賢者
戦闘シーンって難しい。
金木犀特有の匂いを鼻にしながらギルドの入口から飛び出る。転がるように広場の中央にでて、西を睨みつけた。
西から『何か』が来る。
3…2…1…。 来る。
ロイの前に突如、1人の老人が現れた。
青いローブを身に纏い、まるで前からそこにいたかのように立っていた。
「ふぉっふぉっ、見所のある者じゃの。儂の気配に早い段階で気づくとは。じゃが連絡にあったのは10代のお嬢さんと聞いておるのじゃがの。お主に用はない。去ね。」
「それはこちらの台詞だよ。爺さん。いや化け物。一体何者なんだ。」
「もっと老人をいたわれ。失礼じゃのぅ。化け物とは。そんな大層なもじゃないわい。今代の『賢者』。ただの老いぼれじゃ。」
『賢者』
ロイの頭には、その言葉しか響かない。
全身から、ぶわっと冷や汗が出てくる。
「………賢者が、何故ここに?」
「1人の少女を保護しに来たのじゃが、お主に心当たりはあるかの?」
「………名前か、何か教えてくれないとな。」
ロイは一縷の望みをかけて聞く。
が、
「ふむ、リーナ・イーストという―――」
直後、『賢者』に100近い炎が迫った。
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「ふむ、リーナ・イーストという―――」
その先は喋らせなかった。
100近い炎をぶち当てたからだ。
しかし――――
「ふぉっふぉっふぉっ、いい歳して火遊びは感心しないの。」
敵を炭にしてしまおうと躍りかかった炎たちは、しかしどれも賢者の一歩手前でまるで見えない滝にぶつかってしまったかのように、次々に消えていった。
賢者には火傷どころか、服に焦げ目ひとつすら付いてない。
「っ!クソっ」
僕は悪態をつきながら水属性で魔力を水に変換、次に火属性で熱量を操り、水を氷の矢にする。
1メルタを越す氷柱十本生成し、そのまま賢者に突き刺す。
放たれた氷柱は、対象を抉り、貫こうと賢者に迫るが―――――
「ふぉっふぉっ、次は水遊びかね?ちと早いが季節外れの氷というのも風情があるのぅ。」
パリイイイイイイン!
氷柱は1本残らず、賢者の前で粉々に割れ、そのまま魔力となって霧散する。
「なっ………‼くっ!」
水属性と風属性の複合属性。雷属性で10以上の雷の大剣を生成。宙に浮かべたそれを若干のズレをもたして放つ。
ピシャアアアアアアアン!
敵を雷で貫こうとした大剣たちは、だが全て賢者の前で爆ぜていく。
「まだまだ!!」
次は本気だ。
実戦で使うのは初めてだが、そんな事言っていられない。
四属性それぞれの魔力の塊を生成し、結界魔法で四つの魔力の塊を一つにする。
ロイの頭上に現れた4色の光を放っている魔力の塊は、やがて色が混じり合い、黒く変色。
そのまま漆黒の塊を賢者に放つ。
『カオスブレイクコア フォース』
「死ね」
僕の全力魔法。属性混合魔法だ。
四属性の魔力が対象に四の滅びをもたらす魔法。
半径20メルタは吹き飛ばす威力を込めた。
これはあの『賢者』でも、防御するだろう。その隙に接近し首を刎ねれば勝ちだ。
そう思い、剣を取り出して構える。
次の瞬間、光線がロイの両肩を貫いた。
1メルタ=1mです。
カオスブレイクコアって恥ずかしい。