


泥沼の迷宮。帝都イグザムの北北東に位置するリンゼル大森林深層部に位置するレトロかぶれな大迷宮。

夢見る者達が財宝の為そして夢の実現の為、困難、苦難を乗り越え、時には命を賭して一騎当千を狙う場─




──等と思ったら大間違いだ。


お前ら冒険者が迷宮内でキャッキャウフフ出来るのは全て我々人外の血の滲む努力があってこその産物である。


何が『ぬるすぎるぜ(キリッ』だ、こちとら、手抜いてんだよ。本気でやるなら(すね)股間(こかん)狙い撃ちだわボケ。


──かくいう俺もつい先日人間やめました。──


生前の名前は……何だったか、死因も忘れた、今の俺の名前は──ゾラ、アンデッドである。



目を覚ますと辺り一帯、砂、砂、砂、偶に草のゴマ色の荒野。

辺りに人の姿どころか生き物すら居ないような

世界。途方に暮れ、文字通り腐り果てていた。


そんな時だ、偶然通り過ぎた暴皇フェクトに拾われこの迷宮へとトントン拍子で配属が決まった。


話を聞くに俺は『日を進む灰色の亡者(デイウォーカー)』というアンデッドの中でも特殊な体質だったらしい。


名前の通り日の下を歩いても『灰化(パージ)』する事がなく通常ではついていないコミュニケーション能力が携わっている。


仕事は第三フロア『亡者の園』の統括、基、指示出しから清掃、搬入までと何でもござれ、馬車馬のように働かされている。そもそも通常ではコミュニケーションすら取れないアンデッドを人件費無しで使えるようになるのだ。この『泥沼の迷宮』にとってこんなにお誂え向きな体質は無いだろう。


「………っふぅ……これでいいか。」



「あ゛ぁあ…あ、あ…(フロアリーダー、定例会議の時間です)」。


一息着いたと思ったらまたこれだ。



今日は泥沼に配属されてから初めての給料日、心なしか少しだけ気持ちが高ぶっていた。


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