29話 クズ三人組、頭の悪い雑談を楽しむ
「な、何言っているんですか……奴隷って……」
突然放った俺の言葉に対してソフィアは目を見開き驚愕している。
奴隷がいるかいないかなんてカマかけのハッタリだ、いなければ作ればいいし、いるのなら買えばいい、楽な選択だ。それに答えは既に知っている。
「なんか文句でもあんのか? お前も奴隷みたいなもんだったろ」
「それは……」
下を向いて目線を逸らすソフィア。先日の大虐殺の件がまだ吹っ切れてないのか、親の顔でも夢に出てきたのか、今日の朝から調子が落ち気味に見える、顔に出す単純なタイプだ。純情で不気味さが全くない。
それに俺はその時その時で自分に正直に生きる人間だ。あの時はソフィアの目が強く憎しみと欲望に塗れていたから連れだしたが、面白くない顔立ちに戻るのなら証拠諸共夕暮れの海に沈めるだけだ。
「で、あんのか?奴隷市場。それに類似するものでもいい」
ただ単刀直入に問い詰める俺に対して自分の言い分が無力だと悟ったのか、ソフィアは諦めたかのように口を開く。
「……表向きはないです」
「つまりあるのね」
金の単位も分からない奴が奴隷について知っているのかというとそれは曖昧な結論だった。というより今の問いかけは単にソフィアの反応を見たかっただけだ。奴隷と言う単語、外道の行為を平然と楽しむ俺達、そこから導き出される結果論なんてガキでも分かる。だからこその反応を見たかった、ただそれだけの理由だ。
奴隷に関しては彩華が今日商人と交渉している時に奴隷市場の所在についても色々と聞き込み済みだ。
結果としては存在しているものの、一般人が手を出せる額じゃない事やあまり良い印象を受けない事から貴族向けの嗜みとして奴隷は存在しているらしい。
数十年までにとある大戦争が起きて親や家を失った子供は少なくはない。常に魔物も蔓延り決して安全とは言えない集落に住む人たちはその影響を大きく受けて未亡人となることが多い。
そうでなくとも貴族や皇族がのたまう時代だ、権力の一つでも振りかざせば人権なんてガラス細工と同じって事だ。
「んじゃ早速明日から探すか、この街ヴェタイン国とは比べ物にならねぇほどでかいから探すのも一苦労だ」
徐に彩華の持っている袋から金貨を抜き取り使い慣れた財布に詰める。
つかこの日本円札ってこっちの世界で希少価値として売れたりしないのか。いや流石に価値としては薄いか、売れたとしても身バレが怖いわ。
「そういえばギルドにはいかないの?」
冒険のジェスチャーなのか剣と盾を持つポーズをしながら問いかけてくる彩華。上手い、上手いぞそのポーズ。宴会芸か何かか?
「俺は沸点が低いんだ。お約束展開に首を突っ込まれたくない」
「あーね」
「まだ魔法も使えていないしな」
そもそもこの世界のギルドがどんなものかは知らない、知らないからこそどんな連中が蔓延ってるか想像もつかない。
彩華はともかくソフィアみたいな子供を連れて入って絡まれたらめんどくさい事になる。ずば抜けた主人公補正でもありゃあイキリ散らせるものの俺達は生憎無能力、クソ雑魚だ。
クソ雑魚がモブに勝てる道理はない、むしろ俺達がモブ。
「まぁギルドも後々向かわなきゃいけねぇが今は奴隷だ、娯楽を寄越せ」
ここに来てからもう1週間以上は経つってのにゲームどころか性欲処理の一つも出来やしねぇ、アウトドアなのは嫌いじゃねぇが流石に日本に居た頃のあの娯楽環境から一変すればストレスも溜まってくる。
「まぁせっかく溜めたお金を使うのは勿体無い気もするけどね~」
「奴隷に働かせて元取れば解決だろ」
金銭面で心配している彩華に対して俺は自身気に言うが、本人は指を口に添えながら首を傾げる。
「そんなマッチポンプみたいなこと出来るの?ここらの仕事って安そうだけど」
「ばっかお前何普通の仕事想定してんだよ、盗みだよ盗み、証拠も責任も全て押し付けてノーリスクハイリターン。これが常識だろ?」
何故奴隷を買って普通に仕事をさせると思ったのか、奴隷に戸籍あんのか?あ、俺達も戸籍ねぇわ、ギルドで身元必要じゃねぇか。この問題も後回しだな。
