7年後
「ロイ!後100回!」
「あ、また火が揺らいだわ、集中を途切らせないように。」
ロイと呼ばれた少年は、腕立て伏せをしながら、周りに魔力でつくった炎を浮かべ続けるという『特別訓練』を受けていた。
あと100回あるらしい。
あの少年はロイドと名付けられ、リーナの護衛になってから、7年が経過していた。
あの日から、マークさんから礼儀作法を、リルドさんから、格闘術や剣術を。そして、シルエスカ姉さん(そう呼ばないと怒られる。)から魔法を教わっていた。
今は週に1度ある、魔法制御をしながら身体を動かす、実戦的な訓練をしている。
ロイドが腕立て伏せをしながら浮かべている炎の数は優に50を越している。
本人は気づいていないが、これは凄まじいことだ。例えるなら玉乗りをしながら針に糸を通すような事である。
「3…2…1…。終わったー!」
腕立て伏せ1000回は地獄だった。
レルドさんはよくやったといい。シルエスカさんがでもと続ける
「まだ終わりじゃないわよ?」
「!?そんな!」
「次は、私たち2人を一度に相手しなさい。」
「おお、いいな。より実践的な訓練じゃないか。ロイ。」
そんな無茶苦茶な。どちらかだけだったら勝てるが、二人同時には勝ち目がない。どうすればいいんだよぅ。
「ふふっ大丈夫よ本気は出さないから。」
「ホント!?よかった。」
この人達にも良心はあった!
「よかっ「ああ、いつもの9割9分ぐらいしか出さないよ。」たーあああああああああ!?」
訂正、この人達に良心なんてなかった。
「ボケっとするな!さあいくぞ!」
レルドさんは剣を構え、シルエスカ姉さんの周りには炎が飛び交う。こうなったら本気を出してやる。
僕は異空間から自分で錬成した愛剣を日本取り出し、両手に構えつつ、周りに防御魔法を張る。
剣でレルドさんの攻撃を受け止めつつ、防御魔法でシルエスカ姉さんの炎魔法を防ぐ。
「はっ!やれんじゃねえか。ロイ!」
「ええ。2対1でもまけませんよ!」
「なら、3対1ならどうかな?」
なっ!この声はマークさん!?
実はマークさんは執事長でありながら、隠密剣士といわれるジョブを持っている。そんな人が敵になると、常時、索敵魔法をはらなければならない。
く、くそぉ!負けてられっかア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛。
「う、ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
_________________________________________________
「で、3人がかりでやって負けたと?」
ガイル・イーストはため息混じりにそういった。
訓練所でレルドとマーク、シルエスカがへたり込んでいたので、何事かと聞きに来たのである。
彼の前に立つ3人は彼の問いかけに答えることが出来ない。
当然だ。大の大人が成人したばかりの青年に3人がかりで戦って、負けたのだから。自分の腕に自信のあった3人のプライドは完全に粉砕されていた。
「はぁ、そんなに強いのか?ロイは?」
「強いなんてもんじゃありませんよ!?」
「はっきりいって化け物です!恐らく『7人の守護者』の末席ぐらいの強さですよ!?」
ガイルの疑問に、絶叫混じりに答えるシルエスカとレルド。
「何だと!?」
『7人の守護者』とは帝国軍最強の七人のことで皇帝の直属部隊である。全員例外なく伝説級の装備を皇帝から与えられており、特に第一席の『大賢者』は他の『7人の守護者』とは一線を画し、1人で小国の軍事力に匹敵するらしい。
その末席とはいえ超人達に匹敵すると言われたのだ。ガイルの驚きも当然のことである。
「おいおい…この前リーナに縁談の話をしたらなんて言われたと思う?私にはロイがいます。といわれたんだ!ロイが兵士試験をうけてみろ!2等騎士まですぐだぞ。」
ロイは頭もいい。そこらの貴族の子供なんて相手にならないレベルだ。騎士用の筆記試験なんて苦もなく通るだろう。
「このままだと2等騎士になって爵位が送られてしまう!そしたらリーナとの結婚を止める理由が無くなるではないか!!」
「いいじゃないですか。」
リルドが半ば発狂気味のガイルの絶叫に答える。
「帝国最強クラスで頭もいい。侯爵家の礼儀作法を仕込まれていて、性格もよく、オマケに顔も良くてお嬢様とは相思相愛。どこに不満があるので?」
「ぐっぐぬぅ。」
「これで爵位を送られ男爵になったら欠点なしじゃあないですか?」
「しっしかし……………。クソっ!護衛などにしなければよかった!」
元々私はあの少年が気に入らないのだ。嘘だ。気に入っている。
元々娘を取られるのが嫌なだけの親の癇癪なのだ。
「クソぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ガイルの叫びが雲ひとつない大空にこだました。




