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44話 クズ三人組、異世界で大雨を迎える

 

 巨大な円卓を囲むように座る複数人の人影、暗い影に灯されて自らの名誉を称えたいが為の欲に満ちた会議が今日も今日とて行われていた。

 しかしその内容は不敵な笑みを浮かべるに値する余裕などなく、焦燥と不安によって混在したかつてない空気だった。


「グローリアがやられた、だと……?」


 第一声、放たれたその言葉は彼らの常識では考えられない内容のものだった。

 非人間でありながら戦術に最も優れた知将と呼ばれ、自身の不死性を最大に活かして無敗の戦績を積み上げてきたゴースト系の最上位魔物、グローリア。

 想定外の事態が起きているのならまだしも、彼女が自ら戦場に向かって負けるなど聞いたことが無い。いや、これこそが想定外の事態なのかもしれない。


「グラーフに続いてグローリアまで……」


 世界でも有数の人材、そして各国との提携まで律しているこの円卓の騎士団が2度も筆頭格を失うという異常事態。


「あ、あ、あり得るかそんなこと!」

「ふざけないでよ! グローリアが負けるわけ……例え負けたとしても生存は、生きてはいるんでしょうね!?」

「い、いえ……それが完全に……他の高等幻影体(ハイ・ゴースト)によると魂そのものが消滅して気配すら感じ取れないと……」


 バン! と勢いよくテーブルを叩く音が響いた。

 報告していた兵士はぎょっとして身を震わせる。


「どういうことだ……誰にやられた!」

「例の……金髪の少女に……」


 会議室にざわめきが走る。聞き覚えのあるその言葉に戦慄のような感情が浮かぶ。

 二度も、二度も食われた。対策を要求されている、そう考えるべき事態。

 金髪の少女に対する情報が全くもって分からない。単体でやられたのか、隠密兵を隠し持っているのか、武器は? 魔法は? 報告された兵士から与えられた情報は全て過去のものばかり。戦力増強を図って洗脳術に特化したグローリアを戦場に派遣し魔力保有の値が大きい若人を精神的に犯し暴走状態にすること。それを奇策として近隣諸国の注意を引きつけ円卓の騎士団側が動きやすくするというもの。

 しかし寄せられた報告はグローリアの死亡のみ。作戦も、暴走させているはずの人間も見当たらないとのこと。


「何が起きてるっていうんだ……」


 謎の金髪の少女という存在の行動の意図が全く理解できない。こちらから仕掛けたわけでもないのになぜグローリアと対立したのか、仮にグラーフの一件があったとしてもこちらの情報は向こうに伝わっていないはず。円卓の騎士団の兵士達はダミー情報が与えられており拷問や脅迫といった類でこちらの情報が筒抜けになることはない。

 それが分かっている面々だからこそ、混乱はより大きなものへと変わっていく。

 いつも傲慢とした表情を見せていた彼らは暗がりでも分かるほどに沈黙と焦燥を浮かべていた。


 先日伝えられた情報もにわかには信じがたい内容のもの。異世界召喚により例の勇者と位置付けた者達のいるヴェタイン国は謎の城内崩落により壊滅。住民は全員死亡しており国の中は虫の息。

 同時刻、魔物捕獲を目的とした捜索隊チームが邪神の住む森の近辺を調査中に銀髪の少女と交戦、その後一切連絡が入ってきていない。

 まるで狙いすましたかのように同時多発的に起こる問題。広く手を伸ばしすぎて動き出す者達の網に掛かったか、例えそうだとしても円卓の騎士団のプライドがそれを許すわけがない。


「とにかくヴェタイン国の崩落だけでも調査をしなければならない。いくら被害が大きいとはいえ事態は短時間で起きたものだ、難を逃れて一人や二人生き延びてるかもしれん。ダクター、ノワール家に行ってこい」


 ダクターと呼ばれた老人は執事の様な格好をして幹部の脇に付く。


「ふむ、ノワール家ですかな?」

「あそこは奴隷商人と通じている、恐らくヴェタイン国の崩落を知って独自の調査隊を何人か送っているだろう。何人かの生き残りを捕まえて奴隷商に売っぱらってるはずだ、その生き残りに話を聞けばヴェタイン国の崩落に関する事も何か知っているかもしれん」

「分かりました。早速出向きましょう」


 いくつかの不安要素が彼らの中で駆け巡る。しかしそれを払拭するには何かしらの行動を起こさなければならない。

 期待と不安が入り混じる彼らの思いを背に、ダクターは馬車を引いてノワール家へと出発したのだった。



 ◇◇◇



 シンシアとの決断から翌日。

 イデアル国は無風の大雨に見舞われていた。


「黒っちの言った通り大雨ね、これだけ建物があるのに外は誰もいないわ」


 そう言ってあくびをしながら部屋に入ってくる彩華。

 寝起きとはいえだらしない格好が目に付く。普段はパジャマを着てそうだ。

 次いでトイレから帰ってきたシンシアが辺りを見回して疑問符を浮かべる。


「そういえばあの子は?」

「あの子?」

「ほら、あんた達といつも一緒にいた無口の……ソフィア? だっけ」


 シンシアに言われて部屋の中を見渡す。

 宿とはいえ一般家庭のリビング程度の広さを持った寝室。そこにソフィアの姿はない。

 彩華が先に気が付いたが、興味無さそうに頭を掻きむしる。


「あー? そういえばいないわね」

「いないわねって、ちょっと! 逃がしたの!?」

「ははっ、逃がしたって。そりゃ家畜にかける言葉だろ」


 至極当然の単語がシンシアの脳天を直撃する。


「……え? あの子あんた達の奴隷じゃないの?」

「んなこと一言も言ってねぇだろ」


 驚愕の表情でこちらを見つめてくるシンシア。

 ソフィアが一言も言葉を発していないからそう見えたのか、間が悪かったな。

 事実、今のソフィアが何を考えてなぜ今日に限っていなくなったのかなんて、そんな根本的な原因は誰にも分からないだろう。


「行くの?」

「行く」


 彩華の唐突な問いに二つ返事で返す。


「そ。私は興味ないから待ってるわ」

「ああ、黒崎君も待っていてくれ」

「分かった。気を付けて行けよ、零」


 黒崎君から投げ渡された拳銃を受け取り、腰に装着して部屋を出る。

 シンシアだけは話についていけない様子で、ただ視線だけをキョロキョロとさせていた。


「さて、俺もそろそろ死ぬ覚悟をしなくちゃな」


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