「あーなるほどね、でもいくら日本より警備が甘いからって素人が盗みなんて成功する?」
「じゃあちゃんと盗めるようになるまで調教係を決めようか」
「奴隷を買って廃人にさせる主人公とか聞いたことないんだけど」
「いつから俺は主人公になったんだよモブだよモブ。 それに奴隷は奴隷なんだから扱いも奴隷だろ?」
「頭悪い説得力やめて」
何事も円滑に、言葉が相手に伝わればそれでいいって俺の中の架空のばっちゃが言ってた。
というよりさっきから一言も喋っていないソフィア。目を向けると目を見開いて口をポカーンと開けながら俺達の話をずっと聞いていたようだ。
……ついてこれているのかこれ、変に現実逃避しないと良いが。
「つーかこの世界の相場についてまだ情弱なんだよ、そもそも奴隷っていくらで飼えるんだ?金貨20枚で本当に間に合うのか?」
「うーん、確か人間の単価って3000万じゃなかったっけ。肝臓、腎臓、心臓とか高いらしいよ」
「人権やら含めたら2億円は超えると聞いたこともあるが」
生々しい会話が含まれているがコイツ等が言うと洒落にならねぇ。俺がネットで見た時は数十億はするって言ってたが、二人とも意外と低い価値観で驚きだ。
「つまり医者を雇うでしょ?奴隷を買うでしょ?体の臓器を売り飛ばすでしょ?ほら金持ち」
「単細胞思考かよ、転売は犯罪だぞ」
「突っ込むところはそこなのか」
机上の空論でしか出されないような妄想も彩華なら本気でやろうとするだろう。出来る出来ないじゃなくてやろうとするのが他の人間と違うところだ。
だがここは日本でも無ければ俺達の知るラノベのような一般的なファンタジーとも少し違う。どこまでどの常識が当てはめられるのか実のところよくわかっていない。
「そもそもここ魔法の世界だろ?科学がどこまで発展しているかしらんが俺達の世界と同等の科学力があるとは思わないし、そんな単純な事が出来るのなら最初からやってるだろ」
机上の空論は所詮どこまで行っても空論であって、そこで会話をしてもその場所でしか生まれない結果だ。
彩華はもう飽きたと言わんばかりに両手を出して話を中断させる。
「あーはいはいマジレスマジレス」
「論破されたら思考停止すんな」
「論破って子供っぽい言葉よね」
「されたら思考停止すんな」
「思考停止って子供っぽい言葉よね」
「されたらすんな」
「主語入れなさいよ」
「夜這いされたら寝たふりすんな」
「5秒前の内容も忘れるコケコッコーちゃんはここだね?」
「コーケコッコォオオオ」
「二人ともそろそろやめてやれ、ソフィアが唖然としているぞ」
盛り上がって小学生並みの漫才かましていた俺達に黒崎君が止めに入る。ソフィアの方を向くと本当に唖然としている、表情はさっきと変わっていないものの口だけはちょっと大きく開いてる。これ絶句ってやつでは。
その表情を見て俺はハッと先程のハイテンションな自分を振り返り、数秒沈黙した後静かにベットに向かって倒れ伏せた。
「……零っちもしかして欲求不満?」
「三歩歩いたから忘れた俺は何も覚えていない」
「なんでその伏線回収するのよ、てかそこ私のベットなんだけど」
枕に顔をうずめて視界を真っ暗にさせる。穴があっても頭しか入らないらしい。
そう、俺は欲求不満になると言動があやふやになりテンションが高くなる。青少年が夜中まで起きてるとテンション高くなるあれと同じだ、そいつらにとっては睡眠欲だが俺にとってはそれが自身の欲求不満に変換されるのだ。
では俺の今最大の欲求不満は何か、教えてやろう。
──空腹だ。
「黒崎君まだかぁぁああ」
「丁度終わったぞ、待たせたな」
その返事を聞いて俺はベットから素早く立ち上がりいつものクールな声で先行する。
「素晴らしい、じゃあ行くぞお前ら」
「どうみても二重人格者ね」
呆れたツッコミを入れる彩華を無視して俺は財布を持って素早く部屋から出た。
この世界の飯が割と美味いのが悪い。




