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4話 クズ三人組、人生最大の作戦会議を始める

 

 宿に着いた俺らはついに現状整理、もとい各々の現実逃避を止めてもらう事にした。

 今まで平常心を保ってきたがそろそろ脳が限界を迎える、一番最初に型崩れを起こしたのはやはりと言うべきか、彩華だった。


「ゲームしたい!ゲーム!私の廃課金データは!?お金は!?パパは!?」

「帰れないなら全部パーだな」

「冗談じゃないわよ!生まれながらにして人生の言う名の人権勝ち取った私の未来はどうなったの!?こんな世界に連れてこられて喜ぶ奴なんているわけないでしょぉ……」


 うわ、本気で泣いてる……。


「俺だって同じだぞ、今まであの運営に一体何万時間費やしたと思ってんだ。異世界に呼ぶなら突然の事故で殺されたり現世に未練が無かったりする人を選べよ!無責任すぎるだろ、拉致だぞ拉致、犯罪だぞ。せめて異世界連れて行っていいですかってお願いしてから召喚しろよ……」


 続いて俺も絶望した顔で項垂れる。


「……俺は特に未練があるわけでもない。あっちに居ても食い扶持には困ってたわけだしな」


 黒崎君……あんたそんなやばい状況だったのかよ。


「まぁいい、とりあえず過程はどうあれこの世界に来ちまったんだ。この世界で出来る限りの事を楽しもうぜ」

「どうやってよ……私お金無いとただの美少女よ?」

「お金あったらクソゲス美少女になるだけだろ対して変わらん。それに方法なんざ無限にある、俺達は仮にも勇者と言う肩書があるんだ、なんとでもなる」 


 そうだ、俺達は勇者、魔国を倒す名目がある。これを利用すれば地盤を固めることぐらい容易いはずだ。

 俺は少しばかり目を瞑り、馬鹿な頭で必死に考える。難しい事はしなくていい、簡単な事から始めて段々と複雑にしていけばいい。


「……よし、それじゃあ本格的に話し合いを始めるか」


 俺達クズ同士がこの世界で生き抜くための、そして楽しむための壮絶なる話し合いが幕を開けた。


 ◇◇◇


「それじゃあまず当面の目的はどうするの?」


 彩華が何やら自分の持ち物を漁りながら聞いてきた、俺はその行為にすぐ察したが今は関係ないので話を進める。


「文字を覚える、言語の違いをこの世界に合わせる。食事も生理的に受け付けるものなのか確かめる。この世界の構図と情勢、俺達と同じく異世界人がいるのかどうか。最後にあの魔法陣によってここに来たと仮定したならばそれを実現させた人物の特定。帰還方法、自身の安全の保護。だな」

「承知」


 黒崎君返事が随分渋いな。

 まぁなんと言うか、宗教沙汰や非科学は信じない俺達でもこの状況は信じざるおえない。本当にラノベのように異世界へ転移する間に神とやらが干渉したのか。それとも地球に住んでる誰かが同次元別世界であるこの世界へ干渉する術を開発したのか。

 もし後者ならわざわざあんな所に配置する意味が無い。監視または鑑賞を目的とした者がいることを前提に入れなければならない。

 もし、突然この世界に来たというのなら少なくとも自分が選ばれた人間だと自覚することが出来る。だがあの魔法陣は明らかに人を選ばない場所に置かれていた、俺達でない別の誰かが召喚される可能性があったのだ。つまり俺達以外の誰かがこの世界に召喚されて、あの王様との会話をすることになる。もし召喚されたのが子供だったら?行動するのが難しい妊婦や障害を持った人だったら?つまり、俺らが今この場所にいるのは偶然じゃなくて必然の可能性がある、ある以上黒幕、もしくは俺らを狙った第三者はいると仮定しなければいけない。

 ……と、何はともあれ色々と考えることが多すぎる。まぁクズの俺には難しく考える頭なんざねえけど。


 俺はそんなことを考えながら一人虚空を眺めていた。一方の彩華は王都から貰ってきたこの世界の各国についての情報が記されたいくつかの本を読み漁めていた。


「これ……全部日本語ね。だけど違和感があるわ」


 彩華は本に手を当てながら横に引いていく。

 違和感?それは日本語としての違和感か?言葉としての違和感か?

 俺も彩華が読んでいる本を眺める。


「……違和感があるな」


 確かに日本語、完璧に俺達の知っている言葉だ。

 だがその羅列されてる文字には微かな相違感が、いや文章、言葉そのものに違和感がある。

 だが、それを今気にするほど重要かと言われれば当然後回し案件だ。


 彩華は本を畳むと窓を見渡し次の回答に手を回す。


「食べ物は多少材料が違うけど普通に食べれると思うわよ、当然の如く中世ヨーロッパ時代を醸し出すだけの世界だと思っていたけど、さっきの本を見る限りレトロ程度や現代風の国もあるようね」

「現代風の国がある?それはおかしいな、技術の発展に一部語弊があるのか?あの王様は俺達異世界の知識を持って魔国に対抗しろと言った。俺達と同じ知識がある人物が仮にいるのならばあんな風に歓迎されるはずがない」


 俺は彩華から再度本を取りページをめくる。

 詳細には書かれていないがビルやタワーが建て並んだ街並みの絵風は現代を装うに等しい。

 しかし難しい単語ばかりで明確な説明書きが1つとしてない。そこにさっきの違和感がのさばってほとんど読めないも同然と化している。


「逆に考えてみなさい。私が異世界人でありこの世界とは別の知識を有していると向こうは知っていたのよ、知っていて召喚させた。つまりは過去にこの世界に異世界人を呼んだことがある可能性は高いわ」

「それなら尚のこと過去に呼んだ異世界人の知識が今この国で反映されてないのがおかしいな。……いや待てよ?」

「もしかして……」


 俺と彩華は目を合わせる。


「「異世界人は現国と敵対関係にある他国で召喚された」」


 完全にハモった。

 そう、過去に召喚された異世界人はこの国ではなく他の国、それも同盟を組んでいない国に転移されたと言う結論なら納得がいく。

 何故ならさっきみた本に描かれていた現代風の国が存在していること、その知恵と繁栄がこの国まで渡っていないこと。

 それが何よりの証拠だ。


「双方とも落ち着け、まだここに来て数時間だぞ。情報が少なすぎる今の状態で結論を出すのはあまりに早計だ」


 黒崎君が止めに入る、流石にはしゃぎすぎたか。

 だが俺達は今未知の世界にいる。危機感を持ってあらゆる場面を想定しなければならない。


「そうね、少し興奮してしまったわ、ごめんなさい。ちゃんと正面から向き合うべきよね、」


「悪い、ちょっと真剣に考えすぎたな。どうしても結論だけじゃ足りなかったんだ、」


 ガタイの良い大男は珍しく口を上に曲げる。

 二人とも良い顔をしている。この顔を良い顔、なんて言うのはきっと俺達だけだろうが。

 これほどまでに自分に相応する悪友を持った事は今でも心から歓喜が止まらない。

 自身もまたその二人に相似した顔をしながら黒崎はそう感じた。


「「──この国がこんなにもバカの集まりだったなんてな(ね)」」


 またしても二人の言葉はハモってしまった。


 ──今度は最高(最低)な意味で。

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