32話 クズ三人組、少女とお話をする
「ゲホッゲホッ……」
「質問を続けるぞ?」
「ひっ」
少女の首を絞め、間髪入れずに尋問する。
アサシンだろうがバーサーカーだろうが心臓を握られた状態じゃ何もできない、そして弱った相手に対しても絶対に容赦はしない。それが俺達のやり方だ。
対して涙の一滴も流れないほど恐怖している少女は今にも失禁しそうなほど体を震わせていた。
「お前は俺達がどこから来たのか知っているのか?」
少女は震えるように何度も頷く。
「じゃあヴェタイン国を崩落させた犯人を知っているか?」
すると少女の目に光が戻る。
そしてキッとこちらを睨みながら強く頷いた。
「ほーう? そうか、凡そ検討はついた」
「なるほどねぇ」
彩華も大体の推測はできたらしく、事の経路は思ったより小さい事を認知する。
俺は立て続けに質問を続けた。
「お前は一人で俺達を襲った、そうだな?」
生気を取り戻した少女は正直者のように頷く。
背後関係がない単独犯、異世界からこの世界へとやってきた過程を知っている。ヴェタイン国に関しても知っている。そしてその犯人について質問した途端目の色が変わった。
──つまりコイツはヴェタイン国に住んでいた住民の親族、もしくはあの時殺し損ねた生き残りだ。
「いいだろう、発言を許可する。俺達に何の用があるのか言ってみろ」
許可をするだけで拘束は解いていない、つまりいつでもノックダウンさせれる状態は変わらない。
今にも言葉を発したそうな顔をした少女は発言の許可が下りた途端凄い形相で睨みつけてきた。
「お前は……母を……母を殺したッ!」
少女は先程まで震えていたとは思えないほど豹変して食いかかる。
第一声は母を殺した、か。大まか想像通りの事情だったな。
「そうか。つか喋り出した途端威勢がいいな、立場弁えてんのか」
「私のたった一人の母親を!お前らは殺したんだ!」
狂ったように怒鳴り散らす少女、悲鳴よりはマシだがこんな場所で大声出されると困る。
そしてその怒り、感情、表情はどこか見覚えのある光景。あの時のヴェタイン国の国王と似ている。
俺は冷静になるように諭そうとするが少女の怒気は増すばかり。
「まずは名前を教えろ」
「返せ!お母さんを返してよ!!」
ダメだ、話が通じない。
ひたすら返せ返せと喚いて殺意だけをぶつけてくる。いくら恨む相手だとは言え話が通じなくなっては元も子もない、さっきとは本当に大違いだな。恐怖感が消えてるのか?
どのみちコイツの言ってる事を汲み取っても理に叶ってない。
「はぁ……母親を返せだ? ブーメランも巨大化しすぎると投げる前に潰れんぞ」
怒気の籠る言葉で威圧する。
そしてほんの少し身を引いた少女を追い詰めるように言葉に乗せて弾丸の雨を降らす。
「あの国は俺達を呼ぶことに全員賛成してたらしいな、つまり俺達がこの世界に呼ばれたのはあいつらのおかげってことだ」
「……だったら何」
「俺の、俺達の家族を返せってことを言ってんだよ。何自分だけ悲劇のヒロイン気取ってんだ? こっちはついさっきまで当たり前のようにあったはずの人脈も財産も消え、残ったのは私服一枚と手持ちのバッグだけだ。笑えるなぁオイ? 返せよ。俺があの世界で築き上げてきた20年という人生を返せっていってんだよ。 誰がこんな世界に連れていけって言ったんだ?舐めてんのか?あァ?」
今まで喧嘩もろくにしたことのない少女にとって零の気迫は尋常ではない。そこら辺で雇われるチンピラのような作り演技とは全く違う恫喝にほんの一瞬小さな悲鳴が漏れる。
その一瞬を零はまず逃がさない。
「俺はなぁお嬢ちゃん。元の世界に帰してくださいって頼んでんだよ、何もいらないしこの世界の事は誰にも口外したりしないからいつも通りの日常を返せって、そういってんだよ。 自分達の私利私欲のために勝手に連れてきてごめんなさい元の世界には帰せませんなんて答え望んでねぇんだよ分かるか?」
頭を優しく撫でながら悪魔の様な笑みで迫る。
自分達が誰に喧嘩を吹っ掛けてきたのか教えてあげないといけないな。
大人げない? こちらに敵意と殺意を向けて殺そうとしてきたんだ、そこに大人も子供も関係ない。ましてや女だからといって容赦もしない。
「でもあの国王さまは帰せませんって言っちゃったからね。それじゃあ私達も正当防衛するだけの話よ」
本音を言えば正当防衛という名の八つ当たりだがな、やられたからやり返しただけの話。
それに国王は言っていた。民衆全員が賛成していたと、つまりこのガキの親も俺達を召喚する事に賛成していたわけだ。それでいて無関係だなんて白を切れると思ったら大間違いだ。
「う、うるさい!お前たちの事情なんて知ったことじゃない! 私は母を殺されたんだ、たった一人の母を……。絶対に許さない、たとえこの場で死んだとしても地獄から呪い殺してやる……!」
