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31話 クズ三人組、殺そうとしてきた少女を拉致ってきた

 

 なんでこの手の輩って路地裏で狙うの好きなんだ?相手がわざと路地裏に入ったと予想できないのか?

 呆れてしまう一連の流れに疑心は浮かばず真っ向からの対処を試みるわけだ。憂いねぇ。


 俺はほんの僅かに聞こえた足音に振り返り懐から拳銃を抜き取り躊躇わず発砲する。

 他の二人も同様に拳銃を取りだし発砲。

 無論普通の拳銃のような轟音は響かない、サイレンサーの音消しが常備してあるからだ。

 だが消音機がついてると言えど完全には抑えられないしこの路地裏じゃあ多少の音は響いてしまう。

 そこでこの雑踏だ。夕暮れに照らされながら迎える賑わいにそんな音は些細なものにすぎない。王都イデアルは大都市だ、日本の首都には劣るが日夜問わず賑わっている。

 暗殺に置いても音が掻き消される状況を作るのは常套手段、この環境は相手にとって都合が良かったのかもしれない。──だが実際それは間違いで、勝ったものに都合が良い環境なだけだ。


 自分が先手を取れたと思い込んでいたストーカー基い暗殺者は振り返り武器を構える俺達に驚き動きを止める。だがその手は大悪手だ、現実の戦闘ってのは先手必勝で成り立っている。

 銃弾の速度に人間が対応できるわけがない、立ち止まっていたらただの的だ。

 現代兵器の恐ろしさを知らない点を知れた俺達は口角を上げながら的へ向けて発砲する。


 数発撃たれた弾丸のほとんどは的から外れ跳弾する。それを見て暗殺者はどういった攻撃性を持った武器なのかを理解し慌てて回避を試みるが、黒崎君の放った銃弾が真っすぐ相手の膝へと着弾した。


「っ……っ……!」


 膝を抱えながらその場に崩れる暗殺者。

 被弾した証拠に足から血が滲み出ている、魔法を使われる前に処理できたのは大きかった。

 それを確認した俺はすぐさま暗殺者の目の前まで走り出し、両腕を掴んで銃弾を埋め込む。


「あガッ……!?」

「これで魔法は使えねぇな。……ん?」


 声が妙に高かった気がして疑問を抱いた俺は暗殺者の被っていたマスクを外す。

 そこには想定していたガサツな顔つきではなく、凛として綺麗な顔立ちをした少女だった。


「女かよ!? いや好都合」


 俺はすかさず拳銃を少女の口の中に突っ込むとニタァと不気味な顔で迫った。


「おいテメェ、なんで俺らを襲ったか目的を教えろ」

「ッッ──」


 何も言おうとしない少女に俺は脅迫を掛ける。


「おいおいコイツがどんな武器か身をもって知ってるだろう?喉奥に風穴開けられたいか?それとも死は覚悟の上か?なら今すぐテメェを凌辱してその哀れな頭ン中ぶっ壊してやってもいいんだぞ?心神喪失って知ってるかー?」 

「零っちの小物化が加速する」


 何クソレベルの暴言を羅列され、カタカタと震えて涙を流し始める少女を外目に彩華が冷静なツッコミを入れてくる。

 それが非常に心地いい。

 もっと楽しもうと高揚を露にする。

 しかし、夢中になっている俺を止めるように黒崎君に肩を掴まれた。


「零」

「ああ、悪い」


 ヤクザに追っかけられるのは慣れているが女に追い回されたのは初めてだからちょっとばかし驚いてその場で迫っちまった。

 こんなところで尋問してたら人に見られる。やっぱ状況把握もせずに先走る癖は治らねぇ、こんな細かいミスでも間違うと大変だ。常に首の皮一枚しかないことを念頭に置かないといけないな。


「残念だったな、時間切れだ」


 そう言って拳銃の引き金に指を掛ける。

 その行為で何かを察した少女はジタバタともがき始める。


「こんな雑魚から情報収集しようとした俺達が馬鹿だったわ。別な相手見つけて吐かせるからお前は用済みな、3秒数えるから最後の遺言くらい聞いてやるよ。あの世に行く準備は出来ましたか?」


 にっこりと満面の笑みでそう伝えると大きく口を開けて数を数える。


「さーん、にーい」

「──!──ッッ!」


 少女は何かを言いたそうにもがいているが声が出ないようだ。

 きっともう言い残す事は何もないということなのだろう。


「いーち」

「──!?ッッ──!!?」


 よほど脅しが利いてるのか少女は半過呼吸状態で狂乱しながら魔法を使おうとするが弾丸の埋め込まれた腕に力が入らず焦燥が募っていく。


「──ぜろ」


 直後、甲高い音が路地裏に響き渡り目の前の少女は意識を失った。

 しかし外傷はない、銃も撃っていない。

 緊迫を限界まで引き寄せてから彩華が少女の耳元で思いっきり手を叩いたのだ。

 元々殺すつもりはなかったし殺すなら彩華の趣味の餌にした方がまだメリットがある。

 それにこんな場所で殺して犯人が特定でもされたらおしまいだ、こんなあって無いような現代兵器一つで何ができるってんだ。

 ヴェタイン国の時とは違って奇襲の権利を持ってるわけでも無い、多人数で来られたら勝てる見込みは皆無同然。元々相手が一人じゃなかったらとんずらこいて逃げるつもりだった。


