5話 クズ三人組、ついに自分達を召喚した国を乗っ取る
所々会話が飛んで着いてこれない人の為に今までのまとめとしていくつか整理しよう。
1.俺達は異世界へ召喚され、召喚された先で貴族や王様達に勇者と崇められ自国と敵対関係にある魔国を根絶やしにしてくれと頼んできた。
2.突然召喚した上に無理難題を押し付けて礼も寄越すと言われていない、どうみても人間としての最低限の礼節を弁えていない貴族達に対して俺らはその頼みを快く引き受けた。
3.そのまま何事もなく話が進むので俺達はこの貴族達の人間としての常識を疑う、そこでもしかしたら俺達を何かの悪事に利用しているのではないか、最初から逃げられない立場なのではないかと危機感を抱く。
4.そこでまずは流れるように情報収集をして自分達の立ち位置、この国は自分達を本当に勇者と信じているのかなど色々調べる。
5.そこでこの世界には過去に自分達と同じ異世界人を呼んだことがあると記述されいた。だがこの国にはその痕跡が見当たらない。俺達を召喚した際も「異世界の知恵と経験を活かして」などと言っていた。導き出された結論は「異世界人が召喚された国はこの国と文化の共有、供給を含む同盟を組んでいない」と言う事に至る。つまりはこの国は俺達に関する情報を何ら持っていない、と言う事がすぐに分かった。
6. な ら ど う す る か ?
「いやだってこの国アホすぎんだろ、情勢どうなってんの?そもそも政治してんの?外交はしてないのかよ、何をトチ狂って魔国とか言う他国を攻撃しようと思ったんだ?馬鹿なの?死ぬの?」
「この国をキャンプ地とする」
「黒っちやめてっおなかいたい……あは、あはははっあははははははっ!」
奇っ怪な笑い声が誰もいない静かな部屋に響き渡る。
嬉しいかな、愉しいかな、俺達は欲望に従って生きてきた人間だ。
「だって……っははは!笑うしかないでしょっ……他国の情報も入れない、異世界人を呼んだかと思えば私達の知識を持ってないっ……それってもう」
「俺達に"国を乗っ取ってください"って言ってるようなものだな」
俺達が下品にも勇者とは思えない笑いを放っている最中、黒崎君だけは仏教面で笑っていない。がこれもいつもの事だ。ポーカーフェイスで表に出さないだけで内心爆笑だろう、ネタにまで乗っかってくるくらいだからな。
「俺達から見て未知とはこの世界そのもの。だがこの国にとって未知なのは俺達。相互警戒して然るべき存在だ。……それを易々と支援まで出してくるとは、どうみても裏があるように思えていたのだが……」
その通り、裏があって当然の馬鹿すぎる行動だ。実際俺もついさっきまで裏があると思って行動していた。
だがこの書物を読んだ後なら裏なんてない完全な馬鹿だと言う事がわかる、それともこの書物すら俺達の考える事を想定した偽物だとか?もし仮にそうだとしてもやっぱり馬鹿だ、何一つ意味を持たない。この国は俺達が本気でヒーローごっこをやると思ってんのか?
それとも深読みを利用、そう思わせて油断させる作戦か?なぜ?なんの為に?俺達はそもそも無から、引いては召喚に要した魔力みたいなものなど何かしらの消費によって生まれた存在。そんな俺達を騙して得するやつがどこにいる?
自分で作ったおもちゃを自分で壊すのか?そこに意味はあるのか?
流石にそこまで頭のネジが外れてはいないだろう。
だったら本気で信じてるという事になる、やっぱり馬鹿だ。俺は今日何回馬鹿と言ったんだ?人生で一番言った気がするぞ。
そもそも異世界人を自分たちの世界に呼ぶこと自体間違ってることに気づけよ、未知の力を持つ宇宙人を地球に呼ぶ馬鹿がいるのか?破滅する可能性を考えないのか?
俺はおもむろに彩華に向かって全く関係ない事を吹っ掛ける。
「神が主人公にチートを与えて異世界に転生させるのがよくあるけど、その主人公がチートの飛躍によって神をも越える力を手に入れたらその神どうすんの?危機感とかないの?」
「それはまぁ、主人公を転生させる神はめちゃくちゃ強くて主人公ですら越えられない存在とかじゃない?もう何もかも超越した神とか、だから主人公にチートを与えるほどに余裕があるんでしょ」
突然俺の発言により話の流れが変わるが彩華は問答無用で答えてくれる。もう長い付き合い、俺が何を言おうとしてるのかくらいわかっているという顔だ。黒崎君も俺の話を真剣に聞いている──それは話の流れが一切変わっていないからだ。
「じゃあこの国も俺達を呼んで無償で資金やら物資やらを提供するってことは自分達が俺達より絶対的に強く越えられない壁があると自負しているってことだよなぁ?」
「それが調べたところによると『私達の世界の知恵は知らない』って言っているのよねぇ」
俺達の会話は1度も相違すること無く完全なテンポを決めてどんどん進んでいく。そもそも俺達より強いのなら魔国の討伐に俺達を使う意味がない、俺達に頼んでいるって言う事は俺達が国を転覆させられる力があると自負しているからだろう。
確かにその流れは分かる、自分達より強い者を呼び出して、支援はするからコイツを倒して、と。だがそれは呼び出したやつが【いいやつ】だったらの話だ。俺達はなんだ?なんて集団だ?
──クズだ、クズ三人組。魔国を倒して英雄扱いされるのも悪くないが、もっといい物資が目の前に落ちてるじゃないか……。
俺は机を両手で思いっきり叩き起立すると、淀んだ笑みに口角を段々をあげていき、嬉々に染まった声色でこう答えた。彩華、黒崎君もそれに続く。
「つまりそれはもう……自国を乗っ取ってくださいって言う意訳だろ?」
「そうね、間違いないわ、きっと私達に王政を任せたいのよ。もうそこまで言うのなら乗っ取ってあげましょう」
「異論無しだ」
異世界にきてわずか数時間。
俺達クズ三人組は満場一致で自分達を召喚したこの国を乗っ取る事に決まりました。