待ってるんだけど
「ぼーーーーーーー、」
「ちょっと、聞いてる?ソフィアちゃん。」
「はいっ?な、何ですか?」
私、ソフィアは仕事中でありながらぽーっとしてしまった。
何してるの!私!
自分を叱りつけカウンターをはさんで向かいにいる人に返事をする。
うっ………この人は、
ソフィアの前にいるいかにも俺カッコイイアピールをしてくる冒険者に、ソフィアは苦手意識を持っていた。
「大丈夫?でもそんなぼーっとしているソフィアちゃんもかわゆいよ!」
こういう所が苦手なのだ。純粋に褒めてくれているなら素直に受け取るが、比較的鈍感なソフィアでも分かるぐらい下心が見える。
取り敢えず、できるだけ機械的な笑顔を浮かべ形だけのお礼を返しておく。
「ありがとうございます。本日はどのような御用でしょうか?」
「そんなの決まっているじゃないか!ソフィアちゃんと愛を育む為だよ!ソフィアちゃん!僕と付き合ってくれ!」
ええぇぇぇぇ…………。
周りの視線が集まっているのを感じる。
「すみませんが、仕事中なので………」
ソフィアはやんわりと断ろうとしたのだが、
「!?それは仕事外ならいいのかな?ふんふん確かにここじゃ恥ずかしいもんね!それなら、そうだ!街外れの『魅惑の蜂蜜』で集合にしないかい!仕事が終わったら!」
周りの視線が更に集まる。
『魅惑の蜂蜜』と言ったらここバリアンに唯一のラブホテルだ。
そこで待ち合わせと言うことは、この男の考えていることなど、ひとつしかない。
「えっ!なに、何言ってるんですか!?私はそんな気はありません!」
「!あぁ確かに配慮が足りなかったね。確かに1日目からそれじゃ恥ずかしいもんね。でも大丈夫!僕が優しくエスコートしてあげるから、心配いらないよ!」
しつこい。バリアンのギルド嬢の中で最も優しく人当たりのよくて、男性の冒険者の間で絶大な人気を獲得している(本人に自覚なし)ソフィアでも、流石に堪忍袋の緒が切れた。
「やめてください!!!私はあなたのこと何とも思ってません!御用がないならお引取りを!」
そう言って、気持ちの悪い冒険者との会話を打ち切ろうとしたソフィアだったが………………
「えっ…………何、だって?いや、そんなことは無い僕とソフィアちゃんは結ばれるべき運命の人同士なんだうん、そう、そうだ、そうだよ。僕は間違っていない。いなかったはずだ。なのになんで!」
前にいる冒険者は最初はつきものが落ちたような顔をした後、唐突に発狂し始めた。
「おい、どうした!」
隣のカウンターでギルド嬢と話してた冒険者が発狂している人の肩を揺さぶり、正気に戻そうとするが…
ドスッ!
「ぐふっ、が、は?」
肩にナイフが刺さることになった。
「僕とソフィアちゃんとの時間を邪魔するんじゃねえ。」
隣の冒険者にナイフを刺した狂人は、ヌルりと視線をソフィアに向けた。
「ひっ!」
狂人の目は殺意で染まり、濁りきった目をしていた。
「ソフィア、ソフィア、ソフィア、ソフィア、ソフィア、ソフィアソフィアソフィアソフィアソフィアソフィアソフィアソフィアソフィアソフィアソフィアソフィアソフィアソフィアソフィアソフィア!!!」
狂人は、カウンターを乗り越え、ソフィアの首筋に腰に指していた剣を当てた。
途端、駆け寄ろうとしてきた冒険者達の足が止まる。
「ひひっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ。」
「ひっ!」
狂人はもう正常な思考をしていないらしい。壊れたアーティファクトのように、ずっと笑っている。
そんな狂人に周りの冒険者達が説得する。
「おっおい!ソフィアちゃんを離せ!」
「そんな事したってお前の為にならないぞ!」
「意味の無い事はもうやめろ!」
「…………………………………」
周りの声に突然黙る狂人。
ソフィアの首筋に当てられていた剣が若干離れる。
その事に、正気に戻ったのかと思い、空気が少し緩む。
が
「意味が無い…………?うるさい!!!ソフィアは俺の物だ!!!自分の所有物に何しようが俺の勝手だろうがぁぁぁ!!!」
剣は再びソフィアの首筋に、前よりも強く当てられた。
ソフィアの首から赤い筋がツーーーっと伸びる。
「!?」
その光景に周りも手が出せない。
辛い静寂が広がる。
このまま状況が拮抗するかに思われた。
その時、
「あのさぁ、俺ずっと待ってるんだけど。迷惑だからそういうのやめろ。」
冒険者の間から1人の少年が出てきた。
ばれんたいん?
なにそれオイシイノ?