 気絶した少女を黒崎君が素早く抱えると人目につかないようその場を脱兎。

 表面上では運よく目撃者もいないようだから万々歳だ。

 途中で俺と彩華が宿主を気を引いたりと割と手間がかかったが無事部屋まで運び込むことが出来た。

 俺としてはこのストーカー女よりさっきから影を消したように一言一句喋ってないソフィアの方が気になっている。

 何もしていないだけで足を引っ張る事も無くついてきているところを見れば変な問答はしない方がよさそうだ。


「さて、こいつどうすっかな」


 まだ昏睡している少女の腕と足をロープで括り動けないようぎっちりと拘束する。

 つかほんと黒崎君何でも持ってるな、バッグの中どうなってんだ。四次元ポケットか何かなのか。


「拷問する?いやしたい」

「声が響くだろ」

「どのみち起きたら大声上げるだろうけどね」


 そう言って彩華が手袋を着け始める。

 おいまてお前なんで手袋なんて物騒なもん常備してんだ。お前が手袋持ってるとかチンピラがアサルトライフル持ってるのと同じくらい怖ぇよ。


「拷問はまだしも尋問は必須だろうからな、聞きたいことが多すぎる」


 この少女が何者なのかも当然聞きたいところだが、そもそも今俺達は割とまずい状況に陥ってる可能性が高い。

 それは俺達を転移者だとわかっていて襲っている可能性がある事だ。

 もしくはヴェタイン国を壊滅させた犯人だと特定されたか、それとも先日街の外の森に火をつけた犯人だとバレたか。

 心当たりはこの3つ。どれかである事は間違いないが、前者の2つは非常にまずい。

 一人が知れば数人が知る。雑草の様に噂や情報は拡散するものだ、それがこんな陰湿な手練れを使うようじゃ国家まで巻き込んでる可能性すらある。

 森を燃やした事に関してはペテン並のアリバイもあるし対応策もちゃんと用意してある。だが他の2つは依然として対策のしようがない。

 もしバレていたら無能力の俺らじゃ万に一つも勝ち目がない、逃げる事すら不可能だ。


 何度も言うが戸籍も持たずに異世界来た時点で終わってる。

 金を稼ぐのにも国に入るのにも身元身分は必要だ、身分を偽装するのだって金が必要になる。サイクルの入口にさえ入ることのできない状態じゃあ突然空から衣食住が降ってきたりそれらを解決する異能力にでも目覚めない限り何かしらの行動を起こさないと餓死する。

 この世界がどうかは分からんが俺らの世界じゃ善意で金は手に入らないんだ。

 だからヴェタイン国を潰した。別に俺が黒崎君のような猟奇的な趣味を持っているからじゃない、潰さないと、勝たないといけない状況にあったからだ。

 あの時の俺達に必要なのは"この世界の金"一択だったわけだ、なら目的の物がほんの一握りでも目の前に落ちてりゃあ犯罪だろうがなんだろうが奪い取るつもりだった。


 まぁ、俺達は馬鹿だからな。賢い一般市民様なら無能力で転移転生してもご都合を引き寄せて上手くやるんだろう、そして善意を振りまいて幸せを勝ち取れていたんだろう。まさしく主人公だ。

 だが今回ばかりはその選択は死を招いていたようだがな。ソフィアの一部始終を見る限り善意なんてあの国には無かった。


「ん……んん……」


 少女を部屋に運んで1時間ほど経過した辺りでようやく意識が戻ったようだ。

 俺はすかさず首を鳴らすと二人に声を掛ける。


「黒崎君、彩華」

「あい」


 黒崎君は無言で頷くと素早く少女の背後に回りアームロックの要領で腕の関節を折れる態勢につく。

 彩華は黒崎君の鞄から細長い釘を取り出し準備万端だ。


「ここ、は……?」


 そんな事は梅雨知らずか少女は瞼をゆっくり開けて目を覚ます。

 それと同時に俺は少女の喉元に親指を当ててゆっくりと首を絞め始める。


「かはッ"ッ……!?」

「天国にいけてなくて残念だったなお嬢さん、起きたばかりのところ悪いが今から二つの選択肢を与えてやる。今この場で叫ばないと約束するか声帯を潰されるかだ」


 ようやく目覚めようとしてきた少女の意識を無理矢理朦朧とさせる。

 声を出させない方法なんて簡単だ。首を絞めればいい。

 口を塞ぐなんて甘いことするよりよっぽど安全だ。

 それにもうすぐ日が暮れる、こんなところで叫んでみろ。宿屋にいるやつ全員口封じする羽目になる。


 俺は段々と親指に力を入れていき、腕も足も縛られてもがくこともできず苦しんでいる少女に逃げ道を与える。


「叫ばないと誓うなら目を瞑れ」


 そう言った瞬間少女はぎゅっと目を瞑った。

 これだけ嬲られて抵抗どころか言葉一つ発する事の出来ない恐怖に耐えられなかったのだろう。

 俺は首を絞めるのをやめると少女は苦しそうに咳き込む。


「良い子だ。今からいくつか質問するがお前は頷く以外の動作をするな、一言でも喋ったらお前の体にこれを打ち込むぞ」


 俺は休む暇も与えないまま少女の顎を持ち横を向かせると満面の笑みで手袋を被り釘を持った彩華が立っていた。

 段々と少女の顔が青ざめていく。


「魔法も使おうとするなよ、腕の骨が粉々になるからな」


 背後に目を移すと黒崎君が肩から腕にかけて関節を折る状態に入っている。

 完全に自由を奪われてると悟ったのか呼吸が早くなり体が震え始める。

 恐怖が募り自然と涙を流していく少女に俺は容赦なく差し迫った。


「じゃあ質問するぞ。お前は俺達を殺そうとした、そうだな?」


 そう質問すると少女は間を置いた後首を振った。

 その反応を見た俺は再び片手で少女の首を掴むと今度は先程とは比にならない強さで首を絞めた。


「──頷く以外の動作は認めてねぇぞクソガキ……?」


 悪いな、これが俺らのやり方なんだわ。


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