アウトローの夢(2)
※今回も死ネタ、流血表現を含みます。苦手な方はご注意ください。
山賊達がもうすぐで山を出る、というところで、 鬼瓦の前にヒラリと女が躍り出てきた。
「うわっ、またべっぴんのねーちゃんだなー」
鬼瓦の子分の一人が、女を見ていった。鬼瓦も、心の中で頷いた。確かに、いい女だった。
女は、軽装をしていた。荷物は、ポシェット一つだった。
--この女はろくなものを持っていなさそうだ。
鬼瓦は、女の全身をざっと見て、そう思った。ただ、容姿だけは、とても美しかった。「女、どけ。襲われたくなけりゃあ、逃げろ。今なら見逃してやる」
しかし、女は逃げる様子はなかった。ただ、鬼瓦の目を見据えている。
「先ほど・・・・・・、女を殺しただろう」
「それがどうした」
「杖だけ奪えばよかった話だ。私はお前が女を殺したことが許せない」
「おいおい、嬢ちゃん、自分が何言ってんのかわかってるのか? あんた、今のこの状況じゃ、嬢ちゃんは、分が悪いぜ。逃げないのなら、俺も相応のことをするまでだ」
鬼瓦は、先ほど女の血に濡れた、短剣を取り出した。その短剣を見た女は、動けなくなったようだった。
「お頭ー、今度は生け捕りにしやしょうよー」
「うるさい。俺は今、腹が立ってるんだ。黙って見てろ」
鬼瓦は、女に向かって短剣を握りしめ突進した。ブジュ、と、女の柔らかい体に、短剣は切れ味よく刺さった。鬼瓦は、剣を引き抜いた。女の体から、鮮血が吹き出した。また、血糊に濡れた己の武器を布で拭った。女は倒れて、苦しげにうめいた。
「・・・・・・行くぞ、お前ら」
鬼瓦は、道ばたにつばを吐き、女の元を離れて、歩き出した。
「まったく、今日のお頭はどうかしてるだー。べっぴんさん二人も殺してー」
子分の一人が言った。
「うるせえ。腹の虫が騒ぎやがるだけだ」
女の死体はそのままに、山賊の一行は獣道を下った。そして、山から出ようとした。
そのとき--。
鬼瓦は、体に異変を感じた。
息がうまくできない。胸が苦しい。
鬼瓦は、体中の痛みに、全身をかきむしった。
「お頭、周りに化け物が!」
鬼瓦に、茶色の半透明の蛇が、何十匹もまとわりつき、鬼瓦の体をむさぼるまねをしていた。鬼瓦の体には外傷はできていなかったが、彼は全身の激しい痛みに、道ばたに倒れ込んだ。
--苦しい、痛い、痛い、痛い、痛い--。
鬼瓦は、意識がもうろうとし始めた。
あの女だ、と直感した。妙に軽装だった、黒髪の美しい女。
あの女が、俺に呪いをかけたに違いない--。
油断していた。魔術師は、頭の中で魔法を使う、と念じるだけで、呪い、攻撃、回復の魔法が使える、と鬼瓦は聞いていた。だから、魔術師であるものは、武器などの目立つ荷物は持たないのだ。
--あの女、殺してやる、殺してやる、殺してやる--。
「お頭ー!!」
子分の声は、鬼瓦の耳に届くことはなかった。
鬼瓦は、目を覚ました。辺りを見回すと、自分の、いつも通りの小汚い事務所だった。鬼瓦は、妙な夢を見た、と思った。ゲームのような世界で、山賊の頭だった俺。
子供じみた夢、だと思った。
だが、自分の頭のどこかが、あれは実際にあったことだ、と告げていた。前世か何かの記憶だと。
そして、もう一つわかっていることがある。
--あの女が、今も俺の近くにいる。
鬼瓦は、理由はないが、確信していた。
--殺してやる。今度こそ。
鬼瓦は、机の引き出しから愛用のバタフライナイフを取り出し、刃を確かめると、たたんでポケットに突っ込んだ。
今度こそ。
俺から逃げられるものなど、ただの一人もいないのだ。
血なまぐさい話が続き、すみませんでした。
お読みいただきありがとうございました。
次の章から現代に戻ります。