30話 クズ三人組、なんか命狙われてる件
「え、え? あ、あの。行くってどこに、黒崎さんは何を、え??」
それを阻止するように慌てふためき始めるソフィア。帰ってきてからずっとだが全く状況を理解していない顔をしている。
「は?いやどこにって、飯食いに行くんだよ。みんな朝から何も食べてないだろ、腹減ってんだよ俺は」
「え……零さん達はてっきり外で食べてきているものかと……」
何故か驚いた表情をしながら意味不明な回答をしてくるソフィア。俺は思わず振り返り怪訝な表情で返した。
「なんでお前らを置いて食べなきゃならねぇんだよ、鬼畜か俺らは」
「まー零っちは鬼畜が泣いて逃げ出す性格してるけどね~」
流れるようにそのまま先に外へと出ていく彩華、料理店は事前に二人で決めたから既に場所は知っている。
俺も後をついて行こうと歩き出すが、それを静止させる言葉が耳に入る。
「え、いやでも商人の人と交渉をしたにしては随分と遅かったですし、それに黒崎さんには一日中私の監視を……」
「は?」
「ん?」
俺と黒崎君が同時に反応してソフィアを一瞥する。
いや一体何言ってるんだこの子供。監視ってなんだよ、初耳だよ。黒崎君ロリコン認定されとるやんけ。
「あのなぁ、ただでさえ動きたくない俺達がただ交渉しに外に出るわけねぇだろ、今日は1日中この世界の情勢について聞きに回ってたんだよ、だから腹減ってんだ。 黒崎君は俺達の仲で唯一の戦闘要員でもあるが物を作るのも得意だ、今日はヴェタイン国から持ってきたありったけの物資を組み合わせて武器やら兵器やらを作ってもらってたんだよ。一体何と勘違いしてたんだ?監視ってなんだ?というかお前この一日間何してたんだ?」
めんどくさいので一から全部説明したが余計困惑の表情を見せるソフィア。
あー駄目だこれ、本当にめんどくせぇ。
「え、えとその……いや、あの……」
「あーもう問答してたら余計空腹が加速するわ、とにかくさっさといくぞ!」
「は、はい!」
俺達はそのまま近くの料理店までダッシュで向かった。
空腹は思考や判断を鈍らせる、やっぱ飯と女は食わねぇと死活問題だなこれ。
◇◇◇
無事店についた俺はすぐさまメニューを開き最速で注文して空腹を満たした。
因みにこの飲食店は『トン・ボンバー』とか言う爆弾みたいな名前だ。料理が爆発したら作ったやつの口に手榴弾放り投げてやろうかと思ったがそんな心配は無用なレベルで美味しかった。
そして俺達は今割と物騒な会話を平然としている。客が少ないとはいえ公の場でペラペラと喋る俺達に対してソフィアはそわそわしている。
「人間の命なんて1円にもならねぇ」
「なんでよ」
「経歴、職歴、立ち位置、親族、人格、実力、容姿、年齢、後者に行くほど抽象的で曖昧なブレが生じる、人によって人の価値は違うのは勿論、人がつける人の価値なんてそいつの損得感情でしかない」
スプーンも使わず行儀悪くスープを飲み干す。
「この世において絶対に縛ることのできない生物。それが人間だ、人間には意志がある、物じゃねぇ。価値なんてつけた時点で終わってんだよ」
それが綺麗ごとなのは百も承知。縛ることが出来ない生物だったら奴隷なんて存在は出てこない、ブラック企業や社畜なんて単語は出てくるはずがないんだよな。
だが皮肉だ、人間ってやつは全員が幸せになる事は出来ないシステムなんだわ。幸せな奴がいる分その下で不幸になっている奴がいる、これが真理で覆しようがない事実なのは明白だ。
「本来人間の価値なんて金にすらならないものだったんだ」
「じゃあ奴隷は無料って事ね」
俺は横に座ってる彩華の頭をポンと叩く。
「いたい」
「はぁ……つかそもそも奴隷制度がある時点でファンタジーもクソも無いんだよな、紛争地域かよ」
貴族王政や独裁がある世界なのはヴェタイン国の書物を読んでなんとなく把握した、だがここはモンスターがいるんだろ。人間と戦争してる場合なのかよ、魔王いないのかよ。
「日本だってあったじゃない奴隷制度」
彩華がどや顔で言うが俺は真っ向から否定する。
「は?ねぇよ捏造すんな」
「あったぞ」
「あるぞ彩華」
「死ね」
黒崎君の言葉に最速で手の平を返す。だって仕方ないじゃん?黒崎君が言うのならそれは本当の事なんだし。彩華よりは説得力ある。
「つかそんな話より奴隷の件だろ、種族人間でいいんか?リアルで人外種育てるチャンスなんて滅多にないぞ」
そもそも日本に居た頃も人間とか育てた事なんてないんだがな。だからこそ惹かれる興味ってやつだ。
それはペットには沸かない感情、奴隷だ。行動だけでも自分の言う通りにする生き物なんてこれ以上愉悦をくすぐるものがあるだろうか?
