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7話 クズ三人組、ついに動く

 

 気持ちのいい微睡みから覚め、素晴らしい朝日がカーテンを照らし今日も健やかなる素晴らしい一日が始まろうとしてい──るわけもなく。辺りは真っ暗でどう見ても不健康まっしぐらな起床時間だ。


「そういやここ異世界じゃねぇかっ!つかまだ夜中かよ!」


 ベットからがばっと起きた俺はいつもと違う雰囲気を感じやっと自分達が異世界に来たという記憶を取り戻していく。そして割と大声で叫んだにも関わらず何事も無かったかのように静寂が辺りを包んでいた。みんな寝ているのだろうか、暗くてよく見えない。俺は今の時刻が何時か気になって持っていたスマホの電源を入れ自分の右腕に着けている腕時計を照らす。暗闇で光らせた光沢は目に悪くぼんやりと針が進んでいくのが分かる、現在は8時だ。

 ──8時!?


「あーそっか時間もずれてるんだったわ……この宿にも時計すらないし全然時間わからねぇじゃねぇか」


 勇者なのにこんな時計すらない宿に泊めさせるとかありえねぇわ、よく見たら電気すらねぇ。確か他の貴族たちの家もこんな感じだったが、相当な貧困国なのか?そうなるとやっぱり他国との貿易を閉鎖してる説は有力だな。ボッチはいつの世もどこの世界でも共通なんだな。……取り合えず彩華を起こすか。

 俺はだらしない格好ですやすや寝ている彩華の頬を軽くペチペチ叩いて呼び掛ける。


「おーい彩華、起きろー朝だぞー」

「んぁ……?零っちおはよぉ……おやすみぃ……」


 ダメだコイツは放っておこう。次は黒崎君でも起こすか。


「黒崎くーん朝だぞー……ってあれ?」


 真っ暗でよく見えないが、黒崎君のベッドが空だ。俺は怪訝に思いスマホで辺りを照らすがやっぱり黒崎君がいない。外だろうか?


「どこほっつき歩いてるんだアイツ」


 俺は彩華を置いて外に出てみることにした。真夜中の街は不気味なほどに静かで、よほど貧しいのか明かりをつけている家が一つも無かった。下は城下町が広がっていて上は城、典型的なピラミッド式だ。俺達の宿は割と高い位置にあるので勇者の価値はやはり高いと思われる。そんな事を思いながら涼しい夜風の吹く中真っ暗な街並みを見渡す


「よく見たらちっせぇ街だな、歩いても外周20分程度だろこれ」


 発展途上国と言えば聞こえはいいだろうがこれはどう見ても潰れる一歩手前の国だ、そんな国が俺達を召喚したのか。憶測だが召喚だって簡単に出来るもんじゃないだろうに、簡単だったら俺達の他にもどんどん呼んでいるはずだしな。そこまでして魔国を滅ぼしたいってこの国どんだけ魔国に恨み持ってんだよ、尚の事関わりたくねぇ。

 馬鹿なのか無能なのかそれとも同類か、理解しがたい情報しか知らない俺にとっては非常に考えたくない状況だ、深いため息をつきながら頭を抱える。


「なんだ、零じゃないか」

「おわぁ!?」


 突然背後から声がかかってきて信じられないほど高い裏声を出してしまった、振り返れば猫背でポケットに手を入れている黒崎君がいた。


「い、いいいきなり話しかけてくんなよ!足音全く聞こえなかったしマジでびびったわ!」

「す、すまん」


 意識してなかったのか、普通に申し訳なさそうな顔をしている。こんなでかいガタイでも気配どころか足音一つ聞こえないのだからやはりプロだ。日本ならまだしもこんな世界に来たのなら意外と実用性ありそうだし、どうやるのか今度俺も教えてもらおうかな。


「で、一体外で何してたんだ?」


 外はほとんど真っ暗、スマホなどで明かりも付けずにこんな夜道を徘徊するとか一体何を考えているんだろうとふと疑問に思った。


「いや、目が覚めたから散歩でもしようと思ってな。俺は夜の方が好きなんだ」

「ほーん……散歩ねぇ……」


 俺は黒崎君のポケットに目を向ける、暗くてよく見えないが明らかに手以外に何か入っているのが見て取れる。逆に言えば辺りの暗さと黒い服と相まって注目しない限り全く分からないほどだ。

 中に一体何が入っているのかは分からない、だが黒崎君が普段から持ち歩いているものは分かる。それがポケットに入っていると言う事は──


「随分と物騒な散歩をするんだなぁ黒崎君よぉ」

「……まぁな」


 ゆっくりと、不気味に口角をあげる黒崎君。いやぁ怖い、こりゃどこからどうみても悪魔だわ。

 意図を悟り釣られて俺も本来あるべき表情へと戻り始める。

 二人の不謹慎で邪悪な笑みが形作ろうとしている中、暗い夜を更に深く落とした黒い霧が一瞬で街中を包み込む言葉が黒崎君の口から放たれた。俺は今にも大声で笑いそうなのを必死にこらえる。


「ところで零。──異世界に召喚されて一日で国を乗っ取る、なんて武勇伝は中々に映えないか?」

「……クククッ……あぁ、それは最高だな。ちょうど朝飯選びに困ってたんだ」


 どうやら楽しい一日になりそうだ。


 ◇◇◇


 気持ちの良い微睡から目覚めて大きく欠伸をする。昨日は久しぶりに長い時間起きていたせいでかなりの熟睡をしたような感覚。


「ん~~!……ふわぁぁ……零っち~黒っち~おはよぉ~」


 気さくな挨拶をしながら起きるも返事が無い。と言うよりいる気配すらない。


「んー……?あれ?なんでいないの?おーい」


 気づけば辺りはまだ真っ暗で夜中だと言う事が分かる。零っちならまだしも黒っちまでいないのはおかしい、あの二人が揃って消えて私だけが取り残される理由──。


「わかんにゃい」


 思考放棄。


「そんな事よりここお風呂すらないの?昨日入ってないだけでも最悪なのにほんっと使えないわねこの国」


 一人で腕を組みながら壁に向かって暴言を吐き捨てる。なんだか心が虚しくなるのでもうやめよう。

 暇なので現代人の癖かスマホを手に取る、そう言えば私スマホはポケットに入れてたような……。

 寝ぼけてよくわからないけど流れで電源を入れるとメモ用のアプリが開いており、そこには自分では書いた記憶のない文章が綴ってあった。


「なにこれ……?──ん?あれ?この文体どっかで……と言うか間違いなく……──あら?あらあら!?」


 文章を読み進めるごとに今の状況を段々と把握していく。この文章は間違いなく零っちのもの、恐らく私が寝ている隙に勝手に取り出して勝手に書いたんだと思う。確かに何もやることなくなったら取り合えずスマホを見る、下手に手紙なんかで伝え置きするよりよっぽど確実性がある。

 そしてこの文章の内容、二人が先に出て行った理由と私を起こさなかった理由。なるほどね、さすが零っちだ。


「うふ、うふふふ……あはハハハハッ」


 薄暗い部屋の中、一人不気味な笑いを零す金髪の少女。その可憐な姿とは裏腹に真っ黒な思いが辺りを漂っていた。

 誰もが寝静まる安寧の夜、三人の異常者はそれぞれの欲望に身を乗せながら行動を始めていた。

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