39話 クズ二人組、大胆に動く準備を整える
「ここは……私、たしか……」
ぼやける視界の中、シンシアは目元をこすりながら見慣れない部屋をぐるりと見渡す。
「目が覚めたか」
「……ッ!!」
人を煽り立てるような声色が聞こえ、掠れていた記憶が蘇る。
シンシアは俺の顔を見るなりまるで威嚇でもするかのように睨みつけてきた。
「……これから私に何をする気」
「さぁ?今のところは特に考えてないな」
暗がりにいた時とは違い、朝の眩しい日差しがシンシアを照らす。
そして自分は檻の外にいるのだと実感しながらも、知った口を開いた。
「あんた達もどうせあの人たちと同じなんでしょ……! 自分の欲望の為に善意ある者たちを踏みつぶして地位を築こうとする、その事に何一つ罪悪感も抱いていない。そんな外道たちと同じ!」
俺はその言葉を聞いて、特に返事を返さなかった。
正解とも不正解とも取れない質疑だったからだ。
「黙ってるってことは肯定したってことよね。ふん、煮るなり焼くなり好きにすればいいわ。所詮は自ら死を選ぶ事すら出来なかった意気地なしの末路ですもの」
胸に手を当て、恰好だけでも開き直った姿をアピールするシンシア。
煮るなり焼くなり、か。そりゃあ好きにさせてもらうとも。俺らはコイツの人権を買ったんだからな。
だが、それは後だ。
「お前は人を殺すのが悪だと感じるか? それが例え復讐の類だとしても、そいつにとってそうすることでしか自身の状況を打破できないとしても、人を傷つけるのは駄目だと思うか?」
拳銃に銃弾を込めながら俺はそう尋ねた。
するとシンシアは反射的にこちらを向き、感情を込めて返してきた。
「当たり前でしょ! 例えどんな理由があったとしてもっ! 人を傷つけることは、しては、ならない……」
「そうか。黒崎君」
黒崎は頷くと開錠用の鍵を使ってシンシアの手首に着けてある拘束具を解いた。
そしてすかさずバッグから拳銃を取り出し、シンシアへと投げるように渡す。
「何を!」
「これは拳銃って武器でな。この引き金を引くと先端の穴から鉛玉が発射されて標的を貫く」
そういって俺は壁に向けて引き金を引く。
プスッと少しだけ甲高い音が響き、弾は跳弾することなく安物の壁を貫通した。
「……大砲と似てますわね」
シンシアは物珍しそうにそれを見ていた。
この世界には大砲があるのか、なら銃があってもおかしくはないな。
「お前にそれをやる。好きに使え」
「……何を企んでいるの」
「企む? 面白い事をいうな。お前はさっきこう言っただろ。"例えどんな理由があったとしても人を傷つけることはしてはならない"ってな。なら俺がお前にどんな仕打ちをしようとその引き金は引かないはずだろう?」
子悪党の様に煽り立てる俺の顔を見て、シンシアは馬鹿馬鹿しいとため息を吐いた。
「揚げ足取りにも程があるわね、そんな約束私が守ると本気で思ってるの?」
「じゃあその引き金を引いてお前の両親を殺した外道共と同じ道を歩むんだな」
「……ッ」
疑心暗鬼になりながらも目の前の銃器を手にするシンシア。
俺達が何を考えているのか分からないって顔だな。それでいい、判断材料は己の感情だ。情報に惑わされていたら二流だからな。
黒崎君もおおよその武器の組み立てが終わり、今朝からは珍しく本を読み漁っている。頼んでいた書物も漁ってもらい、総合的な情報収集をして貰っている。
「彩華が帰ってくるまであと1日か」
「気長に待とうぜ黒崎君、そういやその紙は?」
「これは新聞。いや、記事見たいなものだな。先日の焼け野原が載っている」
白黒で書かれた記事の中にでかでかと俺らが火を着けた草原地帯が映っていた。
その性能がカメラによるものなのか魔法によるものなのかは置いといて、俺達の足取りを掴む者は未だ現れてはいない。
「この記事によれば明後日にはかなりの大雨が降るらしい」
「ほーん、じゃあ買い出しは明日まとめてしておかないとな」
雨という単語にピクッと一瞬こちらを向いたソフィアを俺は一瞥すると、目をそらして壁を見つめる。
こっちもそろそろ潮時か。
「シンシア、この世界で魔法を使えない一般人はどのくらいの割合でいる?」
「……喋ると思って?」
シンシアは先程渡された拳銃の銃口を俺に向け睨みつける。
「賢くないな。あの時言っておけば良かったと後悔してから吐く位なら素直に今喋るのが賢明な判断だと思うが?」
「子悪党が吐くセリフそのままね。そうやって今までも暴力や脅しを使って相手を従えて来たんでしょうね……本当に最低な人間のクズ」
そう言ってシンシアは拳銃のトリガーに人差し指を掛け、一瞬の躊躇いを踏み込むように引き金を引いた。
──カチッ。
「……え?」
空鳴りするような音が引き金を引くたびに響き、何も起こらない現状に驚くシンシア。
当然、その拳銃に弾は一切込められていない。
「最低な人間のクズから渡された物が正しく機能するって、そりゃあいくらなんでも信用しすぎだろ」
「騙したのね……!? こんなことして、一体何の意味があるっていうの!」
「あるさ」
俺は何も理解できていないシンシアを見下すように伝える。
「お前は俺の質問に"口"では答えようとしなかったが、"行動"では答えた。今分かったのはお前は俺達を殺すであろう引き金を引いたこと。どんな理由があっても人を傷つけてはならない、なんて自分で言っておいてこの有様は見ていて滑稽というか、子供らしいというか。惨めな気分にならないのか?」
「──黙ってッ!」
煽りが過ぎたのか、シンシアは持っていた空の拳銃を俺の方へと投げ飛ばした。
「……もう私に構わないで。殺すならさっさと殺しなさいよ……! もう何もかも失った私にこれ以上惨めな姿を晒させないでよ!」
自暴自棄になりつつあるシンシア。
俺は小さくため息を吐いて事の本題に入ろうとしたが、ちょうどそのタイミングで黒崎君が声を上げた。
「見つけたぞ、シンシア・アレットの両親。ブラウン・アレット、ベレニス・アレット。両者とも戦死の記事が書かれている」
「──!!」
勢いよく反応したのは言わずもがな、シンシアだった。
俺はようやく見つけたかと言った表情でその記事を注視し、丁度シンシアの両親が亡くなった5年前に発刊されたものであることから望んだ情報であることが分かった。
『ノワール家の暴虐!戦争の裏に隠された真実と狙われたアレット家!』
俺はその胡散臭いタイトルとは裏腹に信憑性のある内容を見て、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ね、ねえ! その記事に何が書かれているの?」
足だけ拘束されその場を動くことが出来ないシンシアは、四つん這いになりながら黒崎君の持つ記事を凝視する。
「さて、籠城もそろそろ飽きてきた頃なんだわ。また派手に動くとするかね」
「賛成だ。このままここにいても足取りが捕まれるのを待つだけになる、国を搔き乱して情勢を狂わせた方が生存的だ」
俺と黒崎君は戦闘に必要な道具をほとんど作り終え、後は彩華の帰りを待つだけとなっている。
話についていけないシンシアと未だ暗い表情を浮かべるソフィアを俺は一瞥し、今後を見据えた高揚感に酔いしれる。
──ああ、楽しみだ。ついにこのクソみたいな世界を体感できる日が来るのか。
……後で黒崎君に格闘技でも教えてもらうとするか。




