お礼の夕食 1
「うん分かった。問題ないよぅ。時間取らせて悪いねぇ。」
「構わねえよ。」
支部長の謝罪のことばに短く返す。
今、ロイはギルド支部長室で事情を話していた。昼に起こった事件についてである。加害者被害者共に意識を失ってしまったので話がかなり伸びたが。
男は精神的な汚染を受けていたらしい。男は最近Bランクに上がったばかりだったそうだ。恐らく、Aランク級のダンジョン。『誘惑の森』に自分の力を過信し自滅したのではないか、とのことらしい。すぐに汚染を解き、ランクをDランクまで落とす処分が下ったそうだ。
実際、男は目を覚ました後謝罪に来た。後でなにかで返せと言っておいたが。
ロイはギルド嬢をかばった時、避けられなくて刺された訳では無い。ただ、冒険者の攻撃力を把握しておきたかったのである。わざわざ身体強化exまで切ったのだ。だが、ダメージを与えることはおろか、痛みすら感じられなかった。
これには非常に落胆している。ロイは仲間を探していた。戦闘は自分1人で大丈夫かもしれないが、腕のたつ仲間が1人いるだけでも様々なことに対応できるかもしれないと思っていたからだ。
だが、Bランクでこうだという事は、Aランクもあまり期待出来ないかもしれない。お荷物になるのでは、本末転倒である。
そんな落胆を無愛想な表情に隠しつつ、支部長に短くまたとだけ言い。部屋から出た。
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ギルドの外に出ると既に、日が西に傾いていることに気がついた。夕焼けがバリアンの街を赤く染めている。夜鳥たちが夜が来ることを知らせるようにカァーカァーと鳴いていた。
今日は朝から昼までバリアンを散策し、午後からダンジョンに行こうかと考えていたのだが、これは明日にことになりそうだと1人落胆するロイ。やはりあの男は1度しめておくべきだったかと、後悔しながらも、とりあえずギルドから離れようとした。
そんな物騒な思考をしていたロイに声がかけられた。その声音には、若干の震えが混じっていた。
「あっ、あの」
振り向いた視線の先にいたのは昼間に助けたギルド嬢だった。
「なんだ?………謝罪か。」
構われるのも面倒なのでできる限り無愛想に答える。このギルド嬢にとっても、俺に関わらない方がいいだろう。
「えっ、ええ。昼間は助けていただいてありがとうございました。」
「別にいい。気が向いたから助けてやっただけだ。お前が礼を言うほどでもない。」
「いえ、でも…。」
ギルド嬢はちらちらとロイの右胸に視線に目を向けていた。だがやはりあのシーンが目に焼き付いているのだろう。目を逸らしている。
「はぁ、傷ももう大丈夫だ。それなりに腕のいい医者に治してもらったからな。」
まぁあのような傷など診たことがなかったのだろう。治療が終わった後かなりやつれていたが。
「そうですか。それは、良かったです。」
「あぁ、だからお前が俺を気にする必要はない。お前は早く帰れ。おれはいくぞ。」
話を半ば無理やり終わらせ、ささっと離れようとしたが、
「ああっ、待ってください!」
ギルド嬢に止められる。
「………なんだ」
いかにも迷惑です。という顔をして振り返った。
「うっ、あ、あの、お礼をしたいのでうちで夕食を食べていきませんか?」
そんな彼女の提案を断ろうとしたが、はたと思い直す。そういえばここ2,3日何も口にしていない。それにこのギルド嬢はお礼をさせないと、いつまでも気にしそうだ。ならばこの提案をうけてもいいかもしれない。
「そうだな…………じゃあ頼む。」
そうを伝えるとギルド嬢は頬を緩め、はいこちらです。と後ろにくるりと振り返り、ロイが向かおうとしていた方向と逆の方へ歩き始めた。
彼女の下ろした長く茶髪がふわりと舞う。甘い香りがロイの鼻腔をくすぐった。そのいい匂いのする長髪に懐かしの彼女の同じく長い金髪がかさなった。いや、かさなってしまった。
(っ、やめろ。リーナはここにはいない。お前のせいで。)
ガツンとなにかに殴られたような衝撃に耐え、自分を責めることで熱くなった感情を押さえつけた。
だが、涙の代わりに溢れてきたのは、ドス黒い感情。
(奪われたならば、取り返せばいい。奴らが俺に与えた苦しみを、奴らにも。)
復讐に燃えるロイは、気づかない。そんななにかを抑えたような、苦しそうな顔を不安そうな表情で見ている存在がいることに…………。




