吐瀉物祭りには結界を
「たりねえな。」
あぁ、足りない。
2週間前までの地獄と比べたら、こんなの虫に刺されたようなもんだ。
身体強化exで筋肉を収縮させ、出血を無理やり止める。
「大丈夫なのか!?」
あぁ?茶髪の小男が話しかけてきた。
ああ、昨日最後にぶちのめした奴か、
「こんなの少し転んだぐらいだ。問題ない。」
「いや、痛くないのかよ。」
はぁ、ため息をつく。
「俺の痛覚耐性はLv148だ。これぐらいで痛いと言う方が難しいな。」
周りの冒険者たちの間に動揺が走る。
当然だ。普通、スキルはBランクで20
が普通だ。百越えなんて、生ける伝説の七人の守護者か、その直属である『斬』や『壊』の上位メンバーぐらいなのである。
もちろん、それらの強者は、類まれなる才能の持ち主か、幾つもの修羅場をくぐり抜けてきた者達だ。普通なら、目の前にいるまだ成人して間もなそうな青年には不可能だと、戯言だと一笑に付す所である。
だが、普通の状況ならの話だ。今その少年は胸に剣を刺したまま、平然とそこに立っているのだから。
そんなロイの、まるで生ける屍のようになっている様子をみて、ソフィアは…………
「………………ぅぁ…………」
今までの精神的な負担に、普通なら有り得ない光景を目にして脳の処理能力が追いつかなくなったらしい、床にヘナヘナと座り込み、そのまま意識を手放してしまった。
ロイはそんなソフィアの様子を見て、自分の見た目の恐ろしさに気がついた。右手で黙って剣の柄を握ると、ためらいなく一気に抜いた。
「あ、」
ブシュアアアアアアアアアアアアアア!!!
一気に抜いたせいか、傷口を広げてしまったらしい。間抜けた声の後に、背中と胸から赤が吹き出す。
バタッ、バタバタバタ、うップ、オ、オロrrrrrrrrrrrrrr!
その様子を見た若干心の耐久力が低い冒険者達が倒れ、意識を手放さなかった者も、吐き出していた。
血塗れの青年とその足元にいる床板に頭がめり込んでいる男。その周りでの吐瀉物祭りにロイは、
「あのタイミングで寝てて正解か、」
と呟き、流石に可哀想なので、結界魔法で自分とソフィアを吐瀉物から守った。
この後ギルド支部長が涙目になったのは、言うまでもない。