偽善と立場に挟まれ瞳を曇らせながらストレス社会で生きてきた人間なら誰しもがその闇を解放したいと願うのは当たり前の感情だ。
だというのに異世界に来てまでそんな精神貫いてたらただの馬鹿だな。
「人外種ねぇ……」
この世界に来た当初はエルフやらドワーフやらを嬲る興奮に飢えていた彩華もこれには興味無さげに返答する。
「正直獣人とかアニメ見過ぎたせいで新鮮味も無いわ~、二次か三次かの違い」
「ここが三次だと思うか?」
「三次じゃなかったら私達の体が変形してるわね、これすなわち転生」
「転生だったら全属性使える最強マン完成だから、それ神様望まないから」
思えば理不尽な魔法陣に引っかかったせいで転移なんて事態になったんだ。
どうせなら転生するなりチート能力寄越して楽させろってんだよ。ここはラノベじゃねぇんだぞ無能力で無双なんかできるならそこら辺の村人Aでも革命起こせるわ。世界のバランス3日で崩れるっての。
嗚呼……神がいるなら今すぐ俺達に富と名誉とバランスブレイカースキルをくれ、くれくれ……。
「まぁ私にとっての神はパパ一択なんだけど」
「その神様俺のところにはいないんだが」
「話すり替わってるぞ、獣人云々じゃなかったのか」
いつものテンションで語彙力のない会話を意味もなくしている俺達。それは日本だろうが異世界だろうが変わることは無い。
そういやさっきからソフィアだけずっと黙ってるな。
くだらない話についてこれないのか、ただ無口なのか。それとも話す気力がないのか。
黙々と食事をしているから特に気にしてなかったが少し落ち込み気味か?表情が暗い。
さっきもなんか黒崎君に監視されてるだの俺が先に飯食ってただの意味不明な勘違いしてたな、年齢差があるから余計な情報に惑わされてんのか。
首を傾げながら考えてる俺の肩を彩華がツンツンと突く。相変わらず細くてかわいい指だな、へし折ってやりたい。
「……ねぇ零っち」
「ん?」
「あたしってかわいい?」
何言ってんだコイツ、と普通ならそう言い返したいがその突如として紡がれた言葉に対し俺は五感が敏感になる。
──これは合図だ。
『トン・ボンバー』の看板の塗装に反射されて映る黒い影、夕焼けの落ちる角度から見ても人間の形をしている影が街の路地裏でひっそりと俺達を見ている。
俺は看板から視線を外し彩華へ向かって笑顔で答える。
「おう、今気づいたがよくよく見れば可愛いなお前」
「えへへ」
「黒崎君もそう思うよな?」
黒崎君に話を振ると本人も頷き答える。
「俺は結構前から可愛いと思ってたぞ」
「えへへ」
吐き気を催す気持ち悪さで照れ顔をする彩華を煽り返したい衝動を抑え、必死の作り笑顔で席を立つ。
──全員が認知しているならいっちょ仕掛けてみるか。
「さーて満腹満腹、そろそろ帰るか」
「え、あ、はい」
話の流れが急に変わり変な問答をする俺達にソフィアは疑問の目を向けるが潔く従う。
素早く会計を済ませ、先程黒い影がいた場所と反対側の細い路地裏へ向けて歩く。
この世界に科学が発展している国があるからって盗聴器まで疑う必要性はないだろうよ彩華くん。
まぁおかげて何者かが俺達を狙ってストーカーしているとわかったんだがな。
「食べると動きにくくならん?」
「上半身を曲げるだけで済む」
路地裏に入ると既にやる気満々の黒崎君は懐から拳銃を取り出し前を向きながら背後を警戒し始める。
彩華も不敵な笑みを浮かべパーカーへのポケットへと手を入れる。
二人とも臨戦態勢になってるけど流石にこんなテンプレ染みた誘いに乗る奴いねぇだろ……。相手多分一人だろ、1対3と1人に勝てると思ってるのか?
それとも俺達が魔法を使えない無能力者であると見抜いての事か?だとしたらなおさら馬鹿だ。
現代兵器は人の命をより簡単に奪うために作られた物、それを人の命を奪うために生きてきた人間が手にしたらそれはもう鬼に金棒だ。
俺は流石に襲ってはこないだろうと半信半疑で形だけでも臨戦態勢を取るが、次の瞬間ほんのわずかだけ聴いた事の無い足音が後方から聞こえた。
全面的に俺の表情から呆れた感情が顕わになった。
……いや、嘘だろ?




