33話 クズリーダー、全てを見越して悪魔になる
ストーカー少女を捉える数日前、王都イデアルに着いた俺達はある目的の為に各自分担をしながら準備を進めていた。
武器や武器の部品を合理的に調達、組み立て実践向きに殺傷力を作ること。
金銭面に関する情報、流通の物資、国やこの世界の大まかな分布図。
そして身分証の確立。
この3つを埋めることによって晴れて俺達は一般人と同じスタートラインに立てるというわけだ。
まず武器に関しては全て黒崎君に一任してある。魔法が使えない俺達が唯一抵抗出来る攻撃方法、それが現代武器の使用だ。黒崎君は若干オリジナル性もあるがちゃんと化学分野も学んでいる多芸戦闘員だ、俺達には欠かせない存在だろう。
そして金銭面は言うまでもなく彩華が担当。
どこかの論文で自分の国でイケメンや美人と呼ばれる人の大半は例え海外に行ったとしてもモテると言われてるケースが多いと発表されていた、つまりは例え異世界だろうと彩華の美貌は通用するというわけだ。
実際日本人と大差ない顔つきしてるし言語も通じていればあの容姿に惚れない男はいないだろう。異世界人だろうと余裕で堕とせるレベル。
後はペラペラ喋らせて情報掴んでくるだけの簡単な仕事だ。
だがごろつきやチンピラ等の変な輩に捕まると力のない俺達は降伏する一手、そこは気を付けて慎重に行動してもらいたい。
残る一つは身分証、所謂職質されたときの最低限自分を保証するための証明書の入手。
これはソフィアから聞いた話と街中の連中との会話である程度は理解出来た。
結論から言えば身分証の種類は複数あるらしく、国から国の領地全てに発行される国家承認の紋章入りプレート。真っ当な職に就いた際貰える新たな経歴書と名前の入ったバッジ、学校学園といった教育機関から子供へ提供される学生証の様な物。
そしてギルドから冒険者へ発行されるナンバー入りのカード。
基本的にはこの4つが身分証として広く知れ渡っている、勿論俺らが該当するのはギルドから発行されるカード一択だ。
では今すぐギルドへ向かってカードを作りに行こう。と、言いたいところだが生憎それは出来ない状態なんだわ。
ギルドから身分証のカードを発行してもらうには身体検査、この世界で言うと魔力検査が行われるらしい。
この世界の人間は例外なく魔力を保有しておりその質や量によって最初のギルドランク、いわゆる無名な一流なのかただの無名なのかを図るわけだ。
だがここで一番の問題が起こる。
そう、俺達は魔法が使えない。使えるのかもしれないが現にそれらしき兆候はない。
そもそも俺達は転生したわけじゃなく、転移したんだ。体もそのまま向こうからこっちの世界に移された。
つまりこの世界の人間じゃないんだ、魔法が使えるわけがない。逆に魔法が使えるのだとしたらあっちの世界に居た時に使えてないとおかしい。
そして魔法が使えないということは魔力が無いということにもなる、あそのソフィアですら魔法を使うことが出来ていたんだ。あれすらできないなら俺達に魔力があるとは到底思えない。
そうなれば検査した時に「魔力がありません!異世界人です!」なんて言われて吊るし上げられたらたまったもんじゃない。この世界じゃ異世界の住人を呼び出すのは禁忌とされている、俺達は禁忌を犯した連中のせいで存在しているイレギュラーな存在なんだ。それがバレるようなことは絶対に避けないといけない。
──じゃあどうすればいいのかって? それも簡単。今俺はその目的の為にここにやってきたんだからな。
「邪魔するぜ~」
「いらっしゃいませ」
辺りは真っ暗、最低限の光がところどころ照らされているだけで真昼間の店とは思えない雰囲気だ。
入店した俺に対し颯爽と挨拶を掛けてきたシルクハットを被った中年くらいの男が一人、コイツがこの店の店長か。
「本日はどのようなご用件で」
「とある商人に紹介されてな、金ならある」
「左様で」
この時手ぶらだったのもあり一銭も持っていなかった俺に持ち合わせがあるのかと問いただす男だが、金があると言った途端潔く引き下がった。
「20以下の若者に絞ってくれ、性別は言うまでもないだろ」
「かしこまりました、こちらです」
男に連れられ薄暗い通路を通ると地下への階段を見つける、正直この暗さと迷彩された壁の色で普通ならここに階段があることを見つけるのは不可能だろう。
地下へ続く長い階段を歩いた先にこれまた厳重に施された扉があった。それも何十二も重ねられた魔法陣が扉全体に描かれている。鍵穴も無いところを見れば少なくとも俺らみたいに魔法の使えない連中には一生開けることのできない類の扉だろう。
