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第3章 異質と嫉妬

お久しぶりです。今回はほんの少しですが、流血表現があります。苦手な方はご注意ください。

 クリスマスをどう過ごすかは、世の高校生にとっては、至上命題だ。

 俺はどうかって? 二親等以内の彼らと過ごすさ。家族想いのいいやつだろ?


 一目惚れはしたが、一週間以内に来るイベントに誘えるほど、俺と彼女は親睦を深めていない。せいぜい、帰り道でバッタリ会って、数分間話して別れる程度さ。

 気になっているのは、雛菊はうちの高校の制服を着ているのに、学校には在籍していないらしいことだった。俺は2年なのだが、まず学年中を探し、いなかったので1年の中を探し、痛い視線を浴びながら3年生の中も探したので、間違いない。

 そんな苦労をした後で、担任に調べてもらえばよかったのだ、と思いつき、自分の脳みそのスローペースぶりを呪った。

 雛菊には、なぜうちの高校生のコスプレをしているのか、聞けなかった。聞いたら二度と会えなくなる気がしたからである。なにせ接点はソシャゲの機能だけで、ラ●ンすら交換していない。へたれ? そうさ。あいにく彼女いない歴=年齢なもんでね。言い訳すると顔は悪くないと自分で思っている。


 そんな孤軍奮闘をしている中、俺は、今日も運よく雛菊と会い、他愛ない話をしていた。

 そのとき、『ヤツ』はやってきた。


 そして話は、プロローグの場面に戻る。


 どう見てもカタギではないおっさんが不意打ちで雛菊を襲い、雛菊がどこからどう見ても物理法則を無視した魔法的なものを使って、おっさんの攻撃を防いだ。

 俺はしばらく唖然としていたが、雛菊の

「日向! コイツをなんとかしてくれ!」

 という言葉で我に返り、とりあえずおっさんの頭を薄っぺらいカバンでたたいてみた。どうでもいいが雛菊、キャラが変わってんぞ。なんだその、勇ましい口調。

 そんなやる気のない俺の攻撃はアロハのおっさんには当然効かず、

「なんだ、てめえ!!」

 と雛菊の出した氷の板のようなものからナイフをやっとの事で引き抜き、俺に向かってきた。やべえ。俺、まだ親を温泉旅行にも連れてってねえのに。俺はとっさに、カバンを盾代わりにした。どうせなら教科書を十冊ぐらい入れてくるんだった。少しはマシになっただろう。さよなら、俺の人生――。


 「ぐああっ」

 あれ、俺まだ生きてる。

 情けなく閉じていた目を開け、顔をガードしていたカバンを恐る恐る下ろすと、おっさんはいばらのツルのようなものに巻き付かれ、締め付けられていた。ツルには太いトゲがびっしりとついていて、おっさんの体はそのトゲに傷つけられ血が全身からにじんでいた。

「日向、ケガは無いか?」

 雛菊がおっさんを無視して俺に近づいてきた。なんとなく、後ずさる。

「・・・・・・日向?」

「雛菊、お前、何者だ?」

 雛菊は、少し傷ついた顔をした。

「すまない、その質問には今は答えられない。見ての通り、私は不思議な力がある。しかし、日向に危害を加えることは、絶対に無いから、安心してほしい」

「あと、口調が変わってるんだが・・・・・・」

「ああ、私は元々、こういう話し方なんだ。日向の前では、普通の女子高生を演じていたからな」

 話しながら雛菊はおっさんにかけた魔法を解いた。おっさんは血まみれの姿で逃げていった。体力あるな。二度と会いたくはないが。


おっさんの姿が見えなくなったところで、会話を再開する。

「なんでそこまでして俺に近づいたんだ? お前の目的は?」

 そこで、雛菊は、驚くべき行動に出た。

 俺に抱きついてきたのである。

「・・・・・・雛菊?」

 いい匂いがした。背中に回された腕の力は優しかった。

 雛菊は俺の肩に顔をうずめると、

「日向、信じてほしい。今は理由はいえないが、私はお前の味方だ。これまで通り、友達でいてほしい」

 このやり方は卑怯だよな。しかし、単純な俺は、一瞬でほだされてしまった。うん、こんな美人の友達でいられるなら、命の危機も問題ない――訳あるか。

「雛菊、一つ条件がある」

「なに?」

 雛菊は俺から離れて、不安そうな表情を浮かべた。

「これからは俺のボディガードになれ。こんなイベントがまたあったら俺の心臓はもたん。俺の家から学校の手前まで、毎日俺の話し相手になってくれ」

 学校の手前というのは、雛菊なんかが学校の生徒に見られたら、たちどころに噂になるだろうという、俺の確信から、それを防ぐための策だった。

「わかった。そんなことでいいなら、私はそうしよう。これからよろしく、日向」

「ああ、よろしく頼むぜ」

 俺はやっと心が落ち着いた。

 

 さすがに今日はもうなにも無いだろうと、雛菊とはその場で別れた。自分に触れた柔らかくて温かい感触をどうすれば記憶にとどめておけるかその場で考えていると、後ろから怨霊のような声がした。

「・・・・・・ひーなーたぁー・・・・・・」

「うわっ!? 水穂!? お前いつからいた!」

 幼なじみは親の敵を見るような目で俺をにらみながら、

「きれいな女の子とくっついてたときからよぉー・・・・・・」

 と言った。 ということはさっきの超常的バトルは見られていない。いや、事態はそれどころでは無い。

 影浦水穂。俺の幼なじみであり、俺に恋愛的アプローチをしてきた女はなぜか徹底的に潰す、俺の不幸の原因である。

 

「もー。日向はなんでこんなにモテるのかなー。こないだだって、日向のクリスマスの予定を気にしてた女子がいたから、その日は私と映画見るって嘘ついたのに・・・・・・」

 なんてことしてくれやがる。いや、今の俺は雛菊という心の癒やしを得たが、こんな事態に巻き込まれていなかったら、今年も目の保養になるしゃべる花とは無縁のままだったじゃねえか。あ? 水穂じゃだめなのかって? 俺にとってコイツは、妹のようなものであり、目の前で脱ごうがこれっぽっちも興味ねえ。これに関しては、クレームは受け付けない。

「ま、いーや。今まで通り、計画立てて実行あるのみっ。バーイ!」

 そんな不吉なことを笑顔で言いながら、水穂は去っていった。返り討ちに遭わないといいが。今度の女子は、バトル的攻撃力だけならカンストしてるらしいし。

 俺は、意味も無く空を見上げた。夕焼けがきれいだと柄にも無く思い、どこからかカレーの匂いがして腹が鳴ったところで帰ることにした。 

 雛菊とまた会いたいと思いながら。


第3章<了>


恋愛シーンは苦手です。

お読みくださりありがとうございました。

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