父親
「報告は………以上です………。」
「そうか………。報告ご苦労。」
部下の報告に、ガイルは短く答える。
部下からの報告とは、この街のギルドでの話だ。
先程帰ったギルド支部長の言葉。
――リーナ・イースト嬢は天啓の一つ、『神子』の持ち主であり、神からの祝福の体現である。
リーナ嬢の存在は、非常に希少で大切な物なので、帝国が保護する。
尚、これは帝国法に記載されており、帝国法では、リーナ嬢の保護は最上級事項とされている。
そのため、イースト家であろうとも異議申し立ては受け付けない。
天啓。
天啓とは、神に選定された、神の代行者と言われるものだ。
天啓の持ち主は、それぞれの分野で突出した才能を持ち、特に魔族に対して絶大な効果を発揮する。
その為、天啓は英雄的な存在として、帝国に保護という名目で連れていかれるのだ。
だが、
もう彼女と話せる事は恐らくないだろう。次に話すのは、英雄と家臣という形だろうか。
娘を守ろうとした青年は、満身創痍で運び込まれた。
娘を連れにきた『賢者』とやり合ったらしい。
その翌日、つまり今日の朝、部屋にお世話になりましたとだけ書かれた置き手紙が置かれていた。一体何を考えていたのか。
いや、考えていた内容は、なんとなく分かる。
だが、分かりたくはなかった。自分の気持ちに加え、彼の気持ちまで知って、自分が傷つくのが怖かったのだ。
父親の思考を捨て、貴族、ガイル・イーストに無理やり切り替える。
だが、どんなに堪えても、深い悲しみが溢れてくる。
「うっ、うぅぅ、ううぅぅぅぅぅぅぅ……………‼」
娘と息子同然の青年を同時に失った事は彼の心にダメージを与えるには、充分すぎた。
第1章完結