男は手慣れた様子で扉に手を翳し小言で何かを呟いたかと思えば、頑丈な扉はまるで軽い箱の様に音もなく開いた。
「どうぞ」
扉をくぐり巨大な部屋の中へと足を踏み入れる。先ほどより明るく視界も広いが……これは部屋と言うより監獄だな。
「うっわ……」
最初に反応した五感はやはりと言うべきが、鼻だった。
中に入った途端ナマモノの腐った臭いが鼻腔を劈いた。
そして次に聞こえてきたのは喚き声と叫び声、唸り声だ。
死臭の様な臭い、動物のような生気のない声。
王都イデアルの街はずれにある小さな洋服店、その隠し通路を通ったところにこの場所は存在している。
そう、ここは奴隷市場。人権の剥奪された犬小屋そのものだ。
俺は先日彩華が交渉した商人からこの奴隷市場の情報を聞き、その下調べとして今日この場所に立ち寄ったのだ。
「しかしまぁ……うるせぇし臭ぇし酷い場所だなこりゃ」
「吠える物は抵抗力がありますがまだ仕入れてばかりで新鮮です、諦めて黙る物は従順ですが鮮度は低めです」
「そう捉えるものか」
少女の罵声や助けを求める声が聞こえる中、奴隷商人である男は淡々と客である俺に対し話を進める。
辺りを見回すと、そこには両手両足を鎖に繋がれ布の一枚も着ていない者や中には首輪をされている者までいた。
「見てわかると思うが今日は下調べにきただけでな、品定めは次回だ」
「ええ、お待ちしております」
普通に会話をしている俺達だが、耳を傾ければ俺に対して助けを求める声や泣きながら慈悲を求める声が飛び交っている。こんな暗闇にずっと幽閉されていれば俺と言う来訪者が希望の光に見えるのも納得だ。
だが俺は助けを求める声を聞き流すように口元をニヤリと1回表情を変えただけでそれらの声は止まった。
「ところで。あー、店長?」
「これはこれは大変申し遅れました、セバスと申します。以後お見知りおきを」
「執事によくありそうな名前してんな、俺は零だ。 ところでセバス、ここは見ての通り監獄みたいなところだがどんなに叫んでも外に音はバレないのか?」
「はい、音を遮断する防音魔法を何重にも掛けてありますのでどんなに強力な音波であっても外に聞こえることはありません。音の振動で壁が壊れるのが先でしょう」
魔法ってのはそこまで強力なのか、本当にバランスが成り立ってないな。
だが今回ばかりはその防音性も非常に好都合だ。
「そりゃいいや。実はひとつ、いやふたつほど頼みがあるんだが」
俺はセバスの前へと振り返り、本来ここにきた目的を伝える。
これからここで奴隷を買うことになるだろう、もしかしたらソフィアの様にどこかで誰かを拾うこともあるかもしれない。そんな時に必須な場所が存在するんだわ。
セバスは俺の話を聞くなり面白そうなものを見る目で快諾をしてくれた。
「その程度構いませんよ。貴方の様なお客様はきっとこれからもご来店してくれることでしょう、そのオプションだと思えばお安い御用です」
「決まりだな、それで二つ目だが──」
◇◇◇
そして今に至るわけだ。
現在俺らクズ三人組とソフィアと、そしてもう一人俺らを襲撃してきた狂信者の少女を気絶させたまま連れてきた。
既に時間帯は23時を過ぎ、街の人集りも明かりも少なくなっているため死体を何百回も運んだことのある黒崎君にとっては少女一人バレずに持ち歩く事など容易いだろう。
「よし、着いたな」
こんな時間帯に立ち寄る場所は当然奴隷市場、むしろこの時の為に先日下調べしに行ったと言ってもいいくらいだ。
「入るぞーセバス」
「お待ちしておりました、零様」
見るからに怪しげな扉を気軽に開けると待ち構えていたようにセバスが出迎える。
「まさか零っち……」
彩華もここまで来ればある程度予想がついてきたようだ。
俺達を殺そうと憎んでいる少女はまるで話が通じない、今は気絶しているが目を覚ましたら何をしでかすかわかったものじゃない。だが、だからといってその場で殺すのは実に惜しいと言うものだ、俺達は聖人だから出来れば人殺しはしたくない。
じゃあどうすればいいのかと困っていた時にあら不思議、ここに完璧な防音設備が整った部屋があるじゃないですかー!
まさに神のお届け物、祝福の鐘を鳴らすのには最高の場所と言っても過言じゃない。
「さぁ、ここが大人気アイドルも失禁して震えが止まらなくなる最高のステージだ。今まで溜まっていた鬱憤を晴らすべく存分に暴れていいぞ、──彩華」
この気絶している狂信的な少女を同じ年代の女性たちの前で自らの精神を崩壊させ、彼女たちに清く正しい心へと変革していく様を見せてあげようじゃないか。
──ここで鳴らす祝福の鐘は、外にいる神には絶対に聞こえないんだからな。




