バースへ
体がだるい。というか体が動かない。かろうじて動かせる瞼を開ける。朧気に映る視界に、全身を鎧につつんだ20代後半ぐらいの男の人がいた。
「おっ、目を覚ましたか。気分はどうだ?」
何か言わなきゃと思い口を動かすが、声が掠れて上手く話せない。
「…………ぁ………………ぉ…………………。」
「ああ、無理するな。ついさっきこの村の『治癒師』に診てもらったばっかりなんだ。寝てても誰も怒らないから今は休め。話はそれからだ。」
そう……なのか……じゃあ……もう少し……寝てても……いい……かな……。
そう思いながら僕の意識は深い微睡みに沈んでいった。
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「レルド2等騎士!報告します!雨はあがり、天候回復。街道の状態も問題ありません!」
「報告御苦労。準備が出来次第出発し、バースに向かう。」
部下の報告を受け、レルドは労いと指示をする。
今日の夜…いや、この子の事も考えると夜営を含め明日の朝に到着するだろう。鳩便を飛ばそうとも考えたが、内容が内容なので、安易なことは出来ない。
プラーク王国第二の都市ルアーの壊滅。
これは世界的に見ても大事件だ。ルアーはもともと人の流れも多く、既に近隣の村には伝わっているだろう。
部下の1人を先にバースにいかせたから、侯爵の耳にも入っている頃合だろう。そうすれば本格的な調査隊が組める。俺の役目ももう少しだ。
それにしてもと、レルドは思う。
この子供は一体何なのかと。先程身体を拭くために服を脱がせたら、ルーンが刻まれていた。それも劣化版ではなく天然が2つだ。さらにさっき目を開けた時、右目が茶色で左目が黒のオッドアイだった。恐らく魔眼。魔法を教えたら、凄まじい才能を開花させるだろう。
どうすべきか。
恐らく帝都の役人共はこの子のことを徹底的に、手段を問わずに調べあげるだろう。もしかしたら帝国軍魔法軍魔術研究部署の犬共に引渡し、この子のルーンを剥がしてして魔眼を徴収するかもしれない。どちらにせよ、この子の未来はない。
「はぁ、」
レルドは小さく溜息をついた。2等騎士である俺がこんな事を考えても仕方ない。
もしかしたら…4大侯爵の中で最も人道的だと言われているガイル・イースト侯爵様なら。もしかしたらこの件を何とかしてくれるかもしれない。もしそうなったら俺は………。
「レルド様!準備が整いました!」
「む。分かった。出発しよう。」
「は!」
部下の言葉に現実に戻ってきたレルドはバースに向かう為家を貸してくれた村長に礼をし、部下の準備した荷物を受け取った。
馬に跨り、子供も乗せる。
「夜営をはさみ、明日の朝、バースに到着。」
部下にそう短かく伝え、馬を走らせた。
帝国東の都市バースへ。
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