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40話 クズ三人組、人間の改造を完了させる

 

 正義とは何か、不義とは何か。そんな疑問が脳裏をよぎる。


 もしこの世界に全知全能な審判者がいるのだったら私は聞きたい、問いたい。信念と理念と論理に基づく、感情的で理不尽じゃない最適最善な回答が欲しい。


 果たして今の私は正しい事をしているのだろうか?間違えたことをしているのだろうか?

 そもそも正しい事をすれば幸せになれるのだろうか、間違えたことをすれば不幸になるのだろうか。

 正しい事をすることが正しいと言うのだろうか、悪に手を染めれば本当に罰せられる世の中なのだろうか。


 そんな答えはきっと最初から無くて、周りがそれを決めているだけなんだと思う。

 もしこの世界に正しき者を救い、悪しき者を罰する神がいるのだとしたら。こんな状況は訪れていない、彼らが今ものうのうと生きているはずがない。


 神様はいるのだと、そう信じてきた。

 努力をすれば報われ、耐えれば誰かがきっと救いの手を差し伸べてくれる。そんな当たり前の世界に私はいるのだと、ずっと思っていた。


 ──だけど違った。


 結局私は救われず、己の命を差し出そうとしたその瞬間まで誰も手を差し伸べてはくれなかった。

 そこへ手を差し伸べてくれたのは悪魔だ。天使でも聖人でもない、外道に塗れた最悪の男。

 だけど、私はその手を取らなかったら今頃死んでいたかもしれない。その手を取ることは私の意思で、神様なんてものがくれた救いの手じゃないことは今になって分かっている。


 ……彼らはいつも楽しそうに行動している。悪事を働いて、外道を躊躇なく行い。本当に楽しそうに心の底から思う行動をとっている。

 もし神様がいるのなら、彼らを罰さない理由を聞きたい。

 悪に塗れて、人を道具のように扱う彼らになぜ天罰が下されないのか。その理由を聞きたい。


 だけど答えは単純なもので。


「明日……雨……」


 ──神様なんて、最初からいなかったんだ。



 ◇◇◇



 人の理性が壊れる瞬間とはどういった時なのだろうか。

 もしくは。感情が無くなり全てに頷いてしまう人形へと成り果てるのは、どういった過程をもってすれば可能になるのだろうか。


 ──俗にそれは"廃人"と定義されるべき状態なのだろう。


 シンシアが目覚めてから1日が過ぎ、彩華がセバスの市場から帰って来た。

 そして、俺の目の前には先日のストーカー少女が座っていた。

 僅か2日という短い期間だったが、その姿はすっかり変わり別人のような笑顔で俺に目を向けていた。

 その目は死んでいるというより、もはや自分の意思を持っていないような感じだが。


「彩華……」

「何?」


 俺は目の前に佇んでいる完全な操り人形と化したストーカー少女の姿を見て、その少女に起こった悲劇を想像し彩華を凝視する。


「──やっぱお前最高だわ」


 最低な一言だった。

 だが忘れるなかれ、俺達は"そういう人間"だ。


「ありがと、私も楽しかったわ」

「今度何か奢ってやるよ、流石の仕事っぷりだ。黒崎君でもここまで上手くはいかないぞ」

「俺はすぐに手を出してしまうからな。彩華の様な愉悦さも学ぶべきか」


 猟奇殺人の黒崎君も人並みの感性が無いわけではないが、この領域になると人としての倫理や感性なんてどうでもよくなってしまうのだろう。

 俺は二人の会話から外れ、虚ろな目で虚空を見ているストーカー少女に質問を下す。


「まずお前の名前を聞きたい」

「ユナと言います」


 ユナは俺の質問に即答して答える。

 声のトーンが常人のそれではなく。不気味で一律な感じがし、その異常に反応したソフィアとシンシアが顔を上げる。


「服を脱げ」

「はい」

「……は?」


 再び即答したユナに対しシンシアは小さく怪訝する。

 ユナは何の躊躇いもなく服を脱ぎ始め、全裸となって俺の前へと座った。

 正気を疑う表情でそれを見るシンシアと、全てを察して再び視線を落とすソフィア。

 俺はユナの腹部には何やらいくつもの傷跡が残っている事に気づき、尋ねる。


「その腹の傷は?」

「はい。彩華様に調教された際、盾突いてしまった時に釘を刺されたものです。回復魔法で完治していますので奉仕に支障はございません」

「は……? 釘を刺された、ですって……!?」


 シンシアが驚いたような目で見るが、俺はそれを無視して質問を続ける。


「お前は何故魔国を憎んでいる?」

「魔国の連中は私達の国を襲いました。食料を奪い、子供を無残に殺しました」

「その瞬間から憎むようになったのか?その事実を知って憎むようになったのか? お前の憎悪が膨れ上がったのは具体的にいつからだ?」


 質問攻めにも死んだ表情で冷静に考えるユナ。

 幾ばくか沈黙をし、そして自分でも驚く様子で口を開いた。


「"円卓の騎士"と名乗るイデアル国の騎士団達がヴェタイン国まで来て、私達に守りの加護を付与して貰って以来魔国に対する意識が強くなったような気がします」

「それか」


 ようやく得た核心的な言葉、そして疑問は答えを形作るように繋がった。

 守りの加護だ? ありふれてんな、その騙し方。


「……もしかして、マッチポンプ?」

「奇遇だな、俺と同じ予想だ」


 彩華が珍しく推理を当て、嫌悪感に包まれた表情を浮かべる。

 マッチポンプ──自作自演だ。俺達はこの一連の騒動を洗脳した連中、つまりは円卓の騎士と名乗る騎士団たちが"魔国と繋がっている"可能性に辿り着いた。


「おいユナ。俺達を召喚しようとしたことに反対した奴はいなかったのか? 召喚の代償として大勢の国の人間が死ぬにも関わらず?」

「はい、魔国を滅ぼすためならと。命を差し出す者も貴族達も何一つ反論はしませんでした」


 魔国によって大勢の人が死んだ、だから復讐するために大勢の人の命を捧げる。

 これほど理にかなってない行動を平気で取る連中は間違いなく洗脳されていると思っていいだろう。そしてなぜ洗脳されているのかという最大の疑問点にもたどり着けそうだ。


「根本的な質問だが、俺達を召喚しようと最初に提案したのは?」

「円卓の騎士の方達です」

「よし完全に理解した」


 俺は勢いよくその場を立ち上がり、ソフィアの元へと足を向けた。


「これは推測だが。お前、円卓の騎士の連中と顔を合わせていなかっただろ」


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