第二章:アウトローの夢(1)
この章では、主人公が爽やかな高校生から、むさ苦しいおっさんに一時的に変わります。ご了承ください。※死ネタ、流血表現があります。苦手な方はご注意ください。
鬼瓦紀平は自分が夢を見ていることに気づいていた。
子供じみたおとぎ話の世界で、鬼瓦は山賊であった。
山の中で、裕福そうな旅行者が通るたび、仲間を率いて彼らの金品を奪った。
ある日、山の中を女が一人でさまよっていた。上等な女だった。
大きな杖を持っていて、鬼瓦は彼女が勇者たちが率いるキャラバンの一人だとわかった。
--あの杖を奪って、売り飛ばそう。
ヒーラーが持っている杖は、闇市では、その貴重さから非常に高値で取引されていた。
「おい、お前らは待ってろ」
鬼瓦は仲間にそう言い捨て、刃物を懐に忍ばせ女に近づいた。
「道にお迷いですか? お嬢さん」
「・・・・・・誰よ」
女は、自分が背負っていた杖を握りしめ、警戒した様子で鬼瓦をにらみつけた。
鬼瓦は笑みを浮かべ、
「なに、悪いことはいいません。あなたの杖をよこしなさい。その代わり、私が道を教えましょう。いい取引だと思いませんか?」
「思うわけないでしょ。ヒーラーにとって、杖は命なの。それに、もうすぐ私のキャラバンの人たちが、私を見つけてくれるわよ」
鬼瓦は、心の中で舌打ちをした。この女、気が強い。杖さえ差し出せば、何もしないと決めていたのに。
「・・・・・・そうですか。では、仕方ありません。あなたから、杖を無理矢理奪います」そう言って、鬼瓦は、懐に忍ばせていた、短剣を取り出した。
その刃物のきらめきを見た途端、女は走って逃げようとした。だが、女は動けずにいた。
鬼瓦が持っている短剣には、獲物が逃げられなくなる魔法がかけられていた。
その魔法をかけるために、鬼瓦は魔術師を何人も脅した。
「私をどうするつもりよ」
女は、杖を握りしめていった。
「勘違いされては困りますね。私は杖がほしいだけです。あなたがおとなしく杖を差し出せば、今すぐ解放しますよ」
「するもんですか。あんたなんか、私の仲間がくれば--」
女は、続きをいうことができなかった。
女が気づいたときには、自分の腹に短剣が刺さっており、 血がしたたり落ちていた。
「ぐ・・・・・・、がっ・・・・・・」
女が、うめきながら、膝をついた。
抱えていた杖を、地面に落とした。カラン、と、杖は転がった。
鬼瓦はその杖をつかみ、太陽の光にかざした。杖の先端部分に石が埋め込んであり、光を反射してキラキラと光った。上物だ。
鬼瓦が女の方を見ると、女は動かなくなっていた。鬼瓦は大事な短剣を女の死体から引き抜くと、布を取り出して短剣についた血糊をぬぐった。
「あー、やっちゃったんですか。お頭ー」
子分の一人が、草むらから出てきた。
「せっかくキレーなねーちゃんと遊べると思ったのにー」
「女となら、いつでも遊べるだろ。この杖は高値で売れるぞ」
「ああ、残念だ、残念だー」
子分は女の死体を眺めながらいった。
「さあ、街に行くぞ。今夜は酒が飲み放題だ」
「マジっすか! そうと来ちゃ、さっさと行きやしょう、お頭!」
山賊たちは、ここ数日間、まともな食事にありつけていなかった。
女の死体は藪の中に隠し、彼らは、意気揚々と獣道を街へ向かって下っていった。
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