「駄目だこりゃ」
理性を欠いた反論に熱が冷めていく。まるで洗脳でもされているのではと疑うほどの端的思考。
ここまで来るともうこれ一択だと思うが、一応聞いてみるか。
「──俺達が魔国と共謀してるって知ってるか」
その言葉を放った途端少女からドス黒いオーラが滲み出た。
一般人から殺戮者の片鱗が垣間見える正気を失った顔。
その顔を見た俺達はこの原因が何かを理解し、そして落胆した。
「また魔国か」
「くっだらない、警戒して損したわー」
魔国と言うワードに反応し、母親を殺した俺達がその関係者だと知って倍増するかのように殺気が増した。つまりヴェタイン国の一市民だということだ。何も心配ない、今ここで殺せば終わるような矮小な存在。
結局、俺達の想定をはるかに下回った結果だった。
最初の予想ではヴェタイン国の崩壊を不審に思った他の国の遣いや異世界からの転移者を排除するべく来た者だとばかり思っていたが、まさかこんな小物だったとは。真実ほどつまらない現実はないな。
「俺達がヴェタイン国を潰した犯人だと言いふらせば多少は反撃になっただろうに、そんな脳すらあの国の連中には残っていなかったのか」
少女を撫でていた頭から手を離しそのまま立ち上がる。
何をするのか察した二人は少女の両手を項まで締め上げ、顔を突き出すような格好にさせる。
「黙れ……黙れ……!私の母をかえぶッ──!?」
これ以上口答えされても困るため、俺はそのまま靴の踵を振り上げて少女の顎へと踵落としの要領で蹴り飛ばした。
すると少女は一瞬で意識が無くなり人形のようにガクンと頭を垂れて失神した。
やはり速攻で相手を黙らせるのはこの手に限る。
「あんまり強くやりすぎると脳震盪で死ぬわよ」
「死んだらそれでいいだろ別に」
「死体の処理はどうするつもりだ」
「焼死」
部屋の隅っこで震えながら隠れていたソフィアをギロリと睨む、どんなに影が薄くても存在を忘れたりはしない。
それに炎で燃やせば人間は何とかなるって古のばっちゃが言ってた。
「魔国を滅ぼせとだけ洗脳された人間だと最初は思っていたが、それだけじゃなさそうだな。憎悪が人一倍大きくその症状が出ている時は思考能力も低下している、人間業じゃ無理だな」
「つまり魔法、ということか」
黒崎君も同じ考えか。
魔法が奇跡に最も近い存在であると仮定しても、洗脳魔法なんて反則技認められねぇぞ。
例えその魔法が弱者にしか効かないものだとしても、相手を意のままに出来るなんてルール違反にもほどがある。ヴェタイン国を洗脳した奴らはそこまでして魔国を憎ませたかったのか。
──いや、むしろここまで魔国を憎ませてなんのメリットがあるんだ?
ヴェタイン国の連中が一国に太刀打ちできるようなレベルじゃないのはすぐに見て取れる、少なくともヴェタイン国自体が魔国に勝てるとは見込めないはずだ。
ヴェタイン国の連中もそれを分かっていて俺達を召喚した。俺達異世界の知識を使えば倒せると、彼らはそう踏んだわけだ。つまりヴェタイン国を洗脳した奴等も俺達を召喚するのは想定の範囲内、むしろ当然という結果だろう。
じゃあ魔法も使えない俺達が自分の世界の知識だけで魔国を倒す事が出来たか?
答えはNOだ。情報が不明瞭すぎて倒せる確証があるわけもなく博打よりも酷い他人任せだ、失敗すれば洗脳した連中も足取りを掴まれる危険性もある。
ならば洗脳した連中が直々に魔国に攻め入った方がまだマシな結果をもたらしてくれるだろう。
彼らはそれすらしなかった。
つまり彼ら洗脳した連中は最初から魔国を倒す気などなかったということだ。自分の意のままに動く操り人形を歩兵役にすら使うことは無かった。
──ならば、俺達を召喚したこと自体が目的だったということになるが……。
「おい彩華」
「はい彩華」
一つ疑問に思った俺はその答えを握るキーである少女に目を向ける。
もしかしたら俺達は魔法すら覚えていないこの最悪の状況で一気に下剋上が可能なのかもしれない。
日が暮れ辺りは真っ暗、人だかりも段々と少なくなり始めている時間帯。
俺は意識を失っている少女を指さして伝える。
「こいつ直せるか?」
「へぇ……面白い事考えてそうね零っち。2日あれば根元を変えられるわ、でも場所がないわね」
やる気満々の彩華に相槌を打つように口角を上げる。
何をしようとしているのか分からないソフィアもここまでの経緯を見て呆れかえったように感情を捨て始めている。彩華もここにきて我慢してばかりだったろう、娯楽の一つも提供してやらないと士気が下がるってもんよ。
黒崎君に少女を担がせ、俺は大量の金貨を持って外出の支度をし始める。
「任せろ、とっておきの場所がある」
真の異世界ヒロイン作成作業開始だ。




